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約束
FF8-Laguna & Raine's Story




        (・・・・・・・エルオーネと同じ気持ちよ)


 エルオーネと、同じ・・・・・・・・・・・。
 オレのことを大好きと言ってくれるエル。
 レインとオレと、3人で暮らしたいと言っていたエル。
 そのエルオーネと、同じ・・・・・・・・・?
 どう受け止めたらいいんだろ?
 ちっちゃな子供のなにげない言葉と同じと考えるべきだろうか?
 それとも・・・・・・・・・。

×



「でえぇぇ〜〜〜〜〜〜!いってえ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
ラグナは大声とともに飛び起きた。
「おはよう、ラグナくん」
ベッドの足元に、キロスが涼しい顔をして立っていた。
「いきなりなにすんだ、キロ〜〜〜〜〜スっ!!」
ラグナは思いきりつねられてひりひりする足をかかえてどなった。
「普通にゆさぶったくらいでは起きない君が悪いのだよ。今日はティンバーに行く日だから早めに起きてくれと言っておいただろう。まさか、忘れていたってわけじゃないだろうね?」
「わーってるよ。だからゆうべは遅くまで、ティンバーマニアックスの編集長に見せる原稿を手直ししてたんじゃねえか」
「そうか。で、どうだね、自信のほどは?」
「やるだけのことはやったけどよ・・・・・・・・。こればっかりは、クライアントに見せんとなんとも言えねーからな」
「君にしては、ずいぶん弱気な発言だな。−−−−ともかく、さっさと顔を洗ってきたまえ。レインが朝食を用意してくれている」
 ラグナは寝癖のついた頭をがりがりかきながら、机の上の封筒の中身を引っ張りだした。
 ティンマニ編集長の依頼に応じてウィンヒル近辺の町や自然を取材し、書き上げた原稿。
 しかし、まだ採用が決まったわけじゃない。この原稿が気に入ってもらえたら・・・・・・・・・だ。
 ま、ここでごちゃごちゃ悩んでてもしゃーねーか。やるだけのことをやったのはホントだし。
 ラグナはもう一度写真や原稿がちゃんとそろっていることを確認し、封筒に封をした。
 もしボツになったら、モンスターハンターの暮らしをもうしばらく続ければいい。
 そして、もし、採用になったら・・・・・・・・・・。



×××



 ティンバーマニアックス本社のドアが開いた。
 そこからラグナは無表情で出てきた。キロスがそのあとに続く。
 ラグナは両手をポケットにつっこんだまま、まっすぐぽてぽてと歩いていった。
 そして道の真ん中で、唐突に立ち止まった。
「やった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!これでオレさまもジャーナリストのはしくれだ〜〜〜〜〜〜!!」
ラグナは人目も気にせず、ガッツポーズ。
「・・・・・・・・・ラグナくん、喜ぶのはけっこうだが、もうちょっと時と場所を考えて・・・・・・・・・・・」
キロスは頭をかかえた。突然のことに、他人のふりをする暇もなかった。
「あ〜〜?いいじゃんかよ、今日くらいは。いやあ、ともかく、よかったよなあ。うんうん。まさか、あんなに簡単に採用が決まるとは思わなかったぜ〜〜〜〜〜」
「私もまだ信じられないよ。まさか君に、あんなにマトモな文章が書けるとは」
「なんだよ、そりゃ??編集長に最初に話をつけたのはおまえだぜ、キロス」
「文章力はともかく、君の特攻精神は気に入ってもらえると思ったのでな」
「ふん、今日だけは何を言っても許してやるぜ」
ラグナはまんざらでもなさそうに言った。
「ともかく、おめでとう、ラグナくん。これで君は、長年の夢をかなえることができたというわけだ。めでたくお祝いといこうじゃないか。君に会わせたい人もいる」
「会わせたい?誰だよ」
「ウォード」
「ウォード??あいつがティンバーに来てるのか??」
「ああ。君がジャーナリストになれそうだと連絡したら、いてもたってもいられなくなったらしくてな。君の手伝いをしたいと収容所の仕事を辞めてきた」
「そっかあ・・・・・。ウォードが・・・・・・・・・・・。だけどよ、なんでそんな大事なこと今まで黙ってたんだよ??」
「あいつに手紙一本書かない君が悪い。普段の言葉使いはめちゃくちゃな上に筆不精なんだからな。先が思いやられる」
「だいじょ〜ぶだって!おまえたちがついててくれるんだろ??」
「それもそうだ」キロスはくすりと笑った。「では、早くホテルに戻ろう。ウォードがもう待っているはずだ」
「え、と・・・・・・・あ・・・・・・・・・・ちょ、ちょっと待ってくれ」
ラグナはふいにキロスに背を向けると、なにやらごそごそやっていた。そして思い詰めたような顔で振り向き、言った。
「キロス、一生の頼みだ!−−−−−−−金、貸してくれ!!」
「は?金?金なら今さっき、原稿料をもらっただろう」
「それはそうなんだけどよ・・・・・・・・・・。これだけじゃ、ちょいと足りねーんだ。な、頼む!1000ギル・・・・・・いや、500ギルでもいい!次の原稿料が入ったらすぐ返すからさ!!」
「金が入る前から出ていく先が決まっていたのか?−−−−まあ、どうしてもと言うのなら、貸さないこともないが。初めてのことじゃないしな。返してもらうのも、仕事が軌道に乗ってからでかまわない」
「いや、次の仕事で絶対に返す!借金しなきゃ間に合わないのだけでも屈辱なのに、さっさと返さなかったら男のプライドが許さん〜〜〜〜〜!」
「ちょ、ちょっとは落ちつけ、ラグナくん」
なんだかいつもと様子が違うな・・・・・・・・・。キロスは妙な不安を感じながら、サイフの中身を数えた。そしてしばらくいろいろと計算した上で、金をいくらかラグナに渡した。
「・・・・・・・・今すぐ貸せるのはこれだけだ。これ以上出したら、ウィンヒルに帰ることもできなくなる」
「ありがとお〜〜〜〜、キロス〜〜〜!!」ラグナはキロスにおもいっきり抱きついた。「一生恩に着る〜〜〜〜〜〜!!!」
「ラ、ラグナくん、だから、そういうことは、時と場所を考えて・・・・・・・・・・・・・・」
通りすがりの人の視線がひどく痛かった。
 そしてラグナはうれしそうに町のどこかに消えていった。その姿を見送りながら、キロスはやれやれとため息をついた。
 初めての原稿料をいったい何に使うつもりなのだろう・・・・・・・・・?あの様子から思うに、やばいことに巻き込まれているとかではないようだが。
 だったら、理由はなんでもいいか。
 とは言え、やはり気になった。1年何ヵ月かぶりでのウォードとの再会よりも大事なこととは何か。
 キロスはホテルに向かった。あれこれ推測するのならば、ウォードとふたりでしたほうが楽しかろう。

×

 ラグナが向かったのは、ティンバーのショッピングモール。
 買い物客でにぎわう通りを、ラグナはなにやらぶつぶつ言いながら通りすぎていく。
 店がとぎれ、住宅地にさしかかったところでくるりと回れ右をする。
 そしてモールの反対側のはしっこまで行くと、ふたたび元来た道をひきかえす。
 ふらっと裏通りに入り込み、ぐるりと一周し、表通りに戻る。
 それを何度も繰り返したのち、ラグナは一軒の店の前で立ち止まった。
 ティンバーに来てすぐ、目をつけておいた店。
 おし・・・・・今度こそ・・・・・・・・・・・・・・・行くぞ!!
 ラグナは思い切って、店のドアを押し開けた。
「いらっしゃいませ〜〜〜〜」
店員がすかさず、愛想のいい声をかけてきた。
「え、と・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・・」
くそっ、足がつりそうだ。
「なにをお探しでしたでしょうか〜〜〜〜〜〜」
落ちけつ・・・・・・もとい、落ちつけ。
「あ〜〜〜〜、その〜〜〜〜〜、じつは・・・・・・・・・・・・・」
ラグナはもごもごと、じつに聞き取りにくい声で答えた。しかしベテラン店員は、ラグナの様子から彼の言いたいことを的確に察し、ある商品のコーナーに彼を案内した。
 −−−−−−ああっ、なんか情けね〜〜〜。今からこんなことで大丈夫かな、オレ。
 ラグナは言うことを聞かない足をひきずって、店員のあとをついていった。



×××



 ウィンヒルに帰った夜の食卓は、実ににぎやかだった。
 テーブルの上にはレインの心づくしの手料理、そしていっしょに食卓をかこむ人がまたひとり、増えた。
 ここには、今までに出会ったことのない何かがある。
 けっして手放したくない何かがある。
 頼りになるキロス、見かけはごついが心優しいウォード、かわいいエル、・・・・・・・・そして、レイン。
 この輪の中に。
 だけど、こんなオレの気持ちを、本当に受け止めてくれるだろうか?
 この想い、オレのひとりよがりじゃないだろうか?
 迷惑なだけじゃないだろうか?
 オレは・・・・・・・自分に正直になってもいいんだろうか・・・・・・・・・・・?
「ラグナ、どうしたの?あなたが全然しゃべらないなんて」
食後のコーヒーを置きながら、レインが心配げに訊いた。
「え、あ、そうだったっけか?ははは、なんかちょ〜っとぼーっとしちまって。酒が入ったせいかなあ」
「あら?あなたにはお酒は出さなかったつもりだけど。やだ、誰かのグラスと間違えたかしら」
「と、とにかく、大丈夫だからさ」
 −−−−なんでもうちょいフツーにしてらんないんだ〜〜〜〜。しっかりしろよ、オレ〜〜〜〜。
ラグナは頭をかきむしりながらがちゃがちゃとコーヒーをスプーンでかき回した。
 その両脇で、キロスとウォードはゆっくりとコーヒーを飲み干した。そして目配せすると、立ち上がった。
「さて、ラグナくん、我々は一足先に失礼する。−−−−レイン、今日の料理は実にうまかった。ウォードも、突然押しかけたのに歓迎してくれて感謝する、と言っている」
「ちょ、ちょっと待てよ、キロス、ウォード。まだいいだろ??」
「少々疲れたのでな。エルオーネもおねむのようだ」
食事の間ずっとはしゃいでいたエルオーネも、今は椅子の上ですっかりおとなしくなっていた。
「あらあら、ほんとね。−−−−ラグナ、悪いんだけど、エルに寝るしたくをさせてやってくれない?私はまだかたづけものがあるし」
「おお、いいぜ」ラグナはエルオーネを抱き上げた。「エル、まだ寝るなよ〜〜〜。寝るのは歯をみがいてお着替えしてからな」
 そして2階にあがろうとするラグナに、キロスはそっと耳打ちした。
「(ではラグナくん、せいぜいがんばりたまえよ。エルを寝かしつけたら、あとはふたりだけの時間だ)」
「(お、おい、どういう意味だよ、キロス??)」
「(それは君自身が一番よく知っているはずだがね。最初こそなんだろうと思ったが、ちょっと考えたらすぐにわかった。ウォードも、君の心の中くらいお見通しだと言っている)」
「キロス、ウォード・・・・・・・おまえら〜〜〜〜〜〜!!!」
「・・・・・・どーしたの、ラグナおじちゃん」
エルオーネがねぼけまなこをこすりながら、言った。
「な、なんでもねーよ、エル。さ、早く寝るしたくしよーな」
 −−−−−こいつは、なんにもなかったことにするとあとでナニ言われっかわかんねーな。はあ、覚悟を決めるしかねーか。
 ラグナはめちゃくちゃ大きなため息をひとつ、ついた。

×

「おきがえかんりょ〜しました〜〜」
エルオーネは大好きなチョコボ模様パジャマ姿を、くるくる回りながらラグナに見せた。
「エル・・・・・・・・一番下のボタン、かけ違えてっぞ」
「あ〜、しっぱ〜〜〜い。−−−−−ラグナおじちゃん、なおして!」
「ほいほい」
ラグナはエルオーネの前にしゃがみこんだ。そしてボタンを直しながら、言った。
「なあ、エル・・・・・・・・・。ちょ〜〜っと頼みがあんだけどな」
「な〜に?」
「あとでレインにおやすみなさい言いに行くだろ?」
「うん」
「そん時にさ・・・・・・オレが橋の向こうのお花畑のとこで待ってる、って言ってくんねーかな」
エルオーネはちょっと不思議そうな顔をしながら、いいよ、と答えた。
「・・・・・・・・頼むな」
 ラグナはすっくと立ち上がった。
「おっし!エルオーネ副隊長、あとはレイン隊長にごあいさつしたら、任務完了!!」
「は〜〜〜〜〜い!!」
 そしてラグナは、キッチンの方に駆けていくエルオーネの背中を見送り、レインの家を出た。



×××



 満月に近い月が中空にかかる、明るい夜だった。暖かい風にのって、かすかに花の甘い香りがする。
 偶然流れ着いた、それまではあることも知らなかった小さな村。
 そこで見つけた、ちっぽけな幸せ。
 ちっぽけだけど、失いたくない幸せ。
 (エルはラグナおじちゃんだいすきだよ)
 オレも、おまえのことが大好きだよ、エル。
 (レインとラグナおじちゃんとエルと3にんいっしょがいいよ)
 オレも、そう思ってるよ。
 だけど・・・・・・。
 (こんな田舎の村で静かに暮らすなんてできないと思うの)
 だけど、それも本当のこと。
 ジャーナリストとして仕事をもらえるようになった今、これからのことを思うとすっごくわくわくしてくる。いろんなものを見て、いろんなことを聞いて、それを大勢の人に伝えて・・・・・・・・・・・。そう考えると、今すぐにでも飛び出して行きたくなる。
 だけど。
 疲れた時には、ここに帰ってきたい。
 だから・・・レイン・・・・・・・・・。
 ラグナはポケットから、箱をひとつ取り出した。
 その中には、ティンバーで買った指輪がふたつ。
 ラグナはそのうちの大きい方を、自分の左手の薬指にそっとはめた。それは月明かりに照らされて、ひそやかに輝いた。
 これからは、いつもはそばにいられなくなる。
 だけど・・・・・・・・・。
 うしろから足音が近づいてきた。
「ラグナ?どうしたの、こんなところに呼び出したりして」
「レイン・・・・・・・・・・・・・・」
 そばにはいられなくても。
 世界のどこにいても、おまえのことを想ってる。
 世界のどこに行っても、ここに−−−−おまえが待つウィンヒルに帰ってくる。
 約束する。
 だから・・・・・・・・・・。

 春の風が、花畑を優しく吹き抜けていった。




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