お宝、発見!!
それは、とある休日の出来事だった。 何か捜し物をしていた樋口を手伝っていた新が、押し入れの奥からアルバムを見付けたのだ。 アルバムの中には、やや茶色がかった髪をした小さな子どもが写っていた。 「これ‥‥もしかして樋口さん?!」 子どもの頃の樋口の写真を見て、新が目を丸くした。 「へぇ‥‥かわいい子どもだったんだね」 山口が目を細めた。 「中学の頃までは、俺、チビだったからなぁ」 その頃の事を思い出しているのか、樋口が懐かしげに言った。 茶色い犬とじゃれている写真の樋口は本当に小さくて可愛らしくて、今のゴツい姿からは想像がつかない。 「俺も、十年ぶりに会った時、最初はわからなかったからな」 壱哉も、何かを思い出しているような表情で言った。 「この犬って、時々公園を散歩してたあの犬?」 新は、こんな風に知り合う前、公園で昼を食べている時に時折見た事を思い出す。 「うん、そう。サンダー、って言うんだ。中学の頃、捨てられてたのを黒崎が拾って、俺が引き取ったんだよ」 その話は初めてで、新と山口は驚きと共に樋口と壱哉の顔を見比べた。 「‥‥もう昔の話だろう。それに、俺は見つけただけだ。育てたのはお前じゃないか」 不機嫌そうに壱哉が言うが、僅かに赤くなっているのを見れば、照れているのだと判る。 「でも、お前が拾わなければ、死んでたかもしれないんだぜ?‥‥俺が、黒崎とよくしゃべるようになったのは、それからなんだ」 後半の言葉は新達に向かって、樋口は言った。 「なんか、縁結びをしてくれたみたいだよね」 にこにこと、山口がそんな事を言う。 「うん。本当に、そうだと思うよ。十年ぶりに黒崎と会って、またしゃべれるようになったのも、サンダーが黒崎を覚えていたからだし。それに‥‥もうおじいちゃんだったサンダーが死ぬ時、黒崎がちょうど来てくれて、一緒に看取ってくれたんだ」 「そんな事があったんだ‥‥‥」 三人とも、壱哉とは色々あったが、今はこうして共に過ごしている。 壱哉はやはり、本当は優しい人間だったのだと、改めて思う。 「‥‥‥ちょっと、吉岡の方を見てくる」 本気で照れくさくなったのか、壱哉はそそくさと立ち上がり、部屋を出ていってしまった。 後ろ姿からも、耳が赤くなっているのが見えて、山口は微笑ましいような気持ちで壱哉を見送った。 「それにしても、樋口さん、本当にかわいかったんだなぁ」 アルバムに目を落とし、新が言った。 自分より年上の人の子どもの頃を見るのは何となく不思議な気がする。 しかも、今からは想像出来ないほど小柄で可愛らしいのだから。 「中学までは、よく女子にも馬鹿にされてさ。黒崎みたいに勉強もスポーツもできなかったから、余計、取り柄もなくて。背のことでは、何回かケンカしたよ。結局負けたけど」 「‥‥まぁ、大人から見たら、気にするな、って言うところだけど、子ども同士では色々悔しい事ってあるよねぇ」 おっとりとした山口の言葉に、樋口は照れたように頷いた。 「高校に入ってからは、特にスポーツとかしてないのにすっごく伸びて。自分でも、こんなに大きくなるなんて思ってなかったよ」 樋口の言葉に苦笑しながら、新がページを繰った時、ひらりと何かが落ちた。 「?」 拾い上げた新が、固まる。 「なに?‥‥あ」 覗き込んだ樋口も固まった。 山口が覗いてみると、それは、バスの中で撮ったらしい写真だった。 詰め襟の男の子が、窓にもたれかかるように眠っている。 「これ‥‥もしかして、黒崎君かい?」 「う、うん‥‥‥」 微妙に赤くなりながら、樋口が小さく頷いた。 端正な面立ちは確かに壱哉を思わせるけれど、眠っている顔は年相応に子どもっぽくて、庇護欲さえ湧いてくる。 「うわぁ、黒崎さん、すっげぇかわいい!」 新が、目を丸くして写真を見詰めた。 「‥‥‥何を騒いでるんだ」 丁度そこに、壱哉が戻ってきた。 新の手にある写真を目に留めた壱哉の顔が、一瞬で真っ赤になる。 「樋口!お前、どうしてこんな写真を持ってるんだ!!」 「え?!あっ、その‥‥他のクラスの女子に注文頼まれた時に、ちょっと一枚余計に‥‥‥」 「写真を撮られた話の時に、そんな事は聞かなかったぞ!」 「それは、その、聞かれなかったし‥‥‥」 壱哉のあまりの剣幕に、樋口はすっかり逃げ腰になっている。 「樋口さん!」 「はいっっっ!」 今度は吉岡に詰め寄られ、樋口の声が裏返った。 「その写真、焼き増しさせてくださいっ!」 「‥‥‥は?」 吉岡の言葉に、樋口は目が点になった。 いつも平静な様子を崩さない吉岡が、目を血走らせて迫って来ていた。 「で、でも、ネガなんて持ってないし‥‥‥」 「大丈夫です!お借りできれば、何枚でも、拡大も縮小も自由自在です!」 エキサイトした吉岡の様子は初めて見るような迫力で、樋口は竦み上がった。 「貸すのは別に、いいですけど。‥‥‥できれば俺も一枚くらいほし‥‥‥」 壱哉に凄い顔で睨み付けられ、樋口の言葉は途中で消えた。 「あ、だったら俺もほしい。パスケースに入れておきたいし」 「僕もほしいな。やっぱり、子どもの写真は持ち歩きたいよね」 新と山口が口々に欲しがり、壱哉は捨てろとは言えない雰囲気だった。 「では、お借りします!」 言うが早いか、吉岡は写真を持って飛び出して行ってしまった。 「‥‥‥樋口」 壱哉の低い声に、樋口は飛び上がった。 「ちょっと俺の部屋に来い」 ありありと怒りの滲む壱哉の様子に、樋口は青ざめた。 しかし、蛇に睨まれた蛙のように逃げられない。 すごすごと壱哉に続いて部屋に行く樋口の後ろ姿を、新は心配そうに見送った。 「樋口さん、大丈夫かな‥‥‥」 「うーん‥‥まぁ、黒崎君の照れ隠しみたいなものだし。そう危険な事をするとは思えないし、大丈夫じゃないかな?」 危険な事をするとは新も思っていないが、しかし。 鬼畜モードに入った壱哉の怖さは別にあるのではないか。 ―――樋口さん、明日起きられるかな‥‥‥。 内心、樋口がとても気の毒になってしまった新であった。 そして、案の定。 『おしおき』と称して壱哉に徹底的に嬲られた樋口は、声が枯れ、翌日の夕方までろくに立ち上がれない状態になってしまった。 その間に、吉岡が満面の笑みで、焼き増しを終えた写真を持ち込んできた。 新と山口は、各々、部屋の写真立てに飾り、尚且つもう一枚をパスケースの中に仕舞い込み、常に持ち歩く事にした。 吉岡は、密かに拡大した写真を壁に貼っていたのを壱哉に見付かり、本気で怒られた。‥‥‥しかし、タペストリーで隠してこっそり見ては幸福を噛みしめているらしい。 そして、焼き増しをした者達から、その写真の存在が調査員達にも伝わった。 一説には壱哉のファンクラブと重複しているとも言われる調査員達の間で、写真はレアアイテムとして伝説となった。 調査員達の希望もあり、特に目立った働きをした者に、賞与代わりにシリアルナンバー入りの写真が与えられる事になった。 それからと言うもの。 功績をあげ、持ち歩き用、展示用、保存用の三枚を確保する事が、プロの調査員としての密かなステータスとなったと言う。 |
おわる。 |
これから後、例の写真を見るたびに、壱哉様は樋口をいぢめる事になるでしょう(笑)。青年医師とかは、何故か拡大版の写真とか手に入れてそうだ。壱哉様は、当人には全く自覚はないですが、密かにアイドルなのです。えぇ。でなきゃあ、あんな犯罪としか思えない工作なんて出来ません。
なんかもう、タイトルのネタも尽きました(←いつもの事)。