15 もう届かない



 行ってしまった。
 そう知った瞬間、全身から力が抜けた。

 絶望的な状況を全てきれいにくつがえし、あまつさえ『希望』という種を蒔いていった彼女。
 それは義務感などでなく『私が私であるために』と。
 己の存在全てをかけて彼女は戦い、運命という敵に勝ったのだ。
 ……そして彼女は、本当の願いを叶えるために行ってしまった。
 自分は願った。ならばそれが通らぬ道理はない。あるというならばまたひねりつぶすだけだと、どこまでも高慢に笑って、そしてぼろぼろの姿で威風堂々と飛び立った。

 まるで『王』のようだと、そう思わせる誇りに満ちた目が自分は好きだった。
 まさに『王』だと、そう確信させる誇り高いその生き様が自分は好きだった。
 でも彼女はもういない。今どこにいるのかさえわからない。
 ただ一つわかっているのは、もう届かないということ。
 色んなものが、もう彼女には届かない。その事実だけだ。


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