:BREATH
食堂の後片付けをして、寮の自室に戻ったのは19:00頃。
「さて、緑もそろそろくるかな?」
ネメシスが明日の授業の準備をしながら窓を見やる。
ゼノンはというと…
「んー」
二段ベッドの下段に沈んでいた。
「…ゼノン、今から風呂の時間でもあるんだけど」
「いい、明日の朝入る。どーせ今から完徹の気配だし寝る」
やる気の無い返事。
ネメシスが不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「緑がいつ来るかわからないのに?」
「…シス、お前だったら人に見られないで動くなら、いつ動く?」
だるそうに質問で返すゼノン。
「なんだよそれ…動くんだったら夜中かな」
渋々質問に答える。
「だろ、だから緑は22時過ぎないと来ないって…あー、やつの事だから23時かも」
だから寝る。と手をひらひらと振るゼノンであった。
その頃、緑はキューブにて…
「そういうわけで、殆ど犯人は確定したけど…残念ながら人間じゃない」
一応報告はしていた。一応。
「…この手の事件最近多いな」
「ああ、ダークネスがらみの所為で極端に増えてる」
報告相手は…キューブのボス。
「力の強いやつらが引き寄せあうって本当の話みたいですね」
「そうだ。同じ力だとその傾向が強い」
「…やっぱりな」
どうしてもボスに直接報告しておいた方がいいと判断した。
それともう一つ。
「…ボス、これ手を引いた方がいいと思います」
「…」
「いままでとケタの違う強さのやつなら、手を出すのは自殺行為です」
「お前ならどうする?」
「…ゼロモード経由で対抗できる人の所に」
本来なら他のアサシン部隊に任務を譲るとはありえない話だ。
しかし、キューブでやろうものなら全滅する可能性がある。
現在トップの実力があると言われているメドゥーでも絶望的。
ならば、対抗できる人がいる所に近い場所に譲渡したほうがいい。
「しかし、今ゼロモードは…」
「何言ってるんですか、今二人いるじゃないですか」
ボス部屋から出ると、後ろから頭を小突かれる。
「ちょっと緑、私は花持ってないわよ」
黒い羽をばさりと翻して、少々上から声をかけてくる人がいた。
「うそ、ハニエル持ってねーの?!」
「持ってるとしたら、黒くんしかいないわよ」
「うげ、兄貴かよ…」
別な意味で予想外の展開に苦笑いするしかない緑だった。
こつこつと窓を叩く音がする。
時計は22:30分すぎを指している。
「…来たな」
窓を開けると夜闇にまぎれる格好の緑がするりと入ってきた。
「ちとボスバトルしてて遅くなった」
「なんだそりゃ」
「んで、Aはどうだって?」
「無理するな、だとさ」
手早く作戦会議をはじめる。
「姉さんもあまり良い顔はしてなかった気配が…」
「ああ、専用のパイプ役がいるからそっちに任せておけっていう感じだったな」
「とりあえず接触できたら様子探るだけの方がいいな」
前準備はしっかりしておいた方がいい。
もう少し話し込むといいのだが少し時間が足りない。
手身近に対処を確認する。
「で、接触中にレッドアイ出てきたらどーするよ」
「そりゃもちろん結界の中に投げ込み」
「じゃヤツが出てきたら?」
「三人で叩き伏せる」
もちろんいつもの手順も忘れずに確認しておく。
消灯時間が過ぎているので、なるべくそっと抜け出す。
といっても、三人とも飛べるので余り音は出ない。
そのまま屋根伝いに、目的の公園までは目と鼻の先だ。
ふわりと道路向かいの公民館の屋根に降り立ち、様子を伺う。
「…気配ないな」
「移動したのか?」
危険がないと判断して公園に降り立つ。
大した広さではないこじんまりとした公園だ。
大きな遊具も無く、隠れる場所もない。
「というか、なんであれだけの手がかりで特定できたんだ?」
ふと、気づいた事を聞いた瞬間だった。
「ブレスさんは精巣を取り込んで精気を補充するから」
「しかも中学生ぐらいの子供を好むから、気をつけ…って」
「っえ……?」
ゼノンとネメシスが本当に一瞬目を離した隙だった。
「……ぅ」
背後からぴたりと首に手を回された。
「久しぶりにおいしそうなコがいるなぁ」
気の抜けた柔らかい口調。
フリルのドレスシャツにジーンズという不可思議な服装。
なにより真っ白な髪。
一瞬で背後を取られた緑が動けなくなっていた。
「マジか…」
双子もまた、あまりにも突然現れた人物に呆気に取られていた。
ゼノンが呟いたのが聞こえたのか、驚いた顔を見せた。
「あれ、同族…?驚いたなぁ。でも随分若いねぇ、知らない顔だ」
ゆっくりとした口調があまり危機感を感じさせない。
「あの…つかぬ事を伺いますが…」
「うーんその前に二つほどいいかな?」
「え、はい」
ネメシスの質問を遮る。
ふいっと目が細められ、一瞬切れるような鋭さの殺気が放たれる。
一瞬竦むが、自分達に向けられたものではなかった。
「後ろ、なんか若いのが殺気放ってるよ」
「何っ!!」
弾かれたように後ろを振り向く。
「最近の若いのは挨拶もロクにできないのかなぁ…まったく」
振り向いた先にはダークネスがいた。
「よりにもよってこんな時に会うかよ!」
「タイミングが悪すぎるっ」
緑がほとんど人質状態では何もできない、何か打開策がなければ動けない。
ところがその打開策はあっさり不必要になる。
「あと、下に帰れないんだけど…」
緊張感を欠いた意外な質問に双子は脱力した。
「あ…あの、帰り方後で教えるのであっちぶっ飛ばしてきていいですか?」
「いいよ~その間味見してるから」
「いや、みどりを味見されても困るんです」
ゼノンがおろおろと相手をする、その間ネメシスがダークネスを追い払いにかかっていた。
とにかく緑を解放させないと。
「姉…じゃなかったアブソリュート様からの命令で、現在ここの人間に危害加えちゃいけないんですよ」
「そうなの?帰れない間に何かあった?」
「まぁいろいろごたごたしてて…そこら辺は帰ってから姉貴に聞いてもらえば」
ついうっかり『姉貴』と口を滑らせた。
普段からしっかり目上に話す癖がついていればと反省する。
そこに、やはり気づかれた。
「姉…?あれ、もしかしてシグが話してた双子かな」
「シグさん…あ、そういえばごたごた始まってから会ってない。ってか見てない」
下に居た時は補佐役で姉の傍にずーっといたゼノンなので、状況を把握したらしい。
「そうか、新しい位置しらねぇんだ…」
パイプ役というのはブレスの妹でもあるシグの事だったのか。
その肝心なパイプ役はごたごたが始まってからまったく見ていなかった。
もしかしたら現在の本拠地を知らされていない可能性がある。
「あれ、もしかして落とされたの?」
「…姉貴が原因じゃないぞ、他の原因だからな」
「その口ぶりからすると、アブソリュートは健在なんだねぇ」
おかしそうにふわりと笑っている様子から、こちらに敵意はなさそうだ。
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