sinner
目を覚ますと、薄暗い天井が目に入った。 今は、小さな電球が点いているだけの、殺風景な天井。 ここで暮らすようになって、どれだけ経つだろう。 いつの間にか、この天井の方が見慣れてしまった。──二十年以上暮らして、もう、今はなくなってしまった家の天井よりも。 意識が現実に戻ってくると、全身がとても怠くて、あっちこっち痛いのがわかる。 それを我慢してベッドから降りて、床に座り込んだ。 上掛けにくるまって、ベッドの足によりかかる。 裸で寒い訳じゃなかったけど、なんとなくこの方が落ち着く気がした。 黒崎は俺を痛めつけるのが楽しいらしくて、いつも、痛くて、苦しいことばかりする。 それでも、最後には気持ちよくなって、黒崎に笑われながら、何度もイってしまうんだ。 そしていつも、気絶するまで犯される。 何もかも奪われて、金で買われて、ここに閉じ込められて。 前には、考えられなかったような恥ずかしいこともいっぱい覚えさせられて。 本当なら、俺をこんな風にした黒崎を、憎いと思うんだろう。 いや、憎いと思わない訳じゃないけど、それより、なんだか黒崎が哀れに思えた。 バカだよ、お前。 軽い気持ちで消してしまったあの薔薇が、俺にとってどんな意味を持っていたか、お前にはずっとわかんないだろうな。 そして‥‥あんなバカみたいな金額で俺を手に入れて、好き勝手に扱って、何となく満足して。 本当は、お前、何が欲しいのか自分でもわかってないんだろう? ここで飼われて、お前に犯されてるうち、俺、お前が本当は何が欲しかったのか、なんとなくわかった気がした。 それを手に入れようとして、こんなことしてるってことも。 ‥‥‥いいよ。 お前が望むように、墜ちてやるよ。 いつもお前のことしか考えられない従順なペット。 抱いてくれるなら、誰にでも足を開く浅ましいケダモノ。 自分好みのペットを手に入れて、きっとお前は、満足したような気持ちになるんだろう。 そして多分、本当に欲しいものからは、どんどん離れて行く。 お前が本当は何を欲しがってるのか、それを誰が与えてくれるのか、俺は知ってる。 でもそんなこと、教えてなんかやらない。 それが‥‥俺の、復讐なんだから。 何が欲しいのかわからないまま、ずっと手探りで追いかけていればいい。 お前が手を伸ばす方向は、全然反対側なんだ。 満たされなくて、乾いた気持ちを紛らわせるのに、もっともっと、酷いことをすればいい。──俺が、死んでしまうくらい。 だって、これは。 ‥‥‥俺自身への、罰でもあるんだから。 親父が一生かけて追っていた夢も、ずっと薔薇園を守ってくれたサンダーの墓も、俺は何一つ守れなかった。 だから俺は、もう二度と、何も手にすることはできない。 夢も、自由も、生きる価値も‥‥‥そして、好きだった人の気持ちも。 もっと、胸が苦しくなればいい。 もっともっと、痛くて、酷いことをされればいい。 つらくて、苦しい時間をずっと過ごすこと。 それが‥‥何も守ることができなかった俺が、今も生きている理由なんだから。 重い扉が、ゆっくりと開く音に、俺は顔を上げた。 「おとなしくしていたか?樋口」 嬲るような笑みと、冷酷な口調。 傲慢で、哀れな支配者。 そして、俺の───。 「黒崎‥‥‥」 俺は、笑みすら浮かべて、黒崎を見上げた。 |
END |
相変わらずウチの樋口は後ろ向きとゆーか、自己完結して満足しちゃってます。
どーやら私、ぐるぐる悩ませればアタマ良く見えるんだと思い込んでるよーです。受け樋口のつもりですが、どーも壱哉より精神的に優位(なのか?)だと攻めっぽく見えるんだよなぁ。