合同フリーハンデ概論
山野浩一



 1 競走馬レーティングの変遷
ゲネラルアウスグライヒ(GAG) …… 能力検定として中世から行われてきたドイツ(神聖ローマ帝国の北部)競馬で作成されてきた能力指数。ドイツではサラブレッド発祥の数世紀前から競走種が育てられてきたが、そうした時代から競走馬はより高いアウスグライヒを獲得することを目的として走り、競走成績によって決定付けられるアウスグライヒの数値によって種牡馬や繁殖牝馬が選択淘汰されてきた。サラブレッド競馬の時代になってもアウスグライヒの伝統は守られ、血統表や種牡馬広告にはGAGが表示されてきた。アウスグライヒとは均衡とか、調整という意味で、ハンディキャップに該当する言葉となっている。

フリーハンデ …… 貴族たちの賭として発達したイギリス競馬では、能力差のある競走馬間にも賭を成立させるため、負担重量に差をつけるハンディキャップ競走を行うようになった。能力の高い馬が重い重量を背にして戦うことで低い能力の馬にも勝てるチャンスが与えられるので、同斤なら勝負にならないような相手に対してでも賭を挑むことができることになる。2歳競馬が終了した時点でその世代の上級馬を対象として作成されるようになったのがフリーハンディキャップで、その負担重量によって3歳初頭にフリーハンディキャップというレースがおこなわれるが、それ以上にクラシック戦線に向けた各馬の評価付けとして大きな話題を呼び、高いフリーハンデを得たものが名馬と考えられるようにもなった。

ヨーロピアンクラシフィケーション …… 1977年にイギリス、フランス、アイルランドのフリーハンデを統合し、3歳、古馬を含めて3か国の競走馬を同一基準で評価付けるようになった。それまではジョッキークラブの首席ハンディキャッパーが独裁的に決定していたものが、3か国のハンディキャッパーの合議によるレーティングとなり、数値もキログラムで表記されるようになっている。1985年のヨーロピアンクラシフィケーションにドイツとイタリアが参加するようになったとき、ゲネラルアウスグライヒの勝ち負け関係による手法が導入され、数値もアウスグライヒの100点基準(100点満点というわけではない)に改められて、負担重量という考え方からクラシフィケーション(格付け)へと完全に脱却することになった。

エクスペリメンタル・フリーハンデ …… アメリカ合衆国のような広域で競馬が行われている国でこそ、対戦していない馬の優劣付けが求められたが、統括機関がないため長く作成されることはなかった。ただ、統括機関でなくとも唯一の全国組織であるジョッキークラブは「試作品 experimental」と断ってエクスペリメンタル・フリーハンデを発表するよ うになり、2歳馬限定のレーティングではあったが、アメリカのフリーハンデとして高い評価を受けるようになった。

パフォーマンスレート …… クラシフィケーションが馬産の指針となり、公正なサラブレッド取引に必要なものだけに、世界の馬産界をリードするアメリカでは何とかオフィシャルフリーハンデを作成したいと考え、たとえ対戦成績がない馬の間にも、対戦した馬が別のレースで対戦しているというような間接的な関係から量的に有意なもの求めていき、大量の情報のコンピュータ処理によって導き出したものがパフォーマンスレート(能力指数という意味)で、ハンディキャッパーの主観に依存することなく能力評価ができるので、数値の公正さに疑問が生じない。パフォーマンスレートが種牡馬単位の成績など、さまざまな統計と整合していることが確認された時点で、アメリカ競馬界は公式なレーティングとして認めるようになり、この数値をもとにグレード認定も行われるようになったが、インターナショナルクラシフィケーションの成立までは公表されていなかった。

インターナショナルクラシフィケーション …… アメリカでパフォーマンスレートが成立したとき、ヨーロピアンクラシフィケーションはアメリカでポンド単位で表示されている数値(アメリカ以外のほとんどの国ではメートル法以外の度量の使用がかなりの量刑を伴った法律によって禁じられている)に合わせ、1986年から発表されるようになったのがインターナショナルクラシフィケーションで、年末に各国のハンディキャッパーが集まるクラシフィケーション会議で調整されて発表される。後には日本、中国(香港)、UAE(ドバイ)など北半球の主要競馬国の全ての競走馬が対象とされるようになった。今では国際レースにおける招待馬の選定とか、重賞競走のグレード認定など、多くの重要な決定がクラシフィケーション値によって決定され、競馬におけるシステム上の要になっている。

JPNクラシフイケーション …… JRA(日本中央競馬会)の競馬が始まって間もなく、イギリスのフリーハンデに習って非公開でJRAフリーハンデが作成されてきたが、長く旧来のフリーハンデの理念のまま、ハンデ戦として行うとすればという模擬負担重量として作成されてきた。その間にクラシフィケーション方式を導入した「合同フリーハンデ」の影響もあって、JRAはクラシフィケーション会議にオブザーバーを送り込み、国際基準に合わせた数値によるJRAクラシフィケーションを発表するようになった。1996年にダート競馬格付け委員会が発足すると、NAR(地方競馬全国協会)もハンディキャッパーを養成し、1997年からJRAとNARのハンディキャッパーが共同で作成するようになったのがJPNクラシフィケーションで、JPNクラシフィケーションの数値はクラシフィケーション会議を経てインターナショナルクラシフィケーションに組み込まれ(2002年まで国際レース出走馬のみ、2003年よりJPNクラシフィケーションの数値=115以上=がそのままインターナショナルクラシフィケーションに掲載される)、世界共通の競走馬評価の一端を担うようになった。レーティング対象には非公開のリステッドレースが含まれているが、公表されるのはグレードレース出走馬のみとなっている。

タイムフォームレーティング …… タイムフォーム紙が作成してきた民間フリーハンデで、下級馬まで数値が与えられ、主に勝馬予想に役立てられて大きな人気を呼んできた。今では各国のレーシングプログラムなどにもレーティング値が記載されるようになっており、そうしたものの元祖となったのがタイムフォームレーティングで、当初は疑似負担重量としての数値だったが、後にインターナショナルクラシフィケーションの数値に合わせるようになっている。

週刊競馬ブック1972年1月17日号 合同フリーハンデ …… 1970年に「競馬研究」誌が創刊されたとき、タイムフォームレーティングに習って山野浩一が作成しはじめた競走馬評価で、「競馬研究」誌が短期間で廃刊されたため、翌年から「競馬ブック」誌に移り、1973年からは地方競馬を含めた全日本フリーハンデとして、JPNクラシフィケーションの発足までは唯一の日本競馬におけるレーティングとなっていた。クラシフィケーションの発達に合わせて1984年から数値基準を改め、1986年にはやはり独自のフリーハンデを作成していた「競馬四季報」のレーティングと合流し、「競馬ブック」からのハンディキャッパーも参加して現在の合同フリーハンデとなった。JPNクラシフィケーションがクラシフィケーション会議による制約を受けるため、海外評価と国内評価の間のギャップが生じることも少なくないが、合同フリーハンデは日本競馬としての整合性を与えたものとなっている。また、全レースが対象とされているので、地区限定戦や条件戦で強力な相手に圧勝したような馬もレーティングされている。
過去の合同フリーハンデ
最新の合同フリーハンデ



 2 フリーハンデの手法
1キロ=1馬身 …… イギリスでハンディキャップ競走が始まって間もなく、1ポンドがレースでの1/2馬身に相当するという考え方が普及したが、2世紀以上の年月を経過し、競馬形態が大きく変化してもその想定値に大きな矛盾は生じていない。1ポンドは約0.45キロなのでおおむね0.5キロと考えて良く、同斤でのレースで1馬身差があると考えられる馬の間には1キロ、2ポイントの負担重量差がつけられる。同じ1キロ差でも60キロ/61キロの差と、52キロ/53キロの差では競走馬にかかる負担に相違があると考えられるかもしれないが、52キロを背負うレベルの馬はその重量で大きな負担となり、1キロの増加が60キロを背負う能力の馬の1キロ差に見合うものとなる。つまりハンディキャップはそれぞれの馬が能力に応じて影響を受ける重量となっている。

1馬身=0.2秒 …… ヨーロッパ競馬では一団のレースからゴール前だけの争いとなって、ペース次第での変動が多くなり、勝ち時計が能力評価に強く関連していると考えられず、ほとんどタイムが重視されることはなかったが、アメリカのダート競馬は緩みない展開でレースが運ばれるし、平坦小回りというコース設計も均一で、近年の技術開発によって雨が降ってもほとんど良馬場での競馬が可能となっているので、勝ちタイムがそのまま競走馬能力に関連している。従ってパフォーマンスレートでは着差をタイム差として扱っており、その場合は1馬身差がほぼ0.2秒相当として扱われている。実際に多くのレースのタイム差を調べても、1馬身差が0.2秒となっていて、最近はクラシフィケーションのレーティングでも1キロを0.2秒差として扱うことが多くなっているが、海外の芝レースや日本のダートレースのような時計のかかるレースでは1馬身が0.2秒以上になり、アメリカのダートレースや日本の芝レースでは0.2秒以下となる。

着差のレーティング …… ハンデ戦でのハンディキャップを作成する時には全馬が同着となるように負担重量の配分をするので、レース結果から逆算して1キロを1馬身、または0.2秒と考えてレーティングしていくのがクラシフィケーションの基本となる。そのように多くのレースについて着順に応じた差をつけていくことができるが、同一馬が出走したレースのレートを揃えていくと自動的に多数の馬のレーテイングができてくる。とはいえ、1頭の馬が常に同じ能力を発揮するとは限らず、また複数の馬のレーティングを揃えると矛盾もできてくる。それを均す作業がハンディキャッパーの主な仕事となる。

基準馬 …… レース単位のレーティングを決める場合、特定の基準馬の数値から全体をレーティングしていくことになるが、そのような基準馬としては、常に一定のレベルの能力を発揮し続けている馬とか、堅実な上昇を示してきている馬の数値を採用する場合が多い。また最高レート馬について過去の最強馬との比較による場合とか、明らかに能力的な限界を持った馬とか、血統的な能力レベルとか、さまざまな方面から基準値を求めていくことができる。基準馬は多数であることが望ましく、1頭を基準馬とした場合も、他の馬の基準にも合致することが条件となる。また矛盾なく基準値を求められない場合には各馬の上限値、下限値の範囲から複数の馬のレートを設定し、多数の馬が範囲内に入るようレーティングしていくことになる。こうした作業は個々のハンディキャッパーの技能や経験に依存する面が大きい。

持ち点 …… 各馬が過去のレースで獲得した最高レートが持ち点となり、何度も同一のレートを獲得しているような基準馬の持ち点が、そのまま新しいレースでのレーティングにおける基準値となる。持ち点からさらに上昇中の馬、ピークを終えて落ちてきている馬などについてもそれぞれに想定レートとレートの上限下限を設定することで、基準馬と同等に扱うことができるし、レース展開などに恵まれて勝ったような場合には、その馬の持ち点から可能な上限以内のレーティングを与えることになる。持ち点の有効期限は基本的に1年で、招待レースなどの優先順位なども1年間の最高レートで決められることが多い。

ピンポイント …… ハンディキャッパーの理想は全ての馬が持ち点の許容範囲内に収まり、好走した馬が持ち点より少し高く、凡走した馬が持ち点より低めになり、何頭かの馬についてぴったり持ち点と一致しているというようなピンポイントのレーティングを見出すことだが、そのような不動のレーティングが可能なレースはそうも多くない。どこかに矛盾が生じてしまう場合に、何を採るかはレースの格や展開、馬場状態にもより、ハンディキャッパーは大きな矛盾が生じないこと、可能な限りピンポイントに近いことなどの判断で妥当なレーティングをしていくことになる。


 3 フリーハンデの取り決め
エージアローワンス …… 馬がおおむね成長し終えるのは5歳なので、4歳までの成長途上の競走馬が成馬と対戦する時には負担重量が軽減されている。これは馬齢重量(wfa=weight for age)として2歳時から4歳まで月単位で距離別に決められており、成長とともに徐々に成馬の重量に近づいていく。馬齢重量戦はそれを負担重量として行われるレースで、エージアローワンスによって成長途上の若馬が古馬と対等に戦えることになる。クラシフィケーションでは2歳馬、3歳馬も古馬と同等の能力指数として扱われるので、エージアローワンスされず、従ってエージアローワンスで戦って古馬に2馬身差で勝てば、その古馬に4ポイント差をつけたレーティングが与えられる。逆に同じ斤量で古馬と3歳馬が対戦すれば、3歳馬がエージアローワンスだけ能力上位と考えられることになる。エージアローワンスは定量戦で必ずしも馬齢重量と同一とは限らず、オールエージ戦などでは極端に2歳馬に有利な重量設定が行われている場合も珍しくないが、そういう場合も馬齢重量に換算することなく、レースの条件を公平なものと考えて(主催者の出走条件を信用して)レーティングするのが一般的となっている。

日本競馬の馬齢重量 …… 日本ではステークス以外の平場戦のほとんどが馬齢重量で争われるので、馬齢重量にかかる役割は大きいのだが、それにしては大雑把で半年単位の加増しか設定されず、距離別の設定もなく、特にひどいのは高齢馬になるとまた減量されるという変則的なシステムを持っていた。ダート競馬格付け委員会の指摘によって改められたのはつい最近で、まずJRAが国際基準にそった馬齢重量を改善し、地方競馬もそれにならって徐々に改善されつつある。高齢馬の減量については2003年度の開催を最後に完全になくなるはずだ。
JRAの月別アローワンスへ


セックスアローワンス …… 総合的には牝馬と牡馬の間に能力差が認められるので、牝馬には減量を与えてほとんどのレースが行われている。牝馬は早熟なので、日本の場合は2歳初期には減量がなく、2歳末で1キロ減、3歳以降は2キロ差となっている。しかし、この数値にはさほどの根拠があるわけではなく、全体の成績でいえば2キロでは足りず、最強クラスの場合はむしろ2キロものアローワンスを与える必要がないほどだ。従って馬齢重量戦のセックスアローワンスは2キロ、アメリカでは4ポンドとなっているものの、別定戦では1キロから3キロまでさまざまで、例えば凱旋門賞の場合は当初2キロのアローワンスで行われていたものの、あまりにも牝馬の成績が良すぎるので1.5キロに変えられた。一方2歳戦のゴールデンスリッパーSは3キロものセックスアローワンスを与えているが、それでも牡馬の活躍が優勢となっている。合同フリーハンデは2キロのセックスアローワンスでは牝馬のレーティングが低くなりすぎるので、凱旋門賞にならって1.5キロ差に改めたが、インターナショナルクラシフィケーションでも、レーテイングにおけるセックスアローワンスの廃止を検討するようになった。

ベストパフォーマンス …… クラシフィケーション値には個々の馬が年間の全てのレースで発揮したレートの中から最も高いものが採用される。中には一度だけ大駈けをして他は全くの凡走というケースもあるし、極端に展開に恵まれてのラッキーな勝利もあり、重馬場だけで好走した馬もいるが、一度だけの大駈けにもそれだけの能力が必要だし、展開や馬場に恵まれた場合は他の馬の着差にも乱れがでるのでさほど高い数値となることがなく、展開や馬場に恵まれれば勝てるというのも一つの能力といえる。要するにクラシフィケーションでは凡走が全て無視されるわけで、これは一般的な名馬の考え方とクラシフィケーション方式の最大の相違となり、同じ相手に何度も勝つという三冠のようなパフォーマンスが全く評価されないことになる。あくまでも最高能力がどれだけのものかが問題で、実際にそれが種牡馬や繁殖牝馬として重要であることは事実であろう。

年度調整 …… クラシフィケーションはレース毎に作成されるが、後のレースや他国のレース結果に応じて修正の必要が生じる場合も多い。このためインターナショナルクラシフィケーションでは毎年末に各国のハンディキャッパーが集まってクラシフィケーション会議を開き、個々の国で作成されたレートを修正する。合同フリーハンデの場合は年に一度フリーハンデ会議を開いて様々な取り決めを行うが、中間フリーハンデと年度確定値はそれぞれのハンディキャッパーが作成したものの単純集計を行うだけとなっている。その間にこのホームページや「競馬四季報」に掲載されるレーティングは競馬ブックとサラブレッド血統センターの合議によって作成された暫定値を使用している。

グレードレースとの関係 …… もともとクラシフィケーション値によってグレード/グループレースの格付けが行われるので、レーティングにおいてグレードの影響を受けてはならない。にもかかわらず最高値の多くがG1レースとなるのは単にG1レースに最強クラスが多く集まり、しかも各馬がマキシマム能力を発揮することが多いからといえよう。1着から4着の平均インターナショナルクラシフィケーション値がレースレート(RR)となり、それらの馬の年間最高値の平均がクラシフィケーションレート(CR)となるが、古馬のパート1G1レースの場合、牝馬のセックスアローワンスを加えてクラシフィケーションレートが115以上であることが条件となる。G2ではこれが5ポイント低くなり、3歳戦でも5ポイント低い数値をクリアしなければならない。ジャパンC、宝塚記念(※)などはこうした基準をクリアしてパート1G1と認められているが、いわゆるJRAの自称グレードにはそのようなレベル保証がない。ダートグレードに関しては国際水準よりも10ポイント低いJPNクラシフィケーション値をパート2グレード1基準と決めているが、いずれはさらに5ポイント引き上げる必要に迫られそうだ。
【※2004年度から安田記念とマイルチャンピオンシップが新たにパート1G1と認められた。】


 4 フリーハンデの論点
芝とダート …… ダート競馬ではアメリカの速い馬場でも、日本の重い砂馬場でも極端なスローペースは少なく、能力の違いに応じて自然に差がついていくが、芝馬場の場合はほとんどゴール直前まで全力疾走せず、末脚だけの決着となることも少なくない。つまりそれだけ芝の方が僅差のレースとなるのが一般的といえよう。芝とダートの両方で活躍する馬も少なくないので、両者の比較は必ずしも難しくないが、クラシフィケーションでは着差が開くだけダートの方が上級馬と下級馬の差が大きくなる。上位で合わせればダート馬が僅かしかランクされず、下位で合わせれば上位のダート馬がずば抜けて高いレートを獲得してしまう。中位で合わせてもダートの下位はかなり過疎になり、上位は多少高いレートを獲得することになる。そこで着差のレート換算を芝とダートで変える場合があり、JPNクラシフィケーションでは概ねそうしているようだ。合同フリーハンデでもそれが可能という申し合わせにはなっているが、実際にはほとんどの場合0.1秒=1ポイントのままレーティングしており、その結果最強クラスではダート競馬でのレートがやや高くなる傾向がある。スローペースになった場合は各馬がマキシマム能力を発揮しているわけではないと考えられるからで、各馬が発揮した能力によってレーティングするというクラシフィケーションの理念に添ったものとはいえるだろう。現実に極端なスローペースでは明らかに実績が劣った馬が勝ってしまうこともあり、いわば着差が少ないだけ評価基準として信頼性が高くないと考えられる。

長距離と短距離 …… 長距離レースと短距離レースでも本来は着差に相違が生じるはずで、確かに能力ぎりぎりまで走れば長距離レースの方が着差は大きくなって当然といえよう。しかし、実際には距離が長いほどスローペースとなることが多く、ほとんどの場合は直線だけの勝負となってしまうので、現実には長距離レースと短距離レースの着差がさほど変わらない。ただ長距離でも大レースとなると、ハイペースでの逃げきりも少なくないし、逆に先行馬がバテた場合も追い込んできた馬が大きく差を開いて勝つことも珍しくない。つまり能力ぎりぎりの勝負をすることも多いわけで、その結果レーティングの上位馬となるとやはり長距離での活躍馬が多くなっている。これについてもダートと芝の関係同様に着差を調整する考え方があり、合同フリーハンデでもハンディキャッパーの裁量範囲として認められている。とはいえ、この場合も実際にぎりぎりの能力を発揮したわけだから長距離馬が高くなって当然とも考えられ、短距離戦は終始全力疾走した場合でも、ある程度余力を残したレースとなるので、差をつけて良いという考え方も成り立つように思う。タイムが遅くなれば着差とタイムとの関係も少し変わってくるので、長距離や日本のダートの場合は着差で、日本の芝の場合はタイム差でという考え方も成り立つだろう。

海外のレースと国内レース …… インターナショナルクラシフィケーションの場合は、クラシフィケーション会議で各国のレーティング値を調整できるが、合同フリーハンデの場合は外国でのレースのレーティングにあたって、インターナショナルクラシフィケーションの数値を日本馬以外の出走馬の持ち点として使う以外に方法はなく、それらの数値はクラシフィケーション会議の前のものなので厳密にはインターナショナルクラシフィケーションと整合するわけではない。どのみち国際レースを基準として国内レースのレーティングを決めていっても矛盾が生じることがあるが、JPNクラシフィケーションは国際レースを基準としたレーティングで、合同フリーハンデは国内戦を基準としたレーティングと考えていただければよいだろう。外国馬でもジャパンCの出走馬や頻繁に国際レースに出走する馬については可能な限り追跡レーティングして合同フリーハンデとしての持ち点をキープするようにしているが、国際舞台に出てきていない馬ばかりのレースとなるとそれも難しい。

(2003年春 記)


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