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ザックスの冒険〜黄金のチョコボ伝説〜

DUNGEON1・ゴンガガ村




 ザックスは退屈していた。
 彼が生まれたこの小さな村のなにもかもに退屈していた。
 いかにも南国らしい深いジャングルに囲まれて、まるで眠りこけているようなゴンガガ村。人々はわずかばかりの田畑を耕し、ジャングルで木を切り、食べられる木の実を取り、ささやかな猟をおこない、のんびりと暮らしている。
 多くを望まなければ生きて行くのに困ることはない。そして村人たちは、深いジャングルの外の世界がどうあろうと気にせずおだやかに暮らしてきた。
 しかしザックスには−−−−−。
「あ〜〜〜、つまらん」
とーちゃんに畑仕事にかり出され、しばらくはマジメにたがやしていたものの、ザックスはすぐに飽きてしまった。
「なんかおもしれーことないかなあ。都会にゃゲーセンとかいうとこもあるっていうのに、ここにゃな〜んにもないからなあ。デートったって村中の女の子に声かけちゃったしなあ・・・・・・・・・・・・・」
 畝のはしっこに座り込んでそんなことをぶつぶつ言っていると、すぐそばの草むらで何かががさがさと動いた。見ていると、一匹のうさぎがひょこっと姿を現した。
「お、うまそーなうさぎ」
 ザックスはクワをほおりだすと、そのうさぎを追ってジャングルへと入り込んでいった。



×××



「まあた、ザックスのやつがカエルになったんじゃと?」村長はあきれたようにザックスのかーちゃんに言った。「あれほど不用意に森に入るなと言ったのに」
ザックスのかーちゃんは、森に住むタッチミーにカエルにされた息子のために特効薬『乙女のキッス』をもらいに来たのだ。
「すいません、よく言い聞かせますんで−−−−−」
「また畑仕事をさぼって森で遊んでいたんだろうが。本当にしょうがないドラ息子だな」そう言いながら村長は、『乙女のキッス』を手渡してくれた。「今度は北のほこらの近くまで行っていたそうじゃないか。あのへんには絶対に近寄らないように、今度こそちゃんと教えておくんだぞ」
「はい、わかりましたです」
 かーちゃんの薬のおかげで、情けない姿になっていたザックスはもとの人間に戻った。
「まったく、何度言ったらわかるんだい、この子は。タッチミーには気をつけろとあれほど言ってるのに。カエルの丸焼きはとーちゃんの大好物なんだよ。そのうち間違って食べられても知らないからね!それに、北のほこら。そんなところにまで行って。少しは村長さまに怒られるかーちゃんの身になってごらん!!」
「−−−−−ああ、わかったよ。もうあっちの方には行かないって」
くどくどと注意をするかーちゃんにおざなりに返事をする。モンスターといってもこっちからちょっかいを出さなければ襲われることはまずないのだが、そのちょっかいを出してみたくなるのがザックスなのだ。
「−−−−−北のほこらかあ」
ザックスはつぶやいた。
 そこは村の者にとって禁じられた場所だった。村人たちは子供のころから、近づいてはいけない場所だと言い聞かせられている。
 『禁断の地』という言葉がザックスの好奇心をくすぐった。
 それはジャングルの中にあるということ以外、どこにあるのかはっきりと聞いたことはなかった。しかしこの間は、偶然近くまで行っていたらしい。
 その翌日、畑にいもを掘りに行くふりをして、ザックスはジャングルの北にあるほこらを探しに出かけた。
 生い茂った木々にさえぎられて少し手間どったが、やがてザックスはジャングルのなかにある巨大な岩に掘られた門のような形のほこらを見つけた。
「ふん、なんにも恐いもんなんかないじゃないか」
ザックスはこけむした石の扉を見上げてつぶやいた。
 なにやら複雑な模様が掘られているようだ。もしかして何かの文字かもしれないが、ザックスにはわからなかった。
「これを開けるとすごいモンスターが出てくるとか−−−−−」
ザックスは扉を押してみたが、もちろんびくともしない。
 その時、近くの茂みががさがさと音をたてた。ザックスはぎょっとして振り返った。
「またおまえか。こんなところに来るとは物好きなやつじゃ」
そこにいたのは村で最も年寄りの長老だった。もういくつになるのか、自分でも忘れているらしい。
「ははあ、あんただな、村長に俺をこのへんで見たと告げ口したのは。でも、そう言うあんたはなんでこんなとこにいるんだ」
「わしはこのほこらの守をしているんじゃ」
老人は近くにあった岩に腰をおろした。
「ふ〜〜ん。で、このほこらには何が祀られているんだ?」
「黄金のチョコボだと言われとるよ」
ザックスはきょとん、とした。黄金のチョコボとは、ゴンガガの子供なら誰でも知っている昔話だった。昔この世に、海でも山でもどんなところでも走れるすばらしい脚を持った、金色に輝くチョコボがいたという。
「なんだ、それって単なるおとぎ話じゃないか。海を渡れるチョコボなんているはずがないよ。つまんねえなあ、禁断のほこらっていうから、も〜っと迫力のある悪魔かドラゴンでも祀ってあるんかと思ったのに」
「ほっほっほ。それがそうでもないぞ。このほこらにヘタに触れると、何か悪いことが起こる。わしのじーさんも、そのまたじーさんも、そう聞いて育ち、次の世代に伝えてきた。このほこらがなぜ黄金のチョコボを祀っていて、なぜ禁じられた場所なのかはわからん。ただ、おまえさんがまだ生まれとらんくらい前じゃったか。なんと言ったかのお、この世界で一番デカい会社の−−−−−」
「神羅カンパニー、か?」
「そうそう。その神羅会社の兵隊たちがここに来て、『黄金のチョコボ』を探してるとかで、ほこらのことをいやに熱心に調べておったが・・・・・・・・・・・。村の人間でもこのほこらが本当はなんなのか知らんのだから、結局、手ぶらで帰っていきおったよ」
「なんで神羅が昔話のチョコボなんか探すんだろ」
「さて、そんなことはわしにはわからんが・・・・・・・・・。そうじゃ、なんでも黄金のチョコボに関する文書が見つかって、その中にあった地図の一枚に、ゴンガガにも印がついてたとか言ってたのお。他にも地図のあちこちに印があって、そっちも調べておったようじゃが、結局、見つからなかったんじゃろうのお。そんなチョコボの話は、それ以来とんと聞かん」
「黄金のチョコボ、か・・・・・・・・・・・・・」
 その日、家に戻ってもザックスは長老の言ったことが気にかかってしかたがなかった。
「なあかーちゃん、この村に神羅の兵隊たちが来たことってあったかい?」
夕食時、ザックスはかーちゃんにたずねた。
「ああ、もうずいぶん昔のことだよ。そうそう、ちょうどかーちゃんがとーちゃんといいなずけになった頃のことだったね。若い兵隊がかーちゃんに色目をつかうもんだから、とーちゃんがやきもきしてねえ。あたしにゃあんたしかいないわ、な〜んて言ってなだめなきゃならなかったよ。ああ、思い出すねえ、とーちゃんもあの頃は若くてホントにいい男でねえ−−−−−−」
「はいはいはいはい」
ノロケなんか聞きたかねーよ。心に耳栓して、ザックスはいもばかりの夕食をかっこんだ。
「黄金のチョコボ、か・・・・・・・・・・・・・・」
 ベッドに入ってもまだ、ザックスは黄金のチョコボのことを考えていた。
 黄金のチョコボは本当にいるのかも知れない。ザックスは思った。なにより効率を重んじる私企業の神羅が、単なる昔話や伝説に興味を示すはずはない。
 それに乗ればどこにでも行けるチョコボ。高い山も深い海もなんのその。どんな冒険だって思いのままだ。
「あのじーさん、神羅カンパニーが、そのチョコボを探す鍵になる地図を持ってるって言ってたな・・・・・・・・・・」



×××



 それから何日かたったある日の明け方、ザックスはなけなしのギルとアイテムを持ってこっそりと家を出た。
 神羅カンパニーの本拠地、ミッドガルへ行こう。そう彼は決心していた。
 そしてその地図を手に入れて、この俺が黄金のチョコボを見つけるんだ。
 このジャングルの向こうで、冒険が俺を待っている。
 −−−−−が。
 ジャングルに入ったところで、ザックスはいきなり後悔していた。夜明けのジャングルには、暑い昼間とは比べ物にならないほど大量のタッチミーが出没する。あちらのしげみに足をつっこめばカエルパーンチ!そちらの木の枝をゆらせばカエルパーンチ!『乙女のキッス』がいくらあっても足りやしない。
 とにかく、逃げ回ればいいんだ、逃げちまえば・・・・・・・・・。たとえカエルパンチをくらったところで、攻撃力なんか知れたもんだから、こんだけポーションがあれば森を抜ける間くらい−−−−−。
「くっそ〜〜〜、もっと修行して強くなったら、おまえらなんか一発でまっぷたつにしてやるからな!!」
 そう。まだ武器らしい武器を持っていないLV1のザックスくんには、タッチミーすらけっこう怖かったりするのである。




×××××




 ゴンガガ近くの一軒家に住む武器職人に電話を借りて、ザックスは村に電話をかけた。ゴンガガの電話は、村長の家の一台だけだ。しばらく待たされてようやく受話器を取ったかーちゃんに、ザックスは言った。
「かーちゃん、俺、ミッドガルに行く。 −−−−−え?何しに行くかって?」ザックスはちょっと考え、答えた。「その・・・・・・・・・ソルジャーになるんだ。ソルジャーっていい給料もらえるだろう?心配ないって、俺、絶対ソルジャーになってかーちゃんたちに楽させるから」
 でまかせを言った後ろめたさを感じながらザックスは受話器を置いた。
「−−−−−ごめんな、かーちゃん」
                    −−−−−−−−−−セーブ完了。




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