調査結果


 壱哉の指示で、『AZUMA』に在住する全ての住人に対して、密かに『適性』の調査が行われる事になった。
 今まで壱哉は、パイロット不足にも関わらず、調査をしていなかった。
 『適性』を持つ者は希少であり、さして巨大都市でもないこの『AZUMA』に、壱哉と啓一郎の二人が揃っている事すら珍しかった為、まさか他にも『適性』を持つ者がこの都市にいるとは思わなかったのだ。
 しかし幸雄の存在で、壱哉は調査の必要を痛感した。
 新たな『適性』保持者が見付かったとしたら、協力を求めるか、或いは少なくとも都市外に人材が流出しないように手を打つ事が必要だった。
 『適性』の調査自体はそう特殊なものではない。
 その人間固有の生体エネルギーや精神波の固有パターンを調査する事によって割り出す事が出来るから、特別に何かを行わなければならないと言う事はないのだ。
「果たして、『適性』保持者がこの中にいるものかな‥‥‥」
 壱哉は、事前にコンピュータで絞込みを行ったリストを指で弾いた。
 一説には数百万人に一人と言われる『適性』を持つ者が、既に三人いると言うだけでも珍しい事なのだ。
 おそらくは、誰も出てこないだろう、壱哉はリストを眺めながらそう思った。


 壱哉が調査を命じてから二週間程経った頃。
 啓一郎が持ってきた調査結果に、壱哉は少なからず驚いた。
 この都市に、『適性』を持った者が、更に二人いると言うのだ。
「ほぅ‥‥‥」
 そのうちの一人の写真を見た壱哉は、目を細めた。
 『清水新』。
 幼い頃、両親が事業の失敗から多額の借金を作り、新をこの街に残して失踪した。
 普通、そんな境遇になれば、自棄になって不良グループにでも入る所なのだが、彼の場合はそうはならなかった。
 バイトで食いつなぎ、学歴を取るためか、独学で勉強しているらしい。
 勿論、今まで犯罪歴など一度もない。
 バイト先で悪い相手に絡まれての借金も、働きながら少しずつ返済している。
 今時珍しい、真面目な少年のようだ。
 少し気の強そうな表情が、壱哉の征服心をくすぐる。
 こんなタイプと言うのは、一度気を許した相手には打ち込んでしまうものだ。
 今まで、あまり少年には手を出していなかったが、この少年を泣かせてみるのは悪くないかもしれない。
 そもそも、パイロットの選定だと言う事を半ば忘れ去り、頭の中で欲望を膨らませる壱哉である。
 そして、もう一人。
「これは‥‥‥」
 壱哉は驚きに目を見開いた。
 『樋口崇文』。
 どこかで見たような気がすると思ったのも道理で、壱哉が幼い頃、この街で暮らしていた頃の同級生だった。
 卒業後、壱哉が西條のお膝元の都市に行って以来、付き合いはなくなっていたのだ。
 ちびで童顔でいつもからかわれていた頃とは違い、今の彼は背も伸びて、『男』の顔になっていた。
 彼の調査結果を読み進めた壱哉は、眉を寄せた。
 壱哉と別れて間もなく、園芸家をしていた彼の父が亡くなった。
 間もなく土地のオーナーが変わった為に、小さな生花店も、育種をしていた薔薇園も、詐欺同様にして奪われてしまった。
 土地を守ろうとした時に作った借金と、お人好しにも他人の借金に巻き込まれたおかげで、一生働いても到底返せないような負債を抱えている。
 今は、休みもろくに取らずに働いているようだが、それはそのまま借金取りに持っていかれてしまっていた。
 犯罪にこそ手を出していないようだが、荒んだような生活を送っている崇文は、学生時代の彼のイメージからは程遠いものだった。
「‥‥‥まぁ、いい」
 元々、彼の事は憎からず思っていた。
 崇文本人はどう思っているか知らないが、獲物としては悪くない。
 壱哉は、僅かに唇の端を上げた。
 そんな壱哉の横顔に、啓一郎は内心でため息をついていた。
 『適性』保持者が、そこそこのルックスをしていた時から、こうなりそうな気はしていたのだが。
 最近は仕事が忙しくて男遊びなどしていなかったのだが、趣味自体が変わった訳ではないらしい。
 彼等は、遊びの対象ではなくて、この都市の存続にも関わる重要な存在なのだ、と言ってみても、一旦獲物と決めた相手を諦める壱哉ではない。
 いや、この表情から察するに、幸雄も含め、全員落とすつもりである事は間違いない。
「吉岡。この二人には直接俺が交渉に行く。毎日のスケジュールを調べさせておけ」
「はい。‥‥併せて、壱哉様のスケジュールの調整もですね」
 啓一郎の口調に僅かに混じったため息など、気にする壱哉ではなかった。
「あぁ。頼むぞ」
 もう一度、資料の写真を眺めた壱哉は、満足気に目を細めた。



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やっと全員出せる予感です。何となく崇文がどらまちっくっぽい生い立ちになってますが。いやだって、新ならともかく、崇文って原作のまんまじゃいい人過ぎて戦闘になんか出せそうにないので。‥‥‥と言うか、単に崇文はいぢめ甲斐があるからなんですが。
しかし秘書、パラレルでもやっぱり苦労をかけちゃってますね‥‥‥(涙)。