MOVIEtonbori堂

その国は美しい国だった。
今でも美しい風景が残っている。しかし人々はそこで殺しあった

ノー・マンズ・ランド

監督 ダニス・ダノウィッチ

CAST チキ/ブランコ・ジュリッチ ニノ/レネ・ビトラヤツ
ツェラ/フィリプ・ショヴァゴヴィッチ ジェーン・リビングストン/カトリン・カートリッジ
ソフト大佐/サイモン・カロウ マルシャン軍曹/ジョルジュ・シアティディス

これは戦争映画というくくりでくくれないしブラックユーモアなコメディでもないしかも風刺映画でもない。ヒューマンドラマって言う言葉は陳腐すぎるので使いたくも無い。だけど心にトゲが刺さってしまう映画だった。この映画はボスニア紛争の状況下での出来事を描いているがこのセルビアとボスニアの戦いというのはそれまで同じ国ユーゴスラビアだったのが建国の父で英雄チトーが死んだ途端に民族主義やらなんやらが台頭しおまけにイスラム問題(そうボスニアはイスラムを信仰している)とどうしようもなかった。しかしヨーロッパにとっては地理的に隣の国の火の粉がいつかかるか解らない。そんな状況ではあるがそれを知らなくても戦争のいやな部分をこれだけしっかり描いた映画は正直初めて。特にオープニングでボスニアの民兵達が交代のため陣地へ向かうが朝靄に巻かれ気が付けば敵陣と自陣の中間。そこで次々と撃たれるのだが風景が綺麗なのが印象に残る。そこで人の愚かさが際立つように撮られている(と思う)そして難を逃れたボスニア兵のチキが偵察に来たセルビア兵のニノを捕まえるくだりはよくあるけれど他の映画ならなんか仲良くなったりして最後撃てなくなったりしたり結果的には助けたりしたりして片方が死んじゃったりしてヒロイックな結末を用意したりするのがセオリーだったりするが「ノーマンズランド」は違う。確かに二人は生まれ故郷も近いし共通の知人がいたり。死んだと思っていたチキの戦友(死体だと思われブービートラップに利用され動けない)ツェラを助けるためなんとか手だてを考えたりとかあるけど二人はやはり敵なのだ、それも悲しいくらいに、真剣に相手を殺そうとするぐらい。心を真から許すことは無いのだ。それがボスニア・ヘルツェゴビナの置かれた状況を私達が解らなくても分かり合えない2人を見て解るようになっているというところがまた心に刺さる。そして国連防護軍、彼らは紛争に介入することは許されない。しかし最前線でなにかが起こっているのは解っている。傍観者に絶えられないフランス軍の兵士がチキらのいる塹壕へ向かう。それを追うマスコミ。記者のジェーンはスクープを狙って名声を上げようとフランス軍のPKFにくっついていく。しかし最終的には誰もなにも出来ない。それがラストで特に色濃く出ている。今イラクでの占領下でのテロ、パレスチナでの自爆。憎しみは連鎖するが行き着く果てはこの映画のラストのようだとしたら・・・・・・・・。正直ウルトラセブンの「超兵器R−7号」の回でのモロボシダンの有名なセリフが頭をよぎる。「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」正直褒めるのは簡単だけどなんだろう・・・・・暗くなる。ニュース番組でキャスターが解説する平和よりこの映画の方が数倍真実を語っていると僕は思う。
レンタルビデオ03,6/15鑑賞

Vol.05「HUNTED」をもう一回観る    Vol.7ボーリング・フォー・コロンバインを観る