ザックスの冒険〜黄金のチョコボ伝説〜
DUNGEON3・神羅カンパニー本社ビル(2)
セフィロスはザックスたちを連れて62階に昇った。エレベーターホールからこの階のフロアに通じるドアには鍵がかかっていたが、それをセフィロスは持っていたカードキーで開けた。 「60階から上は神羅の中枢部だからな。このキーがない者は入れないようになっている」 ソルジャーのひとりにすぎないザックスは、当然そんなものは支給されていなかった。クラウドにいたっては言わずもがな。 「さすがはソルジャー部隊の隊長っすね〜〜〜〜〜。いやあ、思いがけずお近づきになれてよかったっすよ〜〜〜」 ザックスはへいこらと、もみ手をしながらそう言った。 「おまえ、さっきまでのずうずうしい態度はどこへ行った?太鼓持ちのマネをしなくても、ちゃんと探してやる」 「そうか?いやあ、悪いな〜〜〜〜〜。んじゃ、頼りにしてっからさ」 と、今度は腕を組み、ふんぞりかえって言う。 「そうやってころころ態度を変えるのもやめろ!」 そこはいくつものドアが並ぶだけの静まり返った場所だった。薄暗い照明の下を歩いて、ひとつのドアの前でセフィロスは立ち止まった。 「軍事関係の資料はここだな」 彼はカードキーでドアを開け、中に入った。ずらりと並んだ棚の間を通って、奥にある端末機のモニターのスイッチを入れる。 「黄金のチョコボ−−−−。確かにここにその地図らしい資料があるぞ。Dの棚−−−20番」 モニターを見ながらセフィロスが言う。 ザックスは言われた棚を探した。20の数字をつけられた場所にはきちんと整理されたファイルが並んでいる。 「チョコボチョコボっと−−−−あった!」 「あったか。見せてみろ」 セフィロスは、ザックスからファイルを受け取り、開いてみた。 そこにはおそろしく古そうな紙の束が入っていた。もとは薄い本のようであったものが、綴じ糸が切れてばらばらになったのだろう。文字は手書きで、古めかしい書体で書かれていた。 「ずいぶんと古いものだな。どうやら、おまえの言っている黄金のチョコボのことが書いてあるらしいが、肝心のチョコボの居場所となると−−−−。なんだ、これは?」 セフィロスが指さした場所には、なにやらわけのわからない模様のような線がのたくっているだけで、文字としては全然意味をなしていない。 「子供のいたずら書きみたいだな。それになんだろ、この紙?と言うより、紙なのか、これ?」 「羊皮紙だ。このインクの具合といい、本当に古いものだろう。書かれてからおそらく数百年はたっているな。羊皮紙は貴重品だから、単なる冗談で書かれたものとは思えないが・・・・・・・・。羊皮紙は普通の紙と違って破れにくいし、変質しにくい。熱にも強くて丈夫だからな。熱に強い・・・・・・・・・・・か」 セフィロスは壁に取りつけられていた照明のカバーを外し、電球をむき出しにした。ちょっと触ってみて熱かったのか、かすかに顔をしかめた。 「これならやれるか?」 セフィロスは熱い電球に羊皮紙を押しつけた。しばらくすると、模様の線の間に他の線が浮き上がってきた。 「うわあ、字になった!」 「やっぱり、熱によって色が出るインクを使っていたんだな。あぶりだしの要領だ。暗号文書としては初歩だがな」 「暗号文書!?うわ〜〜〜、かっこいい〜〜〜。ね、ね、俺にやらせて!!」 ザックスは羊皮紙をセフィロスからひったくると、自分で電球に押し当ててみた。字がどんどん浮かんでくる。彼はしばらくわくわくしながらその字を見ていたが−−−−やがて固まってしまった。 「・・・・・・・・・・・・あの・・・・・・・・・・・。これ、なんて読むんだ?」 「やだなあ、先輩、ソルジャーのくせに字も読めないんですか?・・・・・・って、読めませんね・・・・・・・・・・・・・・」 「古代文字で書かれてるんだ。おまえらに読めるもんじゃないだろう」 セフィロスは渋い顔をして羊皮紙を取り上げた。そして、浮かんでいた字を読んだ。 |
『黄金のチョコボを求るもの、この世にある4つのクリスタルを集めるべし』 『さすれば黄金のチョコボ現われ出で、限りなき幸福をもたらすべし』 |
「4つのクリスタル?それを集めればいいんだな?それで、そのクリスタルってどこにあるんだ?」 「この文書には、地図が2枚あるらしいのだが・・・・・・・・・」セフィロスは羊皮紙に添付されていた注釈を見た。「1枚は、数十年前に行われた探索の後、紛失したらしいな。あと1枚、クリスタルの所在地を記した地図はあるはずなんだが−−−−」 セフィロスがそうつぶやいたとき、いきなり資料室のドアが開いた。そこに立っていたのはダークスーツに身を包んだ4人の男女だった。 「おや、ねずみがいると思ったら、ソルジャーさんたちだぞ、と」 そのうちの赤っぽい髪の男が言った。 「セフィロス、ここで何をしているんですか。あなたのカードナンバーが許可なく使用されたと警備から連絡があって来てみたら−−−−。いくらあなたでも、無断で資料を閲覧するのは禁じられています」 リーダーらしい、黒髪の男がとがめるように言う。 「やれやれ、タークスのおでましか。ツォン、余計なことに気を使っている暇があったら、街で酔っ払いでも取り締まっていたらどうだ」 「ちょっと、ツォンさんになんてこと言うのよ!いくらソルジャー部隊長でも、英雄でも、超美形でかっこよくても許さないわよ!」 4人のなかでただひとりの女性が叫んだ。 「しゃべりすぎだぞ、イリーナ。ともかく、資料を元に戻して即刻出て行って下さい」 「いやだね。これは俺のもんだよ〜〜〜ん」 ザックスはファイルをしっかりと抱えると、セフィロスの陰に隠れてタークスに舌を出して見せた。 「そいつが持っているのはもしかして、黄金のチョコボのファイルじゃないか?またそれを狙ってきたのか、と」 「どういうことだ、レノ?『また』とは」 レノが口を滑らせた言葉をセフィロスが聞きとがめた。 「あなたには関係ありません」 代わりに答えたツォンの声は冷たかった。 「俺には大ありなんだよ!」 ザックスが叫んだ。 「なんだなんだ、このにーちゃんはさっきから、と。見たことのない顔だな、と」 「誰だっていいだろ、このチンピラ。とにかくこれは俺がもらったんだもんね」 「それは神羅の重要書類です。閲覧だけでも制限しているものを無断で持ち出そうとするのなら、逮捕します」 ツォンがそう言うと、レノは電磁ロッドを取り出し、大男−−−−ルードは身構えた。イリーナも手榴弾のピンを抜く。 「やるのか?」 ザックスはバスターソードをかまえた。 狭い資料室のなかで戦いが始まった。始まったはずなのだが−−−−−−。 「う〜〜ん、あっちの男どもはともかく、こんなかわいこちゃんとはねえ・・・・・・・・・」ザックスはいそいそとイリーナの方に近づいて行くと、いきなり別の意味での戦いを始めた。「君みたいに素敵な女性と戦うなんて、俺にはできないよ。そんな味気ないことはやめて、デートでもしない?」 「なんですって?それは女性差別だわ。私だってタークスよ!さあ、かかってらっしゃい!!」 「そんなこと言わずにさ。お話するだけでいいから」 「どこにそんなヒマがあると言うの!」 「あ、やっぱり仕事中はダメ?だったらあとで連絡するからさ。PHSの番号教えてよ」 「ずうずうしいわね!私はあなたみたいなカルイ男は大嫌い!私が好きなのはツォンさんみたいにマジメな人なのよ!!」 「イ、イリーナ、こんな時に何を−−−−」 「きゃっ!ツォンさん、聞いてらしたんですか!!きゃ〜〜〜、恥ずかしい〜〜〜〜!!」 イリーナは真っ赤になって顔をふせた。ピンをはずして投げるばかりになっていた手榴弾が落ち、ツォンたちの方へころがった。 「ば、ばか、イリーナ!何をしてるんだ〜〜〜!」 ツォンの目の前で手榴弾が火を吹いた。レノとルードも巻き添えを食らった。 「きゃ〜〜〜〜〜、ツォンさん〜〜〜〜〜〜!!」 イリーナはあわててツォンに駆け寄り、自分の攻撃にぶっ倒れた彼を抱き起こした。 「・・・・・・・・・俺たちのことは心配してくれないのかな、イリーナ、と」 「・・・・・・・・・無駄だ」 レノとルードは、ばったりと床に倒れた。 「あれ〜〜〜〜、終わっちゃったの??」 ザックスが気の抜けたことを言った。 「まあ、いいや。−−−−なあ、赤毛のにーちゃん」ロッドを拾い上げ、レノの目の前につきつけてザックスは訊いた。「さっき言ってた、『また』というのはどういうことなんだい?」 「前にそのファイルが持ち出されたことがあったんだな、と。わいろをつかまされた職員だったが。アンダーミッドガルで顔を売ってるコルネオとかいうやつに見せたらしいんだぞ、と」 その時突然、PHSの呼びだし音が響いた。ようやくふらふらと起き上がったツォンがPHSを取りだし、応答した。 「−−−−はい。わかりました。すぐに行きます」そして、セフィロスに顔を向けた。「プレジデントがお呼びですよ、セフィロス。来てもらえますね」 |
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神羅ビルの70階は広大な社長室になっている。タークスに前後をはさまれるようにして、ザックスたちは瀟酒な造りの秘書室からさらに広い階段を昇った。 広いフロアのむこうの巨大なテーブルに向かっていた男が顔を上げた。 「なんだ、プレジデントではなく、ルーファウス副社長か」 セフィロスが言った。 「親父は出張中だから、私が社長代理だ。セフィロス、資料室にいたそうだが、何をしていた?」 青年はまだ若いが、人に命令することに慣れきった態度だった。額にかかる金髪をかきあげながら、歴戦のソルジャーをまっすぐに見つめる。巨大企業神羅カンパニーの副社長、ルーファウス神羅だ。 「これまでにない能力を持つチョコボがいるという話を耳にしたのでね。それが神羅軍にとって有益なものかどうか確かめるくらいはさせてもらってもいいと思うが」 「もしかして、黄金のチョコボのことを言っているのか?−−−−私もそのファイルは見たことはある。しかし、そう意味のあるものとは思えなかったな」 「ですが、副社長」ザックスがふたりの間にわりこんだ。「俺たち、黄金のチョコボの存在を確かに指し示すヒントを得たんです。それが俺ひとりの力でだったのならともかく、それはセフィロス隊長のお力があってこそでした。そこでです。どうせ今、戦争なんかやってないし世の中は平和。ソルジャー部隊が出動しなければならない事態はないはずです。早く言えば、俺のようなぺーぺーソルジャーはもちろん、隊長もヒマなんです。実戦でこそそのすばらしい能力を発揮する隊長のようなソルジャーを毎日毎日誰にでもできるようなデスクワークにしばりつけておくなんて、もったいなくないですか?だったら余裕のあるうちに、隊長にチョコボ探索命令を出してください!俺たちも力になります!」 「おい、ザックス−−−−」セフィロスはザックスをひきよせると、ささやいた。「おまえ、あまり勝手なことを言うな。オレは決して−−−−」 「素直になれよな〜〜〜、セフィロス。あんた、俺たちがオフィスにつっこんだ時からことあるごとに、デスクワークなんか嫌いだ、モンスター退治にでも行きたいってつぶやいてたぞ。だから代わりに言ってやったんじゃないか」 「そ、そうだったか??」 確かにそう考えてはいたが、まさか声に出していたとは思っていなかったセフィロスだった。 ルーファウスは少し考えこんだ。 「それはすぐに見つかるのか?」 「さあ、それはなんとも・・・・・・・・・・。古文書の後半が誰かに盗まれているようで、まずはそれを探すことから始めませんと」 「それじゃ、だめだ。私が社長代理の間はセフィロスをミッドガルから出すわけにはいかん。私のボディガードをしなければならないからな」 「そんなことは他のソルジャーで十分じゃないすか!」 しかし、ルーファウスはだだっこのように首を横に振った。 「セフィロスみたいに見栄えのいいやつは他にはいない。テレビのニュース番組なんかで私が映される時にこいつを従えてると、私がかっこよく見えるからな」 「オレはあんたのお飾りか!」 セフィロスは怒鳴った。 「ねえ、ルーファウス副社長、俺たちに黄金のチョコボを探させてくださいよう!俺はそのためにソルジャーになったんすから」 ルーファウスはふたりのソルジャーと一般兵士ひとりを前にしばらく考えていた。が、やがてにやりとした。 「実は私もひまでね。親父の代理にもうんざりしていたんだ。そうだ、私と勝負して勝ったら、黄金のチョコボ探索を許可してもいいな」 ルーファウスはテーブルから立ち上がると「ポチ、ポチ」と呼んだ。テーブルの陰から現われたのは夜の色の毛皮を光らせたダークネイションだ。猛獣として知られているけものを飼いならしているのだ。 「いけません!彼らは一応軍人ですよ!セフィロスは並みの人間じゃありませんし」 ツォンがあわてて、ルーファウスを引き止めた。 「人を化け物みたいに言うな」 しかし、ルーファウスはツォンを押しのけた。 「おまえたち、私とポチを楽しませてくれ。さ、ポーズを決めてくれよ!」 セフィロスは渋い顔をした。 「そういうことか−−−−。あんたは兵隊ごっこが好きだったな」 「何の話をしてるんだ?」 ザックスは訊いた。 「兵隊の行進の決めポーズは習ったか?この副社長殿は行進が大好きでいらっしゃるんだ」 「はあ、あれね。あれなら俺、得意だぜ。ソルジャーともなれば、人の目を気にしなきゃならないからな〜〜〜。けっこー練習したぜ」 「戦闘訓練もちゃんとしたんだろうな?」 「ん、まあ、それもそれなりに」 「おまえ、それでよくソルジャーをやってるな・・・・・・・・・・・」 「とにかくだ、号令どおりにポーズを決めて、私の好感度が100パーセント以上になったら、おまえたちの申し出をきいてやろう」 ザックスはバスターソードを抜くと、軽く振り回した。 「よし、いつでもいいぜ」 「セフィロス、おまえもだ。それから、そこのおまけ」 「え?俺のこと?」 クラウドは訊いた。 「そう、おまえもだ。3人全員が合格しないと、許可しないからな」 「なんでこのオレがそんなことを−−−−」 いやいやながら、セフィロスとクラウドもルーファウスの前に整列した。なぜかセフィロスは、ザックスから3メートルも離れて。 そしてわずかの沈黙の後。 「行くぞ!」ルーファウスが叫んだ。「右向け右!−−−−スクエア!−−−−ラウンド!左向け左!」 ルーファウスは次々と命令を出した。 ザックスはなんなくポーズを決めていった。クラウドもなんとか一般兵用ライフルを号令通りに振り回す。セフィロスもばかばかしいという表情を浮かべながらも正宗をひらめかせ、華麗な姿を披露した。 「トライアングル!−−−−それでは−−−−最後にスペシャルポーズ!」 ちゃららら〜〜ちゃっちゃっちゃっちゃちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜 そこでザックスは、セフィロスがなぜそんなに離れて立ったのか理解した。銀の輪のように回る正宗が、耳のすぐそばでうなる。 くるくるくる・・・・・・・・・・・・・・・・びしっ! 「おし、完璧!」 ルーファウスは機嫌よく手をたたいた。 「なかなかやるじゃないか」 「ふっ、とーぜんだぜ」 ザックスは胸を張って言った。正宗の風を斬る音にビビったことなど、もう忘れていた。 「このオレにこんなことをさせるとはな」 セフィロスは反対にぶすっとしていた。 「まあ、そう言うな。ごほうびだ、チョコボ探索を許可する。ただし、黄金のチョコボを発見したら、第一に私に報告するように」 「やった〜〜〜!」ザックスは飛び上がって喜んだ。「よかったな、セフィロス、クラウド!」 「ちょっと待て。私も行くのか?」 「素直になれって。デスクワークにはうんざりなんだろ?」 「う・・・・・・・・・・・まあ、な」 「あの〜〜〜、俺も、ですか?」 「行かないのか?」 「だって、俺、軍務が−−−−。ソルジャーになるための訓練もあるし」 「だっからさあ。セフィロスも行くんだぜ?ソルジャー部隊長にくっついて実務につくなんて機会、めったにないぞ。その方が単なる訓練よりずっと役にたたねーか?」 とたんにクラウドの顔がぱっと明るくなった。 「そ、そうですね!セフィロス隊長といっしょに仕事ができるなんて最高です!」 「よし、決まり!それでは副社長殿、俺たち3名、これより黄金のチョコボ探索に出発します!」 「わかった。それで、どこを探すつもりだ?」 またテーブルの向こうに戻ったルーファウスは訊ねた。 「まずはアンダーミッドガルっすね。地図を持ち出したコルネオとかいうやつを捕まえなきゃ」 ザックスは答えた。 「コルネオなら、ウォールマーケットに根城を持ってるぞ、と」レノが言った。「スラムの裏社会では実力者らしいから気をつけなよ、と」 「忠告ありがとよ、チンピラのにーちゃん。あんたけっこーいいやつなんだなあ」 「チンピラとはなんだ、チンピラとは!」 「まあまあ、いいんじゃん、細かいことは」 レノの肩に手をまわして、調子のいいザックスだった。 |
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(ぴっぴっぴ・・・・・・・・ぷるるる) |