試着


「‥‥‥なんかこれ、派手なんだけど」
 崇文が大きな襟やボタンを見下ろした。
「これって意味あんのかよ?」
 新が襟元のリボン(!)を引っ張った。
「実用的‥‥じゃないよね、どう見ても」
 幸雄が、機器類に引っかかりそうなカフスや上着の長い裾を眺めた。
「‥‥‥‥‥‥」
 啓一郎は、スーツ以外の服は恥ずかしいのか、頬を少し赤らめて小さくなっている。
 パイロットスーツだ、と言われて彼等が着せられたのは、大きな襟やカフスやリボンの付いた、まるで舞台衣装のような服だった。
 しかも、下は真っ白、上着は赤やピンクや緑など、はっきり言って派手だった。
 普通、戦闘時の服と言うのはもう少し地味で目立たないものではないのか?
「うるさい。迷彩服だの、軍のパイロットスーツだの、あんな地味でつまらん服など、見ていて面白くもなんともない」
 偉そうに言う壱哉の服は、同じデザインではあるものの、上着は何と紫だ。
 子ども向けヒーロー番組だったら、どっちかと言えば悪の幹部のようなカラーである。
 その服は前からいる幸雄や啓一郎も着るのは初めてだったのか、複雑な顔をしていた。
「背広でVirtuaroidを操縦する訳には行かないだろう。だから、人数も増えた事だし、特別に作ったんだぞ」
 ‥‥‥論点はそこではない。
 と言うか、今まで壱哉が出ていた時は、もしかして背広で操縦していたのか?
 その様子がリアルに想像出来てしまって、啓一郎を除く三人は笑えばいいのか呆れればいいのか判らない。
「それにしてたって、ただの派手な服じゃないか」
 新が、少しむくれたように言う。
 どうやら、色がピンクと言うのがとても不本意らしい。
 加えて、襟元を飾る紅いチーフが、幸雄と啓一郎はネクタイ状なのに、自分のはしっかりリボン結びなのも気に入らないようだ。
 衣装を運んできた研究員の一人が、ケースを閉めながら口を開いた。
「一般的なパイロットスーツからは考えられないでしょうが、それらは、Virtuaroidとのリンケージを最大限に高められるよう、要所に特殊な処置を施してあります。勿論、皆さんの生体データに合わせてありますから、同じように見えますが、微妙に全部違うんです。また、上から特殊コーティングを施してありますから、大口径の拳銃や携帯型のレーザー兵器程度では繊維一本も傷付きません」
「それはそれで凄いと思うけど。でも、このデザインと色は‥‥‥」
「はい、社長の趣味です!(きっぱり)」
 幸雄の突っ込みに、即答する研究員である。
 やっぱり、と本人以外の四人は全員納得する。
「なんだ、文句があるのか?そんなに機能性を重視したいなら、試作品があるぞ」
 壱哉の合図に、研究員が渋々取り出したのは、薄い全身タイツ状のものだ。
「身体にぴったりフィットする服ならVirtuaroidとのリンケージも申し分ない。機器類に引っ掛かる心配も皆無だ」
「‥‥‥‥‥‥」
 その『試作品』は、布地もとても薄くて、多分着たら身体の線がそのまま出るばかりか、シースルーよりちょっとマシ、程度の丸見え状態になってしまうものだった。
「俺はこっちでも良かったんだが。研究班に止められた」
 少し残念そうな壱哉は、本当にそちらを使いたかったのだろうか。
 止めてくれた研究員達に、心の底から感謝を覚える四人である。
 あんなものを見せられては、この服の方がまだマシ、と諦めざるを得ない。
 まぁ、コクピットに入っている限り外からは見えないから、どんな格好をしていても構わないのだが。
 諦めて納得している四人の気持ちを知ってか知らずか、壱哉は何となく機嫌が良かった。
「‥‥こう言う揃いの服と言うのも悪くはないな‥‥‥」
 目を細めて四人を眺めている壱哉の視線はアヤシかった。
 白い手袋と言うも結構そそる、などと呟いている。
 この服装で押し倒すのも悪くはない、と、壱哉の妄想は暴走するばかりである。
 その視線に、幸雄達は訳も判らず身の危険を感じてしまう。
「ふふ‥‥これから、少しは楽しくなりそうだな」
 とても嬉しそうな壱哉に、思わず後ずさりしたくなってしまう四人であった。



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えーと、この話を思いついた時に斉木様のサイトのサクラコスのイラストが心のカットになりましたvvv今回、そのリンク記念と言う事で。
いや、こう言うネタって言うのは、文章でいくら書いてもビジュアルが頭に浮かばないとつまんないんですよねぇ。やっばり、絵と言うのは説得力あります。
そう言えば、過去に紫のボディのヒーロー(特撮で、しかも人間じゃなかったですが)ってのがありました。もっとも、最初見た時は「悪役みたいだ‥‥」と思いましたが。