:BREATH
「ちっくしょー…」
ぼやきたくもなる遅刻五回目。
学校にも了解は取っているもののやはり本職のアサシンとの両立は難しい。
春宮緑は高校への道のりを気持ちだけ急ぎ足で歩いていた。
やろうと思えば、電柱や屋根伝いに飛び移っていくことも可能ではあるがあえて歩いていく。
理由は多々あるが、まず一時間目が英語だったからという単純な理由だ。
「…英語なんていつのまにか覚えてたよ、まったく。いまさらやってもねぇ」
しかし本職の仕事が舞い込んできているのも間違いない。
今回の遅刻の最大の原因は前日にあった仕事の打ち合わせが予定時間をはるかに超えてしまったからである。
深夜終了予定が気が付いてみれば白々と夜が明けてしまっていた。
そのまま登校する予定が兄に無理矢理仮眠を取らせられ今に至る訳で。
「兄貴め…後で覚えてろ」
学校に到着すると教室にはすぐに行かず職員室に向かう。
「おはようございます」
そろりそろりと申し訳なさそうなフリをして担任の机に隊長からの書類をまず一枚。
次に学年主任の机の上にも同じ物を一枚。
「教頭先生、おはようございます」
最後に教頭に二枚つづりの書類を一枚。
「春宮、またか?」
「またかって言わないで下さいよ~せんせー」
事前に本職が忙しいことを伝えてはいるのだが。
「やっぱり入学して一ヶ月で五回はいくらなんでも…」
「だが自分で両立できると思ったんだろ、春宮」
「はい、だから公欠いただきに来てるんですよぅ~」
緑のようなアサシンは能力さえあれば原則として高校生から活動できるようなる。
ただ学校の許可も取らなければならず、今現在高校生アサシンは緑の一人のみ。
もっとも、最近飛びぬけた能力者は出てはきていないが。
職員室を出ると同時に一時間目終了のチャイムが鳴った。
「…気が乗らねぇ」
口ではこんなことをいいながら教室へ向かう足取りは重くはない。
ただ教室へ入った瞬間足を止めることとなる。
(なんか視線が痛いんですけど)
とりあえず椅子にも机にも画鋲が仕掛けられた気配はないので良しとする。
昼食時、緑は学校の寮の食堂で取ることにしている。
日替わりランチが美味しいのが理由だが、もう一つ。
「ご飯大盛りで!」
「ゼノンと一緒で」
校内でなにかとうわさの双子、ゼノンとネメシス。
この二人に用があるからだ。
「緑はどうする?」
「オレは普通で」
今日のメニューは鳥のから揚げに中華サラダと卵スープ。
高校生食べ盛り真っ只中なので量はかなり多めである。
緑は寮外者なので400円払う必要があるが、このボリュームに文句は出ない。
「いっただきまーす」
言うなり三人は無言で食べ始めた。
緑は朝食を抜いてきているのでなおさらがっついて食べる食べる。
ゼノンは見た目通りのたべっぷりで、ネメシスもその細い体のどこに入るのかという量のご飯を軽く平らげる。
「緑ぃ、焦って食わなくったっていいんじゃねぇか?」
「急いでんだよ、野暮用で」
「また仕事?」
「んん」
緑の足元にはちゃっかり通学用のリュックが。
午後は仕事の所用で、警察へいく予定が入ってしまったのだ。
「今日はいつもの場所?」
緑の目が一瞬アサシンの眼になったのをこの双子は見逃さない。
「…カフェオレで手を打つか?」
「こっちはミルクティーで」
返ってきた言葉は冗談のように聞こえるが、承諾したということだろう。
「うし、んじゃ放課後いつもの場所で」
あわただしくから揚げを口にほおりこみ、席を立った。
「食器置いて行っていいよ、一緒に片付けるから」
「サンキュー、先輩」
そのまま緑は駆け出していく。
その後ろ姿を見送った二人は、残りの昼食を食べようと箸を動かす。
「何持ってくる気だ?今度は」
「緑も両立大変そうだね」
「そうだな……アイツキャベツくらい食ってけよ」
「利害が一致してる以上、いろいろ協力しなきゃ。から揚げいる?」
「お、いるいる。そういえばボゥダリがこっちにくるのか?」
「向こうの学校が休みに入ったらしくて、会いたいだってさ」
「会いたいぃ?俺ら普通に授業あるのにか…」
それはいいんだがお二人さん、早く食べないと昼休み終わるのでは??
「ゼノ、時間!!」
「ぅわ!!ヤベっ」
ほら、言わんこっちゃない。
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