Home NovelTop Back


ザックスの冒険〜黄金のチョコボ伝説〜

DUNGEON13・チョコボワールド(3)




 準備を十分に済ませ、ザックスたちはボコや数匹のチョコボとともに、北に向かった。
 いくつかの森を越えると、そこにはさらに荒れた土地が広がっていた。
 そして、巨大なクレーターが雪原の中に見えてきた。
「あれがそうです」
ボコがクレーターを指して言った。
「あの中に、この世界を荒らしたジェノバとやらがいるんだな?」
「そうです。−−−−ザックス、本当に申し訳ないのですが、ここから先はあなたがただけで行ってください。この先の空気はウイルスにひどく汚染されていて、私たちチョコボには呼吸すらできないのです。しかし、人間にはなんの影響もないはずです」
「わかった。んじゃ、ちょいと行ってくるわ」
 ザックスはボコの背中から飛び下りた。
「ザックス、これを持っていってください」
そう言ってボコは、きらきら光る石を手渡した。
「なんだい、これは?」
「セーブクリスタルです。クレーターの中には、PHSの電波が届きません。しかしこれで中継すれば、一度だけ会話ができます。いいですか、一度だけですよ。それから、あんまり奥深くまで行ってしまうと、これを使っても通話が無理になるかも知れません。これが光っているうちに使ってください。いくつかあればよかったんですが・・・・・・・・・・・・残念ながら、これひとつしかないんです」
「いいよ。1個でもないより助かる。じゃ、いい知らせを待ってな」
 ザックスはセーブクリスタルをふところにしまいこんだ。そしてバスターソードをしっかりと背負い直した。
「よし、行くぜ、セフィロス、クラウド!!」
そしてザックスたちは雪原をクレーターの方へと走り出した。
 彼らが雪の中へ消えていくのを、ボコたちは心配げに見送った。
「・・・・・・・・・・・・・彼らにまかせて大丈夫ですかね、ボコ?」
「わからん。しかし、こうして我々のところへたどりついた彼らの力を信じるしかないだろう」
 3人の姿は、すでに見えなくなっていた。



×××



 クレーターは、とんでもなく深かった。
 どんなに目をこらしても、どのくらいの深さがあるのかわからない。
 そして外回りは切り立った崖になっていて、一度入ったら簡単には出てこれそうになかった。
 おまけに中は、モンスターの気配でいっぱいだった。
「なんかすっげーとこだな・・・・・・・・・・・・・・。ここん中に入れってのか?」
「引き返すか?今ならまだ間に合うぞ」
「そういうわけにもいかないだろ。なんとかするって約束しちまったし」
「だけど・・・・・・・・・・・俺たち、あのチョコボたちになんの義理もないんですよ?ここで引き返したって、誰にも文句は言えませんよ」
「ま、それもそうだけどな・・・・・・・」ザックスはふたりに向き直った。「セフィロス、クラウド、さっきは『最後までつきあってくれ』なんて言ったけどさ、嫌ならあんたたちはここで引き返してくれればいい。俺、ひとりでも行くからさ」
「どうした、ザックス。おまえ、あの程度のおだてでなけなしの判断力が完全に失せたか?」
「なんだよ、その『なけなしの』って!!−−−−まあ、あれで怒る気が失せたのは事実だけどな。だけど、そんなんじゃなくて・・・・・・・・・・・・」ザックスはくすんだ空を見上げた。「俺は、黄金のチョコボが見たくてここまでやってきた。そして、その目的を果たすためには、ジェノバとやらを倒さなきゃならない。それだけのことだよ。『限りない幸福』ってのも、あいつらのうそにすぎなくてもかまわない。ちっぽけな幸福がいくつもあるほうが、よっぽどか幸せじゃないかな。あいつらを助けることができたらその事実は、俺にとってきっと、ちっぽけな幸福のひとつになってくれると思う。だから、行くんだよ。あいつらのためだけじゃなくて、俺自身のためにさ」
「ザックス・・・・・・・・・・。おまえ、脳にウイルスが回ったか?」
「なんとでも言えよ。それが、俺の戦う理由なんだから。だけど、戦う理由のないヤツにまでついて来いとは言わない。理由なしには戦えないだろう?ここまでいっしょにやってきてくれた。−−−−−それだけで、いいよ」
 ザックスはリボンをはちまきのようにしめなおし、気合を入れた。
「−−−−さてと、それでは行きますか」
そしてバスターソードをしっかりとかかえ、崖をすべり降りていった。
「あいつ、底無しのバカだと思っていたが・・・・・・・・・・・どうもその評価は間違っていたようだな。とんでもなく頭の切れる、底無しの悪党だ。あんな言い方をされたんでは、最後までつきあうしかないじゃないか。−−−−−しかたがない。オレも力を貸してやる」
セフィロスはそう言うと、ザックスのあとを追ってクレーターの中へと降りていった。
「先輩、隊長!俺も行きます!俺をひとりにしないでください〜〜〜〜〜〜!!」
クラウドもクレーターに飛び込んだ。ひとりで引き返すほうがよっぽど怖かった。



×××



 クレーターの中は迷路のようだった。洞窟あり、崖あり、わかりにくい通路あり。いつの間にか袋小路に入り込んでいたり、同じ道を何度も通っていたりする。
 そして、とんでもなく強いモンスターがうようよしていた。そいつらと戦っているうちにどっちに行くつもりだったか忘れ、また道に迷う。
 しかし、こんなところでザコなどにやられるわけにはいかない。
 本当の敵は、このクレーターの奥にいる。
 そして、どこをどう通ってだったのかはさっぱりわからないが、やがて底の方に邪悪な気配に満ちた光が見えてきた。
 その先は断崖絶壁になっていた。ここを降りたら、それこそ戻ってこれそうにない。
「この下に飛び下りることはできそうだけど・・・・・・・・・・。あとで上がってこれるのか?どう見ても、足場もなんにもないぜ。たとえジェノバとやらを倒してもそのあと戻ってこれなかったら、なんかすっげーマヌケだよな」
「そういう心配をする必要はないだろう。どんなダンジョンでも、クリア条件を満たせばなんらかの形で出てこれるようになるもんだ」
「そっか。それじゃ、ウダウダ言ってないで飛びこんじまえばいいんだ」
「しかしな−−−−−−」
セフィロスが何か言おうとした時には、ザックスはすでに下に飛び下りてしまっていた。
「お〜〜〜い、このくらいなら降りるのは簡単だぜ。ふたりとも早く来いよ」
「おい、ザックス、あとでちゃんと出てこれるとは思うが、飛び降りる前にやるべきことがあったんじゃないのか!?」
「やるべきこと?なんかあったっけ」
「たとえばだな、ほこらからおまえが突然飛び出して行ってやったこととか」
「あ、セーブか。そうだよな、だいぶもぐったことだし、そろそろやっといた方がいいよな」ザックスはセーブクリスタルを取り出した。そしてがくぜんとした。「・・・・・・・・・・セーブクリスタルが光ってない・・・・・・・・・・・・」
ザックスはそれでもPHSのボタンを押してみた。やはり、使えそうになかった。
「やっぱりな・・・・・・・。それこそ戻ることのできない場所だから、嫌な予感はしたんだ・・・・・・・・・・・」
「ど、どうすりゃいいんだよ!なんとか上に戻って・・・・・・・・・・・それとも、PHSをそっちにほおりなげれば・・・・・・・・・・・」
「PHSを壊す気か。そんな無謀なことをしなくても、全滅しなければ済むことだ」
「そ、そりゃそうだけど・・・・・・・・・・。だけど、全滅したら、クレーターの中での苦労が水の泡って、こと、だろ?」
「そういうことだ。これ以上ない緊張感を持ってラスボスとご対面できるぞ」
「・・・・・・・・・・・簡単に言うなよ。今までに出会ったザコどもとは違うんだぜ・・・・・・・・・・・・・・」
「簡単に言おうが複雑な言い回しをしようが、事実は変わらん。我々もすぐ降りる」
 そう言ってセフィロスが飛び下りようとしたその時。
「・・・・・・・・・・・・・・・じ、地震!?」
 クレーター全体が揺れている。岩のかけらが転げ落ちる。
 どうしたらいいのかさっぱり考えられないうちに、ザックスが立っているフロアが端の方から崩れ始めた。
「ザックス!早くつかまれ!!」
セフィロスが正宗をさしだした。
「つ、つかまれって・・・・・そんなもんに・・・・・・・・・・・・!!」
どうすることもできないまま、ザックスは奈落の底へと落っこちていった。
「せ、せんぱい〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「バカもん!剣はちゃんと鞘におさめていたのが見えなかったのか〜〜〜〜!!!」



×××



 いったいどのくらい落ちていったのか。
 落っこちるのに飽きた頃、ザックスはどこかの空洞にほおりだされた。そして、ぶざまなかっこうで下に墜落した。
「いってえ・・・・・・・・。なんかみっともねーな」
ザックスは痛む尻をさすりながら立ち上がった。
 そこは不思議なほど広く、美しい空間だった。壁も、天井も、氷のように光っている。
「なんだろ、これ・・・・・・・・・・・・・。マテリアかな、クリスタルかな?なんにしても、すっげーな。こんなにたくさん結晶が集まってるとこなんて、見たことねーぜ」
マテリアだかクリスタルだかの壁をなで回し、ひとかけらくらいもらっていけないかな、などとのんきなことを考えていると、うしろに何かの気配が突然現れた。ザックスは振り返った。
 そこには女が立っていた。いや、女と言うよりは、女の姿をした『何か』としか言えなかった。美しい姿をしていたが、その身にまとう邪悪なオーラはその美しさをえたいの知れないものにしていた。ザックスですら、その美貌に惑わされなかったくらい。
「ようこそ。あなたですね。あのチョコボたちを救おうと英雄気取りでこんなところまで来てしまった大バカ者は」
「大バカ者・・・・・・・・・・・・?」バカと言われ慣れているザックスも、これにはさすがにむかっときた。「バカで悪かったな。あんたに言われなくても自覚してるよ。で、あんたか?ジェノバとやらは」
「そのとおり」
「あんた、なんだってこの世界をこんなにした?こんなことをしたって、なんの得にもならんだろうに」
「おもしろいから」
「はあ?」
「おもしろいから。ただそれだけですよ。世界を支配するってのは、最高の道楽です」
「自分の楽しみのためだけに、あいつらにひどい生活をさせてるってのか。聞けば聞くほど許せねーぜ。そんなヤツはこの俺が遠慮なくたたっ切ってやる!」
「ずいぶん勇ましいことで。この楽しさ、あなたみたいなバカにはわかってもらえないですかね」
「バカでけっこう!」
ザックスはバスターソードを抜いた。
 ジェノバの姿がかき消えた。そしてその形を変え、再び現れた。
 巨大化し、邪悪な本来の姿をさらしたジェノバは、赤い光、青い光、吸収、と次々に強力な攻撃をしかけてきた。ザックスは攻撃のすきを狙ってバスターソードをたたき込み、使える限りの魔法をあびせかけた。そして攻撃からのがれきれずに傷ついた自分の体を回復する。援護してくれる仲間からひきはなされ、攻撃も回復も全部自分でやらなければならないのは辛かったが、ここでひきさがるわけにはいかない。
 チョコボたちのために。そして、この先にある自分自身の夢のために。
 自分の楽しみのためだけに世界をひとつ破壊しようとしている、許せない敵を倒すために。
 第一、ここまでコケにされたうえに返り討ちになんかされてたまるか−−−−−!!
 しかし、どんなに攻撃しても、ジェノバはまるで衰えを見せない。
 −−−−−あとどれだけダメージを与えれば倒せるんだ??
ザックスはほとんど期待はせずに、ダメもとでステータスをみやぶってみた。
   『HP・???? MP・???』
「ああ〜〜〜、やっぱりラスボス相手はだめか〜〜〜〜〜〜!!!イリーナちゃんの3サイズもみやぶれなかったし〜〜〜〜〜〜〜!!」
そう叫んだ時、別のステータスが見えてきた。
   『弱点・究極のおめでたさ』
「はあ??」
ザックスの攻撃が一瞬止まった。そこへジェノバはアクアブレスを放った。
「なんなんだよ、それ!?そんな属性の攻撃、あるか〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ザックスはわめきながら自分にケアルガをかけ、むちゃくちゃにバスターソードを振り回した。
 長い戦いの末、とうとう回復アイテムが底をついてきた。ポーションもエーテルも、もうほとんどない。これ以上戦いが長引けば、やられるのは間違いなくこちらの方だった。
「ちくしょう・・・・・ここまできて・・・・・・・・・・・・・」
 −−−−アレを使うか??
 あれ、とは・・・・・・リミット技。
 スタッフたちが手を抜いて−−−いや、手を抜いたつもりはないのだが−−−ひとつしか設定しなかった、ザックスのリミット技。リミットゲージはさっきからたまりっぱなしだし、通常攻撃よりダメージを与えられるのもわかっているのだが、失敗する確率もかなり高い。そして、もし失敗したらそこでジ・エンドになってしまうのが確実だからと使えなかった技。
「こうなったらヤケだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 −−−−−ザックス、リミットブレイク!!
「くらえ!リミット技『吉斬り』!!」
ザックスはリミット技をジェノバに叩き込んだ。『苦斬り』にも『古斬り』にもならず、漢字の書き順までちゃんとあっている、立派な攻撃を。
 ジェノバの様子がおかしくなった。今までどんな攻撃にも蚊が刺したほどの反応も見せなかったジェノバが、急に苦しみだした。そしてその姿が崩れ、地に吸い込まれるように、消えた。
「やった・・・・・・・やった、のか?」
ザックスはぺたりとその場に座り込んだ。
 よどんでいた空気がさらりと軽くなった。もともと光っていた洞窟の中が、さらに輝きを増した。
「ザックス−−−−−−!!」
どこからともなく、彼を呼ぶ声が聞こえてきた。その声のした方を見ると、今まで気がつかなった通路があった。
「ザックス、無事だったか!?」
「せんぱい、心配しましたよ〜〜〜!ひとりでこんなところに落っこちたりして〜〜〜〜〜〜〜」
そしてセフィロスとクラウドに続いて現れたのは・・・・・・・チョコボたち。
「あ、あんたたち・・・・・・・・・・。こんなとこまで来て、大丈夫なのか?」
「はい!とうとうジェノバを倒してくださったのですね!!」ボコは感激で涙を浮かべていた。「ウイルスの力が弱まって、まだ少し息苦しいですが、あなたがたを追ってくることができました。それに−−−−見てください、この羽根!!」
ボコは羽根を広げた。色あせていた羽根が、ほんの少しだが、ツヤを取り戻していた。
「ウイルスの影響が完全に消えるのにはもう少し時間が要るでしょうが、私たちはこれで元の生活を取り戻すことができます。本当にありがとうございました!!」
「さて、用が済んだのならこんなところに長居は無用だ。チョコボたちの身体はすっかり元通りってわけではないが、崖を登るくらいの力は戻ったと言っているし、さっさと町に帰って休もう。おまえ、すっかりずたぼろじゃないか。−−−−−しかし、本当によくやったな」
セフィロスはザックスの肩を叩いた。
 そしてセフィロスとクラウドは、チョコボの背にまたがった。しかしザックスは、まだへたりこんだままだった。
「ザックス、どうした?立つこともできないくらい疲れたか?そうならそうと言え。手ぐらい貸してやるぞ」
「そんなんじゃないよ・・・・・・・ただ、俺・・・・・・・・・・・・・」
「腰が抜けてるんですか?見栄をはらなくてもいいですよ。ラスボスを倒すのに全力を使い切ったあとなんですから、腰を抜かしてるくらいのこと、笑うつもりは全然ないです」
「違うんだってば・・・・・・・・俺ってさ・・・・・・・・・・・」
 ザックスは突然叫んだ。
「俺、そんなにおめでたい男だったのか!?そうじゃなくて、あそこでたまたまジェノバのHPが尽きただけだと誰か言ってくれ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 ザックスが何を言っているのかさっぱりわからず、セフィロス、クラウド、そしてチョコボたちは顔を見合わせるばかりだった。




Home NovelTop Next