第11回矢沢宰賞

抱きしめる
                  佐藤 ななせ
高等部に入学して
一年が過ぎようとしている
電車に乗って帰省ができた
洗濯や料理を一人でできた
将来について少しだけ考えることができた

できるようになったもう一つのこと
針に糸を通して玉結びをする
布に針を刺して縫い目を確認する
指は震えて汗ばんでくる
少しでも気をぬくと
針がささって体に電気が走る
それでもなんとか
花のししゅうのバッグを作ることができた

私が小さい頃
お母さんがズボンを縫ってくれた
ひまわりのアップリケがひざについていた
針を持つ手は器用だった
私は汚さないように
パジャマに着がえずに
布団に入ったのを覚えている

いつものように電車に乗って帰省する
席に座りキップがあるか確かめた
母の顔を想い浮かべて
バッグが入ったカバンを
抱きしめる
プレゼントが入ったカバンを
ギュッと抱きしめる
待っててね お母さん
お誕生日おめでとう お母さん