正しいチョコの贈り方
二月十四日、バレンタインデー。 業者の宣伝に乗せられて、今やすっかり『好きな人にチョコレートを送る日』として定着してしまったその日。 「別に、やるのが嫌なわけじゃねえんだけど」 ぶつぶつと呟きながら、新は台所でスポンジ生地の材料を泡立てていた。 一応、両想いになって、こうして一緒に暮らしていると言うのに、壱哉は相変わらず、新のチョコレートを欲しがる。 誕生日とかクリスマスとかにはちゃんとプレゼントをあげているのだから、今更バレンタインもないだろうと思わないでもないけれど。 去年、模試で忙しくてチョコレートの事を忘れていたら、その後毎日毎日、恨み言めいた事を言われ続ける羽目になってしまった。 結局、一週間後に新が折れて、ちょっと遅い手作りチョコレートをプレゼントするまで壱哉の愚痴は続いたのだ。 しかも‥‥‥。 「‥‥っ」 その時の事を思い出してしまい、新は耳まで真っ赤になった。 拗ねてしまった壱哉に、新は『遅くなった埋め合わせ』と称して、口移しでチョコレートを『プレゼント』する事になってしまったのだ。 「まったくもう、なんであんなにわがままでガキっぽいんだか。信じらんねーよ！」 照れ隠しのようにがしゃがしゃと勢い良く泡立てられているボールは、もうかなりいい具合になっていた。 しかし、いつも文句を言いながら、結局最後には壱哉の『我が儘』を聞いてしまう自分に、新は我ながらちょっぴり呆れる。 結局の所、『好きになってしまった』新の負けなのだろう。 今年だって、課題とかで結構忙しいのに、こうしてチョコレートケーキを作っているのだから。 直接チョコレートではなく、みんなで食べられるチョコレートケーキを贈るのがせめてもの抵抗だった。 菓子作りの腕もいい吉岡に習ったせいか、新も、最近はケーキ作りの腕を上げていた。 「黒崎さん、意外に甘いの好きだからな」 何だかんだ言って、壱哉に何かを作ってやるのは楽しい。 新の料理を、本当に美味しそうに食べてくれる壱哉を見ると、もっと頑張ろうと言う気になってくる。 「‥‥‥結局‥‥好きなんだよな、俺‥‥‥」 半ば無意識に呟いた新は、はっと我に返った。 真っ赤になりながら、反射的に辺りを見回してしまう。 今日は壱哉も吉岡も仕事で遅くなると言っていたから、今家にいるのは新一人だ。 今の言葉を誰も聞いていなかった事を確認して、新は大きなため息をついた。 大好きな気持ちは、いつでも胸の中にたくさんあるけれど。 でも、普段は言葉に出すのは照れくさい。 「だいたい、好きだなんて言ったら、絶対黒崎さん、つけあがるからな！」 あれは、一緒に暮らし始めて、最初の誕生日。 誰かに誕生日を祝ってもらったのは本当に久しぶりで、嬉しさのあまり『大好き』と言ってしまったら、壱哉はとても機嫌を良くしてしまって。‥‥その後、三日くらい離してくれなかった。 「‥‥ったく、限度ってもんをしらねーんだから‥‥‥」 新だって、いつでも一緒にいたい気持ちはある。 でも、底なしのような壱哉にいつも付き合わされたら、こっちの体がもたないのだ。 いつの間にかいい具合に泡立ったボウルに他の材料を混ぜ込んで、新は手早く、ケーキの生地を型に流し込む。 オーブンに型を入れてから、新はチョコレートクリームを作りにかかった。 今日はなるべく定時に帰ると言っていたから、急いだ方が良さそうだった。 パーティーと言う程のものではなかったが、いつもより少し豪華な、そして心の籠もった夕食。 新が出して来たチョコレートケーキに、壱哉は嬉しいような、肩透かしを食ったような、複雑な顔をしていた。 壱哉の事だ、新に、自分だけにチョコレートを作ってもらいたかったに違いない。 しかし、みんなで食べられるケーキの形をしていようが、チョコレートはチョコレートだ。 新としては、これでバレンタインはきっちり終わらせたつもりだったのだが。 夜―――。 風呂から上がると、新はいつもの服装のままの壱哉に声を掛けた。 「黒崎さん、風呂、空いたぜ？」 だが、それには意味ありげな微笑が返された。 ちょっと悪戯っぽいような、何かを企んでいるような楽しそうな笑み。 壱哉がこんな顔をしている時はろくな目に遭わなかったから、新は思わず逃げ腰になる。 「実はな、俺も、お前にチョコレートを用意していたんだ」 「え‥‥？」 意外な言葉に、新は目を見開く。 そんな新に歩み寄った壱哉は、無造作に抱き締めると、唇を合わせて来る。 「っ、ん‥‥‥」 チョコレートよりもずっと甘い口付けに、新の目に霞がかかる。 まさかこれがチョコレート代わりと言うのではないか、そんな考えが頭の片隅を掠める。 「んっ‥‥‥」 今日のキスはいつにも増して濃厚で、無防備に壱哉に身を預けていた新の体からは力が抜けてしまう。 いつもだと、こんなになる前に抵抗して抜け出すのだが、今日は、チョコレートを用意していたなどと言われ、つい、甘い唇を受け入れてしまっていた。 くたり、と自分に身を預けてしまった新の体を、壱哉はベッドの上に横たえた。 新がシーツの冷たさを意識する間もなく、シルクのネクタイがワイシャツから抜かれる硬質の音がする。 それを認識した時には、新の両手首は、壱哉のネクタイで縛り上げられていた。 「なっ、く、黒崎さん？！」 慌ててじたばたしてももう遅い。 両膝と片手で簡単に新の体を押さえ付けた壱哉は、実に楽しそうな笑みを浮かべた。 その片手には、上品な色の包装紙で包まれた小箱があった。 無造作にリボンを解き、包み紙を破いた壱哉は、中からトリュフチョコレートを取り出した。 壱哉が買うものだから、きっとそれはかなり高価なものなのだろう、などと貧乏くさい考えが新の頭を掠める。 壱哉が、チョコレートをつまんだ手を後ろに回すのを見て、新は目を疑った。 「ちょっ、くろさ‥‥っ！」 身構える間もなく、丸いものが体内に押し込まれたのを感じ、新は仰け反った。 異物感は強いものの、毎日のようにもっと太いものを受け入れさせられている場所は、何とかそれを飲み込んでいた。 しかし壱哉はそれで満足せず、もうひとつ、更にもうひとつ、丸いものが押し込まれる。 「なっ、なに、やってんだよ‥‥っ！し‥んじらんねえっ！」 本来、口に入れるべきものが体内に押し込まれている感覚が気持ち悪くて、新は真っ赤になった。 しかし対照的に、壱哉は涼しい顔だ。 「いや、たまにはこっちの口に食べさせてやるのも面白いかと思ってな」 全く悪びれた様子のない壱哉に、新は怒りのあまり言葉も出て来ない。 「そう言いながら、ここは嬉しそうじゃないか」 「ぅあ‥‥！」 壱哉が手を触れた場所は、この倒錯した状況に固さを増し、ゆっくりと勃ち上がりつつあった。 軽く扱き上げられただけで、そこは更なる刺激を求めるように高々と頭を擡げ、あまつさえ先端から露を滲み出させる。 股間に広がる熱を自覚するうち、新は、異物感が消えて行くのを感じた。 慣れているのではない。――溶けているのだ。体内の熱で。 「‥‥結構、美味そうに食べているようだが？」 からかうような言葉と共に、壱哉の指が体内に入り込んで来た。 「あ‥‥！」 反射的に、新は頭を仰け反らせた。 しかし、体内にたっぷりと入り込み、溶けているチョコレートのせいか、その感触はいつもとは違い、まるで布越しに触れられているようだった。 そのもどかしさに、新の腰が無意識に動く。 たっぷりと新の体内をかき回した壱哉は、チョコレートのついた指を美味そうに舐める。 自分の体内がそんな状態になっていると知らされた新は、恥ずかしさに真っ赤になった。 しかし、そんな羞恥心は、かえって新の体を昂ぶらせてしまう。 風呂上りでうっすらと赤らんでいた肌に、別の朱の色が加わって行く。 そんな反応が楽しくてたまらないらしく、壱哉は新の脚を大きく開いたまま、腰を上に抱え上げた。 「‥‥‥っ！！」 仰向けに、両膝を頭の脇に引き付けたような状態で、背を丸め、高々と臀部を上げた姿勢。 固くなりつつあるものも、とんでもないものを『食べさせられた』場所も、まともに壱哉の視線にさらしている羞恥に、新の目の前が真っ赤になる。 しかし、逃れようにも、不自然な格好で押さえ込まれていては、動く事も出来ない。 「‥‥いい眺めだ」 どこか嬉しそうに言った壱哉は、恥ずかしげに収縮している窄まりに舌を差し入れた。 きつい窄まりを舌で穿ると、中で溶けているチョコレートの味がした。 「美味いぞ、新」 壱哉の言葉が、かえってそこを強く意識させてしまった。 「っ、やっ‥‥ぁ‥‥‥！」 上げかけた悲鳴が甘い喘ぎに変わってしまう。 こんな事をされるのは初めてだった。 恥ずかしい場所を見られているばかりか舌で愛撫されているのは、死んでしまいたいくらい恥ずかしい。 しかし、弄られるのに慣れてしまった場所を暖かい舌が這うと、ぞくぞくしたものが背筋を走る。 直線的な熱が腰から張り詰めたものへと突き抜ける。 丁度、目の前に突き付けられる形になっている己の欲望が、固さを増し、じわりと露を滲ませる様がはっきりと見て取れる。 「やっ‥‥だ‥‥‥こんな‥の‥‥‥」 頬を真っ赤に染めた新の目尻に、涙が浮かぶ。 消え入りたい程の羞恥と、感じた事もない甘い刺激に、もう訳が判らなくなっていた。 新の涙に、さすがにやりすぎたと反省したのだろうか。壱哉は、白い臀部にキスを落とすと、力の抜けた脚を抱えた。 「ぁっ‥‥ふ‥‥‥」 新の背中が反り返る。 もうどろどろに溶けているチョコレートが潤滑剤代わりになって、壱哉のものはすんなりと新の中に入り込んだ。 だが、チョコレートの為か、体内を突き上げる感触がいつもとは違い過ぎて、新の体は過敏な反応を示してしまう。 食い千切りそうな程きつく締め付けてくる体内に、壱哉が僅かに眉を寄せた。 いつもとは違うシチュエーションと、予想以上に可愛い反応をしてくれる新に、壱哉も余裕をなくしていた。 「新‥‥‥」 いつもとは感触の違う体内を、大きく抉る。 激しく揺すり上げられて、新は体を支えようとするかのように、壱哉にしがみつく。 「く‥‥‥！」 いくらも経たないうち、壱哉は新を深々と突き上げ、目を閉じた。 「あっ、あ‥‥！」 体内のものが大きく膨れ上がって行くような感覚に、新は目を見開いて頭をのけぞらせる。 熱いものが体内で弾けると同時に、新も欲望を弾けさせていた。 ぐったりと力が抜け、新はベッドに沈み込む。 僅かに涙ぐみ、真っ赤に上気した新の顔は、とても可愛く見えた。 ゆっくりと抜き出した壱哉は、また、良からぬ笑みを口元に浮かべた。 「新‥‥ほら、こっちの口にはまだ食べてないだろう？」 壱哉が、チョコレートでまだらになったものを新の口に突き付ける。 「ん‥‥‥」 半ば朦朧としている新は、言われるまま、舌を伸ばして壱哉のものを舐め始める。 舌先に触れる甘さが、性器を舐めている状況にそぐわなくて、新の頭は更に混乱してしまう。 頭のどこかで羞恥を感じつつも、いつもと違う行為に、新は抵抗する気がなくなっていた。 従順に壱哉のものを口に含み、菓子でも舐めるように舌を絡ませる。 普段なら、絶対にしないであろう行為に、壱哉は目を細めた。 やや呆けたような表情は酷く子どもっぽく見え、その口が不似合いな性器を咥えている様子は、どこか背徳的に壱哉を煽った。 「っ、んっ‥‥！」 唐突に、喉の奥に叩き付けられた熱い迸りに、新は咳き込みそうになりながらも必死に飲み下した。 生臭い体液に、チョコレートの甘い風味が僅かに混じっていて、自分が一体何を飲み込んだのか判らなくなりそうだった。 「いい子だ‥‥新」 満足そうに笑った壱哉が、再び、新の腰を抱き寄せた。 「あ‥‥‥」 既に一度受け入れた場所は、いとも易々と壱哉を咥え込む。 半ば力が抜けてしまっている新の体を片腕で抱いた壱哉は、サイドボードに置いていた箱からチョコレートを抓んだ。 それを口に入れると、そのまま、新と唇を合わせる。 「んん‥‥‥」 甘い塊が、もっと甘いキスで口の中に送り込まれて来る。 舌を絡められ、口の中をかき混ぜられ、共に口にしているのがお互いの唾液なのか次第に溶けて行く塊なのか判らない。 何も考えられないまま、新はこくり、と甘いものを飲み下した。 「新‥‥‥」 蕩けるように甘い囁きが耳を擽った。 「上と下と‥‥どっちからもらうのが美味かった？」 からかうような楽しげな言葉の意味も、朦朧とした頭は理解出来なかった。 「‥わか‥‥な‥ぃ‥‥‥」 新は、どこか悩ましげに頭を振り、甘い声を洩らしながら壱哉に縋り付いた。 「ふふ‥‥かわいいな、新‥‥‥」 愛しげに囁いた壱哉は、うっすらと涙の浮かんだ新の目元に口付けを落とした―――。 翌朝。 やっとまともな意識を取り戻した新は、昨夜の事を思い出して、恥ずかしさのあまり目の前が真っ暗になりそうだった。 半ば朦朧としていたが、チョコレートを‥‥そう言う事に使われてしまったのは覚えている。 その上、汚れてしまった体内を壱哉が懇切丁寧に洗ってくれて、そのままバスルームでもう一度‥‥‥してしまった事も。 それらを思い出すだけでも恥ずかしいのに。 行為の跡をはっきりと残したシーツのあちこちに、チョコレートの汚れ。 これを洗濯する事を考えると、目眩がする。 「そんなもの、吉岡にやってもらえばいいだろう」 「こんなの吉岡さんに頼めるわけないだろ！？」 「じゃあ捨ててしまえばいい」 「捨てて‥‥って‥‥！」 捨てるにしても、この状態のままゴミ袋に突っ込むのは恥ずかしいと思う。 と言うか、新が恥ずかしくてそんな事は出来ない。 「何をふくれてるんだ。ゆうべは、あんなに可愛かったのに」 ぶちり。 反省の色など全くない壱哉に、新の中で何かが切れた。 「黒崎さんの、ばかやろ―――っ！」 部屋から叩き出された壱哉は、それから二週間の間、新のベッドに入れてもらえなかったと言う。 |
| ＥＮＤ |
本当にこんな事したら、腹を壊すと思います（また身も蓋もない事を）。いやまぁ、同人小説はファンタジーですから（苦笑）。
これでも一応、バレンタイン話です。チョコぷれいされている新が何となく浮かんだので、今年のバレンタインは新で行く事にしました（でもみょーに手間がかかって、一ヶ月も遅れてしまった‥‥）。
鬼畜に見えて甘々、ってのは良くある話ですが、甘々に見えて実は鬼畜ってのはどーなんだろう‥‥（そんなもん書くのは私くらいか）。このネタ、最初は樋口でもいいかとは思ったんですが、樋口は新ほど嫌がらないと言うか、いいように流されそう。所詮Ｍ体質だからなぁ‥‥‥。と言う事で、新が犠牲者になりました。