MOVIEtonbori堂

真に美しい人形があるなら
それは魂の無い生身の人間のことだ

イノセンス

監督/脚本 押井守
制作/プロダクションIG
プロデューサー 石川光久/鈴木敏夫
CAST
バトー/大塚明夫 トグサ/山寺宏一
草薙/田中敦子
ハラウェイ/榊原良子 荒巻/大木民夫
イシカワ/仲野裕 鑑識課長/堀勝之祐
キム/竹中直人

ここ数年で観たアニメーション映画の中では一番に濃密でしかもかなり人によっては難解であると思われる作品。しかもかなり監督の中のダークな部分を引き出していると思われるので観る人によっては拒否反応をしめすかもしれない。何故なら人形をモチーフにしてこれほどまでに人との関わりとフェチに通ずる唯物観を提示しているのだから。冒頭のバトーと対峙する暴走アンドロイド「ハダリ」の自壊シーンからハラウェイの語る人形について語るシークェンスなどはそれが如実に現れている。バトーとバセットハウンドとのシーンはまるで押井監督の「アヴァロン」を彷彿させるが主人公がバトーなだけにそれがインに入っているとは考えすぎか?いや監督自身は女性を主人公に据えたいとどこかで語っていた気がする。それが前作「GOSHTINTHESHELL」で人形使いと融合しマトリックスの裂け目に消え去り電脳の海へ漂う草薙を主人公に据えることは出来ない。いやしてもいいのだろうがあえてバトーをメインに持ってきたのは監督のたまりに溜まった虚を吐き出すようなものだったのかもしれない。そこで「Followme」を主題歌に持ってきた鈴木Pには恐れ入るがキャストを実写から引っ張るのはいかがなものか?ってこれは別の話か(笑)これについてはパンフに押井サンのちょっといい話が載っているのでもし読めるなら読んで欲しいものである。それともにこれだけの映像を作りこんだのも驚嘆に値するがあまりにも情報量が多すぎて頭がついていかなかった。だがこれを実写ですると引く人は多いと思う。「ブレードランナー」よりも業が深いからであちらはレプリカントという人が作りし写し身だがこれは本当のボディだけでゴーストが無いのだから。だがそれさえもなにかが宿っている。いや正確にいうと込められたというべきか。だからこそこの作品では狂言回しにあたるトグサが必要なわけで実はバトーとトグサはコインの表裏でもあるという2層構造になっていると思う。しかしつくづく信者と言われる熱狂的ファンがつく監督さんだなと思った。その込められたものに対し監督は今もバセットに餌をやりながら自問自答しているのかもしれない。あらゆる意味で濃く深い映画。

Vol.33「ゼブラーマン」をもう一回観る    Vol.35「ホテル・ビーナスを観る