あくる日の独白 夏井流 様
「ジングルベールジングル・・・じゃなかった。ねえ、駿河バレンタインの歌ってなあに?」
「は?」
突然あんまりなと言えばあんまりな質問に、疑問を含んだ声を上げる。少し考えてみたが。
「・・・そんなの無いだろう。」
俺はいつものように昼食作りに勤しんでいた。すると、那智がとてとてという擬音が相応しいような動作で、可愛らしいエプロンをして上機嫌に何か作っていると思えば。
言わずもがな今日は世に言うバレンタインデー。
「・・・・・。♪〜きょっおおはばれんったいんでー。」
歌を断念できなかった模様で、即興で歌っている。
「なあ、バレンタインデーってどんな日だか知っているか?」
思わず手を止めて聞くと、にこやかに言われる。
「お世話になった人にチョコをあげてお礼するの。」
師匠、国違うと習慣も違うって本当だね。そんな風に笑いながらもらったら何人勘違いするかな〜っ。遠く・・・郷の方向(いい加減)を見てみる。
「チョコくれ。」
「うわっ。紫明!」
突然の声に振り向くと偉そうに紫明が立っている。
「何故だ!!」
「いつもお前らを世話してやっているのだから、チョコが礼の証なのだろう?その礼を尽くせ。」
偉そうに吠える紫明を『ふんぞりという擬音がぴったりだな。』などと考えながら昼食をかき混ぜる。
「ああ、那智、血無には後でオレからもチョコをあげるよ。」
全く家計と食事を握っている俺こそチョコをもらいたい。
「ふふふ・・。」
思わず漏れた声が怖かったのか、紫明が後ずさる。
「何を言う。チョコは女の子が好きな相手に告白するために送るのだ!!」
この爆弾発言(?)に耳をぴくっとさせたのが紫明のほかにもう一人。
「なに!?ならお前のチョコなんかキモくていらん!!那智・・」
それまで紫明の横にいたはずの那智がいない。ああ、なんかやな予感がする。
ずっと後ずさった瞬間。
「うぐ!?」
我ながら情けない声だと思う。が、いきなり右の垂れている髪を引っ張られたのだ。
「血・・血無?」
ゆっくりと顔を上げると血無が俺の髪を力一杯握っているのが見える。
「チョコ。」
「チョコ・・・?」
「女が好きな奴にやるのだろう?」
「ああ。」
すごい形相に迫ってくるのでかなり怖い。紫明があげた服がぴらぴらのブラウス系だからだろうか?そのアンバランスさで拍車をかける。(普段は那智も着ないが着ないと那智曰く「洋服さんかわいそう」で着られている。)
もしかしてくれるのかとも思わなくもないが、もう少し自然に欲しい。
「くれ。」
「は?」
全く今日は変な声ばかり上げるなぁ。───じゃない!!
「俺が!?」
「わたしの方が男らしいだろう。」
胸を張って言われてもどうしようもない。
「それとも浮気でもする気か?」
ものすごく無機質に響く。眼が、そいつを消すと言っている。
「誰とだ!!」思わず声を荒げる。
「高・・・」
俺からそっとそれでいて真っ直ぐ視線を外す。思わず視線を追いかければ孤玖を見たかと思うと、俺の眼を覗き込んでいった。
「紫明」
その名を聞いた瞬間頭に血が上った。
「何故そこで男の名なんだー!!」
「高嶺は孤玖と出来ている。独り身はあいつだけだ。それに、そこまで反応すればな。」
「・・・・・。」
師匠帰りたい・・・。俺は思わず俯いた。腸が煮えくるようだったが頭は妙に冷めている。体が小刻みに震えて、涙が出るよ女じゃないけど。
つーかどうでもいいけど蒼月論外なんだ。まだあいつの方が人間的人格に近くていいなぁ・・・。ところで婦女暴行・強姦疑惑と・・・こういう勘違いどちらがいいんだろう・・・。大体男同士でどう愛し合うんだよ。
「それに既成事実・・・」
今何言った!!それって大体俺が策する台詞だろう!!
「チョコ一つでそこまでかっとぶか??」
思わず先ほど俯けた顔を上げる。
「早いほうが言い。今すぐ籍を入れよう。チョコくれないしな。」
「え。」思わず声が引きつる。多分俺は今顔も引きつっているはずだ。
「お前の家行くぞ。挨拶に行ってやる。」
「えええええー!!」
驚きの声を上げているうちに。我に返った紫明が叫ぶ。
「な、オレの血無に手を出したな!!」
論点はずれているがいいぞ!!と思ったのもつかの間。
「ぐふ。」ぐふ?俺は目を見開いた。
「あああ紫明ー!?」
紫明は今俺の足下に転がっている。あの蒼月で一撃の下に伏せられたようだ。
光を絶たれた。やっと見つけた出口が脱出しようとした矢先に目の前で潰れてしまった気分だ。
血無が高嶺に向かって言う。
「おい、駿河の家に行って来る。紫明を頼む。」
「礼儀正しくしなさいね。」
「おみやげ宜しく。」
「じゃ」
孤玖と高嶺が代わる代わるに言う。
ああ、俺嫁にされちゃうんだ・・・。
こんな事で帰りたくはないが、
師匠、今帰ります。
2003.2.21FRI
はい。予告通りの悪戯です。ご免なさい。ニゼものです。ニセではありません。あくまでもニゼものです血無のチョコくれまでしか考えていなかったため、言った後どうしようと思いながら直打していたら、結婚するようですね。と言うかさっきまで紫明をぼろくそに思っていておきながら、いざとなると光ですか。駿河君。そのときの師匠の反応は「よし!」でしたっけ?
アリガトウノキモチ〜刃流の蛇足
流ちゃん、これおもしろいよ!!!(爆笑)
紫明可哀相だねえ、駿河が一番の被害者だけど。
高嶺の反応とかは「まさに!」って感じだし。駿河のことなんて気にしちゃい。
那智と血無が幸せなら、高嶺はそれで良いんですよ(笑)
素敵な作品をありがとうございました!!!