December 15


 なんで、あんなことを言ったんだろう。
 もっと、望んでいたことはあったはずなのに。
 広い、ふかふかのベッドの上、隣で眠っている黒崎さんを見ながら、俺は自分がわからなかった。


 久しぶりにやってきた黒崎さんは、いつものように、俺を抱いた。
 黒崎さんは意地悪だから、俺が嫌なことばかりする。
 張り詰めたものの根本を縛られて、イけない状態であおり立てられて。
 もう、抱かれるのに慣らされてしまった俺に、我慢なんかできるわけがなかった。
 おかしくなりそうなほどの熱に煽られて、イかせてもらえるなら、何をしてもいいと思ってしまう。
 いつも、後から恥ずかしさと自己嫌悪で泣きたくなるけど、焦らされてる時には何も考えられなくなってしまうんだ。
 だから、黒崎さんに言われるまま、恥ずかしい格好で、いやらしい言葉で、イかせてもらえるようにねだった。
 今日の黒崎さんは、いつもよりずっと意地悪で、俺が必死にねだっても、面白そうに眺めているだけだった。
 熱くて、辛くて、イかせてほしくて、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって。
 もう、訳がわからなくなって、言葉も思いつかなくなって、泣いて黒崎さんに縋りついた。
 そうしたら、黒崎さんは、楽しそうに笑いながら、ようやく俺を抱いた。
 熱くてどうにもならなくなっていた場所に、黒崎さんの大きなものが入って来た時、頭が真っ白になった。
 それでもまだ黒崎さんは許してくれなくて。
 何度も突き上げられて、かき回されて、なのにイかせてもらえなくて、もう壊れてしまうんじゃないかと思う頃。
 食い込むくらい、きつく縛られていたものが、やっとほどいてもらえた。
 焦らされ抜いていたせいか、止まらなく思えるほどの絶頂に、俺はそのまま気が遠くなった。
 その後のことは、半分以上覚えてない。
 まともな意識が飛んでしまうくらい、乱暴に突き上げられて、あんまり気持ちよすぎておかしくなりそうだった。
 いつものように、弱いところばかり責められて、掠れるくらい声を上げさせられた。
 やっと、黒崎さんが俺から抜いた時には、疲れ切ってしまっていた。
 もう、動くのもつらくて、俯せたまま、眠り込みそうになった時。
「新‥‥‥」
 俺の頭を、黒崎さんがなでた。
 俺を抱く時とは違って、物凄く優しい手だった。
 いつも酷いことばかりするのに、なんで時々、こんなに優しいんだろう。
「最近、素直になった褒美に、ひとつだけ、望みを聞いてやる」
「‥‥‥?」
 そんなことを言われたのは初めてで、驚きに、少しだけ頭がはっきりした。
 少し頭を動かして見上げると、黒崎さんは無表情で、何を考えてるのかわからなかった。
「ひとつだけ、だ。――なんでも、聞いてやる」
 あんまり、突然の言葉に、頭が働かない。
 なにかひとつだけ、聞いてもらえる望み。
「‥‥そばに‥‥いて‥‥‥」
 気がつけば、そう言っていた。
「なに‥‥?」
 声を上げすぎて掠れてしまっていたから、黒崎さんは聞き取れなかったみたいで。
「‥‥目を、さますまででいいから‥‥そばに、いてくれよ‥‥‥」
 黒崎さんに、手を伸ばす。
 気絶するまで抱かれて、目を覚ますと、いつもひとりぼっちだから。
 暗くて、誰もいない部屋を見回して、置いていかれたあの時のことを思い出して、泣きたくなるから。
 必死に伸ばした手を、大きな手が、優しく握った。
 それだけで、とても安心して、物凄く眠くなる。
 眠りに落ちる直前。
「‥‥‥馬鹿なやつだ‥‥‥」
 呆れたような、でも、とても優しい黒崎さんの声が聞こえた気がした‥‥‥。


 そんなことを思い出して、顔が赤くなる。
 本当に、なんであんなことを言ったんだろう。
 こんな、俺をだまして、何もかも奪って、自分の『物』みたいに扱う人に、そばにいてほしい、だなんて。
 でも、目を覚ました時、明るい部屋のベッドで、黒崎さんがとなりにいてくれた。
 黒崎さんは、本当に、今日一日、ずっとそばにいてくれた。
 仕事とかも少しあったみたいだけど、おんなじ書斎で、黒崎さんが見える場所にいさせてもらえた。
 黒崎さんは、俺をすっぽり毛布に包んで、どこにでも抱いて行った。
 子どもみたいに扱われるのは少し嫌だったけど、黒崎さんが、優しくしてくれるのは嬉しかった。
 いつもは、熱を出して動けなくなったりした時でないと、黒崎さんは優しくしてくれないから。
 食事も今日は黒崎さんの近くでさせてもらえた。
 そして、今はこうして、同じベッドの中にいる。
 先に寝ていろと言われて、そこに黒崎さんが入ってきた時は、思わず身構えたんだけど。
 黒崎さんは俺を見ただけで、そのまま眠ってしまった。
 肩透かしを食らったせいか、俺はなんとなく眠れなくなってしまった。
 仕方なく、黒崎さんを見ながら、いろんなことを考えていたんだ。
 俺に背を向けて眠っている黒崎さんの顔は、あのきつい目がないせいか、いつもより優しく見えた。
 俺から何もかも奪った、酷い人なのに。
 こんな横顔を見ると、どうしてか、落ち着かない。
 胸がどきどきして、目を離せなくなってしまう。
 バカ――みたいだと、思うけど。
 そのとき。
 音、と言うほどもない小さな音が聞こえた気がして、俺は周りを見回した。
 サイドテーブルの上に置かれた時計が、静かに日付けを変えていた。
「‥‥‥‥」
 唐突に、笑いがこみ上げてきて、俺は声を殺して笑った。
 そう、だったんだ。
 黒崎さんが、あんなことを言い出したのは。
 らしくもなく、優しくしてくれたのは。
「バカ‥‥みてぇ‥‥‥」
 口の中でつぶやく。
 本当に、バカみたいだ。
 黒崎さんも。
 俺も。
 しばらくして、ようやく笑いの発作が収まると、俺はベッドにもぐりこんだ。
 目を覚ます気配もない黒崎さんの方にちょっと近寄る。
 背中越しに黒崎さんの体温が伝わってきて、なんだか落ち着いた。
 多分、目を覚ました時には、あの部屋に逆戻りで、また一人ぼっちなんだろうけど。
 でも‥‥もし、一年後のこの日。
 俺が生きていて、黒崎さんが同じことを言ってくれたなら。
 もう、答えは決まっている。
 その日のことを考えれば、今までより、少しは一人ぼっちの時間を我慢できる。
 そう思いながら、俺は目を閉じた。


END

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‥‥‥新の誕生日記念のつもりだったんですが。今いったい何月だと思ってるんだろう‥‥‥(爆)。
てか、誕生日記念でこれかい(←突っ込まれる前に突っ込んでおこう)。なんか新の話、最近バッドED率高いですねー。いや、ハッピーEDで誕生日だと、結局壱哉様の誕生日とたんま変わんないような気がしたもんで(苦笑)。