11 残ったのはただ温もり
さよならとつぶやいて、彼女は去った。「さよなら、ありがとう」と、悲しそうにささやいて。
あんな顔をするぐらいなら無理することはなかったのに。
ずっと自分の傍らにいてくれればよかったのに。
目を閉じて感じる。
手の平に残る、ほのかな温もり。
煙のように消えてしまった彼女なのに、それだけはいつまでも去ってゆかない。
彼女が残していったものは、一つだけ。
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