雰囲気のある風景 1



その男は駅の改札口前に立っていた。
チラリと時計を見ると左右に首を振って辺りを見回した。
どうやら人を待っているらしい。
男はコートからタバコを取り出し、ケースから一本出した。
タバコをコートに戻すと、その手にジッポを掴んで取り出した。
カチッ
誰もいない夜の改札口にジッポの開く音が響いた。
ジッ、ジッ、ボボッ・・・・・・
火のついたジッポをタバコに近づける。
タバコの煙を一度大きく吸い込むと一気に吐き出した。
カチンッ
コッコッコッ・・・・・・
フタを閉める音と共に足音が聞こえてきた。
男は足音のする方に視線をやる。
四十代くらいの背の低い男が階段を上がってきていた。
男は興味なさそうに視線を元に戻した。
小男は男の前を通って反対側の階段を下りていった。
男のコートが風に揺れていた。
ぼんやりとタバコの火に目をやりながら待ち人を待っていた。
男はタバコを下に捨てると踏みつけて火を消した。
チラッと時計に目をやった。
コートに手を入れてタバコを取り出した。
ケースから一本出そうとして男の指が止まった。
コッコッコッ・・・・・・
さっき小男が去った方から聞こえてきた。
二十代前半ぐらいの美女である。
男はタバコをしまうと片手を挙げた。
美女もそれに答えるように手を振った。
二人は並ぶと一緒に歩き出した。
駅の改札口には冷たい風と捨てられたタバコだけが残った。

作者からの一言
さて私は故意に男女の情報を少なくしました。
一人はコートを着てタバコを吸う男性、もう一人は二十代前半ぐらいの美女。
では何故そうしたのでしょう?
それは読者に想像力を使って自分だけの物にして欲しかったからです。
人は一人一人どこかが必ず違っています。
それは先天的なものや趣味や性格によるものからです。
人はそれぞれ異なった過去を持っているからです。
あなたの心には二人の男女がどのように映りましたか?





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