ザックスの冒険〜黄金のチョコボ伝説〜
DUNGEON2・ミッドガル0番街
ミッドガルはザックスの目にはとほうもないしろものに映った。周囲に8基もの巨大な魔晄炉をそなえた円形のプレート上の都市ミッドガル。中央に雲をつくようにそびえる神羅本社ビルが、あたりを威圧している。 故郷のゴンガガ周辺ではめったに見ない魔晄車やオートバイが通りを行きかい、歩道にはあふれんばかりの人が急ぎ足で歩いて行く。 「おい、気をつけろ!」 ぼんやりとあたりを見回すザックスに突き当たって通行人が文句を言う。ザックスは人波に押されるようにして大通りからせまい路地に入った。 「くすくす−−−−−」 誰かが笑う声がした。ザックスは、目の前にひとりの少女が立っているのに気がついた。 明るい茶色の髪の少女は、目を丸くしているザックスの顔をおかしそうに見ていた。 「あなた、ミッドガルは初めてね」 「え、な、なんでそう思う?」 「だって、あなた、おのぼりさん丸だしだもの。違うの?」 「そ、そんなことは−−−−−−」 「あるんでしょ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」 ザックスはあきらめて、認めた。 「ま、そんなことはどうでもいいわ。あなた、ステキだしね。ねえ、お花買わない?1本1ギルにまけておくから」 少女は片手に下げていたかごを見せた。その時になってザックスは初めて、その中にみずみずしい花が入っているのに気がついた。 「花が1ギルだって?高いなあ。俺んちの近くのジャングルじゃ、それより大きな花がただでいくらでも咲いてるぜ」 「へえ、そんなにお花、咲いてるの?ね、どんなお花?」 少女は目を輝かせた。 「どんなって−−−−名前なんか知らないよ。いつもそのへんにいろんなのが咲いてるから」 「ふ〜〜ん、いいね。ここではあんまりお花咲かないの。一生懸命世話をしてやっと咲かせたのよ、これ」 少女はいとおしそうにかごの中の花に触れた。 かわいい子だな−−−−ザックスは思った。ゴンガガの日に焼けた女の子を見慣れた目には、その少女の白い肌がまぶしく見える。 「じゃあ、その花ひとつもらうよ」 ザックスは1ギルの硬貨を取り出して言った。 「わ、ありがと。待ってね、一番きれいなのをあげる」 少女はかごの中から花を一輪選び出してザックスにさし出した。 「わたし、エアリス。あなたは?」 「俺、ザックス。−−−−なあ、今日は何かのお祭りなのかい?」 「どして?」 「だってあんなに人がいるじゃないか」 エアリスはまた笑った。見ているとなんだか心がくすぐったくなるような笑みだった。 「ミッドガルじゃいつものことよ。人人、人だらけ。ねえ、あなた−−−−ザックスはどうしてミッドガルへ来たの?」 「神羅カンパニーに用があってね」 「神羅カンパニーに?何の用?」 「ちょいともらいたいものがあってさ」 そう言ってザックスは、また大通りの方へ行こうとした。 「待って!わたし、近道を知ってる」エアリスは彼を呼び止めた。「こっちよ!」 花売りの少女はたくみに裏通りを通り抜けて、ミッドガルの中心にそびえる神羅ビルへザックスを連れて行ってくれた。 「へえ、君、この街をよく知っているんだなあ」 「だってわたし、小さい頃からこの街で暮らしているもの。でも、神羅に何をもらいに来たの?」 「ずいぶん前に、神羅軍が調べていたことの資料をだよ」 「ちょっと待ってよ!商売用のパンフレットとかならともかく、軍隊の資料なんかをもらって行こうって言うの?」 しかしザックスは気にせず、神羅ビルの巨大なガラス扉をくぐって本社ビルに入って行った。何となくほうっておけない気がするのか、エアリスもそのあとに続く。 そこはザックスが見たこともないような空間だった。見上げるように高い天井。ガラスと鉄とコンクリートの大伽藍だった。 ちょっと気後れしたが、そんなことはかまわず受付の女性にザックスは訊いてみることにした。 「だからさあ、わかんないかなあ。もうずいぶん前らしいけど、神羅が調べてたことだけは間違いないんだよ」 受付嬢は困ったようにこの田舎者を見ている。 「そのようなことはわかりかねますが−−−−」 「神羅の人ならわかるはずだろう。羽根が金色に輝くチョコボのことだよ!そのチョコボに関する地図がここにあるってことはわかってんだ。あんたが知らないのなら、他の人に訊いてみるよ」 ザックスは受付から離れ、上階へと昇るエレベーターの方に向かった。ところが、エレベーターの前で警備員に止められてしまった。 「この上は神羅の社員でないと行けません」 「ザックス、待ちなさいってば!」エアリスはザックスの腕を引いた。「行きましょう。騒ぎを起しちゃだめよ」 ザックスはくやしかった。ここへ来さえすればなんとかなると思っていたのに。 「無理よ。神羅は世界中のいろんなところから、会社に利益のありそうな情報を集めているって言うわ。それを部外者に見せたり、ましてやくれたりなんかはしないわよ」 「そんな−−−−−。待てよ。そっか、神羅の社員だったら、それを探せるんだ!」 そう叫んだザックスの目の前に、実にタイミングよく一枚のポスターが貼ってあった。 『ソルジャー部隊員、募集』 「そうだ、ソルジャーって神羅の社員だよな!」 「そうだけど?」 「じゃあ、ほんとにソルジャーになればいいんだ。どうせかーちゃんにはソルジャーになるためにミッドガルへ行くんだって言ったしな」 「でも、ソルジャーになるって大変なことよ。試験だって難しいし−−−−」 しかし、ザックスが自分に都合の悪い話を聞いているはずがない。 「どこへ行けば、その試験って受けられるんだろ」 エアリスはあきらめたようにため息をついた。 「受付は神羅軍兵員会館ってあるわ。ここじゃないわね。ついてきて」 エアリスはそう言って彼を受付場所まで連れて行き、受験申しこみの手続きまで手伝ってくれた。 会ったばかりの自分にどうしてこんなに親切にしてくれるのかザックスに訊かれて、エアリスは笑った。 「なんだかほっとけないのよね、あぶなっかしくて。あなたったらなんにも知らないんですもの」 どうみても自分より年下の少女に田舎者扱いされるのは気にいらなかったが、事実なんだからしかたない。それよりも、都会に来たとたんにこんなやさしくてかわいい子に出会えるなんて、幸運としか言いようがなかった。 −−−−この調子なら、ソルジャーになるのなんて楽勝だぜ。 根拠のない自信に満ちあふれるザックスだった。 |
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ソルジャー試験までの数日、ザックスはアンダーミッドガルにあるエアリスとその母の住む小さな家に厄介になって過ごした。気さくなエアリスの母親は、このかさばる居候にも親切だった。 「ソルジャーになるために田舎から出てきたんだって?えらいね。男はこころざしが大きくなくっちゃね」 そう言われると、ソルジャーになるのが本来の目的ではなかったザックスは、ちょっとうしろめたいものを感じていた。 |
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さて、試験当日。 「試験、がんばってね。ああ、そうだ、これ渡しておくね」そう言ってエアリスは、小さなPHSをザックスに手渡した。「これからはもういっしょについてくってわけにはいかないけど、これでいつでも連絡がとれるからね。セーブもするから、なにかあったら電話して」 そしてエアリスは、試験会場に入るザックスを見送った。 試験会場には大勢の若者が集まっていた。いずれも体格のよい、元気そうな若者たちだ。みんな、神羅軍の精鋭・ソルジャーになることをめざして各地から集まってきたのだ。 ソルジャーの試験はまず、型どおりの体力測定から始まった。 体力なら、ザックスは絶対の自信があった。なにしろ、よちよち歩きの頃からゴンガガのジャングルで遊び、南の焼けつく太陽の下で畑仕事をさせられてきたのだから。 大勢がこの体力測定で振り落とされたが、ザックスはなんなく合格した。 合格者が集合させられた時、ザックスは隣に自分より年下らしい金髪の少年がいるのに気づいた。 「やあ、おまえさんも体力測定合格かい。一見華奢なのに、やるねえ」 少年はザックスの顔を見上げた。なんだか思い詰めたようなまなざしだった。 「俺はソルジャーになるんだ。ならなきゃいけないんだ」 「ふうん、どうしてだい?」 ザックスの言葉に、少年はきっとなってザックスをにらんだ。 「あんただってソルジャーになりたいから試験を受けてるんだろう。俺は−−−−俺はソルジャーになって強くなるんだ。あのセフィロスみたいな英雄になるんだ」 セフィロス−−−−その名前をザックスも聞いたことがあった。ソルジャー部隊の隊長で、これまでの幾多の戦闘に勝利した英雄と言われるソルジャーだった。 「おまえがセフィロスみたいになるって?ちびのくせに」 その言葉を聞きとがめ、筋肉のかたまりのような男がばかにしたように言った。 「なんだって!」 少年は自分よりはるかに大きな男をにらみつけた。あたりに笑いがおこった。 「そう言うなよ、俺たちみんなセフィロスにあこがれてソルジャーになろうとしてるんだ。ぼうやがあこがれたってあたりまえさ」 そうたしなめる者もいたが、少年と大男の間に張りつめた空気が流れた。 ザックスはこの少年を見直した。ばかにした大男をにらんだまなざしは思いのほか強かった。いい目をしているな、とザックスは思った。 「おい、おまえ、なんて言うんだ?俺はザックスってんだけどさ」 「お、俺は、クラウド」 少年はその青い目をザックスに向けて答えた。 本試験は格闘競技だった。受験者どうし一対一で戦い、勝ち残った者がソルジャーになれるのだ。 審判員が用意した武器を使うことも許された。もちろん、防具をつけ、剣などは模擬刀だったが。 武術など習ったことのないザックスは、しかたなく模擬刀のなかでも重そうな大刀を選んだ。それなら力で振り回せそうに思ったからだ。バスターソードという、多くのソルジャーが愛用している剣のレプリカらしい。 ジャングルの危険なモンスターを相手にすることにくらべれば、人間相手はザックスにとって楽だった。相手は自分をエサにしようとしているわけではない。ザックスは次々と勝ち進んだ。 競技の合間にほかのリンクで歓声が上がったのを聞いて、ザックスはそちらを見た。 あのクラウドと言う少年が、彼をばかにした男と対戦していた。力自慢らしい男の振り回す剣をたくみに避けて、すばやい身のこなしでふところに飛び込むと、手にした剣を相手の腹に叩き込んだ。 「勝負あり!」審判が叫んだ。「勝者、クラウド!」 やるじゃないか、とザックスは感心した。あの素早さはちょっとてごわいぞと。 そしていよいよ、ソルジャー試験合格まであと一戦という時、リンクに上がったザックスの前にクラウドが立った。 「やあ、おまえさんか。おまえさんとは戦わずにソルジャーになりたかったな」 軽い口調でザックスは言ったが、クラウドはきっと唇をかみしめたままだった。 戦いが始まった。 やはりクラウドは小柄なためか、素早かった。手にした剣は思わぬ早さで繰り出される。 そして、なにより気迫が違った。どうしてもソルジャーになりたいという執念があるのだろう。その想いがザックスにもひしひしと感じ取れた。 しかし、ザックスもここで負けるわけにはいかない。ザックスは大柄だが、ゴンガガのジャングルで走り回っていたおかげで素早さにも自信がある。大刀はクラウドの剣のように素早くは扱えないが、リーチの差は大きい。クラウドの攻撃はことごとくはね返された。 勝たねばならないと思い詰めているクラウドはあせりを感じ始めたようだった。動きに無駄ができる。無駄な動きは確実に体力を消耗させる。ザックスは次第にクラウドを追い詰めていった。 疲れたのか、わずかに足元がふらついたすきを逃さず、ザックスの大剣が突き出された。クラウドはリンクから吹っ飛んだ。 「勝負あり、勝者ザックス!」 審判が宣言した。 競技に勝ち残り、ソルジャー試験に合格したのはわずか数名だった。 ザックスは試合のあと、負けたクラウドをいたわった。 「悪いな、思いっきりどついちまって。おまえ、強かったから俺も必死だったんだ」 クラウドは苦い笑いをうかべていた。 「俺、自分で強いと思い上がっていたけど、あんたと戦って、本当に強いってどういうことかわかった。俺なんかまだまだだな。俺っていつもそうなんだ。ひとりで思い込んでさ。実力もないくせに」 うなだれるクラウドの肩をザックスはたたいた。 「その年でなら充分強いぜ。これからいくらでも強くなれるさ。まだ14かそこらなんだろ?」 「16だ!」 クラウドは言った。 「げ、マジ!?もっとガキだと思っ・・・・・・・・・・ああ、すまんすまん。そうか、それにしても俺よか若い。それであれだけやれりゃあ、立派だぜ。あのでかい奴をやっつけたとこなんてすごかったな」 その時、審判員の神羅の軍人がクラウドを呼んだ。そして戻って来たクラウドの顔は少し明るくなっていた。 「ソルジャーにはなれなかったけど、一般兵として採用してくれるらしいんだ。それもソルジャー候補として。俺、とりあえず兵士になって訓練を受けて、もう一度ソルジャー試験を受けるよ」 それがいい、とザックスはうなずいた。 クラウドの思い詰めたような目の光は消えていた。そして、戦いあったことで、お互いに通じ合うものができたような気がしていた。 |
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(ぴっぴっぴ・・・・ぷるるる) |