暖かい血


「あぁ‥‥あったかいよ‥‥アキラ‥‥‥」
 全身を真っ赤な血に染めて、ケイスケはうっとりと目を細めた。
 生々しい内臓に頬摺りして、溢れる血を啜りながら、もう力を失った血まみれの身体をかき抱く。
 やっと手に入れた。
 届かないと思っていたものが、今、自分の腕の中にある。
 嬉しかった。
 幸せだとすら思った。
 冷たい雨に洗われたアキラの顔は、血も洗い流されてしまって、まるで眠っているように綺麗だった。
 しかしそのうち、命の尽きた身体からはぬくもりが失せて行く。
 次第に冷たくなって行くアキラに、ケイスケは不思議そうに首を傾げた。
 死んでしまえば冷たい骸しか残らない。
 そんな当然の事実さえ、歪んだ思考では最早理解出来なかった。
 どうしよう。
 冷たくなって行く身体を見下ろして、ケイスケは考えた。
 暖かい血が、雨に洗い流されてしまったからだろうか。
 だったら、血を補給すればまた暖かくなるだろうか?
 アキラのナイフを取り上げて、自分の腕に無造作に切り付ける。
 不思議と、痛みは感じなかった。
 真っ赤な血が、音を立ててアキラの身体に降り注ぐ。
 ケイスケの血を浴びて、アキラの頬に赤みが戻ったような気がした。
 嬉しくなって、自分の胸にも刃を突き立てる。
 吹き出す血をアキラに注ぎ込むように抱き締める。
 ケイスケの血に濡れたアキラの唇に口付けると、さっきと同じぬくもりを感じた。
 アキラを抱き締めていると、次第にまた、ぬくもりが戻ってきているような気がした。
 それは、血を失い、雨に打たれた身体がアキラと同じくらい冷たくなってきているせいだったのだが、ケイスケにそんな事は判らなかった。
 力一杯抱き締めて、血に濡れて甘い唇に口付ける。
 何となく眠気が襲って来るのは、あまりにも幸せなせいだろうか。
 ケイスケは、アキラの髪に顔を埋めるようにして目を閉じた。
 抱き締めた身体はとても温かくて、眠気が益々強くなる。
 目を閉じても、アキラの顔はくっきりと目の前に浮かんでくる。
 アキラの、怯えた顔。泣いた顔。痛みに歪んだ顔。そして‥‥‥死んだ顔。
 アキラのいろんな顔が見たくて、自分は強くなった。
 それなのに、今、目の前に浮かぶのは、怒った顔や呆れた顔や‥‥出会った頃からずっと見ていた顔ばかりだった。
「あ‥‥そういえば」
 ぼんやりと薄れて行く意識の中で、ケイスケは思った。
 まだ、アキラの笑った顔を見ていなかった。
 本当は、それが一番見たかったはずなのに。
 今度、目を覚ました時には、もしかすると、アキラの笑顔が見られるだろうか。
 そうだといいな。
「‥‥‥愛してるよ、アキラ‥‥‥」
 闇に飲み込まれて行く意識の中で、ケイスケは、小さく呟いた。


END

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咎狗の初書きがこれってどーよ?と自分でも思っています。でも、夏コミ前に突貫工事でプレイして、東京に行く列車の中で何となく浮かんだんですよ。
こーゆー、イっちゃってる人って書きやすいです。本当は食○とか○姦とかも浮かんだんですが、最初っからそれは何だよなぁと思って自主規制。
まぁ、書きたいものは書けたのでこれはこれでいいかも。