ザックスの冒険〜黄金のチョコボ伝説〜
DUNGEON13・チョコボワールド(2)
そして、一夜が明けた。 ゴンガガのジャングルは、今日も暑かった。 ザックスは先に立って、生い茂る木や草の間をほこらに向かって進んでいった。一度行ったことがあるし、村長に目印も聞いてはおいたが、人のめったにこない森の中ではどっちに進んでいるのかよくわからない。迷ったか?と思い始めた頃、ようやくほこらが彼らの前に姿を現した。 「あったあった。これだよ。このほこら」 「これですか・・・・・・・・・。期待通り、なかなか謎めいてますね」 「この真ん中の穴にこの石をはめればいいんだな。それからさ、ここに字らしいもんも彫ってあるんだ。セフィロス、見てくれないか?」 セフィロスはほこらの扉に目を近づけてみた。 「ふむ。確かに文字だな。あの地図に書かれていたのと同じ古代文字だ。しかし、ずいぶん風化しているな・・・・・・・・・。読めるか?」 セフィロスは文字の刻まれた跡をていねいに指でなぞった。そして、つぶやくように読み始めた。 「『我・・・・・ここに・・・・・空・・・・・厄災を封印・・・・・・・・汝・・・・・ルを手にし・・・・・・キーストーンを・・・・・・厄災を解き放・・・・・・幸福を得るも・・・・・汝らの手に・・・・・・』。−−−−−だめだ、これ以上はわからん」 「この石−−−−キーストーンって言うらしいな。だけどさ、本当にそんな妙なことが書いてるのか?この先にあるのは、黄金のチョコボが住むチョコボワールドじゃないのか?」 「そんなこと、オレが知るか。とにかく、これ以上は読めないんだ。知りたければ、この扉を開けてみるしかなかろう」 「『厄災』って・・・・・・・・・・。本当にここ、開けてもいいんでしょうか?」 「この扉だけは大丈夫だよ。俺のとーちゃんが一度開けてるけど、何も起こらなかったし。問題は、その先だよな・・・・・・・・。ほこらの番をしてるじーさんも、なんか悪いことが起こるとか言ってたし・・・・・・・・・」 ザックスはしばらく考え込んでいた。そして突然、キーストーンを握りしめると、叫んだ。 「あ〜〜〜〜、もうヤメ!ただ考えてるのって、俺の性にあわん!!」 「せ、せんぱい、ほんとーに開けるんですか!!」 「そのためにここまで来たんだ!この先、何が起こるかわからんけど、このまんまになんかしておけねーぜ!どうせ人生はギャンブルだ!!」 ザックスはほこらの扉の穴にキーストーンをはめこんだ。すると、あんなに押してもびくともしなかった扉が、まるで氷の上を滑るかのように簡単に動いた。 「・・・・・・・・開いた。こんなに楽々と・・・・・・・・・・・・」 「なるほどな。ここを突破するには、この石も必要だったのか。ザックス、おまえが抵抗しようがなんだろうが、やはりゴンガガの村に行かなければならなかったようだな」 「・・・・・・・・・・なんでその話に戻す・・・・・・・・・・」 「家に帰れてよかったねって言ってるんですよ。ねー、先輩、ゆうべはお父さんたちとどんな話をしたんですか?」 「別に、なんにも」 「そんなことないでしょ?いいじゃないですか、聞かせてくださいよ」 「なんにも特別なことはなかったって言ってんだろ」 それは照れでもなんでもなかった。本当に、特別なことは何もなかったのだ。 食卓に普段よりもごちそうが並んでいたとか、かーちゃんのお小言が一言もなかったとか、とーちゃんが自分から酒をついでくれたとか、毎日ではないことはあったが、そんなことは今までに何度もあったことだ。 彼の今の暮らしのことを多少は訊いても根掘り葉掘りしつこくではなかったし、勝手に飛び出していったことをとがめる言葉もなかった。もちろん、とーちゃんに殴られるようなことも。 居心地のいいような悪いような一夜だった。 「−−−−−どうしたんですか、先輩?やっぱりなんかあったんでしょ?」 「うっせーな、ほんとになんもなかったんだよ。いいから、中に入るぜ」 中はかびくさくよどんだ空気で満ちていた。20年くらい前に一度開けられただけの、何百年か何千年か、長い間ずっと封印されていた空間。 闇に目が慣れてくると、奥の方に石柱にかこまれた石の台があるのが見えてきた。 「・・・・・・・・・・・・・・祭壇って、あれのことか?」 その四角い石の上には、4つの穴と、それをつなぐ溝が木の枝のように彫られていた。 「この穴にクリスタルを置くんだな。−−−−−よし、やってみよう」 ザックスは慎重に、4つのクリスタルを穴に置いた。 しかし、何の変化も見られなかった。 「なんだよ、なんも起こらねーぞ」 「クリスタルは4種類あるんだ。置く順番があるんじゃないか?」 「あ、そうか。じゃ、これとこれを入れ換えて・・・・・・・・・・」 やはり、何も起こらない。 「これも違うのか・・・・・・・・・。じゃあ、こうか?」 それでも、だめ。 「置き方もせんにんに聞いておくべきだったな、ザックス。あそこでもう一度どうすればいいか訊いてみれば教えてもらえたかも知れないが・・・・・・・・・・。おまえ、すっかりうろたえてたからな」 「うるさいな!訊いたところで、やっぱり忘れてたかも知んねーじゃんか!!」 「もう一度、訊きに戻りますか?」 「その必要はねーよ!戻ったところですぐに聞き出せるかどうかわかんねーし、だいたい、クリスタルは4つしかないんだから、全部の組み合わせを試したところで知れてるだろ?自力でなんとかしてやらあ!!」 ザックスはムキになって、あーでもないこーでもない、とクリスタルを並べ替えていった。それでもなかなか結果が現れない。 「先輩、もしかして、同じ組み合わせを何度も試してませんか?」 「適当にやっているようだが、それではいつまでたってもラチがあかんぞ。オレがやろうか?」 「こーゆーのは『主役の役目』なんだろ?いいから俺がなんとかするの!!」 ザックスは何度も何度もクリスタルを置き直した。そして、セフィロスとクラウドが待ちくたびれて眠くなってきてしまった頃。 「お・・・・・・・なんだ?」 クリスタルから突然、蛍のような光がにじみでた。その光は溝をつたって祭壇から床へと流れ落ちていった。そしてその光は床に丸くたまり、見るものを誘うようにきらきらと輝いた。 「・・・・・・・・やったか?」 「そのようだな」 「この先に、『チョコボワールド』があるんですよね・・・・・・・・・・」 「そうだな・・・・・・・・・・・・。よし、行くか!」 ザックスはバスターソードを背負い直すと、その光の中に飛び込もうとした。あとのふたりも、それに続こうと身構えた。その時。 「あ〜〜〜〜!そうだ!!」 突然、ザックスは叫んだ。そしてほこらの外へと飛び出していった。 「ど、どうした、ザックス!?」 外に出たザックスは、ふところからやおらPHSを取り出し、ボタンを押した。 「そうそう、忘れちゃいけないRPGの常識。ラスダン前のセーブは基本中の基本だもんな〜〜〜。(ぴっぴっぴ)・・・・・・・・・・・・・あ、エアリス〜!?俺さあ、とうとうラスダン手前まで来たんだ〜。これから、ちょっくら行って来るから、セーブ頼むな。ん〜?場所ぉ?場所はなあ・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・ザックス、それならそれで、もうちょっとおとなしい言い方もあるだろう・・・・・・・・・・」 「お待たせ〜〜〜〜。んじゃ、今度こそ行こうぜ!」 そう言うなり、ザックスは光の中へ飛び込んだ。 「おい、ザックス、今度は前置きなしか!」 セフィロスはあわてて後を追った。 「先輩、隊長、待ってくださいよ〜〜〜〜〜〜!」 クラウドもふたりに続いた。 3人が飛び込んだ光の穴は、ゆるゆると小さくなっていき、やがて消えた。 |
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国境の長いトンネルを抜けるとそこは・・・・・・・・雪国だった。本当に。 あたり一面、雪と氷の世界だった。吹雪まで吹き荒れていて、視界もろくにきかない。チョコボせんにんの家のあたりも寒かったが、あそことは比べ物にならないくらいのひどい寒さだった。 「ここが・・・・・・チョコボワールド、なのか?」 「ものすごい寒さですね・・・・・・」 「あまり長くいると、凍えてしまいそうだ。どこか風を避けられそうなところはないか?」 「どこかって・・・・・・・・・・あっちの方に森があるみたいだ。とりあえず向こうに行ってみよう」 3人は雪原の中を進んだ。油断すると、吹き飛ばされてしまいそうだった。森の中に入っても、風はいっこうに弱くならない。木の枝がうなり、風の向きが絶え間なく変わる。雪原の方がまだましなくらいだった。 「・・・・・せんぱい、俺、眠いです・・・・・・・」 あんのじょう、クラウドが最初に弱ってきた。 「クラウド、寝るな!寝たら死ぬぞ!!」 「いいじゃないですか、少しくらい・・・・・・・・・俺、ゆうべは隊長とふたりきりだったから・・・・・緊張して・・・・・あまり寝て・・・・・・・・・・・・・・・」 「そういう問題じゃないだろ!?−−−−−ちくしょう、本当にどこかないか?落とし穴でもなんでもいいから・・・・・」 「−−−−−やはりおまえにかかわるべきじゃなかったのかもな。このオレがこんなところで終わりになるとは・・・・・・」 「セフィロス!あんたまで弱音を吐かないでくれよ!!」 「言えるうちに言うべきことは言っておきたいな。−−−−−オレだって、いつまで口がきけるものかわからん」 「セフィロス・・・・・頼むよ・・・・・・・・・・」 いくら並の人間にはおよびもつかない体力と精神力を持ったソルジャーでも限界はある。ましてや、もう自分では一歩も歩こうとしないクラウドをひきずりながらでは、なおさらだった。 吹雪のせいだけではなく、視界がぼやけてきた。そしてあの寒さが急に消え、ふわっと暖かいものがザックスをつつんだ。 そして3人は、雪の中でばったりと倒れた。 |
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薪がぱちぱちはじける音に、ザックスは目を覚ました。 空気が暖かい。凍えで感覚が狂ったからではなく、本当に暖かだった。体の下には柔らかいワラがしいてあり、ふとんもかけられていた。 「気がつきましたか?」 ザックスは声がした方に目を向けた。そこには−−−−1羽のチョコボがいた。声の主はどこだろうときょろきょろしていると、そのチョコボが彼の方に近づいてきた。 「封印が破られた気配を感じて、すぐ探しに行ったんですが−−−−。なんとか間に合ったようですね。もっと早くに見つけられなくてすみません」 しゃべっているのは、そのチョコボだった。 「チョコボが・・・・・・・・・しゃべってる!?−−− そんなはずはない、よな?これはきっと夢なんだ・・・・・。もう一回眠れば・・・・・・・・・・・・・」 ザックスはあわてて目を閉じた。その彼のひたいをチョコボはくちばしでつついた。その痛みは決して夢ではなかった。 「これは夢ではありませんよ。おわかりになりましたか?−−−−申し遅れました。私はココと言います」 ザックスはひたいをさわった。血がにじんでいた。 「おい・・・・・セフィロスでも血が出るほどどつきはしないぞ・・・・・・・・・・・・」 「すいません。どのくらい手加減すればいいのかよくわからなくて」 ココは申し訳なさそうな顔をした。 「−−−−−そうだ、そんなことより、セフィロスとクラウド・・・・・・・・・・他のふたりは!?」 「大丈夫ですよ。あちらで眠ってます」 ココが首を振った先のワラの山に、ふたりの顔が見えた。 「そっか・・・・・・・・・。助かったよ。ありがとな。だけどさ−−−−−あんた、なんで人間の言葉がしゃべれるんだ?」 「チョコボワールドのチョコボは、人間と同じ知能があるんですよ」 「え!?じゃあここは・・・・・・・・・・・・・本当にチョコボワールドなんだな?」 「そうです」 「ここが・・・・・・・・・。まさか、こんなに寒いところだとは思わなかったな・・・・。それに・・・・・・・・・」ザックスはココの羽根をつまんだ。「ここには黄金の羽根を持つチョコボがいると聞いてたんだけど。あんたの羽根、普通のチョコボと同じじゃないか。いや、同じというよりは、なんか、年くってよぼよぼになったチョコボみたいに色が抜けててさ。あんた、年寄りには見えないけど」 「そうなってしまったことには理由があるんです。あとでリーダーのところにお連れします。その時にお話ししますよ。とりあえず、もう少し眠ったらどうですか?それとも、何か食べますか?スープでよければすぐに用意できますよ。人間の口にあうかどうかわかりませんが」 「あ、食う」 どんな時にも食べることは忘れないザックスだった。 |
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セフィロスたちも気がつき、吹雪が少しおさまるのを待って、彼らは家の外に出た。 そこはかなり大きな集落だった。寒さや強い風に耐えられるように頑丈に作られた家がたくさん建ち並んでいた。 「ずいぶん立派な町ですねえ。先輩の村より家が多いや」 「それを言うなら、ニブルヘイムよりもでかいだろ」 「・・・・・・・・・・そうですね」 「リーダーの家はあっちです。すでに主だった者も集まっているはずです。行きましょう」 彼らが案内されたのは、町で一番大きな家だった。そこでは、数羽のチョコボが待っていた。 「ようこそ、ザックス、セフィロス、クラウド。私はチョコボワールドのリーダー、ボコと申します」 壱番存在感のあるチョコボがそう言いながら片方の羽根を差し出した。ザックスはとまどいながら、その羽根に握手した。 「そちらにかけてください。と言っても、この世界に人間が来るのはずいぶん久しぶりで、人間用の家具はいっさいないものですから、そんなものしか用意できなくて申し訳ありません」 ボコの前には輪切りにした木が3つ置かれていた。ザックスはそれに腰をかけようとした。そして、コケた。 「何をやっているんだ、ザックス」 セフィロスはザックスを助け起こした。 「だ、だってさ・・・・・・・・・・・。なんかすっげー迫力があるんだもんな、あのチョコボ」 「だからってうろたえてどうする。彼らに敵意はない。もっとしゃんとしろ。主人公らしく、な」 「わ、わかってるよ・・・・・・。まったく、ふたこと目にはそーやって脅しやがって」 ザックスは今度こそしっかりと丸太の椅子に座ると、言った。 「さて、と。それじゃ聞かせてもらおうかな。あんたたちが『黄金のチョコボ』ではなくなった理由を」 「何百年の昔、私たち海チョコボの羽根は、黄金のように輝いていました」ボコと名乗ったチョコボは話し始めた。「その頃は、ここはこんな雪に閉ざされた世界ではなく、春のように穏やかな気候でした。あなたがたの世界に通じる道も封印しておらず、そちらとの交流もありました」 「それで、あんたたちの話が今でも伝説になって残ってるんだな」 「しかし、ある時、空から巨大な何かが降ってきて、大地に大きな傷をつけました。それからです。この世界が永遠の冬に閉じ込められてしまったのは。そして、その混乱もおさまらぬある日、あれが現れたのです。あれは・・・・・・・・・・・・・ジェノバと名乗りました。それは私たちの間にウイルスをまき散らすと、大地の傷へと戻って行きました。それからなのです。私たちの羽根が色あせ、どんなところでも走れる力を失ってしまったのは」 「ジェノバ、ね。そいつか。手下に俺たちを襲わせたのは」 「私たちはそれを倒すべく、大地の傷へ向かいました。しかし、傷の内部に満ちているウイルスの力は強く、チョコボには近寄ることもできません。そこで私たちは、あなたたち人間に助けを求めることにしました。まだウイルスに感染していなかった仲間のチョコボをあなたがたの世界に送り出し、道をクリスタルとキーストーンで封印し、それを世界のあちこちに隠して、その所在地とヒントを記した地図を残しました。その地図の謎を解くことのできる人ならば、ジェノバを倒し、私たちを救ってくれると信じて。私たちは何百年も待ちました。−−−−−そして来たのが、あなたがただったのです」 「なるほどね。そういうことがあったのか。−−−−事情はだいたいわかったけどさ。ひとつ質問してもいいかな?」 「なんでしょう?」 「あの文書には、『幸運をもたらす』とかなんとか書いてあったんだよな。それがいざ来てみたらこんなに荒れた世界だし、おまけに俺たち、いきなり死にかけたんだ。ということは、俺がゴンガガの長老に聞いてた『悪いことが起こる』というのが正しかったらしいんだけど。あの文書の意味・・・・・・・・・本当のところ、どうだったんだ?」 「あの、それは・・・・・・・・・・」ボコの冷静な表情が初めてくずれた。「あの地図に興味を持ってもらうためのちょっとした・・・・・・・・・・ウソです。すみません」 「ウソぉ!?つまり俺たちは・・・・・あれにだまされた大バカってことか!?」 「す、すみません、本当に申し訳なく思ってます。でも、あなたがたは、数々の困難を乗り越え、危険を恐れず封印を解き、そしてここにたどりついた、ジェノバに対抗する力のあるすぐれた戦士だと信じております!」 「−−−−−まあ、他に方法がなかったってんなら、助けてやらないこともないけど・・・・・・・・・・・・」 ザックスは内心はともかく、表向きはしぶい顔をしたまま言った。 「お願いします!このひどい環境のせいで、私たちの数はどんどん減っています。この次を待っていたら、私たちは死に絶えてしまうかも知れません」 ザックスはわざとらしいくらいの大きなため息をついた。 「わかったよ。なんとかしてみるわ。そのジェノバとやらがいるところに案内してくれ。−−−−セフィロス、クラウド、あんたたちも最後までつきあってくれるよな」 「いいだろう。このところ手応えのある敵がいなくて退屈していたところだ」 「あの〜〜〜〜、俺も、ですか?」 「とーぜんだろ。ソルジャーをめざそうってんなら、このくらいのことから逃げてんじゃない」 「これ・・・・・・・・・・・・・『このくらいのこと』なんですか?」 |