海流の中の島々 〜黎明編〜




 そして、私は再び来た。
 青山、そして室生の山々を越え、砂埃と排ガスに霞む大阪南港へ。
 ここに来ると、なぜかホームグラウンドに帰ってきたような気がする。しかし、用が無ければ頼まれても来たくない環境劣悪な場所である。
 今回は宮崎までフェリーに乗るために、頼まれもしないがひとりやって来た。


  
フェリーターミナル 沖縄定航埠頭


 大阪から宮崎へはマリンエキスプレスを利用するのが一般的だが、GW期間は全然予約が取れない。
 ということで、今回は大島運輸の那覇行き『琉球エキスプレス』を利用して宮崎まで行くことにする。
 この船は1隻で大阪〜那覇を行き来しているので、大阪から乗船できるのは週に1〜2回なのだが、今回は幸運にも日が合って席を確保することが出来た。
 しかもGWボリ料金システム(※)が存在しないので、大阪〜宮崎間の2等片道で某M社より1500円以上も安い。
 乗船手続きを南港フェリーターミナルで済ませ、かもめ埠頭の手前にある沖縄定航埠頭に向かう。
 沖縄定航埠頭は乗客用の設備は何ひとつ無く、フォークがせわしなく行き交うただの貨物埠頭だった。


 (※)GWボリ料金システム

 ゴールデンウィークに適用される悪質な割増運賃。関西〜九州間航路のほとんどの会社で設定されている。
 盆休み・年末年始にも同様のボッタクリが行われる。


佇むフェリー群 琉球の象徴・Orion


 『琉球エキスプレス』は2003年1月に就航したばかりの新しい船だが、基本的に貨物中心なので船内にはレストランも存在せず、あっさりしたものである。
 もし沖縄まで行こうとするならば、冷凍食品とカップめんで3日間過ごさねばならない。
 と、いきなりオリオンビールを発見する。さすがは琉球航路である。
 今回は沖縄へは行かないが、とりあえずオリオンで乾杯し、遥か琉球の島々に思いを馳せることにする。


ヒの国宮崎 曇り空


 雑魚寝部屋で快適とは言えない一夜を過ごし、翌朝宮崎到着。
 空はどんよりと曇っている。
 『琉球エキスプレス』はこの先、奄美大島の名瀬港にも寄港する。このまま乗り続けていってもいいのだが、夜までずっと船内に軟禁されるのも辛いので、ここで下船して鹿児島までの旅を楽しむことにする。
 下船した途端に雨が落ちてくる。地面が乾いているので、今この瞬間に降り始めたようである。非常に面白くない。
 濡れながら、11年前に霧島へ向かった道を同じようになぞっていく。
 

そして鹿児島へ 400キロの風景


 宮崎から都城まで行く場合、2つのルートが考えられる。
 1つは国道10号線、もう1つは日豊線沿いの269号である。
 距離は269のほうが5キロ以上短いと思われるが、地図で見ると等高線をたくさん跨いでいる。  だいぶ悩んだが、楽そうな10号線を行くことにする。
 が、10号線もかなりしんどい道だった。
 雨に打たれながら、坂道をのろのろ上って行く。大型車も多い。
 やがて都城に到着する。都城はこの辺りでは大都会だが、特にどこにも寄らずそのまま通過する。
 都城の町を過ぎれば、まもなく鹿児島県である。
 延々と続く坂道をだらだら上っていくと、「門司から400キロ」の道標がある。
 が、今回は門司から漕いできたわけではないので、特に意味はない。



桜島 錦江湾
450キロの風景 鹿児島市


 シラス台地をうねうねと上り続け、錦江湾越しに桜島が見えると突然8キロもの長い下り坂になる。
 今までコツコツ貯めた坂の貯金を一気に吐き出し、海辺に下りると国分の町である。
 ここからは湾岸に沿って、桜島を眺めながら逆時計回りに鹿児島市へ向かう。


朝日通り(R58) 新港フェリーのりば


 さらに行くこと20数キロ、やっと鹿児島に到着である。
 雨のせいもあって、もうへろへろである。銭湯に行き、鹿児島ラーメンが食べたい。
 などと考えつつ時計を見ると、もう16時50分である。出航まで1時間10分しかない。
 と、いうことで何もできないまま、すごすごとフェリー乗り場に向かう。


難民船 早朝・名瀬


 フェリーターミナルが狂ったように混んでいたので、ある程度の覚悟はしていた。
 が、鹿児島発奄美経由那覇行き『フェリーあかつき』の船内は、想像を遥かに超越した地獄絵図だった。
 レストラン・喫茶店はおろか、ロビーにまでゴザが引かれ臨時席になっている。
 風呂はあるものの湯が張られておらず、シャワーしか使えない(これはいつものことらしい)。
 帰省する地元出身者が多いのだろう、人だらけで足の踏み場もない2等船室のあちこちで酒宴が開かれ、やかましいことこの上ない。
 消灯時間が過ぎると、次は奴等の獣のような鼾でさっぱり眠れない。
 あまりの最悪さに一刻も早く名瀬に着いてくれと心底願うが、こんな夜は全然時間が過ぎていかないのである…。





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