MOVIEtonbori堂

「俺達が祖国の最後の希望だ!」

ローレライ

原作福井晴敏
監督/樋口真嗣
脚本/鈴木 智
企画協力/中島かずき
制作/亀山千広
絵コンテ協力/庵野秀明
音楽/佐藤直紀

キャスト
絹見真一:役所広司
折笠征人:妻夫木聡
木崎茂房:柳葉敏郎
パウラ・アツコ・エブナー:香椎由宇
朝倉良橘:堤 真一 高須成美:石黒 賢
清永喜久雄:佐藤隆太 田口徳太郎:ピエール瀧
岩村七五郎:小野武彦 時岡 纏:国村 準
西宮貞元:橋爪 功 大湊三吉:鶴見辰吾
小松春平:KREVA 楢崎英太郎:伊武雅刀
男:上川隆也

福井原作の3本公開(正確には戦国自衛隊は半村氏のアイデアがあるのでちょっと微妙なんだけれど)のトップバッターとして「終戦のローレライ」とのコラボ企画映画。俗に「潜水艦映画にハズレなし」ということでなんというべきか。まあガンダム世代が開発の一線に来ちまったってことかというのは「MOONLIGHETMAIL」の猿渡吾郎が月面作業機 器ムーンウォーカー(ようするにレイバー)のテスト中に言うセリフだけど(これも深読みするとあんまり笑えないセリフではある)アニメではルパンやヤマ ト、ファーストガンダムを観た世代やそのちょっと前のウルトラマン世代がどんどん出てきてエヴァンゲリオンやらを作っていった。その同年代が実写畑にとう とう進出というのは去年のアニメ、コミックものの攻勢(アニ攻勢とひそかに私は呼んでいる)を見ても明らか。
で全体の感想はおおむね良かったというかやっとこういう画がきちんと見られるようになったのかということで是としたい。日本の特撮戦争映画シーンできっちりエンタメ出来ているというのは稀でともすればちょっとベクトルが変わったり説教映画になったり一見さんをおいてけぼりにしてしまうことがあるがギリギリのところでエンタメ出来ている部分は評価できる。
ただ細かい部分や作劇での?はもちろんある。
それでも伊507の潜行シーンや雷撃、米艦隊との戦いの状況は映画として成立していた。
だからこそ次の一手はその部分をアップデート及びブラッシュアップしてほしいのだ。
そこでまず気になるのは清永の扱いである。
演じている佐藤隆太くんではない彼の役割である。彼の扱いは当初「終戦のローレライ」にのっとったものだと思うのだが(樋口監督の絵コンテにはそういう描写がある)映画での彼の最後、彼が大事にしているボールを拾おうとして手がひっかかるためナーバルの格納塔で水没するというのはどうなんだろう。
これが別の映画であればそこまで目くじら立てないけれどもっと状況に即した演出や構成が出来たはずだと思うのだが。あれでは彼の死がまったく残らないのだ。いくら戦争ファンタジーとは言え爆雷攻撃で手が抜けなくなったという少し残酷かもしれないがそういう描写の方が納得出来る。
それと石黒賢の演じた高須がとっても微妙な位置に立っている。これは小説版との大きな違いで実は映画と小説では大きな変更点がある。それは伊507の搭乗 員としてある人物が出ていないということだ。いや正確にはその扱いが違っていた。それはパウラ・エツコ・アブナーの兄である、フリッツ・S・アブナーの存 在である。それとともに実は小説版ではウェーク島に一度寄港し補給を受けるのだがその時点で乗り込むあるキャラ(名前は残っている)の役割まで持たされて いる。
映画と小説は確かに別モノではあるがあと一枚カードを配しても良かったのではないか?フリッツの扱いが違った事により微妙になった気がする。元々福井作品はキャラを背景を過剰なまでに書き込む事で成立しているところがあるのでその辺がちょっとひっかかりを残したかなと。
いやもちろん「Uボート」や「眼下の敵」とくらべちゃいけないつーのはよくわかるんだけどもね(苦笑)結局原作の厚みを抽出するのに苦労するならそこはすこし詰めといてもよかったんじゃなかろうか?まあ高須はドイツでの諜報活動に従事していたことを匂わすワルサーP38ゲシュタポモデルを持っていたりとそれを想像させてくれるが普通のお客はそんなところは観ていない。まずはどんな人でも解るベタな伏線やオチを提示しなければならない。その上でのゲシュタポモデルなら拍手喝采ものなんだけども。
あと岩村機関長(小野武彦)が酒をプーっと吹いてその後ろで小松機関士(KRVEA)がスイッチという描写。実際の熟練機関士ならそーゆう事しな い。というか以前オレ様トムくんの「デイズ・オブ・サンダー」つー映画で老メカマンのロバート・デュバルがマシンをさすったりして語りかけるシーンがあっ たんだけどマシンはそれだけでは直りません。その前の熟練の腕を駆使した上でのシーンがないとただの独り言意味不明なシーンで終わってしまう。メカに関する熟練さを表すそういう描写をほんの少しセリフでも挿んでおけば酒のシーンも生きるんだけどギャグがおいらから観るとすべってた。ただこれは他の映画でも度々観られるので今後の課題ではあると思う。
そして上に関連するのだが★前田有一の超映画批評★で前田さんがレビューで書かれていたが(ちなみに前田氏は「今週のダメダメ」だった)ドイツの戦利潜水艦を日本の乗組員がいとも簡単に操っているのに疑問をていしていらしたがそれもちょっとした描写で解決できたと思う。
「U−571」などでは単純にアメリカとドイツの単位の問題(フィートとメートル表記)とかで描写していた。(でもその後は全然あやつっていたけどね(笑))解りやすい記号、アイコンを見せればそのへんは納得出来るもんである。
小説についてはその流れは殆ど同じとは言えそれぞれの内面がより深く描かれているし登場人物が映画よりも多いので印象が変わるかもしれない。
映画を観た後で読んでも良いし観る前に読んでもいいが別モノでもあり同じモノでもあるという非常に不思議なものとなっていると感じた。
例えて言うなら映画はシーンのみを抽出したハイライト構成になっており小説はさらに世界を拡げて描かれたというモノだったというべきかただ風呂敷拡げすぎとも多少思ったのだが(^^;

と気になる部分を書いてみたがくどいようだがそれでもこの映画はよくやったし面白かった。
ここまでの作品とは正直期待していなかったしもしかするとドンひきか大スベりかも~と思っていたからだ。初監督作でここまで仕上げた樋口監督。次は設定ハードルが上がるがやってほしいと思っている。

※追記アメリカ海軍の映像をUSスタッフによる撮影にしたのは良かった。
向こうの匂いが感じられた。こういう撮影方法はともすれば違和感が浮き立つものだがうまく統合したなあと感心したシーンの一つ。
そんでシンジくんの次回作はあの!「日本沈没」 主演が草なぎ剛に柴咲コウ。
すげえー心配。ハードル上げすぎだぞシンジくん(苦笑)

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