最終戦争、勃発!
うららかな昼下がり。 吉岡は、公園ではしゃぐ一也を目を細めて眺めていた。 今日は一也の定期検診の日だったのだが、山口が壱哉の用でどうしても行けなかった為、代わりに病院へ連れて行ったのだ。 そして今は、その帰り道、と言う訳だった。 住宅街から少し離れている公園のせいか、人の姿はあまりない。 壱哉の援助で手術を受けた一也は、今は普通の子どもと変わりない生活を送れるようになっていた。 普通に小学校に入って、他の子どもと同じように学校生活を送っている。 しかし、それまで父親と二人っきりで病院通いをしていたせいか、一也は壱哉や吉岡など、大人と一緒にいる方が好きなようだった。 少し走ればすぐに倒れてしまっていた時の事を思い出すと、改めて、健康になって良かったと思う。 吉岡と一緒なのが嬉しいのか、一也はいつもよりはしゃいでいるように見えた。ジャングルジムのてっぺんに登ったりアスレチックを難なくこなしたりしている自分の姿を見てもらおうと、手を振って吉岡を呼ぶ。 多少ハラハラしながらも、吉岡は元気な一也を微笑ましく見守っていた。 ひとしきり、アスレチックなどで遊んだ一也は、息を切らして吉岡の座るベンチに走って来た。 「あー、おもしろかった」 嬉しそうな顔で横に座った一也に、吉岡は苦笑した。 「それは、良かったです」 微笑する吉岡の顔を、一也は眩しそうに見上げた。 「?‥‥なんですか?」 視線に気付いた吉岡に見詰められ、一也は慌てたように首を振った。 「な、なんでもない」 目を逸らした一也の顔が、何故か赤いのを不思議に思いつつ、吉岡はそれ以上追求しなかった。 「‥‥そう言えば、こうやって二人っきりは久しぶりだよね」 思い付いたような一也の言葉に、吉岡は、前に会った時の日付を思い出す。 「そうですね。中々仕事が忙しくて、山口さんにも無理を言っていますし‥‥すみません、寂しいでしょう」 能力のある山口は、壱哉の事業の中で欠かせない人材になっていた。 勿論、家族と一緒にいたいと言う彼の意向は最大限尊重しているつもりだが、一也の体が良くなってから、どうしても山口に多く時間を取らせていた。 代わりに壱哉や吉岡が一緒にいてやるように配慮はしていたが、やはり忙しくて、中々うまく行かないのが現状だった。 しかし、一也が言いたかったのは別の事だったらしく、もどかしげな顔になる。 「お父さんのことじゃなくて。今は吉岡さんの話をしてるんだよ?」 会った当初は『吉岡くん』と呼んでいた一也だが、山口に咎められたのか、いつの間にか『さん』付けになっていた。 「は‥‥?私の事、ですか」 「吉岡さん、忙しいって言って、ぜんぜん顔見せてくれないから。さびしかったんだからね」 「あ‥‥す、すみませんでした」 一也の怒りの原因は良く判らなかったが、取り敢えず謝って置いた方がいいような気がした。 けれど、頭のいい一也には、そんな事はお見通しだったらしい。 何となく膨れているような一也に、吉岡はどうしていいか判らない。 仕事が終わり次第壱哉もここに来るはずだから、それで機嫌を直してもらおうか、などと考えた時。 「ほんとに‥‥‥さびしかったんだから」 一也が、ベンチの上に上がって、吉岡と同じ目の高さになる。 ザァッと木々を揺らし、一陣の風が吹き抜ける。 「吉岡さん‥‥‥」 一也が、吉岡の上着にしがみつくようにして背伸びをした。 「―――?!」 吉岡は一瞬、頭の中が真っ白になった。 柔らかな唇がゆっくりと離れて初めて、キスされたのだと気が付いた。 「か、か、一也さん?!」 どうしていいのか判らなくて、吉岡は上ずった声でどもってしまう。 「こんなことされるの、いや?」 少し不安そうに見上げて来る顔は、とても可愛かったけれど。 「あ、あの、嫌とかそういう問題ではなくてですね‥‥‥」 この、小学生にあるまじき行為を、一体どう解釈すればいいのだろう。 いや、それよりも、一也がこんな突拍子もない事をしたのは、やっぱり壱哉の悪影響なのだろうか。 固まっている吉岡をどう取ったのか、一也はもう一度、触れるだけのキスをする。 「‥‥好きだよ、吉岡さん」 真顔で言われ、吉岡はどう反応すればいいのか判らない。 この『好き』が、食べ物とか父親などへの『好き』とは別物である事は、さすがに想像がついた。 「僕が、どうして吉岡『さん』、って呼ぶようになったかわかる?」 「え?いえ‥‥‥」 まさか父親に怒られたからだろうとは言えない。 口篭もる吉岡を、一也は真っ直ぐに見詰めた。 「学校に入って、友達はたくさんできたよ。だから‥‥吉岡さんを、友達と同じ『くん』って呼ぶのをやめたんだ。吉岡さんは‥‥友達より、もっと大切で特別な人だから」 「‥‥‥‥‥」 一也の真剣な口調は判るのだが、その言葉の中身はと言うと、どうにも吉岡には理解に苦しむものだった。 ‥‥‥と言うか、理解したくないような気もする。 困った顔をしている吉岡を、一也はじっと見詰めた。 「吉岡さんは、僕のこと、きらい?」 「そんな、嫌いな訳はないです」 「じゃあ、好き?」 だから、嫌いではない事が、何故そうなるのだろう。 確かに嫌いではないし、どちらかと言えば『好き』と言えるとは思うのだが、それを口にするのは物凄くまずい気がする。 しかし、息が触れそうなほどの至近距離で、真面目な顔で見詰められ、一時凌ぎのごまかしは通りそうにない。 どう答えればいいのか、吉岡が本気で悩んでいた時。 「一也。お前、何やってるんだ?」 救いの声に、吉岡はホッとしてそちらに視線を移した。 見れば、仕事を終わらせて来たらしい壱哉が、少し面白くなさそうに腕を組んで立っている。 「あ‥‥‥」 「うん、吉岡さんに愛の告白」 「か、一也さんっ!!」 事も無げな一也の言葉に、思わず吉岡の声が裏返る。 「なんだと‥‥‥?」 途端に壱哉の表情が険しくなる。 「い、壱哉様、これはですね‥‥‥」 しかし、一也は吉岡の膝の上に座り、首に腕をかけるようにして抱き付いて、ぴったりと身体を密着させる。 しかも、わざと壱哉に見せびらかすように吉岡に頬を擦り付けるようにする。 「今日から、吉岡さんは僕の。おにいちゃんにはあげないからね」 一也の視線が、子どもの無邪気な独占欲などではなく、紛れもなく自分と同じ感情を物語っている事を、壱哉は敏感に感じ取る。 「駄目だ!吉岡は俺のものだと、一也が生まれる前から決まっている」 「壱哉様‥‥(赤面)」 ちょっぴり‥‥いや、かなり嬉しくて、吉岡は頬を赤らめた。 それに気付いた一也が口を尖らせる。 「吉岡さん、やっぱり、僕より浮気性な壱哉おにいちゃんがいいの?」 「だ、だからそう言う話ではなくて‥‥」 「誰が浮気性だ!」 「壱哉様も、そんなに真面目に怒らないでください!」 一也と壱哉の間に挟まれている吉岡こそいい迷惑である。 「僕は吉岡さんひとすじだよ?おにいちゃんは、お父さんのほかに新おにいちゃんと花屋のおにいちゃんとも寝てるからいいでしょ」 一応『ただの友人』と言う事になっている新と樋口の事まで出て来て、しかも『寝てる』と言う爆弾発言に、さすがに壱哉は絶句した。 「壱哉様!だから、あまり一也さんの教育に悪い事はおやめくださいと申し上げたではありませんか!」 普通に考えれば理性的な吉岡の言葉が、今は壱哉の怒りに油を注いだ。 「なんだ、お前は一也の味方をするのか?」 「ですから、そう言う話ではなくてですね‥‥‥」 「そうだよ、だって吉岡さんは僕のものになるんだから」 「一也さんもこれ以上話をややこしくしないでください〜(涙)」 吉岡を挟んで、一也と壱哉は睨み合う。 「吉岡は、ずっと今まで俺の側にいたんだ。それを他人に渡せるか!」 「いつもは気にしてなくても、他人に取られると思うともったいないだけでしょ」 一也も、伊達に壱哉と長く付き合ってはいない。 激怒した壱哉に平然と言い返せる一也は、実にいい度胸をしている。 「とにかく!」 と、一也は吉岡の腕を片腕で抱き締めるようにして、ビシリと壱哉を指差した。 「吉岡さんは、壱哉おにいちゃんには渡さないからね!」 「いいだろう、受けて立ってやる!」 壱哉も、仁王立ちになって高々と言い放った。 一也と壱哉は、今にも火花が散りそうな雰囲気で睨み合った。 「吉岡!」 「吉岡さん!」 「は‥‥はい?」 同時に呼ばれ、吉岡は思わず逃げ腰になる。 「お前は俺のものなんだから忘れるな!」 「僕、ずーっと吉岡さんが好きだったんだからね!」 だから自分にどうしろと言うのだろう。 それは正に、吉岡と言う戦利品を巡っての、一大戦争の勃発であった―――。 |
‥‥‥終わらない(汗)。 |
わははははは。内容紹介でちゃんと「真面目に読んじゃダメ」って書いてありますからね。クレームは不可です。
なんか収拾がつかなくなって思いっきりぶっ千切ってありますが。一応、一也の設定年齢は小2か小3です。元々、子ども×大人って好きなんですよ。以前、別ジャンルで小5×25歳(推定)、のえっちぃ話を書いた事があるくらいですから。勿論、これ書きながら、小5の一也×吉岡なんてシーンを脳内妄想してたりしてました。まぁ、そんなこと考えてんのは私だけでしょうが(苦笑)。