第5回矢沢宰賞の審査を終えて      審査員 月岡 一治

高田市(現上越市)出身。月岡内科医院院長。第6回新潟日報文学賞、第10、11回国民文化祭会長賞ほか受賞。出版物に、詩集「少年−父と子のうた」、「夏のうた」(東京花神社)がある。

 今回も、全国各地からたくさんの詩が送られてきました。私はその1900編近い詩を読んで、いいなあと思う作品をえらびました。入選された皆様には、心から拍手をおくります。今回は入選されなかった皆さんも、感動する心といつまでも友達でいて下さい。

 いつものことですが、慢性疾患などで体に障害を持っている児童の作品にすぐれた作品が多くみられます。病気という、見えない相手にひとりで立ち向かうには、勇気とか決心、友だちや両親とのつながりなど、やはり目には見えないものの力をとても必要とするのです。その子どもたちがみせるやさしさやほほえみに、周囲のものの心はいやされます。見守るおとなも、同じ病気の子どもたちもです。

 また、みずみずしい感性は小学校低学年の時に頂点に達しているようで、そのあとは普通の言葉を話す、普通の気持ちの子どもになっていくようです。普通とは、他人とかわらない、他人と同じという意味です。

 さて、矢沢宰賞も5年目を迎えました。今回も詩の清書、とりまとめと郵送、到着後の整理と小冊子作りなどに、おとな達はたくさんの時間を使いました。障害があって字が書けない子、自分の気持ちを、知っているわずかな言葉で書いて、おずおずと差し出す子、どうしてわたしたちおとなはこの子たちを放っておくことができるでしょう。いつまでも応援したいと思います。

それでは一緒に、子どもたちの詩の世界とこころの中を歩いていきましょう。

 

○ 最優秀賞

お日さまの1日            (詩に戻る)

“お日さま” が自分のことを“ぼく”と言っています。でも詩を読むと“ぼく” は夏希さんのことだとわかります。朝、目をさましたあなたのキゲンしだいで、まわりの人たちの一日がよくも悪くもなる、それを知っているからいつもキゲンよくいたいのだけど…。だから悲しい時は、かくれて泣いているんだ、とあなたは言います。おとなになりましたね。そしてその気持ちをさりげなく”お日さま“ に話してもらいました。あなたが自由に歩けないから、あなたがお日さまになって世界中を見ているのではないと思います。まわりを気づかってあまり無理をしないでいいよ、という気持ちで、私はこの「夏希の一日」を読みました。

 

○ 奨励賞

かなしいたまごうみ          (詩に戻る)

カマキリのメスが、たまごをうみおえて死んでいる。新しいいのちを作るためとはいえ、死んでいる姿が、かわいそうだ。死んだばかりということが、まだうんだばかりの/白いたまごだった/まだやわらかそうだった/と、うまれたばかりの卵をえがくことで伝わります。人間は、親子がいっしょに暮らす時間が長く、喜びと悲しみをともに味わいます。将大君の気持ちが、「かなしいたまごうみ」という題からも深く伝わってきます。

 

草取り (詩に戻る)

自分のこころの中に日当りのいい広がりがある。草がすぐはえて、のびてしまうんだ。いつもあたたかい土が見えているように、そこの草取りをしなくちゃいけない。なんて豊かな発想なんでしょう。現実の草取りと、心の庭の草取りとが重なって、朝輝君の心の世界はどんどん広がっていきます。

 

しみわたり (詩に戻る)

 しみわたり(凍み渡り)とは、冷え込んだ冬の朝など、積もっている雪の表面がこおるので、その上を歩いて渡ること。「こおってんれ!」は「こおっているぞ!」の方言。兄と妹、そして友だちがきらきら光るたんぼの上をしみわたりして遊ぶ様子が、目に浮かびます。キラキラ光るのは、はずむ子供たちの心。ズイズイ、ズッズッのリズムが楽しさを伝えてきます。私もまぶしく昔を思い出しました。

 

     (詩に戻る)

 お父さんのおみやげのドーナツを、一番おいしそうにたべたのは、一番年下の妹だった。その妹の体の小ささが、うきぼりにされています。でも大きなライオンみたいにでっかい口をひらいて、ほっぺをふくらませてたべた。最後の一行は、家族全員が一番小さな妹をみていて感じた気持ち。幸せな家族のひとときを、あなたが代表して書きました。

 

もしも自分がいぬだったら (詩に戻る)

もしも自分が……だったら、という詩がたくさん送られてきました。先生の指導です。その中で、一番短いこの作品をあえて選びました。最初の三行を、あとの三行で具体的に示しています。そうすると内容が強まるのです。くさの実つけて帰ってくる/おなもみつけて帰ってくる。おなもみは秋に咲くキク科の雑草。種を動物の体にくっつけて運ばせる。省吾君が本当に犬になりたい、草むらで草の実がつくほど遊びたいという気持ちがよく伝わってきました。

 

○ 佳作

アリ                 (詩に戻る)

落としたアメによってきて、しがみついているたくさんのアリを見る。いっしょうけんめい生きているが、けんかしているようにもみえる。アリの言葉で、どなりあっているのかも知れない。アリ以外の生き物も、さまざまなことを直紀君に教えてくれます。あなたがおとなになってからも、教えてくれます。

 

もしも鳥だったら           (詩に戻る)

読んでいると、僕までが鳥になって朋子さんと同じことをする気持ちになります。どの行も「ぞ」でおわるくり返し。気持ちがいいですね。風が梢をゆらす森の枝で、さえずる小鳥のあなたを思いえがきます。

 

                  (詩に戻る)

“町へ行った” が3回くり返されています。そして最後の3行。すばらしいひとりごと。星君がどういうところに住んでいるのか、興味があります。でも人がたくさんいて、活気があって、しかも気持ちよく風が吹いている町がいいなあと思うあなたの気持ちは、私にもよくわかります。

 

水のレース              (詩に戻る)

別々の性格の水滴がまどガラスについていたなんて、思いもしませんでした。あなたが指で線をかいたら、彼らがいっせいに流れ落ちだした。水てきはただの窓ガラスの汗?いいえ高橋君の遊び友だちです。

 

ぞうきん               (詩に戻る)

関さんがいう”ぞうきん“みたいな役をしている人たちが、社会にはたくさんいます。だからこの詩を読んで、ぼくは”ぞうきん、がんばれ“と言いたくなった。でもあなたは最後に「なのに ほっておかれるの」と言った。僕もあなたと一緒に「どうしてっ?」て、ききたくなる。この詩は身近なものをたくみにとり込んで、社会へのするどい質問にもなっています。

 

                  (詩に戻る)

 こういう瞬間って本当にあります。そのことがあなたの心に残った。こうして書きとめておきたくなった。飛行機が小さくとんでくるまでの、何もなかった空のことを覚えておいて下さい。自然の姿には、夕焼けでも雲海でもはっとする瞬間が幾つもあります。その時は、本当の自然を見たと感じます。

 

この町に初雪が            (詩に戻る)

あなたは、この町が好きです。だからこの町にふる初雪をうたうのです。「この町」をただの「町」にすると詩は死んでしまいます。最初と最後にくり返される3行には、初雪がもつかろやかな重さと手ざわりがこめられています。

 

めがね                (詩に戻る)

 この世には、目で見えるものと、見えないものがあります。一方で、たとえ見えても見たくないものもあります。こんなぜいたくな話を、視力をまったく失ってしまった人たちはどういう気持ちで聞くでしょうか。いいえ、どういう目で見るでしょうか。

 

野鳥たちよ              (詩に戻る)

野鳥への問いかけのやさしさ、おだやかさに、聞く私の心は静かになります。でも鳥たちは、答えてはくれません。たださえずりだけが、きこえてくるだけです。

 

生きること              (詩に戻る)

私の一生は、たった一回しかない。草をみろ、枝が折れた木をみろ。力強く生きぬこうとしている。いきること、それは自分から生きようとすることだ、と綿野さんはおしえてくれます。その通りだと思うのです。

 

わたし                (詩に戻る)

わたしはたった一人であったとしても、そのさびしさ、つらさに耐えて生きていく、とあなたはいいます。さまざまに感じる心を持って、大きくゆれている「わたし」という樹が見えます。私は、その樹をしっかりと支えている周囲の地面も、あなただと思います。あなたは自分で思っているよりずっと大きい「わたし」になっています。

 

きらきらするもの           (詩に戻る)

 詩の一行は、題から始まります。きらきらすると感じるものを、これだけ集めたなんてすごい。あじも、心も、きらきらすることを感じとった君の力はすごい。

 

じどうはんばいき           (詩に戻る)

 するどい観察力です。感心しました。こんどは何を見つけてくれるか、楽しみにしています。

 

かみなり               (詩に戻る)

 かみなりの詩は、ピカッと光るのでどれも好きです。でもその中に発見がなくてはいけません。最終行の、「目が光りました」はかみなりの目が光ったと感じたのでしょうか。それはおもしろい発見です。わたしは、一瞬、驚いていっしょに光ったふみのり君の目までも感じました。

 

先生だったら             (詩に戻る)

とにかくおもしろい。でも30点とれなくて、みのがしてもらった生徒は、本当に次がんばるかなって心配になる。君はまた次もみのがす?。だから先生ってむつかしい。でも君が先生だったら、みんな学校へ行く。僕も小学生のふりして教室へいく。君はすっごく心があったかいから。