モリノカゼ      ぶれす 様


 これは、ある人間たちによって、別の道を歩んだ、ちょっとおかしな戦国の世の日本にすむ、この世界では至って普通な悪ガキの話・・・。

「オラアアアアッ!!待たんかい!!クソガキィィィィッ!!」
 三人のゴロツキが、物凄い形相で走っている。その彼等が追いかけている、“クソガキ”その少年こそが、この話の主人公、狼助。その名前にぴったりの、吊り上がった目に全く整えていない灰色の髪、全身灰色の服装で、平屋の屋根を軽々と飛び越えるその姿は、まさに狼である。
 そして何故狼助は三人ものゴロツキに追いかけられているのか?・・・簡単なことであるそれは・・・
「わしらから盗った金返さんかい!!ボケェ!!」
「おまけに刀まで盗りやがって!!ぶっ殺してやる!!」
 ・・・とまあ、そういうわけである。
「だれが捕まるかってんだ、このウスノロ!!気がつかねぇてめーらがわりいんだよ!!阿呆!!」
 狼助が余裕の表情で、そしてさらに踊ってみせる、長時間走り続けているというのに、まだまだ体力が残っているらしい、一方三人のゴロツキ達は、完全に息が切れていた。
「・・・っ!なんてやつだっ!」
 ゴロツキ達が諦めかけたその時、急に何物かによって、狼助の体が浮いた。
「うわあっ!もしかして・・・」
 また、あいつが来た・・・。
 狼助の予想は見事にあたっていた、黒いくのいち装束、黒髪の長い髪が宙を舞う、その姿は、この町で有名な、そして、狼助にとっては最悪のパターンだった。
「あ・・・あれは!!刀屋の・・・!」
 ゴロツキがその姿を捕らえ、足を止める。その小柄な体で、狼助を抱えたまま、狼助が飛び回っていた平屋より圧倒的に高さのある大木の頂きに立っていた。
「空に黒雲見ゆる時、黒き一つの風が吹く、刀屋くのいち、黒羽・・・参上!」
 一人で勝手に満足そうにポーズを決める黒羽、それに抱えられたままの狼助は、顔を真っ赤にさせていた。
「恥ずかしい・・・」
「やっと捕まえましたよ、狼助さん」
 そんなことお構いなしに盛り上がる黒羽。
「へへへっ、あんた確か・・・刀屋の娘さんだったな・・・そのガキを捕まえてくれてありがとうよ、さあ、とっととこっちに・・・」
 ばきっ!
 ゴロツキが近寄った途端、黒羽の飛びひざげりが閃いた。
「何っ・・・!何するんだこのアマァッ!」
 残された二人が怒りながら黒羽に近づくが、今度はたった一発の回し蹴りで二人とも吹き飛んでしまった。
「・・・私の大切な狼助さんに、なんてことをするんですかっ!」
 先程狼助に見せた笑みとは全く正反対の冷酷な黒羽の怒りが、ゴロツキ達を震え上がらせる。
「ちょっ・・・ちょっとまってくれっ、悪いのは俺達の財布と刀を盗んで逃げたそのガキのほうだっ!なんでおれたちが・・・!?」
 怯えながらも必死に反論するゴロツキに対し、黒羽は深い溜息をつき、ゴロツキをにらむ。
「うるさあいっ!狼助さんは私の全てっ!いかなる理由があろうとも、狼助さんに逆らうやつはゆるさないのっ!!」
「めちゃくちゃだーっ!!!」
 ゴロツキが叫ぶ。
「あのさ・・・黒羽ちゃん?降ろしてもらえるかな・・・?」
 いまだに黒羽に抱えられたままの狼助が、黒羽が一つ呼吸をおいたのをみてすかさずはなしかける。
「あ・・・私ったら・・・ごめんなさい・・・」
 自分から開放され、逃げようとする狼助の肩をぐっと掴む。
「ちょっと、待っていてくださいね・・・もしもまたどこかへ行かれてしまったら、私の悲しみのあまり、さらなる犠牲者がでることになりますから・・・」
 完全に脅しモードの黒羽に対し、ブンブンと首を縦に振る狼助。それを確認した黒羽は、すたすたとゴロツキの目の前まで歩いて行き、立ち止まる。
「今度こんな事したら・・・命はありませんよ?」
 ゴロツキも恐怖の表情で首を縦に振る。
「・・・しかたないですね、今回だけは許しましょう。さあ、いきますよっ!狼助さん。」
 黒羽がまた風のように狼助を地面からさらっていく、狼助はいつものように、自分の弱さとゴロツキ達への申し訳なさで半泣き状態だった。
「うう・・・情けない・・・」

・・・・・

 ほんの数秒で、町の中央から、町外れの森までたどり着いてしまった。黒羽は、もはや失神寸前の狼助を降ろし、その横に座る。
「狼助さんったら・・・よほど疲れているのでしょうか?もう寝てしまわれて・・・」
 白目を向いて苦しそうにしている人間を、どこからどうみたら寝ているようにみえるのか、そういったツッコミはこのさい無しにしたほうがいいだろう。
「それにしても・・・私と狼助さんがこの森で出会ってから、もう五年の月日がたつのですね・・・」
 黒羽の顔が懐かしそうに空へと向けられる、そう、あの日がなかったら、この二人は今もただの他人だっただろう・・・

・・・・・

 おおかみ森、森に吹く風の音が、狼の遠吠えに聞こえることから、この町外れの森はそう呼ばれている。
 その森の中から、少女の声が聞こえる。
「ここ・・・どこ?・・・おとーさん、どこー?黒羽をおいていかないでー!」
 幼き日の黒羽、彼女は刀屋である父親が隣町の武士に刀を届ける仕事に無理をいってついていったのだが、案の定迷子になってしまったのだ。
 ウオォォォ・・・
 不気味な風の音が、黒羽の恐怖心をさらに増幅させる。
「こわいよ・・・たすけて・・・」
 どうしようもない恐怖に、黒羽はただ座り込むしかなかった。
「・・・誰だぁ?そこの女ァ?」
 怯える黒羽の頭上にから、少年の声がした。
「!?・・・だ、誰!?」
 慌てて頭上を見上げる黒羽、その先には、灰色の髪に灰色の服、この森が誰よりも似合う少年、狼助だった。
「あらよっと」
 狼助が木から飛び降り、見事着地に・・・失敗した。
「いてっ!くそー・・・」
 砂埃を払う事なくたちあがる狼助、そして、黒羽をじっと見る。
「なあ、あんた、町の人間だろ?どうしてこんなところにいるんだ?」
 黒羽が少し戸惑い、怯えながら、ゆっくりと口を開く。
「あ、あの・・・お父さんと、はぐれちゃって・・・その・・・」
「ああ、なるほどな。そういうことか。」
 狼助は目の前の少女の言葉を理解すると、後ろを向き、ひざまづく。
「のれっ」
「えっ・・・でも・・・」
「いーから、のれ」
「・・・」
 黒羽はおどおどと狼助の背中に身体を預ける、途端に狼助は空へと向かって木を駆け登る。
「登んのは得意だ、心配すんな、この森で大人が通る道っていったら、一本しかねえ」
 木から狼助の足が離れ、そしてまた別の木へと、どんどん加速をつけ、進んでいく、黒羽は、最初は怖がっていたが、だんだんと森の風をきって進むその気持ち良さで、恐怖など忘れてしまった・・・。
 決めた、私、この人についていこう。
 一緒に、この森を駆けよう。
 この人は、私の全てだ・・・。

・・・・・

「結局、二人で迷ってしまったのですよね」
 黒羽は狼助がこの森を知り尽くした人間だとばかり思っていたのだが、たまたま散歩の途中で見掛けただけだったのだ。
 まあ、そのあと偶然黒羽の父親を知っている武士に発見されたからよかったのだが、
「うっ・・・ここは・・・?」
 意識を取り戻した狼助が、ゆっくりと起き上がる。
「森・・・?」
 それに気付いた黒羽が狼助に駆け寄る。
「狼助さん!よかった・・・何ともないみたいですね」
「うん、てゆーか、誰のせいだって感じなんだけどね」
「あ、そういえばその刀、またうちの店に売って頂けますか?」
「無視かよ」
「では参りましょうか」
 狼助の手を掴み飛び立とうとする黒羽をぐいっと引っ張る狼助。まだ力は狼助の方が上らしい。
「ちょっと待った黒羽ちゃん、君はとんでもないミスをしたぞ」
「えっ・・・?」
 深刻な顔をする二人、まさか・・・という顔だ。
「術士の結界・・・?」
 黒羽がつぶやく。
「ああ、たぶんね・・・」
 術士。この者達こそ、戦国の世に変化をもたらした者達である。元々は将軍に仕える武士であったが、将軍と意見が合わず独立し、将軍の圧倒的な兵力に対抗するため、極限の修業を乗り越え特殊な力を授かった武士である。そして術士の結界とは、その極限の修業を他の者に知られないよう、それらの侵入を拒むために張られる結界である。
 無論、内側からでもその結界は作用し、結界が張られる前にその効果範囲に存在する者は術士候補が極限の修業を終えるまで閉じ込められてしまうのだ。
 普通、そういったことの無いよう、近くの町には結界を張る時刻をちゃんと知らされるはずなのだが、
「全く聞いていませんでした・・・」
 申し訳なさそうに肩を落とす黒羽。
「気にしないで、入っちまったもんは仕方ないさ」
「そうですよねっ!入ってしまったものは仕方ありませんよね!さあて、どうしましょうねー?これ」
 狼助の一言で黒羽は途端に明るくなる。
「開き直るの早っ!」
 黒羽はしばらくして、ぽんと手を叩く。
「狼助さん、私に良い考えがあります、見ててくださいね」
 そういいながら黒羽は大きな筒と、その筒に入るぐらいの球を取り出した。
「・・・どうすんの?」
 黒羽が筒に球を入れる。
「いーから見ててください」
 そして、黒羽はその筒を空に向け、石を鳴らして火を付ける。
 ひゅるるるるるるる・・・どぉん!
 軽快な音と共に、空に煙があがる。
「こうすれば、この中にいる誰かが気付いてくれますよ」
「なるほど」
 誰かが気付いてこちらに来るまで、じっと待つことにした、とはいっても、“じっと”待てるはずは無い。
「狼助さん・・・よく考えたら、二人きりですね・・・」
 黒羽が少し狼助に寄る。
「あ・・・う、うん、ソウダネ・・・」
 少し間をおく狼助。
「あの日から・・・もう五年が経ちますね・・・」
 黒羽が急激に狼助に寄る。
「?・・・ああ・・・」
 狼助が急激に間をおき、返事をする。
「あのころは俺も恐いもの知らずだったなぁ・・・黒羽ちゃん?」
 狼助は黒羽の動きが止まっていることに気づいた。
「どうした?」
 心配そうに駆け寄る狼助。その時、狼助の頬を何かがかすめ、狼助の頬を血がつたっていく。
「刀・・・?」
 狼助が本能的によけたからよかったものの、その反応が少しでも遅れていたら、確実に死んでいた、目の前の少女は確実に狼助を殺す気なのだから。
「・・・狼助さんを殺して・・・私も死ぬっ!!」
「何故そうなるっ!!」
「だって・・・狼助さん・・・私との出会いなんて忘れちゃってるもの!!私なんてどうでもいいのよ!!」
 そう叫び、斬りかかる黒羽、最大速度で襲い掛かるその刃は、確実に狼助を捕え、よけることは無理である、狼助はとっさに持っていた刀を使い防御する。しかし、黒羽の全身をつかった攻撃に耐えられず刀が弾かれた。
「やば・・・っ」
 ああ、黒羽ちゃん・・・こんなにまで俺の事を・・・てゆーか、ホントにためらいが無いね、この人・・・・・さようなら、父さん、母さん・・・
 狼助が走馬灯を見出だしたその時、黒羽の身体が浮いた。
「あ・・・父さん。」
 現実に戻された狼助が間抜けな声をだす。
「!?・・・霊慈さんっ?」
 すらりと長い黒髪は、首の辺りでまとめられ、尻尾のようになびく、全身真っ白な洋風の服装は、術士特有の上品な雰囲気がある。彼の名は霊慈、狼助の父であり、術士監督官という特殊な役職の人間である。
「お久しぶりだねぇ、お二人さん」
 おどけた笑顔で、二人に挨拶する霊慈。黒羽を抱えたまま、ふわふわと浮いている。
「父さんがここの監督官なの?」
「そゆこと」
 片手をひらひらさせながら、すうっと降りる霊慈、そして黒羽を降ろす。
「黒羽さん・・・君みたいな女の子が殺すなんて言っちゃあ駄目さ、ね」
「ご、ごめんさない・・・わ、私・・・狼助に忘れられてしまうのが・・・何よりも恐くて・・・だから、だから・・・」
 ぼろぼろと涙を流し座り込む黒羽、その頭を霊慈がやさしくなでる。
「仕方ないよ、そういうのは」
「仕方ないって・・・おい!殺されかけたんだぞ!俺は!!」
 思わずつっこむ狼助。
「それよりさ、狼助・・・」
 霊慈がゆっくりと狼助に近づく。
「・・・?」
 ばきっ!!
 霊慈の上段蹴りが狼助に向かって放たれ、ぐったりと倒れる狼助。
「テメーの事こんなに想ってくれてる女の子泣かすったぁどんな了見だオラァ!!テメーそんな風に育てた覚えねーぞ!!」
 さらにげしげしと踏みつける霊慈、たまらず狼助が弾き飛ばす。
「ッダアアアアッ!!てゆーかオメーに育てられたおぼえもねぇよ!ろくに家にも帰らずに術の研究ばっかしやがって!!」
 逆に蹴り返す狼助。
「あァ!?それが親に向かっていう台詞か!?」
 そして殴り合いに発展する二人。ほったらかしにされてしまった黒羽が頭をおさえる。
「この二人はいつも・・・やめてくださぁい!」
 と、いいつつ、煙玉を投げる黒羽。もくもくと煙が発生し、二人の動きが止まる。
「げふっ、げふっ・・・」
「霊慈さん!霊慈さんはここの監督官なんですよね!?」
 黒羽が霊慈に駆け寄る。
「・・・?そうだけど・・・ああ、間違えて入っちゃったのか」
「そうじゃなかったらこんなとこにいねぇっつーの、それぐらいわかるだろ」
「・・・っだとお!?」
 ざくっ・・・
 刀が地面に刺さる音、黒羽の刀だ。
「いいかげんに・・・してくださいね」
 ああ、脅しモード全開・・・と、悟った二人はきびきびと結界の境目まで歩き始めた。
「えっと・・・ここらへんか」
 狼助は霊慈が手を当てている部分をみた、ぼんやりとその先が霞んで見える。
「・・・」
 霊慈がてをあわせ、念じる。すると目の前の霞がフッと消える。
「さあ、黒羽さん・・・どうぞ」
「おいおい、俺は?」
 狼助が霊慈の肩を掴む。
「知らん」
「まじ・・・?」
「じょーだんだよ、そんな事したら、俺が母さんに殺される」
 霊慈は少し間をおき、また話す。
「そのかわり・・・・・・・・」
 霊慈が狼助の首をぐいっと掴み、耳打ちをする。
「・・・・・・っっ!そんなことできるかっ!!!恥ずかしい!!」
 霊慈を蹴り飛ばす狼助。
「へへっ!がーんばーれよっ!若者っ!」
 霊慈が蹴り返し、狼助を結界の外に追い出す。すると、霊慈の姿は見えなくなってしまった。
「まったく・・・」
 黒羽が狼助の顔を覗く。
「いきましょう?狼助さん」
「ああ・・・そうだな・・・」
 狼助はそう言うと、黒羽に背中を向け、ひざまずく。
「つかれただろ、のれっ」
 狼助が顔を赤らめる。
「えっ・・・?」
 黒羽も顔が赤くなる。
「ほら、のりなさい」
「・・・はいっ!!」
 黒羽は笑顔で狼助の背中に飛び付いた。
「あ、こら、飛び付いたら・・・おっと」
 狼助は転びそうになったが、何とか踏み止まり、そして高く跳ね上がる。
 私の決断は、間違っていないんだ。
 また、この人と、森を駆けている。
 この人は、私のすべて・・・。
「あっ!!!盗んだ刀置いてきちまった!!!チクショウ!!」
「あらら・・・」

―ねえ、狼助さん―
―何だ?―
―ここは・・・どこでしょう?―
―しらねえ・・・森の中なのは確かだ―

 この二人がその後どうなったのか?正解はあなたの頭の中にありますよ。

おわり


あとがき(いいわけ)

初リクエストで相手の期待を裏切るダメ人間ぶれすです。
えっと・・・まずですね・・・ごめんなさいホントに、ギャグ系書くの苦手なんです、ごめんなさい、多分予想と全く違うものになりました、しかも無駄に長いです、短編っていう話だったのに・・・最悪だ、自分。
なんか無理矢理ギャグを10%ぐらい含んだダメ短編(実質短編ではない)ですが、少しでも笑って、なにかを感じることが出来たというのなら、自分は最高に幸せものであります。
感想・意見・苦情などなどありましたら、それはもうどしどしお伝えください。



アリガトウノキモチ
ぶれすさんから、相互記念に頂いた小説です!
しかもわざわざ私の要望まで聞いてくれちゃって……!!
黒羽ちゃんが一途で可愛いですよね〜。一途すぎてやることアレですけど(笑)
ぶれすさん、本当にありがとうございました!!

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