ある世界の出来事



 俺は誇り高き空の戦士。
今日も最愛の妻の為に、山の方に狩りに出かけた。
風は俺をいつもより速く飛ばせた。
そして翼に当たる風がとても気持ち良かった。
今日は遠くの方に雲が見えるだけで、あとは全てが見渡せる。
最高の狩り日和である。
俺はいつも通り、人の踏み入らない山の裏側へ廻った。
今日は小鳥や小動物は見当たらなかった。
いつもこの場所この時間に狩りをしていたので、来ることが分かっていたのだろう。
「今度から場所を変えよう」
しばらく同じ場所を旋回していると、木陰からリスが走って行くのが見えた。
絶好のカモ、いやリスである。
「今日の飯はリスか、まあまあだな」
目標を定めるとリスの前方に行き、鋭い爪をリスに向けた。
わざとリスの見える位置、言い換えるなら避けられる位置から進入していった。
むろん、当てるつもりはない。
まずは、宣戦布告をするのが俺流の狩りの仕方なのである。
案の定、一撃目はリスが横に飛んで避けた。
リスは走りながら時々、方向転換や横に飛んだりした。
巧みに俺の爪から逃れている。
だがそれも、もう限界である。
リスの動きが鈍ってきたのである。
俺は次の一撃で決めるつもりだ。
リスと同じコースに入り、後ろから猛スピードでリスの所まで行った。
俺はその時確信した。
捕らえたと・・・・・・。

全てが光に包まれた。
俺は地面に激突し、飛べずに土の上を這いずり廻った。
大地が揺れていた。
そして俺は気づいた。
目の前にある黒い物がリスであると。
燃えて黒くなっているが、確かにリスの形をしていた。
それに俺の勘がそう言っていた。
森は炎の海と化して、動物たちは逃げ惑っている。
だが、その動物達は必ずしも正常と呼べる動物ではなかった。
どこかしら火傷をしていたり、飛んできた木の破片が体に突き刺さっていたりした。
やがて動物達は、森の中央に位置する泉に集まりだした。
だが、俺にはそんな事はどうでもいい事だった。
大地が揺れていたのも収まりだしたので、俺は早速空へ羽ばたいた。
森全体が燃えていた。
そして妻のいる、人間の住む街は瓦礫と化して、どこもかしこも火の手が上がっていた。
俺は急いだ。
妻の居る、三個の息子達の居る巣へと・・・・・・。
巣のある木は遠目で見ても分かった。
倒れている。
俺はもっとスピードを上げた。
今まで生きてきて、これほどのスピードを出したことがない。
だが俺には時間が止まったようで、一向に前へ進んでいるようには思えない。
俺は焦っていた。
俺はやっとの思いで巣のあった位置に帰って来て、そして見た・・・・・・。
妻は木の下敷きとなり息絶え、息子達二個は巣の中で割れていた。
残された一個は割れてはいなかったが、卵の片側が黒く変色してしまっている。
俺は思わず恐くなり、空へと逃げ出してしまった。
上へ、上へと。
空は曇り始めていた。
雨になるのだろう、だが今の俺にはそんな事は関係なかった。
ただただ上へと。
そして眼下は、真黒な雲で一杯になっていった。
俺はしばらく無我夢中に飛び廻った。
どこをどう飛んだのかはさだかではない。
しばらくして落ち着いてきた俺は、
あの一個の半黒卵を置いてきてしまったことを後悔し始めた。
眼下の雲を抜けると巣のある所へと一直線に戻った。
そして、俺は足で卵をつかむとここを離れた。

俺は山の岩ばかりの所に巣を作り、そこに半黒卵を置いた。
俺は全てを知った。
もう人間は生きてはいない。
ここに来るまでに、何個もの人間の町を見て来たが、
どれも人間は住んでいなかった。
全てが終わったのである。
すべてが・・・・・・。
だんだん俺も意識が朦朧としてきている。
ここに飛んでくる間に俺は雨に濡れ、そして俺の羽は少しずつ抜けていった。
俺はたぶんすぐに死ぬのだろう。
だが俺は本当は死んではいけないのだ。
俺の息子が自分の力で飯を獲れるようになる日までは、
俺が息子の面倒を見なければならないからだ。
しかし、それはかなわぬこと。
そしてこの最悪の運命の中で俺は思った。
せめて息子の顔を見たかったと。
崖に吹き付ける風は冷たく、俺の体をだんだんと冷やしていった。

こうして世界は刻々と破滅へと向かっていった。


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