第8回矢沢宰賞

おくりもの
        井上 朝子
毎年春になると
祖母が車椅子を押し畑へ行く
祖母がならした土に
わたしは車椅子の上から種をまく

いつのことだっただろう
小さな手で握った取っ手
うまく注げず暴れるジョウロ
祖母が黒い指でぬぐってくれた涙
頬に残る土の跡

今年の夏
祖母の姿がない
主のない荒れた畑

久しぶりに
母に車椅子を押され畑へ出た
不格好なトマトが
赤く揺れていた
一つ手に取り
畑に重ねて眺めてみる
トマトの甘さを
かみしめる
祖母の思い出
かみしめる