第3回矢沢宰賞の審査を終えて

審査員 月岡 一治

 第3回矢沢宰賞の審査は、1,303編もの多数の応募に恵まれました。これは、応募資格が1年毎に拡大され、このたびは中越地区(8市7郡)と吉田町小・中学校の児童・生徒が参加されたためだと思われます。その結果、360余校が対象となりましたが、応募の内訳は、小学校が25校1,036編、中学校が4校152編、養護学校が5校115編(小学部61編、中学部23編、高等部31編)でした。第1回矢沢宰賞では151編、第2回本賞では465編でしたから、このたびの応募者数の急増ぶりがおわかりいただけると思います。

内容的にもすぐれた作品が多く、その中から矢沢宰賞として最優秀賞1編、奨励賞5編、佳作15編、入選30編を選ばせていただきました。入選はこのたびの選考から設けました。応募者の増加にともない、佳作に準ずる作品が多くなり、作品名と作者名だけでも紹介しようと考えました。次回の応募への励みになることを願うからです。

佳作以上の入選作品には選評を添えさせていただきました。一般の皆様には個々の詩編を味わう参考になりますように、作者には新しい詩を書くヒントになりますようにと願っています。

最優秀賞に選ばれた作品は、「翼が欲しい」ではなく、自分にはしっかりとした翼があるといい切っている強さが受賞につながりました。その前後の展開を支えるしっかりとした構成力もみられます。奨励賞の5作品は、それぞれの異なった特徴を持っています。これらの作品が教えてくれることは、詩に必要な物事の観察力とは、理科や科学の場合とは異なっているということです。

詩の世界では、科学の力では見えないものが見えてきます。機械では記録できない一瞬の情景や感動、心の感じを言葉の力で伝えることができるのです。そのためには私たちが自然の変化や人間の気持ちを敏感に感じる力と、それを表現するにふさわしい言葉を持っていなければなりません。常に新しい感じ方ができるように、自分の心の目をさらに豊にして下さい。

 

○ 最優秀賞

小さな翼をこの空へ         (詩に戻る)

広く青く絶えることのない空に自分はなりたい。しかしなれない。せめてこの空を、精一杯はばたいて生きたい。この詩には、あなたがなりたいと願う空が奥行きをもって広がっています。はばたいて、「揺らぐことのない私の道をつらぬきたい」という一行が、詩を力強くしています。「翼をください」ではなく、自分はもう翼を身につけていると言い切っている強さが、他の類似した作品とは異なりました。しっかりとした詩の構成力があります。行と言葉のバランスに、詩の内容にふさわしいリズムがあります。あこがれ、夢という、詩をこわしやすい言葉も、幸い気になりません。最優秀賞にふさわしい作品であると思います。

 

○ 奨励賞

【1席】しん年のねがい       詩に戻る

あなたのしん年のねがいを、静かに聞きました。人工呼吸器からもれる息の音からは、あなたの本当の声は生まれません。でも、弱い指のかわりに筆を口にくわえて書いたこの願いから、あなたの心の声が聞こえてきます。無駄な字を書けない体が、あなただけの言葉をえらびました。

 

【2席】イナズマ          詩に戻る

君が感じるイナズマのすごさを、よい感覚でとらえました。くり返して読むと、「ピカッ」の下の空に本当に稲妻が光って、空にすむおおかみの姿が見えてきます。「ピカッ」しか書かない一行が、イナズマを想像させる空間を生み、詩を成功させています。

 

【3席】梅の木           詩に戻る

自分が生まれるずっと前からある梅の老木の姿が、愛情をこめて描かれています。その梅の木と一緒に生きていると感じた時、梅の木のあなたを見守る目があたたかい。祖父母、ご両親のやさしい目が、あなたの心に、梅の木をこのようにあたたかく見る豊かな感性を育てたのでしょう。

 

【4席】しぜんがよびかけてる    詩に戻る

すっかり紅葉した山の自然が、豊かにとらえられています。いろんな葉っぱがいっせいにザワザワといった。坂が、落葉の海になった。木が音楽隊になった。葉っぱのカスタネットを、秋がたたいている。どれもすばらしい言葉です。本当に、秋の、「しぜんがよびかけてる」、と感じた気持ちがよく伝わってきます。

 

【5席】屋根            詩に戻る

屋根には確かに、建物の一部以外の何か別のイメージがあると私も感じています。こうしたあなたの独特の感性を、さらにみがいて下さい。私はこの詩の中の「屋根」と「家」という言葉を、「おれ」と置き換えて読みました。そしたら別の詩があらわれて、修君の生きかたや感じている気持ちがずっとよくわかるようになりました。

 

○ 佳作

プール               詩に戻る

プールにもぐると海の中のような世界がある。ぼやけた音と、泡になって見えるようになった空気がある。不思議なプールの中の世界にもぐりこみたい気持ちがよく伝わってきます。最終連、プールもゆれてまっていると感じる気持ちが印象的です。

 

祭り                詩に戻る

祭りで大勢の人にかつがれてねり歩くみこしの姿が活写されています。ワッショイワッショイの声が、汗の感じの中に聞こえてきます。休けいをとる人たちの、明るくにぎやかな声も。その中に、楽しそうなあなたの顔までも見えてきます。祭りのみこしをかつぐ楽しさが詩になりました。

 

防波堤               詩に戻る

時間は楽しいとき早く過ぎ、つらい時には立ち止まります。この作者は、あっという間に過ぎる時間を「僕は別の世界にいるんだ」と表現しました。釣り好きの少年だから見えるその「別の世界」が、私たち一人ひとりにあることを気づかせます。

 

ふりかけ              詩に戻る

何をしていても、離れているお母さんに会いたいのです。みそしるも、ごはんも、そのあたたかさはお母さんと違います。でもお母さんを思い出させます。最後の二行、「あったかくなった」、「あいたくなった」の気持ちがよくわかります。

 

人形                詩に戻る

人形が、生きていると感じるのは、目が生きている時です。不気味でさえあります。「人間の様子を見て、いつも笑っている」人形の冷ややかさが、おとなに人間の命のはかなさ、おろかさを感じさせるのですが、あなたはもう感じているのかもしれません。

 

風の郵便屋さん           詩に戻る

たんぽぽも木も雨も風も、みんな生きている。僕と同じようにしゃべることができて。風は実は郵便屋さんで、とても働き者だ。あなたが感じる世界は、なんと楽しい世界でしょう。ぼうしやかさを運ばれた人たちの姿が目に見えるようです。

 

たいよう              詩に戻る

そのとおりです。アイドルや有名人は、人工のライトにいっとき照らされているだけなのです。人間はみな同じ。生きていくのに必要なのは自然の太陽の光です。その光は、生きようとするもの全員に平等にそそがれています。雑草、小鳥、獣、海はもちろん地球上のどの命にも平等で、もちろんあなたをしっかり照らしています。

 

つらら               詩に戻る

つららの背がちぢむ、つららが汗をかく、泣く、おしっこをする。詩に太陽の光が感じられて、先生の前で話す一年生の君の顔が、つららの先端のように輝いて見えます。

 

にじ                詩に戻る

最初の五行がすばらしい。雨がふるわけ、にじが現れるわけがわかりました。虹を見るとき、あなたのこころの中の空にも、もうひとつのにじの橋がかかっていることを思いました。

 

                 詩に戻る

一行一行、味わい深く読みました。本当に、そうですね。あなたには人間に対する深い観察力があります。心から涙を流す、やさしさを持っています。最後の一行をなくして読んで下さい。とてもよくなります。次回に期待しています。

 

いつも一人             詩に戻る

いじめが問題になっているから選んだのではありません。本当の気持ちが書かれているから、いつも一人でいることのつらさが伝わってくるから選ばれたのです。あなたは、もう一人ではありません。この「いつも一人」という詩が、これからはもう一人のあなたになってささえてくれます。つり時に読み返して下さい。最後の二行、「にらまれても、がんばっていく」。私だけでなく、この詩を読んだ人たち全員が、あなたの成長を励ましながら見守るでしょう。

 

ふしぎな形             詩に戻る

本当に万華鏡の中の世界は不思議です。万華鏡の筒を回してのぞきこむあなたの気持ちがよくわかります。この詩を「詩」にしたのは最後の一行です。そんな万華鏡を思わずポケットにしまわずにいられなかったというあなたの行為が、不思議さにひきつけられたあなたの気持ちを鮮やかにしたからです。

 

お母さん、出口がおとずれるよ……  詩に戻る

病気のぼくのために/休みもしないで/時には泣きながら働きに行くお母さん/僕なんか/この世から消えてしまえばいいのに/お母さん/がんばれ/今は僕たち/暗やみの中をさまよっているけど/きっと出口がおとずれる/だからお母さん/がんばれ/僕とがんばれ/お母さん…/私が心で読んだ藤田君の詩です。一日も早い出口の訪れを、お二人に願うばかりです。

 

四季のわたし            詩に戻る

四季が私をかざってくれる。さくらの花が、緑の葉っぱが、紅葉がわたしをかざる。でもふわふわの雪がかざる冬、私はおよめさんになる…。雪国の小学生の女の子がもつ、およめさんのイメージが印象的です。

 

                 詩に戻る

13歳のおばあちゃん犬が、私たちの前に現れます。細々とした手足、よたよたした歩き方。それでも胸を張ってほえている。家族同様の犬へのあなたの愛情が、あたたかく伝わってきます。