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楽しい逃亡のススメ




「ザックス、起きろ」
「ん〜〜〜〜〜?・・・・・・・・・」
「起きろ」
「あ〜〜〜〜〜〜・・・・・」
「起きないか」
サンダガ!・・・・・・・・どんがらがっしゃ〜〜〜〜〜ん!
「だ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!なんだなんだ!!」
「やっと目が覚めたか」
「・・・・・・・・・・・もうちょっとで二度と目が覚めなくなるところだったけどな。もうちょっとマシな起こし方ができないのか、セフィロスう?」
「こんな汚いところで平気で熟睡できるヤツの起こし方など、私はこれ以外知らんぞ」
 ここは神羅カンパニーの一施設・神羅軍士官宿舎内、ザックスの部屋。ソルジャー・クラス1STにふさわしくそこそこに広く設備の整っているはずのワンルームは、はっきり言って、ゴミためである。
「それとこれとは関係ないだろうが。俺だって普通の起こし方で」
「起きなかったことが34回」
「うっ・・・・・・・・・・・。そんなくだらんことを数えているのか」
「少しは部屋を片づけんと、もう起こしに来てやらんぞ」
「と言ったのが、これで何回目だっけ?」
「・・・・・・・もう一度サンダガくらいたいか」
「いえいえ、とんでもございません!!(ちくしょ〜〜〜、これからはリフレクかけてから寝てやる)−−−−それより、今日って仕事だったかあ?」
「休みだ」
「そうだよなあ・・・・・・・・・。それがなんで、汚い部屋に入りたくないと言いながらわざわざ起こしに来る!」
「たまには休日をいっしょに過ごすというのもいいじゃないか?仕事の時ばかりでなく」
「えんりょしとくよ」
「なぜだ?私とおまえの仲じゃないか」
「あんたと俺の仲だからだ。あんたがそういう言い方をした時にはろくなことがない」
「信用がないんだな、私は。−−−−ま、とにかく、来い」
「やだ。寝ていたほうがいい」
きらりと正宗が光り、ザックスのぼさぼさの頭をかすめる。
「わ〜〜〜〜〜、わかったわかった!本日、セフィロス様とごいっしょさせていただきます!ごいっしょさせていただくから、着替えくらいさせろ!」
「わかった。5分で済ませろ」
 そして5分後。ザックスの部屋に入ったセフィロスは、開け放たれた窓から垂れ下がるシーツを見つけた。
「逃げたな・・・・・・。5階だからと、油断した」

×

 さて、ところは変わって神羅軍一般兵士宿舎。
 その裏庭で、クラウドは洗濯の真っ最中だった。当番制だからしかたがない、とぶつぶつ言い続けながら洗った洗濯物を干す。それが真っ白く洗いあがっているならともかく、みんな汚れがしみついて落ちなくなってから洗濯に出すのだから、おもしろいわけがない。
「クラウド〜〜〜〜〜」
「あれ?ザックス?どうしたんですか、こんなに早く」
 早くといっても、もうすぐ昼である。休みの日、デートの予定もないのにこんな時間にザックスが起きているのはすこぶる珍しいのだ。
「クラウド」ザックスはがしっとクラウドの手を握った。「ここから逃げよう!」
「はあ?」
「休みだってのに、セフィロスが追っかけてくるんだよ〜〜〜〜。俺はゆっくりと寝ていたいだけなのにい」
「普通、追っかけられるのはセフィロスさんの方じゃ・・・・・・・・。それはともかく、俺には関係ないでしょう。それより洗濯を済ませないと、他の連中にフクロにされます。早く乾いてくれないと明日着る服がないヤツもいるんですから」
「ぺーぺーどもなんかあとで俺がにらんどいてやる。だから、いっしょに逃げてくれ!」
「だからあ、どうして俺を巻き込もうとするんですか!俺、どうせ駆け落ちするならティファとの方が」
「・・・・・・・・・いっしょに逃げてくれないのなら、いざという時におまえを見捨てて話のすじを変えてやる」
「(ぞわっ)な、なんか知らないけど強烈なさむけが・・・・・・・・。わかりましたよ、いっしょに行けばいいんでしょ、行けば!−−−−で、どこへ行くんです?」
「そうだな・・・・。やはり逃避行というものは悲壮感がないといけない。−−−−北だな。アイシクルロッジよりはるか北、雪と氷にとざされた山奥でふたり肩をよせあい、ほとぼりがさめるのを待つ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだかんだ言いながら、結局、楽しんでませんか?」

×
 楽しんでなどいなかった。
 正確には、アイシクルロッジに来たところで楽しくなくなったのだ。
「クラウド、おまえがすのぼなんか得意だなんて知らなかったぞ」
「俺も知りませんでしたよ。すのぼやるのはもちろん、雪だってこんなにつもっているのを見るのは初めてなんですから」
「初めてだあ?」
「ぺーぺー兵士に、こんなとこまで遊びに来るギルがあると思っているんですか?」
「そのとおりだが・・・・・・・・。だ〜〜〜〜〜、気にいらねえ!なんで俺よりおまえの方がモテるんだ〜〜〜〜!!」
「(あなたより俺の方がすのぼがうまいから)」
「クラウド、なんか言ったかあ?」
「別に。−−−−それより、山ごもりに必要なアイテムを買いに寄っただけじゃなかったんですか?ここ」
「そうだが、この状況をこのままにしてこの街をクリアできるかってんだ!」
「やれやれ。で、クリア条件はなんですか?」
「そりゃ、もちろん、あのコとリゾラバ☆ほれ、あのロングスカートでリボンの似合う」
「エアリス、ですか?」
「そうそう!彼女、里帰りとかでたまたまここにいるけど、家はミッドガルだってな。これはぜひ今のうちにお近づきになって、ミッドガルに帰ったら本格的におつきあいを」
「あのコだけはダメです!俺が先に目をつけたんですから!!」
「ほおお、一般兵士のぶんざいで、ソルジャー・クラス1STに逆らうのか?そんなことを言うといざという時に」
「見捨てられて、主役の座を奪われたってイヤです!」
「そこまで言うか・・・・・・・。なら」
「あきらめてくれるんですか?」
「いんや。それでこそ戦いがいがあるってもんだ。ではさっそく、作戦行動を」
「・・・・・・逃避行中とやらにしては、ずいぶん楽しそうだな」
「クラウド?・・・・・・の声じゃ、ない、な・・・・・・・・。もしかして・・・・・・・・・・・・・」
「そう。私だ」
「セフィロス・・・・・こんなところまで追っかけてくるとは」
「おまえの方が勝手に私のいるところに近づいて来ただけなんだが。知らなかったのか?この私は仮の姿。本体はこのすぐ北、大空洞にある」
「時代考証無視なことを言うな!それは俺が×××したあとのことじゃないか!−−−−いや、こんなツッコミをしている場合じゃない。逃げるぞ!クラウド、来い!」
「ええっ、まだ逃げなきゃいけないんですか〜〜〜〜!!」
「俺とおまえはどこまでもいっしょに逃げる運命なんだ!エスケプ!」
「そうはさせるか!サイレス!」
 が。ザックスのほうが一瞬早かった。セフィロスの唱えた魔法はターゲットを見失い、どこか遠くに飛んでいった。
「あいかわらず逃げ足の速いヤツだ・・・・・・・・。私の魔法から逃げられるのはあいつだけだな(寝起きの時以外は、だが)」

×

「で、逃亡先がなんで観光地なんですか?結局は楽しんでますね。だから遊べるようなところばかり選んで」
「おまえ、観光地観光地言うけどな。ここはゴールドソーサーでもコスタ・デル・ソルでもない。ウータイだぞ。こんなシケたところ、俺には似合わない」
「でも観光地にかわりはないですよ。ここって今、異国情緒を目玉に観光地として売り出し中だそうじゃないですか。それに、シケたところと言いながら、やっぱり楽しんでいるでしょう」
「どこがだよ。俺には温泉巡りとか仏像見物のようなじじむさい趣味はない」
「だったらそこに並んでいる大量の酒ビンはなんですか」
「うっ・・・・・・・・。しかし、逃亡生活にも少しはうるおいをだな」
「これ以上うるおってどうするんですか、まったく。ウータイの酒が飲みたかっただけだと正直に言えばいいものを」
「正直に言えば何かいいことでもあるってのか」
「ないですけどね」
「クラウド・・・・・おまえ、最近素直じゃないな」
「素直にしていても、何もいいことないですから」
「おまえがひねくれ者だといううわさはほんとうだったか」
「今ごろ気がついたんですか?」
「なるほど、これは筋金入りのひねくれ者だ」
「もう俺といっしょに逃げるの、いやになったでしょう?俺、帰ってもいいですかあ」
「だ・め」
「なんでですかあ〜〜〜。俺はセフィロスさんから逃げる理由はどこにもないんですう〜〜」
「ま、とりあえず、飲め」
「もう十分ですよ。俺、下戸なんです。これ以上は飲めません!」
「だから飲めと言っている。こうなったら酔いつぶして帰るに帰れなくしてやる」
「ええ〜〜〜、そんなあ〜〜〜!」
 その時、亀道楽の外からケンカだかなんだか知らないが、人々がいさかう声が聞こえてきた。
「ゴドーさま、おやめください!」
「戦争は終わったのです!神羅にはもう手を出さないと決めたのはあなただったではないですか!」
「ええい、離せ!!それでもここで一発殴ってやらないと気が済まない!」
 そして何人かの男達がどたどたと店の中になだれ込んできた。
「きさまか。最近ウータイでうろうろしているソルジャーというのは」
「うろうろかどうかは知らないが、そうだが?」
「神羅のイヌのぶんざいで我がウータイで快楽にふけるとは不届き千万!ウータイ忍者の頭領たる私がみずから成敗してくれる!」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺は戦いに来たわけじゃ」
「問答無用!」
「ゴドーさま、おやめくださいってば!」
 回りにいた男達がゴドーを押さえる。
「す、すまぬ、そこの者たち。ここのところは黙ってウータイを去ってはくれまいか。ゴドーさまはさきほど娘ごと親子ゲンカをなさって機嫌が悪いのだ。このわびに酒代は無用とするから、早う」!
「そ、そうか。じゃ、そうさせてもらう。クラウド、行くぞ!」
「待て!逃げるか〜〜〜〜!」

×

「ウータイはちとまずかったかな。戦争が終わったばかりで神羅軍の人間にいい感情を持ってるはずがないもんなあ・・・・・・・・。タダ酒飲めたのはよかったけど」
「もう気が済んだでしょう。ミッドガルに帰りましょうよお」
「今帰ったら最悪だぞ。休暇はまだ3日あるんだ。セフィロスのヤツ、仕事になれば他のことは全部忘れてくれるが、まだ休みがあるうちに見つかったら何をされるか」
「じゃ、あと3日もこんなジャングルの中ですごすんですか!」
「サバイバル訓練だと思え」
「俺はイヤですよ!今からでも帰らせてもらいます!」
「そっか。イヤか。ソルジャーならあたりまえのこの程度のことがイヤとはな・・・・・・・・・。それが理由だな。おまえがソルジャーになれなかったのは」
「うっ・・・・・・。わ、わかりました。がんばります」
「そっか。最後までつきあってくれる気になったか。じゃ、食いもんの調達に行こうか。このへんに出るバジガンディ、塩焼きにするとうまいんだぞ」
「(・・・・・・そんなものを3日も食わなきゃいけないのか・・・・)」
「なんか言ったか?」
「いーえ、別に」
「おっ、ウワサをすればなんとやら。さっそくおでましか。すぐしとめてくるから、火を起こしておけよ」
「はいはい・・・・・・・・。あっ、ザックス、うしろ!」
「うしろ・・・・・・・・?」
 うしろからカエルパーンチ!
「げこ?」
「あああ、ザックス、なんて姿に〜〜〜〜」
「げこげこげこげこ!」
「ちょ、ちょっと剣を借りますよ。・・・・・・えいっ!」
 そしてザックスをカエルにしたタッチミーはばったりと倒れた。
「やった!初めてモンスターをやっつけた!−−−−ザックス、これは食ったらうまいんですかあ?」
「げこげこげこげこ!!」
「・・・・・・・・なんてことを言ってる場合じゃないみたいだな・・・・・・・。どうしよう・・・・・・・・。こんなところでひとりにしないでくださいよ〜〜〜〜〜!」
「げこ〜〜〜〜〜〜!!」
「・・・・・・フッ。なかなかいい姿だな」
「げこ?」
「見つけたぞ、ザックス」
「げこっ!」
 そしてセフィロスはカエル化したザックスをひょいとつまみあげた。
「こういうステータス異常攻撃をくらわせるモンスターが山ほど出るところに来る時は、ちゃんとリボンをつけておけ。別にいやがっているわけではないくせに、いざという時につけ忘れるんだからな、おまえは」
「げこ〜〜〜〜〜〜!!」
「さあて、どうしてやろうか」
「げこっ!」
「そうだな・・・・・・・・・。おい、クラウド」
「はい?」
「おまえ、女装してこいつにキスしてみろ。人間に戻るかも知れんぞ」
「ええっ、イヤですよ〜〜〜〜」
「げこげこ〜〜〜〜〜っ!」
「・・・・・・・冗談だ」
「あなたが言うと、冗談に聞こえないんですけど」
 セフィロスは頭上高くカエルザックスをかかげた。そこへ彼がアイシクルロッジで唱えたサイレスが飛んできて、ザックスにぶちあたった。
「げこ〜〜〜〜っ!」
「フッ、これで簡単には逃げられなくなったな。じゃあ、しょうがないから人間に戻してやろうか。トード!」
 ボンッ。
「ぜーぜーぜー・・・・・・・・・。あのまま丸焼きにされるかと思ったぜ」
「それもよかったかもな。カエルなおまえはなかなかうまそうだった」
「やめてくれよ!あんたが言うと、ホントに冗談には聞こえないんだから!」
「話ができるようになったところで、本題に入ろう。さて、ザックス、休暇はあと3日あるんだが」
「わかったよ〜〜〜〜〜。あんたにつきあえばいいんだろう?こうなったらもう逃げも隠れもせん。で、どこに行こうってんだ?」
「ゴールドソーサー」
「はあ?」
「私も一度、チョコボレースとやらをやってみたくてな。神羅軍一の予想屋と評判のおまえに教えてもらおうと思ったんだが」
「な、なんだあ、そんなことかあ。それならそうと最初に言ってくれれば」
「おまえが私を信頼してくれればそれで済んだんだがな」
「うっ・・・・・・・・。す、すいません。これからはセフィロスさまのこと、心から信用させていただきます!」
「さて、どうだかな。ともかく、さっさと行こうか。ゆっくり遊べるはずだったのに、あと3日しかなくなってしまった。クラウド、おまえも来い。ギルは私持ちだ。好きなだけ遊べ」
「ありがとうございますう!」
「そ、そうか。悪いな、セフィロス」
「勘違いするな。おまえが遊ぶ分は自分で払え」
「ええっ、そんなあ〜〜〜〜」
「・・・・・・・・逃げ出すなんてマネをしなければ、出してやるつもりだったんだがな・・・・・・・・・」

×
 そして。
 ひとつ大きな仕事を終えて、ザックスはまた長期休暇に入っていた。とーぜんのことながら、その日も寝たくれていた。
「ザックス」
「・・・・・・・・・・」
「起きてくださいよ」
「ん〜〜〜〜〜・・・・・・」
「・・・・・・起きないと、マズイことになりますよ」
「あ〜〜〜〜〜」
「・・・・・いいんですか?やっちゃいますよ」
 サンダガ!・・・・・・・・どんがらがっしゃ〜〜〜〜ん!
「どわっ!セフィロス!それだけはやめろと・・・・・。あれっ?クラウド?」
「起きましたね」
「なんでおまえがサンダガで起こすんだ!」
「セフィロスさんがマテリアを貸してくれたんですよ。バリアのマテリアといっしょに。たぶんリフレクかけて寝ているだろうから、自分にリフレクかけてからサンダガはねかえしてみろって」
「セフィロス・・・・・・。あの野郎〜〜〜!」
「私がどうかしたか?」
「げっ、セフィロス!」
「クラウドの魔力はたいしたことないから、ちょうどいい目覚ましになっただろう」
「あんたの目覚ましよりはずっとマシだったよ。で、今日はわざわざ何をしにきた。休暇のはずなんだが・・・・。あ、もしかして」
「もしかしないぞ。仕事だ。急な任務が入ったので、呼びに来たんだ」
「ええっ、そんな!一日で終わる仕事か?明日はデートの約束が」
「たぶん、無理だ。予定では1週間」
「くっ・・・・・・・」
「逃げようなんて考えるなよ。おまえもいちおう、ソルジャー・クラス1STなんだ。そのへんはわきまえてるな?」
「わ、わかった・・・・・」
「たいへんですねえ、ザックス」
「クラウド・・・・おまえ、これでもソルジャーになりたいか?」
「なれなくてもいいかなあ・・・・・・・・って、ちょっと思っちゃいましたよ」




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