大切な日


 その日、何故か壱哉は機嫌が悪かった。
 今日はある与党議員との会食と雑誌の取材が入っていたのだが、壱哉はとてつもなく不機嫌だった。
 献金の無心に来た議員と、ゴシップ専門の雑誌記者に愛想を振り撒く必要もないから良かったのだが。
 おかげで、議員の方は用件を切り出せずに終わり、記者の方は当たり障りのない話題しか口に出来なかった。
 それにしても、不機嫌の理由が判らなくて、吉岡は困惑した。
 そう言えば数日前から、今日は出掛けたいような事を言っていた。
 大した予定ではないのだが、今こなして置かないと後で壱哉のスケジュールが過密になってしまう。やむなく、何故か壱哉が予定を入れていなかった今日に組み入れたのだが。
 思い当たる心当たりと言えば、それしかなかった。
 しかし、壱哉がそこまで機嫌を損ねると言うのは、余程の用件だったのだろうか。
―――それならそうと、言ってくださればいいのに。
 用事があるからフリーにしろ、そう言ってくれれば無理に予定を入れたりはしなかったのだ。
 一応今日の予定は終わったから、吉岡は壱哉が仕事をしている部屋に入る。
 相変わらず仏頂面をしながらも、それでも壱哉はかなりの仕事を片付けていた。
「壱哉様、これで今日入っていた予定は終わりましたので、どこか出掛けられるならば出ていただいて構いません」
 吉岡の言葉に、壱哉の表情が目に見えて険しくなる。
「お前。本当に今日が何の日かわかってないのか」
「は‥‥?」
 それ以外で壱哉にとって重要な日などあったろうか?
 真面目に考え込む吉岡に、壱哉は深いため息をついた。
「‥‥今日は九月十八日、お前の誕生日だろう!」
「あ‥‥‥」
 吉岡は、言われて初めて思い出した。
 壱哉の誕生日には色々考える吉岡だが、自分の誕生日は全く頭になかったのだ。
「俺が黙っていれば、お前は遠慮なしに予定を入れてしまうし‥‥一体何のために、俺が今日の予定を開けていたと思うんだ?」
「‥‥‥‥」
 それはもしかして‥‥そう言う事なのだろうか。
「それをお前は、どんどん予定を入れてしまうし、俺が別の日に回せばまた別の予定を入れるし‥‥」
 壱哉の言葉は、どこか恨めしげだった。
「まったく、お前は鈍い奴だな!」
「‥‥‥あなたにだけは言われたくないのですが」
 少なくとも、吉岡が告白するまで彼の思いに全く気付かず、何人もの相手と身体を重ねていた壱哉にだけは言われたくない言葉だと思う。
「何か言ったか?」
 横目で睨まれ、吉岡はあらぬ方向を眺めた。
「いえ。何も言っておりません」
 何だかんだ言って、この主に勝てた試しはない。
 時折子供っぽい程我が儘な所も、そうかと思えば細やかに気遣ってくれる所も、全てが愛しいのだから。
「お前が一段落したら、夕飯でも食いに行こう。雰囲気のいい店があるんだ」
「あ‥‥はい、それではすぐに片付けます」
 降って湧いたような、しかし嬉しい壱哉の言葉に、吉岡は頷いた。


 洋食の食材などを懐石に取り入れたその店の料理は、口の肥えた吉岡や壱哉をも充分満足させるに足る味だった。
 久しぶりにゆっくりと食事を終えた二人は、満足して家に戻って来た。
 特に、軽く日本酒など入った壱哉は、昼間が嘘のように上機嫌だった。
 明日の朝食の用意など、軽く家事を済ませた吉岡は、壱哉の姿が見えない事に気付く。
「壱哉様?」
 探してみるが、見当たらない。
 最後に自分の部屋を見た吉岡は、唖然とした。
 シャワーを浴びた後らしい壱哉が、吉岡のベッドの上で毛布にくるまっていたのだ。
「あ‥‥あの、壱哉様?」
 うとうとしていたのか、壱哉は吉岡の声にゆっくりと目を開いた。
「あぁ吉岡。今日の仕事は終わったのか?」
 まるっきりくつろいだ様子の壱哉に、吉岡は呆れた。
「壱哉様‥‥寝る時はご自分のベッドになさってください。その‥‥そういう時は私の方が伺いますから‥‥」
 思いが通じ合ってから、数日置きに肌を合わせていたが、寝室は今まで通り、別々のままだった。
 壱哉は一緒が良かったようだが、吉岡が固辞したのだ。
 実際、壱哉が寝てから明日の用意をしたりして吉岡が遅く寝る事は多い。朝も、まだ寝ているうちに起き出して朝食の準備をしたりするのを思うと、その度に壱哉を起こしてしまいそうなのは憚られた。
 しかし、そんな吉岡の気遣いになど全く頓着しない壱哉は、時々子供のような我が儘を言うのだ。
 もっとも、そんな所も可愛いと思ってしまう辺り、我ながら呆れたものだった。
 それにしても。
 壱哉は本当に今日はここで寝るつもりなのだろうか?
「なにを突っ立っている。もう仕事は終わったんだろう?」
 と、寝返りを打った壱哉の白い肩から毛布が滑り落ちる。
 経験だけは豊富な壱哉は、意識しないでも扇情的な姿を見せてくれるのだ。
「壱哉様。裸で寝ると風邪をひきますよ」
 思わず飛びかけた理性を辛うじて引き戻し、そう言ったというのに。
「お前、そうやって赤くなると可愛いな」
 楽しそうに笑う壱哉に、吉岡は思わず目眩を感じて額に指を当てた。
 三十過ぎの男をつかまえて可愛いもないものだと思う。
 いつもそう言うのに、壱哉は楽しむように時々口にするのだ。
「私を困らせて楽しいですか?」
 思わず恨めしげな口調になると、壱哉は益々楽しげな表情になった。
「何かプレゼントと思ったんだがな。お前、何も欲しいと言わんから勝手に決めた」
 そう言えば、少し前に壱哉が、さりげない様子で欲しいものがないかと聞いて来た事があった気がする。
 別に執着するものがある訳でもなし、何もない、と答えた気がする。
「だからな。プレゼントは、俺だ。どうだ、嬉しいだろう?」
「は‥‥?」
 まるで悪戯っ子のような壱哉の言葉に、吉岡は一瞬頭の中が真っ白になる。
 しかし、固まっている吉岡に、壱哉は不満げな顔をした。
「なんだ。嬉しくないのか?それとも、リボンでも巻いていた方がよかったか」
 更に凄い事を言われ、一瞬その光景を想像した吉岡は目眩を感じてよろめいてしまった。
「いえ、その‥‥‥」
 こんな事を言われて、一体どう反応すればいいのだろう。
 自分の容姿を意識しているはずなのに、こんな子供じみた口調で凄い事を平然と言う壱哉には困ったものだった。 
 少し不満げに見上げてくる壱哉に、吉岡は思わず頭痛を感じて額に指を当ててしまった。
「別に、不満とか嬉しくないとか言うのではなくてですね‥‥‥」
 と言うより、むしろ。
「‥‥‥‥‥」
 本当にもう、どうしてこんなに子供っぽい顔をしてくれるのだろうか。
 こんな顔を見られるのは自分だけだと思うと、吉岡は身の内から湧き上がるような幸福を感じる。
「壱哉様‥‥‥」
 吉岡は、ベッドの傍らに跪くようにして、壱哉にそっと口付けた。
「ありがとうございます。嬉しいです」
 自分には、勿体ないほどのプレゼントだと思う。
 言葉ではとても表せない気持ちを伝えるように、吉岡はもう一度口付ける。
 すると、少し悪戯っぽい顔をした壱哉は、吉岡の首の後ろに腕を回した。
 物慣れた様子で舌を絡めてくる壱哉は、いつものように余裕たっぷりに見えた。
 口付け合いながら、壱哉は吉岡のネクタイを解き、ワイシャツをはだける。
 壱哉は、はだけられた吉岡の胸元に唇を寄せた。
「い、壱哉様!」
 吉岡は、思わず赤くなって身を離してしまった。
 こうして壱哉と肌を合わせるのは初めてではないが、何度されても、直接肌を愛撫されるのは慣れない。
「嫌か?」
 真っ直ぐ見上げられ、吉岡は赤くなる。
「い、いえ‥‥‥」
 嫌と言うより、壱哉に触れられるだけで情けない程昂ぶってしまうのだ。
 愛しい人に触れられているばかりか、巧みな愛撫を受けたりしたら、今すぐにでも達してしまいそうだった。
 ただでさえ、自分は年上で、こんな行為に慣れた壱哉が満足するようなテクニックもない。
 この上、自分の方が先に使い物にならなくなってしまったら情けないと思う。
「私が、しますから‥‥‥」
 そう言うと、壱哉は子供っぽい顔で笑った。
 既にその笑顔を見ただけで、頭がクラクラしてしまう。
 衣服を脱ぎ捨て、吉岡はベッドの上に乗り上げると、壱哉を見下ろした。
 白くしなやかな喉に惹かれるように、吉岡は壱哉の首筋に唇を寄せた。
 壱哉は耳の後ろが弱いのだと知っているけれど、それを教えてくれたのは壱哉のかつての愛人だった。
 そこを責められて甘い声を上げる壱哉を見ると、あの時の、勝ち誇ったような青年の顔が甦る。
 だから吉岡は、今はそこには触れていなかった。
 嫉妬‥‥なのだと言う自覚はあった。
 自分が、壱哉の仕事中やプライベートを誰よりも知っていると言う自負はある。
 けれど、少なくとも、かつての愛人達は、吉岡の知らない壱哉を知っている。
 壱哉を愛しいと思えば思う程、かつて吉岡の知らない時間を共有していた者達へ嫉妬めいた感情を感じてしまっていた。
 彼らより自分は年上だし、まともに誰かと肌を合わせるのは壱哉が初めてだ。
 誰よりも、何よりも愛しい壱哉を、本当に気持ちよくして、満足させたいと、いつも思う。
 しかし、ろくな経験もない自分を、壱哉は行為の相手としてどう見ているのだろう。
 壱哉を思う気持ちは誰にも負けない自信はあるけれど、それでも不安を感じてしまうのは、どこか自分にコンプレックスめいたものを抱えているからだろうか。
 ゆっくりと、滑らかな肌に唇を滑らせる。
 口付けるように、その全てを知り尽くそうとするかのように、吉岡は丹念に壱哉の身体に唇と舌を這わせる。
「‥‥っ、ん‥‥‥」
 快楽の為だろうか、壱哉が僅かに眉を寄せ、悩ましげに頭を振る。
 シーツを掴んで無意識に身を捩る壱哉の肌はうっすらと汗ばんで、やや紅を加えていた。
「‥‥は‥やく、来い‥‥‥」
 僅かに掠れた声は酷く煽情的で、吉岡の背中を痺れるような熱が這い上がる。
「はい‥‥」
 自分の声もまた、欲望に掠れているのが自覚出来た。
 軽く手を掛けると、しなやかな脚は待ちかねていたかのように開かれる。
 指を舐めて濡らし、そっと窄まりを探ると、壱哉の腰が誘うように揺れた。
 このまま、男の本能の赴くまま、がむしゃらに壱哉を突き上げたい衝動を辛うじて耐える。
 行為に慣れた壱哉は気にも留めないかも知れないが、それでも、大切な人には優しくしたかった。
 つい急いてしまいそうな気持ちを大きく息を吐いて落ち着かせ、吉岡はゆっくりと壱哉を慣らして行く。
「んっ、ふ‥‥」
 壱哉の身体が、痙攣するように震える。
 惜しげもなく大きく開かれている脚の間にある欲望は、とめどなく先走りを溢れさせていた。
 その姿は、酷く淫らで、どこか挑発的に見えた。
「壱哉様‥‥」
 自分でも情けない程上擦った声で呼ぶと、吉岡はもう、どうしようもない程張り詰めたものを解した場所に押し立てた。
 そのまま激しく突き上げたいのを我慢して、ゆっくりと腰を進める。
「あ‥‥‥」
 壱哉が、甘く呻いて頭を仰け反らせた。
 熱い体内がきつく締め付けて来て、吉岡はまだ途中なのに放ってしまいそうになるのを必死に堪えた。
 大きく息を吐いて快楽の波をやり過ごし、吉岡は根本まで壱哉の中に収める。
 滑らかな、しかし熱く絡み付いて来るような体内の感触を感じ、気の遠くなりそうな快感と幸せを感じる。
「お前‥の‥‥大きくて、熱い‥‥‥」
 囁くように言った壱哉は、更に吉岡を深く受け入れようとするかのように、手足を吉岡に絡ませた。
「壱哉様の中も‥‥熱いですよ‥‥‥」
 身じろぎするだけで、とてつもない快楽が背筋を駆け抜ける。
 触れた肌が熱くて、それが互いの熱を更に煽る。
「すいません‥‥壱哉様、もう‥‥‥」
「く‥‥俺も、だ‥‥っ」
 まだ動かないうち、吉岡と壱哉は抱き合うようにして同時に達した。
 何度か大きく息を吐いて呼吸を落ち着かせると、吉岡はゆっくりと動き始めた。
 吉岡にしがみついている壱哉が、熱い吐息を洩らす。
 上気して、甘い快楽に眉を寄せている壱哉の顔は、それだけで吉岡を煽った。
 壱哉の中を抉る自身のものに、また熱が集まるのを自覚しながら、吉岡は次第に大きく動き始めた―――。


 翌朝、吉岡は明るくなって間もなく目を覚ました。
 昨夜は疲れ切る程貪り合って、何とかシャワーを浴びてから、二人は抱き合うようにして眠りに就いた。
 と言うか、壱哉が吉岡に抱きついたままの体勢で眠ってしまったのだ。
 壱哉を起こさないように気を付けながら、吉岡は起き出した。
 いつものように朝食の用意をして、いつものように壱哉を起こしに行く。
 ただし今日は、壱哉の部屋にではなく自分の部屋に、だ。
 ドアを開けると、壱哉が枕を抱えるようにして眠っているのが目に入る。
 そんな風にしていると、壱哉はまだ子どものように見えて。
 微笑ましさと、愛しさと、言いようのない幸福感で、胸の中が熱くなる。
 けれど、幸福を感じれば感じる程、時折、心の中に小さな不安が忍び込む。
 『愛している』と言った吉岡の言葉に、壱哉はこうして答えてくれた。こうして、仕事ばかりかプライベートでも壱哉の側にいられるだけで、吉岡は言葉では言い表せないくらい満たされていた。
 けれど、自分が、壱哉に何か返す事が出来ているのだろうか。そんな事を思う時がある。
 仕事の上では自分以外に壱哉の秘書を務められる者はいないと思うけれど、本当の意味で、果たして自分は壱哉を支えているのかどうか、自信がなかった。
 絶対に届かないと、そう諦めていたものが、思いもかけず手に入った。
 今があまりにも幸せすぎるから、かえって不安を覚えてしまうのかもしれない。
「‥‥‥ほら。また、そんな顔をする」
 壱哉の声に、吉岡は我に返った。
「い、壱哉様‥‥起きてらしたんですか」
「お前が入って来て目が覚めた。キスでもして起こしてくれるのかと思って待ってたんだ」
「ご冗談を‥‥‥」
 真顔で言う壱哉に、吉岡は思わず赤面してしまった。
「起きられたなら、早くおいでください。朝食の時間ですよ」
「待て、吉岡」
 出て行こうとする吉岡を、壱哉が呼び止めた。
「ずっと気になっていたんだ。お前、俺を抱いてる時も、時々そうやって不安そうな顔をするな。一体、何がそんなに不安なんだ?」
 まともに訊かれ、吉岡は言葉を飲んだ。
 自分の表情はいつも変わっていないと思っていたのに、表に出てしまっていたのだろうか。
 逃げるように目を伏せたものの、壱哉の視線が真っ直ぐ向けられているのを感じる。
 しばし、沈黙が落ちた。
 ここで答えなければ一歩も退かない様子の壱哉に、吉岡は根負けした。
「‥‥その‥‥‥別に、どうと言う事はないんです」
 どう言うべきか、頭の中で言葉を捜しながら、吉岡は重い口を開いた。
「壱哉様は‥‥色々と、経験もしておられますし‥‥その、私は仕事以外の事はあまり得意ではありませんし‥‥‥」
 吉岡にしては珍しく、歯切れの悪い言葉を躊躇いがちに口にしている。
「いえ、壱哉様がどうと言うのではなくて‥‥私が、あまり役に立てない事を勝手に気にしているだけで‥‥‥」
 驚いたような顔で吉岡を見上げていた壱哉の表情が、徐々に呆れたような、少し怒ったようなものに変わって行く。
「えぇと、その‥‥‥」
 どう言えばいいのか、ただでさえおぼろげだったわだかまりが上手く言葉に出来なくて、吉岡は口篭もる。
 そんな吉岡に、壱哉はため息をついた。
 おそらくは吉岡自身にもはっきりと判っていない気持ちの引っかかりが、壱哉には何となく判ってしまった。
 壱哉も、伊達に吉岡と長く暮らしている訳ではないのだ。
「まったくお前は‥‥‥本当に鈍い奴だな!」
 壱哉は、吉岡の腕に手を掛けて、強く引き寄せる。
「え‥‥あっ‥‥!」
 不意打ちだった為にバランスを崩し、吉岡は壱哉の上に覆い被さるような体勢になる。
 至近距離に迫った壱哉の顔に、吉岡はたじろいだ。
「お前がいるだけで、俺は安心していられる。お前とこうしているだけで、俺は身も心も満たされるんだ」
 真っ直ぐ見上げて来る、吸い込まれそうな漆黒の瞳から目が離せなかった。
「確かに、俺は今までいろんな奴と寝た事があるし、結構上手い奴だっていた。だが、お前は別格だ。お前に触れられるだけで、俺はどんな事をされるより気持ちいい。もっと欲しくて、勝手に身体が熱くなって来る。そんな事もわからなかったのか?」
「い、壱哉様‥‥」
 あからさまな言葉に、吉岡は赤面した。
「本当に、お前は‥‥‥」
 小さくため息をついた壱哉は、何を思ったのか、下から手を伸ばし、吉岡のネクタイをするりと解いてしまう。
「は?!」
 唖然としている吉岡の、ワイシャツの襟をはだけ、白い鎖骨に唇を寄せた。
「ちょっ、壱哉様!朝から、こんな‥‥‥」
「昨日、誕生日を忘れていたのと、妙な心配をしていた罰だ。今日は一日、休んで俺の相手をしろ」
「そんな、無理‥‥‥」
 最後まで言う前に、唇を塞がれて言葉を奪われる。
「お前のおかげで、こんなになってるんだからな。責任を取れ」
 片手が下に導かれ、朝勃ちと呼ぶにはあまりにも熱く張り詰めてしまったものに触れさせられる。
「あ‥‥‥」
 耳まで赤くなる吉岡が妙に可愛く見えてしまって、壱哉は笑った。
 壱哉はそのまま、吉岡のシャツを大きく開くと、白い胸肌を跡が付く程強く吸い上げる。
「ま、まだ朝食の準備が‥‥‥」
「別に火を点けたままじゃないんだろう」
「はい、それは‥‥ではなくて!」
 頷いたら流されてしまいそうで、慌てて吉岡は身を起こしたのだが。
「これをどうにかしないと、俺は起きられないぞ?」
「う‥‥‥」
 既に壱哉の頬はうっすらと赤らみ、目元も熱に潤んでいる。
 こんな顔を見せられては、吉岡も平然としていられる訳がない。
「壱哉様‥‥‥」
 本当にこの人は、時々呆れる程我が儘で子どもっぽくて。
 けれど、そんな事を言われるのも自分だけなのだと思うと、全身が熱くなる。
「あなたを、愛しています‥‥‥」
 吉岡は、そっと壱哉に口付けた。
 小さく笑った壱哉が、首の後ろに腕を回して引き寄せてくる。
 『俺もだ』、耳元に、甘い声がそう囁いた気がした。

END

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まぁ、秘書祭りなので一度くらいは攻め秘書を書いてみようと思ったんですが。‥‥‥なんでこう、他所様のように大人で格好良く書けないんだろう‥‥‥(泣)。ゲームをプレイしていた時は、「秘書EDは絶対秘書が攻めじゃないと嫌だっっ!」と思っていたはずなのに。
どうも私は、壱哉様より優位に立っている人間は書けないらしいです。医師とか西條氏ならともかく、肉体関係の対象になる相手は壱哉様が偉そうに振り回す側でないとダメらしい。壱哉様の誕生日の時もその日を忘れていたネタは書いたのですが、先日、自分もすっかり忘れてました(何歳になったかは突っ込まないよーに)。