10 叩きつけた拳の行方



 嫌われようと憎まれようとかまうものか。いやむしろその方が良い。そう決心したのだ。

 次の瞬間、己の拳は自然に動いていた。 ガンッ、と低く鈍い音が室内に響き渡るのと同時に、拳からじわりと広がる痛み。
 ――この痛みは、体と心どっちだろう?
 柄にもないことを考えて、自嘲の笑みが浮かぶ。
 想いを振り切るように伏せていた顔を上げ、すぐ側にあるだろう女の顔を見ようとする。
 驚いているか、怯えているか、泣いているか、軽蔑してるか。
 なににしろ歓迎のそれではあるまいと、やるせない感情をもてあましながら目線をあわせた。

 とたん、こちらが逆に驚愕するはめになった。
 慌てて目線をそらそうにもそらせない。ここだけ時が止まってしまったかのように、お互いに微動だにしなかった。いや、少なくとも自分には出来なかった。
 透明で真っ直ぐな瞳が、逃げることなくこちらをじっと見つめていたから。

 拳を壁に叩きつけた姿勢のまま動けない。
 拳を戻すことも、もう一度振り上げることも出来ずにいた。ただ目の前の女を馬鹿みたいに眺める。
 ……決心がにぶってきた。
 この拳、どうしたらいい?


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