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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜バラム・3〜




 ラグナたちが乗った船は予定通り、空が明け初める頃にバラムの港に着いた。
 街はまだ眠っていた。朝靄のただよう中を犬に散歩させる人をひとりふたり見かけただけだった。
「バラムはまだ平和みたいだね」
「みてえだな」
しかし、ガーデンが攻撃されればこの街も心おだやかではなくなるだろう。ミサイルが飛んでくるのは、予定では、今日の午後1時頃。
「助かったよ、レナーテ。−−−−そんじゃ、これ。ホントに実費に毛がはえた程度ですまねえけどよ」
そう言ってラグナはレナーテにカネを渡そうとした。彼女はラグナにそのカネをあらためて握らせ、受け取ろうとしなかった。
「いいよ。いらないよ」
「え、でもよ・・・・・・・・・・・・・」
「あんた、自分で言ってたじゃん。新聞社に借金してやっとこさ動いてる状態だって。少しでも節約したいとこだろ?だから、今は、いいよ。貸しにしとくから・・・・・・・・・・今度の事件がかたづいたら、必ず、返しに来て」
レナーテは真剣なまなざしでラグナの目を見つめた。
 そして、急に彼の手を離し、照れくさそうな笑みを浮かべると、言った。
「そん時はキロスとウォードの旦那もちゃんと連れておいでよ。あんた相手にカードやったって、おもしろくもなんともないんだもん」
「だったらさそうなよ・・・・・・・・・」
ゆうべもご多分にもれず、コテンパンにされたラグナだった。



×××



 レナーテの船が沖に去るのを見送るとラグナは、バラムの街の方に向かった。
 あたりはすっかり明るくなり、朝食の支度をする音が家々から聞こえてきた。通りにも少しずつ人が出てきた。
 しかし−−−−平和すぎる。ラグナはそこが気に入らなかった。
 ガーデンにミサイル攻撃の情報が伝わっていれば学生たちの避難が始まり、全員ではないにしても一部はここにも来るだろう。そうなったら、攻撃対象はこの街ではないとはいえ、ここの住人たちもこんなに落ち着いてはいられないはずだ。確かに警戒にあたっている兵士の姿は見られる。ガルバディアの動きが不穏な今、兵士がまったくいないほうがおかしい。しかし、非常時の緊張感はまるでない。
 まさか、彼らはまだ、知らないのか?
 あのSeeDたちがどんな行動をしているかわからないが、バラムガーデンに連絡を取らないはずがない。
 避難はせずに、応戦するつもりなのか?しかし、軍隊ならともかく、相手はミサイルだぞ。
 ラグナは時計を見た。午前8時を回ったところ。
 −−−−ここで無駄な想像なんかしてねえで、ガーデンに行って確かめるか。なんか理由があって情報が伝わってないようなら、オレが話しとかねえと。信じてもらえるかどうかはわからんが。どっちにしても、学園長には会いてえし。今ならまだ、ミサイルが着弾する前に逃げ帰ってくるだけの時間はある。
 学園長の名前はなんて言ったっけ?シド−−−−シド・クレンザー・・・・・・・・いや、そんなせっけん臭い名前じゃあなくって・・・・・・・・・確か、メモしといたよな。
 そんなことを考えつつ歩きながら手帳を探していると、すぐそばのホテルから年の頃13、4の少女ともう少し年下の少年が出てきた。その少女が着ているのは、ガーデンの制服だった。
「あっ・・・・・・・・・・。−−−−ちょ、ちょっと、そこの嬢ちゃん!!」
ラグナは少女を呼び止めた。彼女は立ち止まり、彼の方に振り向いた。
「え・・・・と、あんた、ガーデンの学生さん、だよな?」
「そうですけど。−−−−−あの・・・・・・・・・あなた、は?」
彼女は幼い少年の手をしっかりと握りしめた。
「あ〜〜〜、すまんすまん。びっくりさせちまったかな。オレ、こーゆーモンなんだけどさ」
ラグナは、ナルシェの新聞社で作ってもらった身分証明書を少女に見せた。
「−−−−新聞記者、さん?」
「そうだよ」ラグナは中腰になって、目線を少女に合わせた。「嬢ちゃんたち、ここには避難してきたのか?−−−−あ、いや、バラムガーデンでちょいと騒動が起こってるって聞いたもんでさ」
「・・・・・・・・・・・そうです」
少女は固い表情のまま、ためらいがちにそう答えた。
 −−−−なんだ、ちゃんと避難が始まってんだ・・・・・・・・・かんぐりすぎたかな?
ラグナはちょっと、ほっとした。それが少女にも伝わったのか、彼女の表情も少しやわらいだ。
「ここには何人くらい来てるんだい?」
「年少組の子たちが20人くらいと、私の同級生3人です」
「たったそれだけかい?他の人たちは?」
「・・・・・・・・・わかりません。私たちを助けてくれた上級生は、他の子たちもうまく逃がすことができたらここに来させるって言ってましたけど、まだ誰も・・・・・・・・・・」
「うまく逃がすことができたら、って・・・・・・・・・・・」ラグナはその言い回しにひっかかった。「単にガーデンの外に出るのがそんなに大変なはずがないだろ?ガルバディア軍がごていねいにガーデンを包囲までするとは聞いてねえし・・・・・・・・・」
「あの・・・・・・・・。ガルバディアの軍隊が、バラムに来るんですか?」
少女はけげんそうな顔で訊いた。
「なんも聞いてねえの?−−−−んじゃ、嬢ちゃんたちは、なんで避難なんかしてんだ?」
「上級生や先生たちが学園長派とマスター派に分かれて争ってるんです」
「は?」ラグナはあっけにとられた。「なんだ、そりゃ??」
「くわしいことは私にはわかりません。気がついた時にはガーデン中が戦場になっていました。訓練用に飼われていたモンスターも放たれたりして。私はまだ実戦訓練を受けてなくて、どうしたらいいかわからないし怖いしで倉庫に隠れてたんですが、そこを上級生が見つけて逃がしてくれたんです」
「内紛・・・・・・・」まだ完全に事情が飲み込めたわけではなかったが、予定外のとんでもないことが起こっていることだけは理解できた。「こんな時にナニをノンキなことしてんだ??ガルバディアからミサイルが飛んでくるんだぞ!!」
「ミサイル?どういうことですか?」
今度は少女が問う番だった。
「ガルバディアの魔女が、あんたたちのガーデンを狙ってんだよ!ちくしょう、連絡が行かなかったのか?−−−−−そんなら、こうしちゃいらんねえ!」
ラグナはあわててきびすを返した。
「あの、おじさん!いったい何があるんですか??」
「すまねえ、ゆっくり説明してるヒマがねえんだ。あんたたちはここにいろ。もしどーにもならんかったらそん時は、あんたがチビさんたちを守ってやるんだぞ!」
 ラグナは通りがかった人にレンタカー屋の場所を訊いた。
 まだ開店時間ではなかったが無理矢理店を開けさせて車を借りると、バラムガーデンへとすっとんで行った。



×××



 バラムガーデンの前に降り立った時、間違いなくただごとではないことが起こっているのがすぐに感じ取れた。中からは怒号、モンスターの咆吼、そして時折銃声すら聞こえてくる。
 ラグナは拳銃に弾が十分入っていることを確かめると、それを上着のポケットにつっこんだ。モンスター相手ならともかくこれを人間に向けることにならなきゃいいが、と思いながら。
 そして、ガーデンへとつっこんでいった。
 中はどこもかしこも騒然としていた。いたるところでこぜりあいが起こっている。ところどころにモンスターの死骸がころがっている。
 いったいなんだってこんなことをおっぱじめたんだか−−−−。
 しかし、そんなことを考えている暇は、今はなかった。学園長か幹部職員をとっつかまえて、学生たちを避難させるのが先決だ。
 −−−−だけど、どこにいるんだ?ちくしょう、学園長の顔写真くらい手に入れておくんだった。これじゃ、どこかですれちがったところでわかりゃしねえ。
 考えのまとまらないままてきとうに走っていると、校内案内板が立つロビーに出た。学園長室は、正面のエレベーターを上がって3階。
 −−−−そこに行きゃあ、話を通せるヤツのひとりやふたり、いるかも知んねえな・・・・・・・・。
 ラグナはエレベーターに続く階段を駆け上がろうとした。
「止まれ!」
突然どなられて、彼は足を止めた。
「学園長派か?マスター派か?」
エレベーターの前に立つ学生がふたり、彼に銃を向けてそう問いかけた。
「どっちでもねえよ!」ラグナはどなり返した。「学園長に大事な話があるんだ。学園長はどこだ?!」
「きさま、学園長派か?!」学生たちはいきりたった。「ここはマスター派が占拠した。学園長派なら通すわけにはいかない!」
「違うって!どっちでもねえと言ってるだろ?!オレは単に、学園長と話がしたい−−−−」
銃声が響き、ラグナの足下で火花が散った。
「撤退を要求する。おとなしくひきかえさない時は−−−−−」
「−−−−−−−くそっ!」
ラグナはしかたなくきびすを返した。子供相手に実力行使なんかできない。
 彼は1階廊下を奥へと進んだ。下っぱ教師でも学生でも誰でもいいから、と、冷静に話ができそうな人間を探して。
 そして学生寮の近くまで来た時、学生の一団が走り出てくるのに出くわした。
「急ぐもんよ!もうすぐミサイルが飛んでくるもんよ!!」
その中で一番体格のいい少年はそう叫んでいた。そして他の学生たちに何か指示を出し、あちこちに散らばらせた。
 そしてその少年自身も走り去ろうとするところをラグナはあわてて呼び止めた。
「おい、あんた!あんたはミサイル攻撃のことを知ってるんだな?!」
「おっさん、誰ね?見かけない顔だもんよ」
「誰だっていいだろ?それよかあんたは、ガルバディアからミサイルが飛んでくるのを知ってるんだな?」
「おうよ!ガルバディアに行ってたSeeDから聞いたもんよ。だから今急いでみんなを避難させてるもんよ!」
連絡は来ていた。−−−−−しかし、タイミングが悪すぎた。
「校内放送は?その方が早いだろ?」
「オレだって考えたもんよ。だけど、誰がやったかわかんねえけど、設備が壊されて使いもんにならないもんよ。それで、みんなに伝令に行かせたもんよ!」
「そっか・・・・・わかった!オレも、伝えられるだけは伝える!」
「おう!誰だか知んねえけど、頼んだもんよ!」
 そうは言ったものの、自分にできることがどのくらいあるかラグナにはわからなかった。顔見知りならばともかく、部外者の自分が言うとっぴょうしもないことを、どれだけの人間が信じてくれるものか・・・・・・。
 11時半。まだ時間はある。今はまだ、あきらめたくない。
 ラグナはすれ違う学生や教師にかたっぱしから声をかけた。攻撃するそぶりをする者がほとんどだったが、中には不安そうな表情を浮かべる者もいた。それだけでもかまわん、とラグナはなるべく多くの人間に話して回った。悪い噂は広まりやすいものだ。それがふくらんで、ひとりでもふたりでも避難の方向に動いてくれればいい。
 そうしているうちに開けたドアの向こうは真っ暗だった。その中から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「なんだ?誰か、いるのか?」
ラグナは明かりをつけた。用具室らしき部屋の隅に、小さな子供たちがかたまっていた。そして、SeeD服の少女がひとり。
「−−−−−−−見つかった?!」彼女は子供たちをかばうように立ち上がった。「相手なら私がするわ!だから、この子たちには手を出さないで!!」
「かんちがいすんな。オレはただの部外者だよ」ラグナは銃を尻ポケットにつっこみ手を広げて、戦意のないことを見せた。「それよかあんた、こんなとこでなにしてる?」
彼女は答えなかった。
「その子たちを逃がすに逃がせなくて隠れてる、そんなとこだな。だったらオレも援護する。だから、急いでガーデンから出るんだ!」
「だけど・・・・・・・・・・・・・」
「迷ってるヒマはねえんだよ!ここにいたら、間違いなく死ぬぜ!もうすぐガルバディアのミサイルが飛んでくるんだ!!」
「どういうこと?−−−−そんなこと、信じろというの??」
「あ〜〜、もう、んなこと信じてくれなくってもいいよ!どっちにしてもあんた、その子たちをガーデンの外に連れ出したいんだろ??だったらせめて、オレも協力する、それだけでも信じてくれ!」
彼女はまだためらっていた。しかし、緊張の糸が切れそうになっている子供たちを見て、決断した。
「・・・・・・・・わかったわ」
「おっし。んじゃ、正門のところにオレが乗ってきた車がある。あんたはそこまで先導してくれ。後ろはオレが守る」
 SeeDの少女は部屋の外の様子をうかがった。そしてさしあたっての危険がないことを確かめると、子供たちをうながして門の方へと走り出した。
 ガーデン内部の様子が、微妙に変わっていた。ミサイル攻撃の「噂」が広まり、派閥の対立に専念していられなくなってきたらしい。あきらかに避難のために外に向かっている者の姿も見うけられた。
 これなら、全員は無理でも少しは・・・・・・・・・・・・・。
 時計は12時を回っていた。
 せめて、この子たちだけでも助けられりゃ−−−−−−。
 廊下の角を曲がったところで、先頭を走っていた少年が悲鳴をあげた。巨大なドラゴンが通路をふさいでいた。ラグナはとっさにドラゴンの目をめがけて銃を撃った。モンスターは片目をつぶされてひるんだ。そこをすかさずSeeDの少女が急所にナイフを投げつけた。モンスターは声もあげず、廊下にどさっと倒れた。
「もう大丈夫よ!早く!」
少女は叫んだ。しかし子供たちのひとりがすっかり驚いて腰を抜かし、立ちあがることもできなくなっていた。
「心配するこたあねえよ。おねえちゃんが守ってくれたろ?さあ」
ラグナはその女の子を抱き上げると、SeeDに目配せした。彼女は門に向かって再び走り出した。彼も子供を抱いたまま、そのあとを追った。


×

 避難してきた学生に混じってラグナたちも正門にたどりついた。そして、子供たちを停めておいた車に乗せた。
「さ、あんたも早く乗れ!」
ラグナはSeeDの少女に言った。
「でも、ミサイル攻撃のことが本当なら、他の人たちにも伝えないと−−−−−」
「伝令は行ってるよ!どれだけ伝わってるかはわかんねえけどな」
「だったら私も伝令に行きます!まだ中に大勢残って−−−−−!」
すでに12時半をすぎている。
「もう時間がねえんだ!死にたくなかったらあんたも乗れ!」
ラグナは少女の腕をつかむと、乱暴に車に押し込んだ。そして自分も運転席に飛び乗り、車を急発進させた。
 これ以上はもうどうしようもねえ−−−−−−!
 ラグナは後ろ髪を引かれる思いで車をバラムの街の方へ飛ばした。
 ったく、なんでこんなことになっちまったんだか・・・・・・・・・・。こんなタイミングで内乱なんぞ起こってなきゃ、全員無事に逃げるだけの時間はあったはずなんだ!!
 海岸線が見えてきた頃、南西の空で何かが光った。それはあっと言う間に近づいてきた。
 ミサイル−−−−−予定通りか!!
 ラグナはブレーキを踏んだ。車はスピンして止まった。森の向こうに、ガーデンの建物がわずかに見えた。ミサイルはそこめがけてまっすぐ飛んでいった。
 だめだ、トラビアに続いてここも・・・・・・・・・・・・。
 そして着弾するかと思った瞬間、ミサイルは急激に進路を空へと変えた。そして、ガーデンのはるか上空で炸裂した。
 −−−−−−それた?まさか?!
 間髪入れず、すさまじい地響きが起こった。子供たちが悲鳴を上げた。ラグナもハンドルにしがみついた。
 そして振動がおさまり、目を開けると−−−−−ガーデンの建物全体が見えた。
 −−−−飛んでる?!
 バラムガーデンはひきちぎった地面のかけらをまき散らし、よろよろと動いていた。そして今にも落ちそうになりながら進んで行く先には−−−−バラムの街があった。
 ラグナの脳裏に、バラムで会ったガーデンの少女の顔が浮かんだ。
 あそこにいれば安全だ、そう思ったのに・・・・・・・・・・・!
 しかしガーデンは街の手前でわずかに進路を変えた。そして街の端をかすめ、ゆっくりと通り過ぎた。
 それは海に抜けたところで力つきたようにぐらりと傾き、大きな水音と波しぶきをあげて着水した。
 そして、浮いた。船のように。
 ガーデンはしばらく、自分が起こした波に翻弄されていた。やがて波がおさまると、海流にのって少しずつ沖の方に流され始めた。
「ガーデンが・・・・・・・・!」
SeeDの少女は我に返り、今さらのように叫んだ。
「ああ・・・・・・」ラグナはまだ呆然としていた。「−−−−−な〜んか、とんでもねえものを見ちまったみてえだな・・・・・・・・」
 ラグナと子供たちは波打ち際まで行った。そして、ガーデンがどんどん小さくなり、やがて水平線のかなたに消えるのを黙りこくって見つめていた。




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