03 今だけと君がつぶやく 「忘れてください」 黙っていると、焦れたようにもう一度彼女はくり返した。 「忘れてください、私の事なんて」 否定も肯定もせず、さらに彼女を抱きしめる。 腕の中の少女は、怯えるように身をすくませた。だがそれだけだ、逃げようともがきはしなかった。 そのことにひどく安心する自分が馬鹿みたいだと思う。 それでも、この少女を離せないと切に思うのだ。 しばらくして、少女は小さくつぶやいた。 「……今だけ、です」 「え?」 「今だけこうしたら……私のこと忘れるって、約束してください」 「……じゃあ、離さない」 離したら、忘れろと言うならば。 離したら、逃げていくというならば。 「絶対に、俺は君を離さない」 今だけを、ずっと続けてやる。 戻る |