狂った城
小さく息をついて、アキラは寝返りを打った。 「暇‥‥だな‥‥‥」 もう何度繰り返したか判らない呟きを口にする。 染み一つ無い真っ白なシーツ。 大の男二人で使ってもまだ余裕のある大きなベッドは、一人で寝転がっているととても広く感じられる。 シキは数日前から遠征で留守だった。 そんな時、アキラは何一つやる事がない。 『別格』であるアキラは、何にも縛られない。この『城』のあらゆるものを自由に出来る。 アキラの身の回りも部屋の中の事も何もかも、仕事として定められた人間が行う。 アキラが命じれば、大抵の事は無条件で聞き届けられる。 皆、シキの気に入りであるアキラを腫れ物のように扱うのだ。 別に、それを不満に思った事はない。 シキ以外の人間の事など、どうでもよかった。 ただ。 「退屈‥‥‥」 ごろり、とまた寝返りを打って、アキラは天井を見上げた。 塵一つ無く磨き上げられた天井。 部屋の中も、あまり余計な調度はないものの、全て手の掛かった一級品だ。 真っ白いシーツも、誰かが気を利かせているのか、花の香りが僅かに薫る。 けれど、こうして見上げていると、シキに出会う頃何度か一夜を過ごした、朽ちかけた廃ビルの中に似ているような気がした。 使われなくなって久しい、埃と黴の匂いのする、薄汚れた部屋。 いや‥‥ここも、あの廃ビルと同じなのかも知れない。 素朴な生活の匂いとか、希望に満ちた活気とか――そんなものは、ここには何もないのだから。 ここに、この『城』にあるのは、血と、暴力と、欲望と――狂気。 力を求め、愚かな人間達はシキが自ら生み出すラインに群がる。 シキの撒き散らす『狂気』は、様々な欲望を巻き込んで、どんどん肥大して行くようだった。 最初はこのトシマの一部を支配していただけのシキの力は、今や旧祖地区を越え、確実に広がっているのだ。 『ラインに適合する』と言う事は、汚れた血の『狂気』を受け入れると言う事なのかも知れない。 アキラは、そんな事を思う。 望みもしないのに、悪魔の薬を生み出す血を与えられ、戦闘兵器として感情すら奪われた『彼』の狂気。 ラインに適合して驚異的な戦闘力を得たケイスケは、歪んだ狂気でアキラを殺そうとして‥‥死んだ。 彼の狂気に囚われたシキは、その汚れた血を体内に取り入れ、彼の代わりに狂気を撒き散らしている。 そして、自分も。 アキラは、目の前に手を翳した。 陽にあまり当たらないせいですっかり白くなった肌は、その下に流れる血が透けて見えるようだ。 Nicoleと非Nicole――似て非なるもの。しかし、元を辿れば同じもの。 ラインを摂取した者に確実に死を与える呪われた血。 しかし、シキだけは、Nicoleウイルスに侵されているはずなのにアキラの血を口にしても何の異常も起こらない。 アキラの血は、Nicoleの狂気を全て受け入れる事が出来た者以外は、殺すのだろうか。 どちらにせよ、アキラの中にも、狂気を秘めた、汚れた血が流れている。 もしかすると、『彼』のように最初からこの血を持っている分、シキの狂気より深いのかも知れない。 手を下ろし、アキラはまた天井を見上げた。 『狂ってないって、どういう事を言うんだろうな?』 今はもういない、幼馴染みの言葉が蘇る。 人の心を玩ぶ事を覚えたアキラを、狂っている、と城内の人間は言う。 シキが長く不在で、暇を持て余すと、アキラは城内の人間に声を掛ける。 わざと無体を言いつけて、相手が恐れ惑う様子を眺める。 更に、誰構わず誘って、その理性が陥落する様を嗤う。 帰ったシキが、その不届き者を斬り捨てて、そのままアキラを仕置きのように激しく責め立てる事すら楽しみだった。 そんな事をしていれば、狂っていると言われても不思議はない、けれど。 人々を狂気に巻き込む、この呪われた血を作り出したのはそもそも誰なのだ? 欲望に駆られ、破滅が見えていながらこの『城』に足を踏み入れるのは誰なのだ? 自分や、シキが狂っている事は確かだろうが、大義名分でNicoleを作り出した研究者達や、欲望からラインに手を出す人間達と、どれだけの違いがあると言うのだろうか。 「‥‥‥まぁ、どうでもいいけどな。そんな事」 小さく笑って、アキラは半身を起こした。 この血のせいだと、自分の振る舞いを正当化する気はない。 別に、そんな必要も感じない。 ただ自分は、自らの狂気の赴くままに生きるだけだ。 シキの、対となるNicoleの狂気と共に。 力を籠めれば折れそうな腰が引き立つ薄いジーンズと、しどけなく前をはだけたシャツだけを身に付け、アキラはベッドから降り立った。 そろそろ、シキが遠征から帰って来る頃だ。 今日は、最近入った、あの頭の固そう巨漢でも誘ってみようか。 怖いものなど何もない、と言っているらしいあの男が、アキラに誘惑されたらどんな顔をするだろう。 丁度、している最中にシキを迎えるのもいいかも知れない。 その時、アキラを犯す男は一体どんな無様をさらすのだろう。 自分の目の前でアキラが別の男に犯されているのを見たら、シキはどれだけ怒るだろう。 そして、どれだけ激しくアキラを苛むだろう。 それを考えるだけで、アキラの心は躍る。 爛れた期待に身体が熱くなる。 「楽しみ、だな。シキ‥‥‥」 うっとりと目を細め、アキラは嗤った。 |
END |
正式には何て言うんでしょうねぇ、このED。他のEDに比べて語呂が悪い(笑)気がするんですが。
EDのアキラに違和感ー、とか口走っておいて、結構書いてては楽しかったです。つーか、元々イっちゃった人書くのって好き(苦笑)。
ちょっぴり補完風味。アキラがあんまりにも女々しいのも嫌なので。やっぱ、軍人EDよりは書きやすいですねぇ。
タイトル、あんま(つーより全然)考えてません。つーか、なんかタイトル付けづらいですねぇ、咎狗って。