せいかつ仲間、家族のみなさまへ

とりあえずぼくは今日も元気で生きている
妻と夫婦げんかすることだってできる
それぞれの弱点を熟知している同士だから
自分に言われたくないことは
言わないほうが賢明だよね
肩を揉んであげたり
新聞をとってあげたり
沸騰させてわざと熱すぎるコーヒーを飲ませたりしても
まだ余計なことを言いそうなときは
風邪のせいにしてさっさと寝てしまうんだ
そして翌朝早起きすると。こころはもうすっかり菩薩


 聞けよ、愚かなるわが魂
 この生に至りてもなお
 まだ覚醒できぬのか
 愛に渇きしゆえに
 この世に立ち戻り
 盃になみなみと注がれたものを飲み干し 
 また渇かんとするのか
 与えよ、与えよ
 与え果てて生を透過することを夢みよ

揮発していくこの身体とともにありながら

容器ばかりに気をとられているのでは
人間的な、あまりに人間的な
経済的な、あまりに経済的な
お金はもちろん大事だけれども
雨の降らない日には傘はいらない
雨はずっと、ずっとずっと、降り続けるつもりだろうか
健康のために無駄遣いをしながら
終末を待つとしても
ひとり暮らしには小気味よいさっぱり感
だがぼくらには子供がいる
ぼくらはその子を育ててきた
その子の眉はつながっている
ぼくの眉とそっくりのその眉
でも眉ってつながっていると暑苦しいんだ
いっしょに風呂にはいっているとき
その眉毛、もっとすっきりとしてあげようか
ぼくが申し出ると
息子はうんと返事はしたが
なにか不安そうだった
無理もない
自分の髭を剃るときでさえ
剃り残したり傷をつけたり
さまざまなアクシデントを起こしている人物の
カミソリに注意するのは当然の行為だ
たとえ、父であろうとな
観念したみたいに待っている息子に
ぼくの不器用なカミソリは野蛮すぎる
きみは今度、ママに剃ってもらった方がいいな
そういうと息子は
やっと眉から力を抜いたんだ
こんな息子がいるうちは
もう世界が滅亡するなんて予言に与している場合じゃないんだ
火の玉が降ろうと宇宙船が不時着してこようと
自分よりもきみのことを守ってあげようと思っているのに
でももしおれが逃げたらその時は、罪を憎んで人を憎むな、息子よ
寛容さを養う道場なんだ、人生は
ぼくたちこの生活なかまが一緒に生きているあいだぐらいは
人類は存続していただかなければ困るんだ
ぼくが自分の息子にそう思うんだから
きっときみは自分の子供ができることになったら
そう思うだろう
子供思いなのが
うちの数少ない美徳のひとつなんだから
そうやってああだこうだしているうちに
すこしはましな人間が増えてくるかもしれないし
もしそうでないとしても
それはそうでいいじゃないか
みずからの不機嫌さゆえに子供を叱ることのできるぼくは
さて、この個体生物は
どんなオヤジに映っているかは
いつかビールの肴にでも誘ってくれい
せいかつ仲間だ、家族というものは
吉祥、吉祥、生きててよかった
ぼくらはせいかつ仲間なんだから
ひとりで留守番をしていてはいけませんと
ぼくを叱った息子よ
そうだな、その通りだな
さすがはおれの息子だと勝手なことを言わせておいてくれ
死ぬときはきちんと
天に任せて素直に死にますからと
今日ものうのうと生きている
ぼくはやはり能天気なやつなんだ
だからといって
だれかがなにか悪いことをしたわけでもない
ぼくの迷惑は家族を困らせるくらいの小さなもの

今日はここに生きている、

今日はここに生きている。

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