15代目殿堂入り  アニメ総合ランキング第3位

AIR

2000年9月8日 PC18禁版ゲーム発売。
2005年1月7日〜3月25日 TVアニメ版放送。
2005年8月28日〜9月4日 TVアニメ特別編放送。

「AIR」のゲームが発売され、各方面で話題になっていた当時、
私は「AIR」を始めとするKeyのゲームに、まったく関心を持っていなかった。
元々それほどエロゲーをするほうでもなかったが、それでも時々気に入った作品を購入しプレイすることもあった。
しかし、樋上いたるの描くキャラクター、というか作画が私の好みの絵でなかった。
当時私はまだ萌えという言葉を使っていなかったが、その言葉を使っていたとしても、「AIR」に対して萌える絵だとは、
まったくといっていいほど思えなかった。

そんな私だから、ゲーム版発売から4年以上も経った2005年になって、TVアニメ版の放送が開始され、
その作品のクオリティーの高さが大変な評判を呼んでいることを知っても、私はまったくアニメを観ようと思わなかった。

私は自分のHP内でオンライン・フラッシュというワードゲーム企画を主催しているが、
そのお題がアニメ作品を主としていたため、企画を続けていくにつれ、お題が枯渇してきていて、
参加者の皆さんから開催してほしいお題をリクエストするようになっていた。
「AIR」のお題リクエストが複数寄せられたのは、そんなTVアニメの放送中のことであった。

リクエストが複数の方から寄せられたからには、フラッシュを開催しないわけにはいかないわけで、
結果発表の際に総評を書く手前、ある程度作品の事を知っておく必要が生じた。
ゲームをするとなると多大な時間が必要になるため、ちょうど放送中のTVアニメを観てみようと思い立った.

そんなわけで、2005年3月18日、私は「AIR」のTVシリーズを観始めた。
それは衝撃だった。ほとんどストーリーをしらずに観始めたことが、余計私を「AIR」の世界に惹きつけた。
とにかく、絵がすばらしく綺麗であった。TVシリーズで毎話ここまでクオリティの高いアニメなんて、今まで観たことがなかった。
そのうえ1話ごとに作画監督が変わっていながら、作画の違いが極めて少なかった。
とにかく丁寧に緻密に作られたTV版「AIR」に、私は第1話から驚き、そして魅入ってしまった。

そのうえ、ストーリーがすばらしかった。
原作が泣きゲーと呼ばれるほどの、エロゲー界を代表する名作であることが、ようやくわかった瞬間であった。
当時TVアニメは最終回手前の第11話まで放送されていたが、まさに一気に観終えてしまうと、
もうその時には私の心の中は「AIR」でいっぱいになっていた。特に11話、泣きましたよ。

キャラクターに萌え萌えになってしまったのは、予想外のことだった。
観鈴、佳乃、裏葉なども充分かわいかったのだが、神奈備命、そして遠野美凪のかわいさは別格であった。
かつてあれだけ嫌っていた樋上いたるの絵に、まったく抵抗がなくなっていたどころか、
美凪に至っては強烈な萌えキャラで、アニメキャラクターランキングにランクインするほどのキャラとなった。

キャラクター、作画、脚本、そして声優も完璧であった「AIR」は、このとき既に私にとって特別なアニメとなっていた。
そんな私が、劇場版「AIR」も観たくなるのは、必然といえよう。
その劇場版は、原作から大きく逸脱したストーリーで、贔屓目に見ても評価できない作品であったのだが、
それでもラストシーンでは不覚にもマジで涙を流して泣いてしまうほど感動してしまった。
東京まで劇場版を観にいった足で、国立まで寄りに行って霧島医院のモデルとなった建物を巡礼したこともあった。

そして、TVシリーズ最終回。ええ、またも泣きましたとも。「AIR」に出会えて本当に良かったと、心から思えました。
となると、原作のゲームをプレイしたくなるのも、また当然のこと。
私はすぐWindows版の「AIR」を購入し、18禁版なのでボイスこそありませんでしたが、
数日間寝食を惜しんでまでプレイに没頭、「AIR」の全てを知ったのでした。

原作をプレイしてみて、TVアニメ版の凄さを改めて思い知った。
原作のストーリーは非常に長大で、1クールでは絶対に短く、少なくとも2クールは欲しいところ。
しかし、制作した京都アニメーションは1クール全12話、後述する特別編を含めても14話のなかに、
DREAM編の佳乃→美凪→観鈴→SUMMER編→AIR編と、原作のストーリーをほぼ全て映像化するだけでなく、
ほとんど原作の通りにストーリーが進行、先述したハイクオリティの映像と相まって、
原作のファンのほとんど全ての方が作品の出来を賞賛するという、原作物のアニメでは非常に稀有な作品となったのである。

もっともファンにしてみれば、1クールでなく2クールで制作してほしかったという思いはあるであろうが、
逆に1クールで制作したからこそ、凝縮された素晴らしさが出たのかもしれない。
「AIR」のTVシリーズを観ると、まったくケチのつけどころがないのだが、12話という限られた話数で制作しているため、
ストーリーが異様に早く進行し、名シーンの連続といった感じに、1話の中に詰め込むだけ詰め込まれている。
普通のアニメでは2話かけて制作するストーリーを、1話でやっているようなものである。
それでいながら、まったく不自然さがないのだから恐れ入る。

佳乃編で征人が霧島医院に住み込みする話をはじめとして、実際に省略されているストーリーも少なからずある。
美凪編でも廃駅に住み込んでいる日数は原作では結構あるのに対し、アニメではほんとんど省略されてしまっている。
こういったアニメで省略されたシーンも、2クールあれば表現できたのであろうが、
かえって間延びしてしまう可能性も否定できない。
重要なシナリオを凝縮して描いたからこそ、原作のファンから絶賛される出来となったのかもしれない。

またゲームではDREAM編で佳乃、美凪、観鈴の中から一人選んでストーリーが展開していくのを、
アニメでは3人のストーリー全てを扱うため、いろいろな脚色が施されている点も見逃せない。
まず、観鈴が元気なうちに佳乃編が進行したため、行方がわからなくなった佳乃を探すときに観鈴も加わっていたり、
佳乃が征人の首を締め付けたとき、観鈴が佳乃の手を解いたりしている。
これは原作には無かったものであるが、むしろアニメのほうが個人的には好きなシナリオになっている。

美凪ストーリーでも、観鈴が美凪やみちると一緒に、征人の方術を観るシーンとか、
廃駅で美凪やみちると朝ごはんを食べている征人を、観鈴が覗き見しているシーンとか。
そういえば、特別編でも神奈がうさぎと戯れるシーンが追加されていたな。
こういったアニメオリジナルのシナリオや、原作との辻褄を合わせるための微妙な脚色も素晴らしかった点も、
TVアニメ版「AIR」が名作と評価された一因であろう。

そして時は流れ、2005年8月。待ちに待ったSUMMER特別編の放送となった。
TVシリーズ総集編の最後に流れた特別編の予告を見て、変わらぬレベルの高さに安心していたので、
いかにTVシリーズで省略されてしまったSUMMER編の旅の出来事を描いてくれるかに注目していたのですが、
いや〜、素晴らしい!。なにしろ神奈が可愛いすぎる!。もうね、スタッフのこの作品に対する愛情がわかるほどですよ。

TVシリーズのSUMMER編で、大胆に高野山への旅の途中のさまざまな出来事の描写を省いたのを、
話数が少ないためそこまで描写する尺がなく切ったものと思っていたが、別の意味があったこともわかった。
こうして旅の描写だけを切り取って特別編として制作することで、
旅の最中がいかに楽しく有意義であったかをより鮮明に描ききっている。
神奈がTVシリーズ以上に可愛く描かれているのも、特別編だからこそ出来たもの。
そして特別編のラストシーンでは、その後の結末を知っているが故の寂しさを感じることになる。

もしTVシリーズの8話と9話の中に、この特別編のストーリーを差し込んだとしたら、ゲームなら違和感ないがアニメとなると、
旅のシーンの雰囲気が明るすぎて、作品の中で浮いてしまっていたかも知れない。
こういった部分まで配慮して、SUMMER編の旅のシーンだけを、特別編として分けて制作したのだとすれば、もはや神の領域だよ。
京都アニメーション、ホント恐るべしな会社だな。

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