第4回矢沢宰賞の審査を終えて      審査員 月岡 一治

高田市出身。月岡内科医院院長。第6回新潟日報文学賞、第10、11回国民文化祭会長賞ほか受賞。出版物に、詩集「少年−父と子のうた」、「夏のうた」(東京花神社)がある。

 この度の第四回矢沢宰賞の募集には、県内外から1,788編ものたくさんの詩作品が寄せられました。すぐれた作品が多く、その中から最優秀賞1編、奨励賞4編、佳作15編、入選30編を選ばせていただきました。皆様に作品をお読みいただき、詩は心のどこから生まれてくるのか、読む者の心をどれほど感動させるかを、共に体験していただければと思います。その結果、詩を書く力を身につけることが、私たちの生活をいかに味わい深いものにしてくれるか、つらいことを乗り越えさせてくれるかおわかりいただけるものと確信しております。

 私たちの心の働きは実に不思議です。目に見えないもの、耳に聞こえないものを見たり聞いたりできるからです。まるで心にも目と耳があるようです。心の目と耳を使って、暮らし始めると、両親や先生、友だちに話しかける前の気持ちが、声にする前に心の中に生まれていることがわかります。お父さん、お母さんでもない、自分自身に話しかけたいことが本当はあるということに気がつきます。その生まれたての気持ちを、やさしい、わかりやすい言葉にして書いてみましょう。人にしゃべってしまう前に書いてみましょう。こうして詩が生まれます。自分にむかって、空や海、山、石ころや草木、すべてのものに向かって、話しかけてみましょう。するとあなたの生きている世界がぐんぐん広がっていきます。

 佳作の作品の中にこうした言葉がいくつも見られます。(むねになんかすんでいるのでしょうか)「けんか」、(気持ちがおだやかになるなぁ)「うさぎ」、(見えないきこえない悲めい)「言えない気持ち」、(頭の中では、火山が噴火して)「いえない」、(ふくのかみって、どんなお仕事をするのかなあ)「まめまき」、(私の心を洗って)「卒業」、(まどかちゃんちのチョコのにおい)「まどかちゃんちにいった日」などは、自分の中に生まれた気持ちを自分の言葉にして書いたものです。

 奨励賞になった四編の詩からは、作者の心の世界がもっと広々と力強く伝わってきます。ひとつひとつの作品については私の選評をお読みいただくとして、とくに「ゆめ」、「夕日」の2編は読むたびに深い感動を人々に与え続けるすぐれた作品です。

 最優秀賞になった1編は、たったひとつ、大すきな人間が死んだあとどこにいるのかを見ようとした作品でした。自分の心の世界には、死んだ人たちがすき通って生き続けているところがあることに気づいて、作者はそれを言葉にしてあらわしました。書かれた言葉の行がその世界の空間に浮いて、「ふくばあ」にとどいていくように感じました。

 今回は全国からたくさんのすぐれた詩が寄せられました。「ゆめ」、「夕日」といった短いけれど心の深いところから生まれた作品が、更にたくさん全国各地から送られてくることを心から望んでおります。すぐれた詩は、読んだ大勢の人たちの心をあたため、励まし続けてくれます。

 

○ 最優秀賞

大すきなふくばあへ         (詩に戻る)

 第1連はふくばあの死の様子、第2連は死後の世界が天国とお墓の中と2つあることの驚き、第3連は大すきなふくばあがいると信じる天国への静かな語りかけで作品ができています。読むとふくばあがいる天国は由依さんの心の中にある、そこで死者は生き続けていることがわかります。目に見えない天国という心の中の世界を、言葉がうかびあがらせました。由依さんは人工呼吸器をつけており、バクバクとはその人工呼吸器の一部だと思います。字は、筆を口にくわえてひとつひとつ書いたものです。ふくばあが、目を細めて聞いています。由依さんの心の中の世界は、詩を書く力で広がり始めました。今後に期待しています。

 

○ 奨励賞

ゆめ                (詩に戻る)

 読むと、涙が生まれてきます。ゆうは生まれ、ばあちゃんも生まれ、やがて2人とも死んでいきます。花びらに囲まれている姿が、そう教えています。でも、花びらには妖精がおって、ゆうとばあちゃんに1人ずつおって、2人が生きている長さを見守ってくれているのです。ほっとします。ばあちゃんのゆうに対する深い愛情を感じます。ゆめで、ゆうは自分の一生をみたのかもしれません。ゆうがじいちゃんになった日にも、花びらが舞い、妖精がゆうと孫のちいさないのちを守ってくれることでしょう。

 

夕日 (詩に戻る)

 朝日と夕日の観察が正確になされています。でも沈もうとする夕日は、なぜあんなにいさぎよいのでしょう。朝日は生まれてから成長期にある正浩くんたちのすがすがしさをイメージさせます。夕日はピークを過ぎて失われていくさまざまなものの光りをイメージさせます。夕日の一瞬の美しさを、ずっとながめたくなる中谷君の気持ちは、自分の中に沈む一日という時間の短さと大切さに気づいているから、生まれるのだと思います。

 

                 (詩に戻る)

 綾子さんの目の奥には、くっきりと、秋の青い空が残されています。またあなたに秋が来て、その記憶の中の青空が全身に広がっていきます。あなたの目が覚えているコスモス、鳥、すすき、誰もが、秋の青いせつなさに気づきます。あなたの秋が、見事に表現され、その空の下に僕もいるような気持ちになります。

 

 ちりとりとほうきとごみ箱       (詩に戻る)

 父ちゃんは「ほうき」。「ごみ」はお金。「ちりとり」は母ちゃん「ごみ」をたくわえる「ごみ箱」は店なんだぞ。このたとえの正確さとおもしろさに引きつけられました。黙々と働く御両親にも笑顔がこぼれているようで、幹夫君はその父ちゃん、母ちゃんが大好きで尊敬していることがわかって、家庭ってひとりひとりにとってありがたいな、大切だなあと思わせられるとてもよい作品です。

 

○ 佳作

未来                 (詩に戻る)

 男の子からは絶対生まれない異色の作品。10歳の女の子がもつ「未来」のイメージです。早熟な感性にひかれました。

 

けんか                (詩に戻る)

「むねになんかすんでいるのでしょうか。」本気できく、高志君。その本気さが、ひょっとすると何かいるんじゃないかと僕に思わせるほどの迫力を持っています。

 

世界                 (詩に戻る)

 何かの卵の中のいのちが、殻を割って外に出るまでの気持ちと様子がかかれています。中にいるのは早瀬戸さん自身かもしれない。光があることを知ったのが、早瀬戸さんであって欲しいと思います。

 

くも                 (詩に戻る)

 まだ小さなあなたが、庭で寝ころんで空を見ている。雲があって流れていることに気がついた。空を動いていく雲と、見上げているあなたをつつむ風があって、今までで一番気持いい場所だった。僕にもそんな場所があったことを思い出しました。

 

うさぎ                (詩に戻る)

 最後の2行、それでもだいてみた/気持ちがおだやかになるなあ。にうさぎを抱いた高橋君のうさぎ好きの気持ちが、とってもよくあらわれています。

 

一生懸命               (詩に戻る)

 堀田君は本当に一生懸命生きているから、ほかの人の一生懸命さがわかるようになったのです。花や鳥でさえ一生懸命生きています。今、それがよくわかるようになりました。

 

言えない気もち            (詩に戻る)

 いじめられている人が、見えない聞こえない悲めいをあげているのがわかる総太君。それに対して何も大声で言えない自分もやはり、見えない、聞こえない悲めいをあげている。いじめることの残酷さが、読む者に深く伝わってきます。

 

時計の電池 いれなくちゃ       (詩に戻る)

 ユーモアとリズム感が気持いい作品。読んでいるとスピード感があって、楽しいアニメーション映画を見ているようです。ああ僕まで階段をかけ下りる!

 

いえない               (詩に戻る)

 「頭の中では、火山が噴火して。」がおもしろい。噴火がおさまるのには時間がかかるから、ああそれですぐに「ごめんなさい」と言えないんだなあと納得しました。

 

まめまき               (詩に戻る)

 「ふくのかみ」のおしごとって、本当になんだろう。まめまきの日に、何をするんだろう。僕にも分かりません。

 

もし…私が              (詩に戻る)

 すぐ助けやなぐさめを求める人が多いのに、はっきりと、まず自分で何とかするから、と言うあなたに好感をもちます。そうでなくちゃね。そんな君のこと、誰もが泣いて忘れません。

 

卒業                 (詩に戻る)

 短い言葉が、新しく中学生になるあなたの気持ちをはっきりと伝えています。「心を洗って、きれいな心にして、中学部へ行こう」。

 

まどかちゃんちにいった日       (詩に戻る)

 「あっ、忘れ物をしてきた!」。でも、忘れ物といっしょに、「まどかちゃんちのチョコのにおい」を思い出す。大好きな友だちの家で遊んだ時の楽しさが、チョコレート味で伝わってきます。

 

のらねこ               (詩に戻る)

 のらねこは「にげる」、「ちかよる」、「雨やどりする」、「ちょっとわるいことをする」。そんなのらねこの全部が好きだという木下君。のらねこの姿がいきいきと描かれています。

 

ぼくのチビ              (詩に戻る)

 洋平君を見上げてしっぽをふるチビの目。「チビの言葉がわからない」とさみしくなる洋平君のやさしい心。互いの気持ちは言葉を越えて伝わっていきます。