09 紅色の視界



 今日も目の前は、一色に塗りつぶされている。
 赤。
 朱。
 紅。
 それは一面の血色。
 大切な人を永遠に失ったあの日から、男の目はそれ以外の色を映さなくなった。
 最後に見た色のついた風景は、愛しい人が自分をかばって切り裂かれたあの瞬間。
 彼女が血だまりに倒れ込んだあのときから、この目はその色以外受け付けなくなった。

 今日も全てが紅に染まっている。
 もう一度、あの人の姿を見たいと誰にきかせるともなくつぶやく。
 こんな血色の視界などではなく、愛しい人と一緒に失った生き生きとした、輝く世界で。
「無理と、わかってるけどね」

 紅がただ続いている――。


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