黒崎さんちの…


「ねー。たかふみさーん。寝てるのか?」
 耳を引っ張られ、浅い眠りから思考が戻って来る。
 子どもっぽい声は、あらたのものだった。
 とりあえず、寝ているふりをして無視する。
 今日は朝から、ずっと相手をしてて疲れたんだ。
 大体、なんで犬の俺が猫のあらたに遊ばれなきゃならないんだろう。
 俺の方が身体が大きいし、力も強いから、本気になったらあらたに怪我をさせてしまう。
 だからずっと力を抜いていたら、あらたはすっかり俺を遊び相手と理解してしまったような気がする。
 しっぽにじゃれつかれるのはいつもの事で。
 近頃は、俺にまとわりついて耳やしっぽや毛並みをいじるのが好きみたいだ。
 しばらくはじっとしてるけど、そのうちくすぐったくて(時々本気で引っ張られて痛いし)我慢できなくなって逃げ出すと、どこまででも追いかけて来る。
 別にあらたが嫌いな訳じゃない。
 最初は警戒心の塊だったあらたがこうしてなついてくれるのは結構嬉しい。
 だから、あらたの事は好きと言えば好きなんだけど‥‥。
 今日も追いかけ回されて、あんまり疲れたから、隠れてあらたが飽きるのを待った。
 あらたは結構気まぐれだから、少し俺が見付からないと、つまらなくなって外に出て行ってしまうんだ。
 あらたが外に遊びに行ってしまったから、俺は日当たりのいい部屋でのんびり昼寝をしていたのに。
「たかふみさーん、つまんないからあそぼうぜー」
 耳を引っ張っても俺が動かないから、今度はしっぽを引っ張られた。
 ちょっと‥‥いや、かなり痛いけど、我慢だ。
 しっぽを動かして振り払いたくなるのを必死に我慢する。
 すると、しっぽに触れる感覚が消える。
 やっと諦めたか、そう思って息をついた時。
「たーかーふーみーさーん!」
 どすっ。
「んぎゃ‥‥!」
 まともに背中に飛び乗られて、情けない声が出る。
 呼吸が止まって、あまりの痛さに涙が滲む。
「ほら、やっぱり起きてた。耳、ぴくぴくしてたからバレてたんだぜ?」
 俺の上に乗っているあらたが、後ろから耳を引っ張った。
「なー、あそぼうよ、たかふみさん」
 すり寄って来られたけど、これ以上は俺の体力がもたない。
 大体、あらたみたいな子どもの底なしの体力について行ける訳がない。
「かんべんしてくれよー。俺、もう疲れたんだってば。このまま動きたくない」
「えー?!」
「もともと俺は、ひなたぼっこして寝てるのが好きなんだから‥‥」
 そこにバラとか花の香りがしたらもう最高だ。
 あらたが来てから、そんな風にゆっくり過ごす時間はあまりなくなってしまったけど。
「‥‥‥わかったよ、たかふみさん」
 あらたが、俺の背中の上で身じろいだ。
「うんうん、明日になったらまた遊んでやるから‥‥」
「いーよ、たかふみさんは寝てて。俺、たかふみさんで遊ぶ」
「は?!」
 聞き返す間もなく、あらたは俺の背中に腹這いになってくつろいでしまう。
 俺の方が身体が大きいから、あらたには丁度いいソファ代わりなんだろうか。
 あったかくて気持ちいいけど、ちょっと重い。
 しかもあらたは、俺の耳とか長い毛をいじくり回し始める。
「おいっ、やめろよ!」
 体を起こしてはねのけてしまえばいいんだけど、あらたが怪我をしたらと思うとそれもできない。
「こらっ!」
 あ、やばい。
 耳を毛並みに沿って撫で上げられたり、毛をゆっくりと梳かれたりすると、背筋がぞくぞくする。
 黒崎‥‥ご主人様が俺の首とか頭を撫でてくれる時も、こんな風に感じる。時々意地悪に、尻尾の毛を逆向きに撫でられたり、色々痛い事をされたりする時もあるけど、それだって気持ちがいいんだ。
「たかふみさんて、さわり心地いいんだ。それに、こんな風にさわると、たかふみさんが気持ちよさそうな顔してくれるの見るのも好きだし」
 あらたは、俺の首筋に顔を埋める。
 こうやってくっつかれるのは、結構気持ちいい。もっとしてほしい、とかつい思ってしまう。
 ‥‥‥でもこれって、年上で、この家に先にいて、しかも大型犬の俺にはちょっと間違ってないか?
 何となく力をなくしてしまったしっぽを軽くなで上げられて、背筋がふるえる。
 黒崎に撫でられる時みたいに、気持ちよくて何もわからなくなりそうだ。
「へへ‥‥たかふみさん、あったかくて気持ちいい」
 あらたが、嬉しそうに頬をこすりつけてくる。
 俺はあらたの寝床でも保温マットでもないんだけど。
 もしかしてあらたが俺に無防備なのは、単に遊び道具兼保温マットだと思っているからなんだろうか。
 ちょっぴり情けない気持ちで、俺はそう思った。


おわる(汗)

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ごめんなさいすいません。山岸様の所の飼い犬たかふみと子猫あらたのイラストに一目惚れして、一度書きたいとずっと狙っていました。今回リクいただいたので、これ幸いと夏祭りの話とセットでup。ジャ○ネットも真っ青のセット商法(?)ですね、我ながら(いばるな)。黒崎さんちで幸せに飼われてるわんことこねこは書いててほのぼのしてました(それってなんか違う‥‥)。