ガガゼトに埋もれた記憶
Braska's Sphere
『ユウナ、元気かい?』 そのスフィアが映し出した人物は、そう語り始めた。 「ブラスカ様!?」 「なんでこんなものがこんなところに落ちてるんだ!?」 ガガゼトの山頂まであとわずか。山越え前の最後のキャンプを張ったすぐそばに、雪に埋もれてそれはあった。 ここは、ほんのひとにぎりの召喚士とガードのみが足を踏み入れたことのある場所。ここまでたどり着きながら志半ばで死んだ誰かの最後の言葉でも残されているのだろうか−−−−そんなことを考えながら再生したスフィアが映したのは、想像もしなかった人物だった。 「父さん・・・・・・・・・でも、どうして・・・・・・・・・・・・・・・・・」 思いがけぬ父との『再会』に喜びながらもユウナは、それ以上に驚いていた。 「俺が、落としたんだ」アーロンはそのスフィアを手に取った。「ザナルカンドから帰る時に」 2度目に、帰る時に。 ブラスカが『シン』と戦い、そして逝った時には確かにまだ持っていた。しかし2度目のザナルカンド行きの帰り道、大けがを負い、息も絶え絶えになってガガゼトを這い降りる時にでも落としたのだろう。そのまま今の今までこれのことはすっかり失念していたが−−−−見つかって、よかった。 「10年前、やはりこのあたりで一夜を過ごした時、ブラスカはこのスフィアを撮った。そして俺に言ったんだ。いつかユウナが自分の進む道を選ぶ時が来たら渡してくれと。だから、本来ならばおまえが召喚士として旅立つ時にでも贈るべきだったのだろうが、俺の不注意でそうしてやれなかった。−−−−−悪かったな、ユウナ」 アーロンはスフィアをユウナに手渡した。 「いえ・・・・・・・・・。ありがとうございます、アーロンさん」 ユウナはぺこりと頭を下げた。 「なんだ?突然」 「私、アーロンさんのことをずっと、父さんみたいに思ってました。私の考えを尊重して、自由に行動させてくれる。時々冷たいくらいにきびしいけど、それは、私のことを心から考えてのこと。父さんが今ここにいたら、きっとこうしてくれたんだろうなあ、って。これを見て、それは間違ってなかったってことがわかりました。私、うれしいです」 「そうだと・・・・・・・・・・・・いいな」 アーロンはひとりごとのようにそうつぶやいた。 ブラスカは心の広い、本当にすばらしい人だった。頭が固いばかりの未熟者の俺を、いつも優しくたしなめてくれた。最後の日まで、あとに残る俺の心配ばかりしていた。ガードとして召喚士を支えなければならなかったはずなのに、支えられていたのは俺の方だった。 あれから10年。今も−−−−いや、俺には永遠に、彼を越えることはできないだろう。 しかし、少しでも彼に近づけただろうか? もしブラスカがここにいたら、本当に俺と同じような行動をしただろうか? それはわからない。 だが俺は、自分の信じる道を行く。 ここにいる、若き生者たちにスピラの真実を見せること。それが、10年かけてようやく見つけた、俺の役目。 「さあ、みんな、もう寝ろ。明日は・・・・・・・・・ザナルカンドだ」 真実の果てに、彼らはどんな選択をするのだろうか? 俺自身が望む選択肢は、もちろん、ある。 しかし、選択の権利は俺ではなく、彼らのもの。 彼らが選ぶ道がどこに続いていても受け入れよう。それは、ユウナのガードになったその時から、アーロンが心に決めていたことだった。 |