西條家の中で、長兄に次いで朝が早いのは末っ子だった。
 特に今日は、啓一郎と幸雄が仕事などの関係で留守だったから、家事一切を切り盛りするのは新の役目になる。
 今日は休日だったが、新は朝早く起きて朝食の準備を済ませ、兄達を起こしにかかる。
「崇兄、さっさと起きろよなー」
 趣味(とは到底思えない域まで来ているが)の薔薇の出荷や手入れの時は夜明け頃から起き出している崇文だが、普段はそれ程早起きな訳ではない。
「ん〜‥‥あー‥‥‥」
 寝ぼけているのか、くぐもった声が返って来る。
「早く起きてくれよ、片付かないだろ?」
 カーテンを開け、朝の光を部屋に入れる。
「んー‥‥‥」
 もぞもぞと起き上がる気配に振り返った新が、固まった。
 布団に埋もれるようにして崇文のベッドに座り込んでいるのは、小学生程度の子どもだった。
 しかも、だぶだぶのシャツに埋もれるようにしている。
「あー、あらた。おはよ〜‥‥」
 眠そうに目を擦りながら、その子どもが寝ぼけた声を上げた。
「ま‥‥まさか、たかにい‥‥‥?」
「へ‥?なんでいまさら‥‥‥」
 怪訝そうに新を見上げた子ども――崇文は、ようやく自分の異常に気付いたらしい。
「は?なんか体が小さい‥‥なに、なんでおれ、こんなにちっちゃくなってるんだ?!」
 今頃じたばたし始めた崇文を、新は呆然と眺めていた。


「崇文の奴、まさか隠し子がいたとはな‥‥‥」
「だれがかくし子だっっ!」
「人のよさそうな顔をして、実は女に手をつけていたとは‥‥人間、見掛けじゃわからんものだな‥‥‥」
 わざとらしく深刻な顔で頭を振って見せる壱哉に、崇文は腕を振り上げて怒った。
「だーかーらー!おれが崇文だっていってんだろ!!」
「わかってる。お前にそんな甲斐性がある訳がない」
「〜〜〜〜〜!!」
 いきなり子どもになってしまった弟に対して、普通こんな言葉を掛けるものだろうか?
 あの晴彦でさえ、少し面白そうにしていながらも、からかったりはしなかったのに。
 新の小さい頃の服を引っ張り出して着ている崇文は、本当に小学校低学年程度になってしまっていた。
 中学まではちびであどけない顔立ちをしていた崇文は、こうして子どもになってしまうと実に可愛らしい。
 何故か晴彦が見付け出して来たのは半袖のシャツと半ズボンで、成長し切っていない手足がほっそりとしていて、育ってからのゴツさが信じられないような姿である。
「お前、変なものを拾い食いしてないだろうな?」
「人を動物みたいにいうな!」
 憤然と頬を膨らませる様子は実に愛らしくて、何故か壱哉と晴彦は目を逸らしてしまったりする。
「ゆうべ、食事はみんなで食べたよな。その後、何か変わった事はなかったか?」
 問われ、崇文は可愛い手を小さな顎に当てて考え込む。
「まぁ、壱哉。そう言う細かい事は置いといてだな、まずどうすれば崇文を‥‥」
 言いかけた晴彦の言葉を、崇文が遮った。
「あ‥‥そう言えば、夜、バラをちょっと手入れしてたら、はるにいがコーヒーと夜食さしいれてくれた」
「‥‥‥‥‥‥」
 壱哉と新の視線を向けられた晴彦が、さりげなく目を逸らす。
「やっぱり貴様かーっ!!!」
 壱哉が眉を吊り上げて晴彦を睨み付ける。
「あー、俺、ちょっと用事思い出した‥‥‥」
 そそくさと逃げようとした晴彦に、壱哉は無言で足払いを掛けた。
「ってえ、なにしやがる!‥‥‥ぐぇ」
 起き上がりかけた晴彦を、壱哉が後ろからがっちり関節技で固めた。
 こう見えても、壱哉は喧嘩は強い。
 元々スポーツ万能だったせいか、壱哉は何でもそつなくこなしてしまう。
 しかも、高校時代には不良に絡まれ、卒業してからは留学時代も含め、チンピラなどに絡まれて嫌でも実戦経験を積んでしまった。
 スポーツは平均をちょっと上回る程度なものの、基本的に腕力のない晴彦は、肉弾戦になったら壱哉には敵わないのだ。
「いつもなら真っ先に崇文をからかうお前がおとなしいのはおかしいと思ったんだ。お前が一服盛ったんだな?」
 壱哉はそれ程力を入れていないのだが、致命的に柔軟性のない晴彦は激痛のあまり手足をばたばたさせる。
「いっ、いてえって!別に毒って訳じゃねえし、ちょっとの間だけ若返る薬なんだ、大した事ねえだろ!」
「いなおるなー!」
 ‥‥‥そんなこんなの大騒ぎの後、ようやく壱哉から開放された晴彦は、とても痛そうに、ぎしぎし言う関節を擦る。
「研究室で、実験中に偶然、変な薬ができてな。一時的だが、肉体年齢を退行させられる薬だってわかったから、ちょっといたずらに使ってみたんだよ」
「いたずらって‥‥‥」
 まんまと実験台にされた崇文は絶句している。
「それって、危ない薬じゃないのかよ?」
 一番理性的な新が、実にまともな事を言う。
「あぁ、動物実験ならしたぞ。犬が無事だったから崇文は大丈夫だろう」
「‥‥‥‥‥‥」
 自分は、犬並みなのだろうか。
 思わず考え込んでしまう崇文である。
「で、解毒薬か何かはないのか?」
「それがなー‥‥‥」
 と、晴彦は、大仰な仕草で顎に手を当て、ため息をついて見せる。
「なにしろ、偶然できた薬だからな。中和剤を作ろうにも、元の薬の方が二度とできないんだ」
「つまり、元に戻す方法はない、と?」
 壱哉が、剣呑な表情で手を握ったり開いたりする。
 さっきの痛みを思い出したのか、晴彦は思い切り顔をしかめた。
「人の話は最後まで聞けよ!‥‥成分は普通に分解されちまうから、しばらくしたら元に戻るはずなんだ。本当は、もう効き目が切れてもいいんだが、体が大きい分、薬を余計に使ったしな。もうしばらくはそのまんまかも知れねえな」
「‥‥‥‥‥‥」
 このままでしばらくいなければならない、と聞いて、崇文は目眩を感じてしまった。
「まぁ幸い、大きい兄貴達は留守だし。体に悪影響がないなら、仕方ねえかな」
「二度と戻らん訳でもないようだからな。しばらくおとなしくしている事だ」
 早くも納得してしまった新と壱哉に、崇文は泣きたくなる。
「そんな顔すんな。何とか、早く戻れる方法、見つけてやるからよ」
「はるにい‥‥‥」
 唯一、優しい言葉に、崇文は涙ぐみそうになる。
 そもそもの原因を作ったのが晴彦である事をすっぱり忘れているような崇文を、壱哉と新は呆れて眺めていた。


 その後、晴彦は崇文を元に戻す方法を見付ける、と部屋に籠もってしまった。
 壱哉の方は、何か用事があるとかで早々と出掛けてしまった。
 この体では何をする事も出来ず、崇文は仕方なく新が家事をこなして行くのを眺めていた。
「崇兄。これから買い物行くんだけど、一緒に行くか?」
「え‥‥でも‥‥‥」
「どうせ晴兄はああなったら出て来ねえし。なんか、うまいもんでも食おうぜ」
「うん‥‥‥」
 多分新は、こんな事になってしまった崇文に気を遣ってくれているのだろう。
 やっぱり、これが兄弟なんだ。
 崇文は、嬉しさに胸を熱くしながら頷いた。
 ―――――――――
 こうして小さくなって外に出ると、全てのものが大きく感じられた。
 商店街まで行く途中、近所の噂好きのおばちゃんにつかまったりしたのだが、親戚の子ども、と言い逃れた。
 それをどう思ったのか、おばちゃんは意味ありげに頷いていたが、西條貴之が悪く言われる分には全く心は痛まないので放って置く。
 人が多くなると、新ははぐれないように崇文の手をしっかりと握っていた。
 ちょっと照れくさかったりしたのだが、この体ではぐれては困るので崇文も新にしがみ付いていた。
 軽い買い物を済ませ、昼になってファミレスに入った新が崇文に注文したのは、勿論お子様ランチだった。
「え、おれ、これじゃたりない‥‥‥」
「その時には、俺の分けてやるからさ」
 にこにこ、と新が自分のランチを示す。
「あらた‥‥なんか、たのしそうなんだけど?」
「そうか?気のせいじゃねえの?」
 にこにこにこ。
「‥‥‥‥‥‥」
 それ以上追求するのを諦めて、崇文はお子様ランチに取り掛かる。
 子どもに戻ると体の機能まで未熟になってしまうのか、スプーンなどもいつものようにうまく使えない。
 本当に子どものように四苦八苦して食べていると、新がじっと見ている視線を感じる。
 そういえば、昔、新が小学校の頃、学校の作文で『弟が欲しい』と書いていたのを思い出す。
 もしかすると、新が上機嫌なのは‥‥‥。
「ほら。くっつけてるぜ?」
 と、新が崇文のほっぺたにくっついたご飯粒を指で取る。
「こんなとこまで汚して‥‥ほら、拭いてやるからじっとしてろよ」
 新は、実に甲斐甲斐しく崇文の世話を焼いてくれる。
 その様子は、本当に楽しそうだった。
 新がいつになく優しくて世話を焼いてくれるのは、やっぱり‥‥そう言う事なのだろうか。
 構ってもらえるのは嬉しいのだが、ちょっぴり複雑な崇文であった。
 ほぼ一日、妙に嬉しそうな新にデパートだ公園だと連れ回され、崇文が家に帰ったのは太陽が傾いた頃だった。
 どうやら壱哉は、まだ帰って来ていないらしい。
「あぁ崇文。ちょっと部屋に来い」
 部屋から顔を出した晴彦が、崇文を招いた。
「じゃ、俺は夕食の支度してるから」
 と、新はキッチンに消える。
 ドアを閉めた晴彦は、酷く真剣な顔で崇文を見詰めた。
「断言はできねえんだがな‥‥今すぐ、元に戻るかもしれねえ方法、試してみるか?」
 真剣な表情に、崇文は気圧されるものを感じながら、頷いた。
「じゃあな‥‥まず、ここに座れ」
「え‥‥‥」
 示されたのがベッドを椅子代わりにした晴彦の膝の上で、崇文は戸惑う。
「なんだ、元に戻りたくねえのか?」
「う、うん‥‥‥」
 そう言われると、崇文としても嫌とは言えない。
「じれってぇなあ。ほらっ!」
「う、うわ‥‥‥」
 軽々と体を持ち上げられ、崇文は晴彦の膝の上に、背中を向けた状態で座らせられる。
「あの薬はな、成長ホルモンや男性ホルモンに働きかけてバランスを変化させる事によって、一時的に体の年齢をコントロールするものなんだ」
「うん‥‥‥」
 相槌を打ったものの、崇文には良く判らない話だった。
「つまり、だ」
「え?うわ‥‥!」
 突然晴彦の手がシャツの中に滑り込んで来て、崇文は思わず声を上げた。
「なっ、く、くすぐったいよ!」
 大きな手が胸肌を這い、崇文は身をよじらせた。
「性的興奮でホルモン系を刺激してやれば、バランスが正常に戻って、体が早く元に戻るかも知れねえんだ」
「‥‥せ‥‥せーてき‥‥‥」
 意味の判った崇文は、耳まで真っ赤になった。
「わかったろ?‥‥だったら、おとなしくしてな」
「で、でも、だって‥‥‥」
 予想外の展開に、崇文はついて行けない。
「ちょ、そんな、さわんないで‥‥!」
 唐突に、ぞくりとしたものが背筋を突き上げた。
 何となく、これは凄くまずい気がする。
 今になってじたばたと暴れ始めた崇文だが、大人の晴彦に後ろからがっちりと掴まれてしまっているから逃げられない。
「こら、暴れるな!早く元に戻りてえんだろ?」
「そりゃそうだけど‥‥‥」
 崇文が泣きそうな声を上げた時。
 すこーん、と、実にいい音を立てて晴彦の後頭部に何かが命中した。
「〜〜〜〜!!」
 余程痛かったのか、晴彦は言葉もなく頭を抱えて蹲る。
「‥‥お前、そんな趣味まであったのか」
 呆れたような表情で、部屋の入り口に立っていたのは壱哉だった。
「いちや‥‥!」
 崇文が嬉しそうな声を上げた。
「一体、何だ、その格好は?」
「あ‥‥そ、その、早く元にもどれる方法があるって‥‥‥」
 真っ赤になって、崇文は目を伏せてしまう。
「丸一日も経てば元に戻ると聞いたぞ」
「壱哉、お前それ、誰から聞いた?」
 晴彦が、崇文を抱き締めたまま壱哉を見上げる。
「お前の所の助手に決まってるだろう」
「ちっ、あいつら全員躾け直しだな‥‥‥」
 晴彦が、ちょっと不穏な表情で呟く。
「お前は色々教え込んだら飽きて放り出すから、連中が焦れるんだろう。‥‥まぁ、俺はその分、美味しい思いができるからいいがな」
「‥‥‥‥‥‥」
 晴彦は一言もないのか、憮然とした表情で壱哉を睨む。
 元々目つきが悪い晴彦の視線は結構怖いのだが、壱哉は全く動じない。
「お前が崇文を部屋に連れ込んだと聞いたから、まさかと思って来てみれば‥‥お前、いつからショタ好みになったんだ?」
「うるせえな!体はこれでも、中身は崇文だろ?覚えさせといて損はねえ‥‥‥」
 言いかけた晴彦の手が、ふと、投げつけられたものに触れた。
 見てみると、それは蓋付きの小さなガラス瓶だった。 
「おい‥‥これ、まさか‥‥‥」
 晴彦の言葉に、壱哉は気障な仕草で肩を竦めて見せた。
「お前、いつもながら本当に詰めが甘いな。崇文に使った薬、キッチンの棚に置きっ放しにしていたろう。さっき、新が見つけて思いっ切り捨てていたぞ」
「ぐあぁぁっ、もったいねえっ!!」
 大ダメージを受けてしまったのか、晴彦はベッドに突っ伏してしまった。
「くうぅぅ、崇文が大丈夫なら兄貴達にも使ってやろうと思ってたのによ‥‥‥」
 晴彦の呻きに、壱哉は呆れた顔になる。
「子どもになったからって、幸雄兄さんがパワーダウンすると思うのか?」
「そんな事はわかってる。だが壱哉、お前だって、子どもの啓一郎兄貴、見たくねえか?」
「‥‥‥‥‥‥」
 思わず想像してしまったのか、壱哉は黙り込む。
「‥‥‥確かにそれは、もったいない事をしたな」
「だろ?失敗したぜ‥‥‥」
「‥‥‥あの‥‥‥」
 ため息をつく二人に、崇文はおずおずと声を掛けた。
 取り敢えず、この場から逃げ出したいなー、と思ったのだが、馬鹿正直に断りを入れる辺りが崇文である。
 が、壱哉は、シャツを大きくたくし上げられた崇文を見て目を細めた。
「ふむ。‥‥まぁ、薬の開発者が言うなら、間違いはないかもな」
「は?!」
 壱哉の怪しい視線に、崇文は逃げ腰になる。
「ふふん。そうだろ?」
 にまぁ、と笑った晴彦は、しっかりと崇文の上半身を捕まえる。
 普段はあまり仲が良くないくせに、この辺りの呼吸はぴったりである。
「お前も、この頃はちびで可愛かったのになぁ。高校になったら、体ばかり大きくなってきて‥‥」
 ぶつぶつ言いながら、壱哉は崇文の半ズボンに手を掛ける。
「え?!ちょっ、なに‥‥!」
 崇文が抵抗する間もあればこそ、壱哉は半ズボンを下着ごと引き下ろしてしまう。
「ふーん。ちゃんと子どもになってるのか」
 まだ未熟なものをまじまじと見詰められ、崇文は恥ずかしさのあまり真っ赤になって身を捩る。
「ばかっ、そんなに見るなよっっ!」
 必死に暴れて逃げようとするが、ちびの小学生と大の大人二人では勝負にならない。
 暴れる小さな足を押さえ込み、壱哉は、むき出しになった小さくて未熟なものに触れた。
「ぅわ、そんなとこ、さわるなよっ!」
 男として一番弱くて恥ずかしい所に触れられ、崇文は悲鳴を上げた。
「ちゃんと刺激しておかないと、元に戻った時にこのままかもしれないぞ?」
「そ、そんな‥‥‥」
 大真面目に言われ、崇文は半泣きになる。
「そーそー。いいから、おとなしく俺達に任せてみな?」
 ニヤけた顔で、晴彦が耳元に囁く。
「やっ‥‥やだってば‥‥‥!」
 泣き声を上げる崇文はとても可愛くて、壱哉と晴彦は思わず本気になってしまう。
 と、その時。
「兄貴達、何やってんだよ!」
 怒りの声と共に、鈍い音が二つ、響いた。
 後頭部をまともに殴られ、壱哉と晴彦は仲良くベッドにぶっ倒れる。
「あ‥あらた‥‥‥」
 ちょっと凹みが出来たフライパンを片手に、怒りの表情で立っていたのは新だった。
「壱兄まで部屋に入って出て来ないから、おかしいと思えば‥‥まったく、子ども相手に何やってんだよ!」
 新は本気で怒っているが、当の二人は気絶しているから全く聞こえていない。
「大丈夫だった?崇兄‥‥‥」
 優しい言葉に、崇文は半脱ぎのまま、新の腕に縋り付いた。
「あらた‥‥‥」
 安心した為か、崇文は新に縋り付いたまま、その場にへたり込んでしまう。
「まったく兄貴達も、崇兄がこんな時なんだから、ふざけてる場合じゃねえのに‥‥‥」
 ため息をついた新は、崇文の頭を優しく撫でた。
「あっちで、なんか甘いものでも食うか?晩飯までは、まだ時間があるから」
「うん‥‥‥」
 いつになく優しい新に、鼻の奥が熱くなる。
 本当に小さな子どものように、こっくりと頷いた崇文は、新に手を引かれて立ち上がった。


 翌朝。
「やった!見てくれよ、元に戻ってる!!」
 寝巻き姿のままでリビングに飛び込んで来た崇文は、本当に元の姿に戻っていた。
 しかし。
「ほう‥‥‥」
「ふーん。よかったね」
 珍しく早く起きていた壱哉は勿論、新も実にそっけない。
 元に戻ったのを喜んでくれるどころか、壱哉も新もどことなく残念そうに見えた。
―――お‥‥俺って、もしかして元に戻んない方が良かったのか‥‥‥?
 あまりにも冷たい反応に、真っ白になってしまった崇文である。
 と。
 ばたばたとけたたましい音を立てて飛び込んで来たのは、昨日の崇文よりも更に小さい子どもだった。
「いちや、てめぇ、やりやがったな!!」
 声は可愛いが、その口の悪さには聞き覚えがある。
「ほう?お前の所の助手が、少しだけ持っていた残りをもらったんだが、本当に良く効く薬だな」
 壱哉は、しれっとした顔で言う。
「って事は‥‥‥」
「晴兄?!」
 いつもからは全く想像が出来ない程可愛らしい子どもになってしまった晴彦に、崇文も新も唖然とする。
「まぁ、効果は二十四時間程度だからな。俺が責任持って面倒見てやるよ、『晴彦兄さん』?」
 壱哉は、実に楽しそうな笑みを浮かべた―――。


おわる。

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