出撃
新と崇文がパイロットとしてスカウトされてから、一ヶ月近くが過ぎた。 実戦を前提にしたシミュレーションで、ようやくコンピュータ相手を卒業し、幸雄や壱哉とトレーニングが出来るようになっていた。 その間、不思議な程、敵は成りを潜めていた。 おかげで、邪魔が入る事もなくトレーニングに集中する事が出来たのだが。 そんな、ある日。 「壱哉様。偵察班からで、西のレアメタル採掘場に敵襲撃部隊が向かっているそうです。どうやら、西方の都市を地盤にしている勢力と思われます」 書類に埋もれていた壱哉に、啓一郎が注進してきた。 手元に送られて来たデータには、襲撃部隊を差し向けて来たと思われる敵勢力の事もあった。 「ふむ‥‥‥よし、ちょうどいい。樋口と新を出そう」 「‥‥‥大丈夫でしょうか?」 心配げに、啓一郎が眉を寄せた。 「実戦を知らなければいつまで経っても使い物にならん。西條の襲撃じゃないなら、大した戦力はないだろうから、初めてでも何とかなるだろう」 「はぁ‥‥‥」 まだ不安げな啓一郎を全く気にせず、壱哉はどことなく嬉しそうに立ち上がった。 「じ、実戦?!」 壱哉の言葉に、思わず腰が引けてしまった崇文を誰が責められるだろう。 「時間がない。文句は後で聞いてやるから、さっさと用意しろ」 壱哉の言葉には一分の容赦もなくて、新と崇文は強引にパイロットスーツに着替えさせられ、Virtuaroidのコクピットに押し込まれる。 「あ、あの‥‥‥」 「一応援護はしてやる。要は敵を撃退すればいいんだ」 一方的に言われ、Virtuaroidごと輸送艇に積み込まれてしまった。 今日、二人が搭乗しているのは、どちらもTEMJINである。まだ実戦経験がないから、能力の特化した機体よりも汎用機が適していると判断されたのだろうか。 メインスイッチを入れると、コクピット内の機器類に光が点る。 身体で覚え込まされた手順で機器類を確認する。 コクピットは、シミュレーターとそっくり同じだから、乗っていてそう違和感がある訳ではない。 しかし、これからはコンピュータ相手ではない『実戦』なのだ。 緊張するなと言われても無理な話だった。 モニターの一つに、遊軍機である相手のパイロットが映し出されていて、何となくホッとする。 もっともこれも、任務前のブリーフィングの為であって、戦場に降りれば余計な通信はカットされてしまうのだが。 《二人とも、大丈夫かい?》 別のサブモニターに、心配そうな幸雄が映し出された。 大丈夫じゃない、二人の心に同時に同じ言葉が浮かぶ。 《初めてなんだから、あんまり肩に力を入れないで‥‥‥》 《シミュレーションでやった通り、敵機を戦闘不能にすればいいんだ。後は別働隊が片付けるから、さっさと終わらせろ》 何とか勇気付けようとする幸雄を尻目に、顔を出した壱哉が容赦のない口調でプレッシャーを掛ける。 《あぁもう、彼等は黒崎くんほど物騒な環境にいた訳じゃないんだよ?サポートするつもりじゃないなら向こう行っててくれよ!》 幸雄が、呆れて壱哉を向こうのモニターから追い出す所までこっちに筒抜けで、二人はちょっと笑ってしまう。 《‥‥えぇと、それでね‥‥‥》 壱哉を向こうにやったらしい幸雄が、咳払いして再びモニターに現れる。 《戦場になる場所のマップはそこにあると思うけど‥‥》 幸雄の言葉通り、サブモニターの一つにCGイメージ化された地図が映し出されている。 希少金属の鉱石採掘場である山の麓、障害物も何もない荒野が広がっている。 《敵の総数ははっきりしてないけど、レプリカも混じっているみたいだ。黒崎くんが言ったように、シミュレーションの時みたいに、敵を戦闘不能にしてくれればいい。採掘場にだけは防護シールドを張るから、流れ弾程度だったら気にしないで戦ってくれていいよ》 幸雄は、真剣な顔で言った。 現実的な話に、嫌でも緊張が高まってくる。 《今の君たちなら、充分戦えるはずだから。それに、機体の性能は段違いにいいから、余程集中攻撃でも受けない限り、大丈夫だよ》 安心させるように幸雄が言ったが、さすがに、それを鵜呑みに出来る程脳天気ではない。 新と崇文は、モニター越しに何となく顔を見合わせてしまった。 と、その時。 《もう少しで戦闘域に到達します》 輸送艇のパイロットが告げてきた。 《万が一、敵の数が多いようだったら、ダメージを受けないように逃げ回っててくれれば、援護に出るから。頑張ってね》 気遣うように笑って見せて、幸雄の通信は切れた。 《戦闘域に到達しました。これで通信を終了します》 「あ‥‥‥」 何か言うより早く、サブモニターから相手の顔は消えてしまった。 しかし、心細さを感じる間もなく、輸送艇のハッチが開くと、二つの機体は次々と地上へと降下して行く。 地上との距離はそう近くはなかったが、搭載された補助コンピュータが最適なバーニアの出力を計算して、パイロットの手を煩わせる事なく安全に着地する。 土煙を上げて二機が着地したのは、襲撃が予想される採掘場を背にした位置だった。 殆ど間を置かず、遠くにきらりと光る点が現れた。 一瞬後、幾条ものレーザーが辺りに降り注ぐ。 敵の輸送艇の先制攻撃だった。 機体に軽い衝撃が走るが、表面に存在する薄いエネルギーシールドのおかげで、パイロットにフィードバックされる程のダメージはない。 採掘場は、と新はとっさに後ろを見た。 山の斜面全体が淡い光の幕に包まれていて、レーザーはその表面で中和されてしまうのが判った。 彼等を運んで来た輸送艇もいくらかは攻撃を受けたが、黒崎グループの技術を結集したシールドはびくともしない。 少し離れた場所に、次々とVirtuaroidのようなシルエットが降下する。 レーダーに、三体のVirtuaroidと二機の戦闘機が現れる。 センサーが伝えて来る情報によると、いずれもオリジナルのVirtuaroidではなく、レプリカのようだった。 少しの距離を置いて立っている崇文と新は、緊張しながら敵の出方を伺う。 お互いに通信出来ない事はないのだが、何を言えばいいのか判らなかった。 瞬く間に距離を詰めたレプリカ達は、長距離射程の光学兵器で攻撃してくる。 距離に比例して減衰してしまうそれは、射程距離ギリギリでは大したダメージにはならない。 それよりも、上空を旋回してミサイルだのエネルギー弾だのをバラまいてくる戦闘機の方が厄介だった。 どうすればいいのか、考えている新より先に崇文が動いた。 動かないこちらに油断したらしい戦闘機の一機がかなり低空で飛んでいた為、崇文は大きくジャンプする。 戦闘機に手が届く高さまで到達すると、崇文は戦闘機の翼を掴んだ。 Virtuaroidのパワーにかかれば、特殊鋼の翼であっても紙のようにひしゃげてしまう。 バランスを崩す機と一緒に着地した崇文は、そのまま、戦闘機の翼を両方とも破壊してしまう。 火器での攻撃ではないので、爆発する事はなかった戦闘機の胴体部分を、崇文はそっと地上に置いた。 崇文の機が離れると、戦闘機からは慌ててパイロットが逃げ出す。 崇文はそのまま、三機のレプリカの方へ突っ込んで行った。 初めて実戦に出たとは思えない崇文の動きに、呆然と眺めていた新は我に返った。 崇文一人を敵にさらして置く事は出来ない。 さっさと距離を詰めてしまう崇文を、新は慌てて追いかけた。 それを見て、敵は崇文の方へ二体、新の方へ一体が向かって来る。 レプリカとは言え、新の機とほぼ同じTEMJINタイプのシルエットを持つ機体である。 牽制の為なのか、出力の低いビームライフルを何発か撃ちながら、小型のボムに隠れるようにして距離を詰めてくる。 しかしその動きは、シミュレーションに比べ、明らかに単調で遅いものだった。 エネルギー弾を避け、爆風の及ぶ範囲ギリギリで避ける新に、敵は焦れたようだった。 一番破壊力のあるビームソードを使おうと言うのか、敵機は一気に距離を詰めてくる。 突っ込んで来る敵機を見ながら、新はビームライフルにエネルギーを送り込む。 敵機がビームソードを振り下ろした、その場所に新の機はいなかった。 瞬間的にバーニアを噴かして横に回り込んだのだが、敵機からは消えたようにしか見えなかったろう。 人型Virtuaroidのコクピットがあるのは胸部だ。 敵が新を補足するより早く、青い光が走った。 人間で言えばウエスト部分を薙ぎ払われ、敵機は大破して吹っ飛んだ。 操縦桿を握っているだけなのだから、直接攻撃の衝撃が伝わって来る訳ではない。 しかし、確かに、自分の手で敵機を薙ぎ払った手応えを感じて、新は立ち竦んだ。 コンピュータの中ではない、本当に、現実の手応えを持った『戦い』に、頭では判っていても、身体が竦んでしまっていた。 と。 《新!》 声と共に、全身に衝撃が走った。 「えっ‥‥‥?」 バランスを崩しかけた機体を立て直すと、少し離れた場所に崇文の機が倒れているのに気付く。 しかしそのボディは、特に上半身の装甲は殆ど剥がれてしまっていた。 辺りに、明らかに別の何かの破片が散らばっている。 そう言えば、ずっと上空で、ミサイルだのエネルギー弾だのを撃ってきていた戦闘機の姿がない。 それらの事実を繋ぎ合わせれば、自ずと結論は導き出される。 つまり、体当たりを仕掛けて来た敵の戦闘機に気付いた崇文が、新を庇って身代わりになった―――。 「樋口さん!」 新は思わず叫んでいた。 オリジナルのVirtuaroidは、パイロットとリンクする事で機体の理論値を超える能力を発揮出来るが、逆に、機体の受けたダメージがパイロットにフィードバックされてしまう。 大きなダメージを受ければ、肉体と精神にそれだけ大きなダメージが返ってくるのだ。 これだけ機体がダメージを受けたら、崇文には相当な負荷が掛かったのではないか。 《だ‥‥だいじょうぶだよ‥‥‥》 通信回線から、すこし間延びしたような崇文の声が流れてきて、新はホッとした。 《さすがに頭がクラクラするけど。平気みたいだ》 少なくとも、その口調に無理は聞こえなかった。 しかし、特殊金属製の内骨格まで剥き出しになってしまった崇文の機は、とても無惨に見える。 《動くのも大丈夫みたいだ。別におかしいところはないし‥‥》 さしてぎこちない訳でもない動きで、崇文の機は立ち上がったのだが。 そこへ、眩いばかりのレーザーが襲い掛かった。 一機残っていた重量級――RAIDENタイプのレプリカ――の敵機である。 ダメージを受けている崇文の機にとどめを刺そうと言うのだろう。 とっさに横にかわしたものの、かわしきれず、左腕を掠られる。 辛うじて残っていた装甲が砕け、一部の回線が火花を散らして焼き切られる。 その衝撃の為か、崇文の機がもんどり打つようにして倒れる。 「このっ!」 目の前で『仲間』を傷つけられてしまった怒りに、新はビームライフルを構えた。 敵機も、真正面からこちらに二門のレーザー砲を向けてくる。 敵が撃つより、新の方が一瞬早かった。 ビームライフルに全ての武器のエネルギーを注ぎ込むと、バスター状に変形し、大量のエネルギーを収束したビームとして一気に解放する。 高エネルギーレーザーの直撃を受けた敵機は、大破して大きく吹き飛んだ。 装甲が砕け、出力も低下して戦闘不能に陥った事をセンサーが伝えてくる。 「あ‥‥‥」 自分が、怒りに任せて敵を倒した事に、新は呆然としていた。 倒れた敵機は、既にスクラップ状態なのか、ぴくりとも動かない。 乗っていたパイロットは、無事なのだろうか。 さっきの攻撃が、万が一、その命を奪ってしまったとしたら? 生身の人間を攻撃したような実感など全くなくて、だからこそ、怖かった。 《新‥‥大丈夫か?》 心配そうな声に我に返ると、立ち上がった崇文の機が近くに来ていた。 「う‥‥‥うん‥‥‥」 どう答えればいいのか判らずに、新は頷いた。 《‥‥二人とも、ご苦労だった》 別回線で、壱哉が通信を入れてきた。 《そのまま、輸送艇で帰投しろ。後は別働隊がやる》 その言葉通り、どこから来たのか、彼等のVirtuaroidより一回り小さいレプリカが数体と、作業機械などが倒れている敵機に近付いて行く。 以前聞いた話では、機体は解体されて資源として使われ、敵のパイロットはこの都市の法に従って裁かれるのだと言う。 上空には、新達を運んで来た輸送艇が高度を下げて来ていた。 とにかく戻ろう、と新は崇文の方を見た。 動けるのだから大丈夫なのだろうが、上半身に多くのダメージを受けている機体を見ると、やはり不安になる。 「樋口さん、大丈夫か?」 《‥‥あぁ。出力は何とか大丈夫みたいだ》 「なら、先に入ってくれよ」 崇文を先に行かせれば、出力不足の時は補助が出来る。 《うん。ごめん》 そう言って、崇文の機は輸送艇のハッチを見上げた。 軽く膝を曲げて屈むと、崇文の機は大きくジャンプした。 空中で少しバランスを崩しかけたものの、何とかドックに滑り込む。 それを確かめ、新も大きくジャンプした。 ハッチからドック内に入り、指定の場所に立つと、左右から太いアームが伸びて機体を固定する。 パイロット認証キーを抜くと、機体の胸部が開き、コクピットを覆う防護シールドが切れ、モニター越しではない辺りの様子が見えるようになる。 同時に、コクピット内やコンソールパネルの光が落ちた。 丁度コクピットの前に、上空からアームに支えられた空中デッキが伸びて来る。 コクピットを出てそこに移ると、デッキごと壁際の通路へと運ばれる。 デッキから通路に移る時、少しよろめいた崇文に、新は眉を寄せた。 「本当に、大丈夫なのか?樋口さん」 新の視線に、崇文はばつが悪そうな顔をした。 「うん。まだ、少しだけ頭がぐらぐらするけど。本当に大丈夫だよ」 崇文は、安心させるように笑って見せる。 《お二人とも、帰還しますのでコクピットまでお願いします》 輸送艇のパイロットの声が船内放送で聞こえた。 「行こうか」 笑う崇文を、新は気遣わしげに見る。 幸い、コクピットまでの短い距離を、崇文は普段と同じ様子で歩いて行く。 「お二人とも、ご苦労様でした」 コクピットに入ると、パイロットが振り返って声を掛けてきた。 「あぁ‥‥うん」 どう答えればいいのか判らなくて、新は曖昧に頷いた。 「これから帰還します。シートにお座りください」 促されるまま、新と崇文はメインパイロット席の後ろに備え付けられているシートに腰を下ろした。 帰還してから、二人は初めての実戦後の身体データを細かく調べられた。 機体にあれだけのダメージを受けたにもかかわらず、崇文の身体データはほぼ通常と変わらなかった為、技師達は驚いていた。 その後、幸雄の指導(と言うか、説教)で絞られた崇文は、戦闘によるダメージよりも余程疲れてしまったようだ。 もっとも、初戦祝いとの理由で夕食は豪華だったから、崇文はあっさり元気を取り戻したようだが。 夕食の後、新が崇文の部屋を訪ねてきた。 思い詰めたような顔をしている新に、崇文は黙って部屋に導き入れる。 「今日はごめん‥‥俺のせいで‥‥‥」 椅子に座り、膝の上に置かれた新の拳は白くなる程強く力が入っていた。 「別に、新が悪いんじゃないよ。俺が勝手にやったことだし。結局何もなかったんだから、いいじゃないか」 「でも‥‥‥!」 幸い、崇文がタフだったおかげで何もなかったようなもので、運が良かったのだ。―――今日の所は。 後悔に揺れる新の瞳に、崇文は真剣な表情になった。 「‥‥‥新、本当に戦うの、嫌いなんだな」 崇文の言葉に、新は目を伏せた。 「今からでも遅くないよ。新、こう言うのに向かないと思うんなら、やめた方がいいと思う」 真剣な言葉に、新は崇文を見上げた。 「樋口さんは‥‥全然、大丈夫だったのか?」 コンピュータ相手ではなく、生身の人間と戦う事が。 新の視線に、崇文は困ったような顔になった。 「自分でも意外だけど、平気みたいだ。‥‥今まで、ケンカなんかしたこともなかったんだけど、あんまり抵抗なかった。‥‥‥こういうのって、本当はおかしいんだよな」 崇文の言葉に、新はどう答えればいいのか判らない。 「一応、こっちがちゃんと強ければ、人を殺したりしないでも勝てるかなぁとか思うんだ。‥‥結局は、自己満足だけど」 その言葉からは、彼も彼なりに悩んで、考えていたのであろう事が伺えた。 「‥‥‥‥‥」 目を伏せる新に、崇文は本当に困ったような顔になる。 「えーと‥‥‥」 何と言えばいいのか判らなくて、崇文は困り切った顔で宙を仰ぐ。 「‥‥‥実感、なかったんだ」 ぽつり、と言った新の言葉に、崇文は眉を寄せた。 「戦うことはそう難しくなかった。シミュレーションとか、山口さん達と戦ってるのに比べたら、全然、弱かった」 それは崇文も同じだった。 さんざんしごかれたせいなのか、敵の動きがとても遅く見えたのだ。 「初めて敵を倒した時、これは本当に、実戦なんだなって‥‥『殺し合い』なんだなって思った。それが凄く大きなことに思えたんだ‥‥」 一機を倒した後に新の動きが止まったのは、そのせいだったのか。 敵の戦闘機が体当たりを仕掛けてくるのに気付いていなかった事にも合点が行った。 「でも、崇文さんが撃たれて、頭に血が上った。中に人が乗ってるとか、そんな事気になんなかった‥‥うぅん、撃った後も、人を撃ったなんて実感が湧かなかった。‥‥‥それが、怖いんだ」 直接人の姿が見えていなかったとしても、相手は人間なのだ。 なのに、『人』を攻撃すると言う重い行為を、それと感じなかった自分が怖い。 このままだと、何の抵抗もなく人を傷付けたり、殺したりしてしまうのではないか。 それが怖かった。 「‥‥‥しかたない、って言ったら、怒られるかな」 崇文が言った。 「俺も、あんまり実感、なかった。でも、自分が攻撃された時も、あんまり実感なかったんだ。痛いとか、苦しいとかは感じたけど、今、誰かに殺されそうなんだとか、そんな実感はなかった。‥‥‥本当は、間違ってると思うけど。でも、生身の殺し合いじゃないのって、そう感じてもしかたないんじゃないかな」 「‥‥‥‥‥‥」 「実感がなくたって、ゲームみたいだって、それでも『人』を殺そうとしてるのは確かだよ。だけど、今まで自分が、本当に誰も傷つけずに生きてきたのかって言ったら‥‥そんなこと、わからないし。今までだって、全然意識しないで人を傷つけてきたと思うし‥‥人を、傷つけたまま死なせてしまったりしたんだ‥‥‥」 酷く暗い響きを帯びた口調に、新は胸を突かれた。 もしかすると崇文は、死にたいと思っているのだろうか。 「でもきっと、新は‥‥そんなことないんだと思う。だったら‥‥‥こんなことに関わらない方がいいんじゃないかな。嫌な思いしながら、戦ったりすることなんかないよ」 見上げれば、崇文の瞳には、新を心配する色だけがあった。 逃げてもいいのだと、言葉にはしなくてもそう言いたいのが伝わってくる。 「俺‥は‥‥‥」 人を傷付けたくなんかない。戦いたくなんかない。 でも。 このまま逃げてしまったら、これから、何をするにも負い目を感じてしまう気がした。 迷いを抱えながら、それでも危険な戦いに関わっている人の事を知ってしまったら、背中を向けて見ないふりをする事など出来なかった。 戦いなんて間違っていると思うけれど、崇文や幸雄や‥‥壱哉が間違っている訳ではない。何故かそう思った。 「‥‥‥‥‥」 新は、大きく息を吐き出した。 「ありがとう、樋口さん。なんか、話してたら落ち着いた」 新は、無理をしているのではない口調で言った。 その視線は、強く真っ直ぐな光を取り戻していた。 「新‥‥‥」 「戦う事はやっぱり嫌だけど。でも‥‥借金の事とかあるし。それに、樋口さんや、山口さんとかがいるのに、俺だけ逃げられないよ」 「でも‥‥‥」 崇文の表情が、心配げに曇る。 人を傷付けたくないと、迷ったままで戦いに出るのは無謀ではないか。 多分そう言いたいのだろう。 「大丈夫。樋口さんが言うみたいに、頑張って強くなる」 戦いの腕も‥‥‥心も。 今は迷いのない新の表情に、崇文は眩しそうに目を細めた。 「‥‥新って‥‥‥本当に、まっすぐだな‥‥‥」 眩しい程純粋で、真っ直ぐで。 自分とは‥‥‥大違いだ。 崇文は、ひっそりと、自嘲の笑みを洩らした。 |
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相変わらず崇文と新は仲いいです。いやぁ、ここまでシュミに走るのはどーよ?とか思いつつも、好きなんだな、こーゆーの。
崇文が結構頭が良く見えます。つーか、パラレルでもなけりゃ崇文は頭良くなれないのかも。ウチにしちゃ珍しく新が悩んでますが、崇文よりは確実に頭がいい証拠なので。イメージ的に、新って真っ直ぐなんですよねぇ。