第2回矢沢宰賞の審査を終えて

 審査員 月岡一治 上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年−父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。

 昨年の第1回矢沢宰賞は、対象を県内の特殊教育諸学校在籍者に限ったものでしたが、151編もの応募に恵まれました。本年度は新たに見附市の小・中・高校生を対象に含めましたところ、実に465編の応募をいただくことができました。作品のレベルも高くなり、詩の内容も雪、風、雲、木、山、海、地球といった自然や宇宙から今年1月の阪神淡路大震災に対するもの、次いで学校、友人、家族、その中での自分の気持ちを表現するものなど多方面にわたり、そこからみずみずしい感性が、生き生きと伝わってくるものばかりでした。

詩の長さからみますと、短い詩にすぐれた作品が集中していました。原稿用紙2枚、3枚の作品は1枚目に書かれた内容を繰り返すだけであったり、幾つもの気持ちを次々に並べるだけで、どれも失敗しておりました。自分が強く感じたこと、ハッと気づいたこと、誰かに語りかけたいことを伝えるとき、すっきりとしたわかりやすい言葉を選ぶことが大切です。

年齢が低い皆さんの作品には、しばしば「…だったよ」といった「よ」が使われていました。言葉以上の気持ちが伝わってきて有効な方法ですが、いつまでもこればかりに頼ると、詩はそれ以上に深くなりません。今回から入賞作品に作者の学年を示しましたので、成長とともに変わっていく表現方法を他の入選者から学ぶことができるでしょう。それから、詩は原稿用紙の1番上の段から書き始めてください。2段目から書き出している人がたくさんいます。

とくに優れた作品から最優秀賞1編、奨励賞3編、佳作1編を選びました。最優秀賞は2年連続で同じ作者でしたが、他は全て別の作者になりました。中でも今回奨励賞を受賞された若林祐太君(7歳)の詩の世界は気持ち良く、印象に残りました。

来年、更に新しい大勢の皆さんの作品に接することができますことを、楽しみにしております。

 

○ 最優秀賞

災害 (詩に戻る)

一瞬のうちに多数の人命を奪った阪神淡路大震災と向かい合った詩。自分の悲しみを測っては泣いてきたまだ小さな作者が、とてつもなく大きな悲しみがこの世にあることを知って立ちすくむ。その「立ちすくむ自分を、なにかと考える」心の姿。ちっぽけな生き物にすぎない自分が見えてくる。心のふるえが、自分をおそう目にみえない大地震を予感することでなまなましくとらえられている。豊かな感性が深さを増して成長し、2年連続の受賞につながりました。

 

○ 奨励賞

日ちょく (詩に戻る)

思わず吹き出してしまう、楽しい作品。授業風景が目にうかび、同級生と、窓辺にいるだろう金魚の姿、号令をかけるゆうた君のユーモアのある表情が、明るい教室の中に生き生きと見えてきます。こんな短い言葉で、君の人柄と気持ちをすがすがしく伝える、表現力の確かさに驚きます。間のとり方が、すばらしい。

 

(詩に戻る)

気持ちに濃淡を失った生活をしていると、毎日が機械的に、ただ時間に追われて過ぎていきます。あなたはそんな生活の空しさを、頭上に広がっている空の青さに教えられたのです。空はこれから、あなたの心の中にも、青さをまして広がります。

 

まさおみにいちゃんのたんじょう日 (詩に戻る)

にいちゃんのたんじょう日を心から祝う弟の気持ちが、すべての言葉からあふれてきます。にいちゃんのたんじょう日だもんな、という3回のくり返しが、肉とケーキとお祝いの歌だけでは表しきれない、愛情に満ちた家族の暮らしぶりを、あたたかくくみ上げてきます。

 

● 佳作

 

ゆき (詩に戻る)

雪のひとひらひとひらに、人間と同じ命と生活があることを感じています。その雪はがんばって生きていて、12月と2月とではそのがんばりかたが違うことまで敏感に感じとりました。豊かな感性があり、奨励賞をさしあげたかった作品。

 

石  (詩に戻る)

この石は生きています。けられると、にらみ返す。するとまた、けられる。うらめしそうに、また、見かえす。刈谷君はこのように、石だけでなくまわりの物すべてを生かすことができるのだと思います。その生き生きとした世界の中で、しっかりあたりを見わたしている君は、とても幸せだと思うのです。

 

たんじょう日  (詩に戻る)

なんてかわいい7才になった自己紹介でしょう。あなたがたくさんの人に向かって、「もう、7才。よろしくね」とあかるく話しかけてくれるので、僕たちは誰も、「おめでとう」と心から祝います。本当に、おめでとう。

 

ヒヤシンス   (詩に戻る)

「わたしのヒヤシンス」といった最初の1行で、あなたがどれほどこのヒヤシンスを大切にしているかがわかりました。観察する短い言葉がヒヤシンスに対するあなたの深い愛情をうつし出しています。

 

おとうとの手  (詩に戻る)

行のおわりにつけられたいくつかの「よ」が、あたたかく響きます。まだ赤ちゃんの弟の仕草が、手に取るようにわかります。姉さんになったあなたのよろこびと嬉しさが、ほほえましく、明るい笑い声になって伝わってきます。

 

MY DEAR NURSE  (詩に戻る)

優しい看護婦さんに、出会った。年上で、きれいで、そのやさしさは母親に似ているけれど、見つめられると何でもできそうな気がしてくるやさしさだ。初めて経験するあなたの気持ちが、言葉使いの素直さによって、まぶしく表現されています。

 

ウインナ−のダンス  (詩に戻る)

なんと楽しいウインナ−のダンスでしょう。シュルシュル ポンポン あらごめん。ダンスをしているのはウインナ−ともう一人、ほがらかな、あなたです。

 

電話  (詩に戻る)

養護学校にいるあなたが、週にたった1回の、家族に電話できる日をどれほど待っているのか、痛いほど伝わってきます。電話機が特別なものに見えることでしょう。かあちゃんこそいつも電話に出たいけど、じいちゃんやにいちゃんの気持ちを考えているのかも知れません。

 

   (詩に戻る)

目に見えない風を、あなたはあたりに残される音でつかまえました。その結果、あなたが感じる風に奥行きが出てきて、僕たちにも風が、音をとうして見えるようです。これはあなたの発見です。

 

わたしの宝物 (詩に戻る)

家族と離れて暮らしたら、つらいことがたくさんあったけれど、あなたは自分の宝物が何か、気づくことができました。もう少したつとお父さんも兄弟も、おじいちゃんおばあちゃんも、あなたの大切な宝物であることに気づくことでしょう。