SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜ウィンヒル近郊・1〜
夜通し交代で車を走らせ、砂漠を抜けたところでラグナたちはようやく一安心して岩場の陰でキャンプを張った。 そして寝袋から這い出した時には、太陽は空のてっぺんにあった。 「おはよう、ラグナくん。よく眠れたか?」 キロスはすでに起き出し、火をおこして食事の支度をしていた。 「まーな。ちょっとばかし背中が痛えけどよ、あそこのボロいベッドに比べりゃどこだって寝心地いいぜ」 「傷はどうだ?まだ痛むか?」 「あ〜〜、だいじょぶだいじょぶ。薬のおかげですっかりラクになった。軍用車ってこーゆー時便利だな。必要なものはたいてい載せてあんだからよ」 キロスはラグナの腕の包帯をほどき、傷の具合を確かめた。 「とりあえず化膿する気配はないな」キロスは薬をつけ直し、新しい包帯を巻いた。「しかし、いくら浅いとはいっても銃創なんだから、早めに医者に診せる方がいいだろう」 「そうしてえのはやまやまだけどよ・・・・・・・・・・なんつってもカネがない」ラグナは温めた缶詰のスープをすすりながらため息をついた。「今度のことで、カネも商売道具もな〜んもかもなくしちまったからなあ・・・・・・・・・。逃げてこれたのはいいけどよ、これじゃ身動きとれねえや」 「そのことで少し考えたのだが−−−−」 砂利が鳴る音が近づいてきた。ウォードとムンバだった。 「戻ったか。どうだった?」 ウォードは手を軽く上げてうなづいた。 「なんだ?」 「この少し先に道路がある。そこの交通量を見てきてもらったんだ。明け方、ここに来る途中に通った時にはまったく他の車を見かけなかったが、この時間ならそこそこ走っているらしい」 「そんで?」 「とにかく、どこか近くの町まで行こう。そうすれば−−−−」 「あ〜〜〜、そっか。そうだよな。どっか大きめの町に行けば、知り合いの新聞社や出版社の支局のひとつやふたつあるから、そこで泣きついて」 「少々卑屈な表現だが、まあ、つまりはそういうことだ」キロスはちょっと困ったように微笑んだ。「どのくらい貸してもらえるかはわからないが、少なくとも八方ふさがりではなくなる。しかし、軍用車で乗りつけるのは悪めだちだ。第一、燃料も残り少なくなってどこまで走れるかわからないし。そこで、あの車はここで乗り捨てて、ヒッチハイクしようと思ってな」 「んじゃ、飯食ったら日が暮れないうちにとっとと行くか。−−−−−って、ここはどこいらへんなんだ?どこに行くかくらいは心づもりしとかねえと」 「それがだな・・・・・・・・・」キロスは苦笑いした。そして、言った。「わからない」 「へ?」 「収容所から離れること最優先で、適当に車を走らせていたからな。町も目印になるようなものも見かけなかったから、地図を見てもさっぱりわからん。砂漠の中はもちろん、道路に出てからも夜中のことで、標識くらいあったかも知れないが気がつかなかったし。星の様子から、たぶん南の方に走っていたとは思うのだが」 「あら〜〜〜〜」 「ただ・・・・・・・・。このあたりの山の稜線にはなんとなく見覚えがある。だから、以前このあたりに来たことがあるとは思うのだが、これもどこだと断言できるほどには、はっきりとは思い出せない」 「まるでオレみてえなこと言ってるじゃねえか、キロス。おまえでもそーゆーことがあるのな。安心したぜ」 「・・・・・・そこで安心してどうするんだ、君は・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 |
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食料や薬、テントなど、使えそうなものを持てるだけ持って、ラグナたちは道ばたに立った。ひっきりなしにとまではいかないが、何分かに一台くらいの割では車が通りかかる。しかし、ぼろぼろの格好をした怪しい3人組と1匹のために止まろうとする車は現れなかった。 軍の車で行けるところまでは行った方がいいだろうか−−−−? そう思い始めた頃、ようやく一台のトラックが彼らの前に止まった。 「どうしたよ、おっさんたち。こんなところで」 がっしりとした体格の若い男が窓から顔を出した。 「いや〜〜、まいったよ。オレたちが乗ってきたオンボロ車、このちょっと先でとうとうお亡くなりになっちまってさ。オレたちティンバーに行きてえんだけどよ、そっちの方に行くかい?」 ここがどこかわからないままラグナは、行けるようならいいよな、と適当にそう言ってみた。 「ティンバー?これまたずいぶん遠くだな」 ほぼ予想通りの答が返ってきた。 「途中まででいいなら乗せてやらんことはないけど、今ティンバーに行くのはやめといた方がいいぜ。この間のデリング大統領襲撃騒ぎのせいで戒厳令出ててさ。許可証がないと街には入れないよ」 「あ〜〜〜、そーいやそうだった・・・・・・・・・・・」 ここから遠いらしいこともさることながら、軍施設から逃げてきたばかりだというのにガルバディア軍がうようよいるところに行くのは得策じゃない。 「そんならしかたねえな。それじゃ、近くにどこか大きめの街はあるかい?」 「俺はナルシェに行く途中なんだ。そこまでで大きな街は・・・・・・・・・・他にはないな。小さな集落ならいくつかあるけど」 ラグナはキロスの方に振り返った。彼はうなづいて見せた。 「んじゃ、とりあえずそこに行くか。−−−−頼めるか?」 「いいぜ。乗んな」 ラグナたちは礼を言って、トラックの荷台に乗り込んだ。 |
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トラックはゴトゴトと、谷間の道を走っていった。気持ちのよい揺れにラグナはついうとうととした。きれぎれにいくつもとりとめのない夢をみた気がした。そしてなんだか落ちつかない気分で目を覚ました時には、すでに山ひとつ越えていた。 砂漠地帯を完全に抜け、回りには木々が生い茂っていた。葉の散りかけた枝の間からときおり鳥の声が聞こえてくる。のどかな光景だった。ほんの24時間前には収容所でガルバディア軍と銃撃戦をやっていたのが嘘のようだった。 しかし、その時負った腕の傷は間違いなく事実だ。そして、邪悪な意志を持った魔女がガルバディアに現れたことも。 2週間。オレたちが狭い穴ぐらに閉じこめられていた間に、話はどこまで進んでしまったんだ・・・・・・・・・? 「・・・・・・・・・・・・なあ、にーちゃん」ラグナはさりげなく、運転手の若者に訊いた。「最近、このへんじゃなんか変わったことはねえか?」 「変わったこと?」 「この間、イデアとかいう魔女が出てきたろ?デリング大統領、その魔女と組んでいろいろやらかす気らしいしさ。このへんでも軍がうるさくなったとかしてねえか?」 「んー、別にー」 「そうなのか?ドールには正式な宣戦布告もせんで攻め込んだりして、どうもキナ臭くってしょうがねえんだけど。イナカの方にはまだ臭ってきてねえんかな・・・・・・・・・・・・・」 「おっさん、俺の親父とおんなじようなことを言うんだな。やっぱし魔女戦争のこと、心配してんのかい?」 「まあな。にーちゃんくらいの年じゃああんまし覚えてねえだろうけど、あん時はいろいろ大変だったんだぜ。オレたちも戦争に行ったけど、よく生きてたと思うよ。敵さんの兵力、圧倒的にすごくって、こっちから攻め込むどころか守ることもままならなかったもんなあ。幸い、首都は攻撃されずに済んだんで、復興は早かったけどな」 「そんなような話、親父からも聞いたよ。なんか知らんけどエスタが一方的に停戦してくれたおかげで助かったようなものだって。俺が住んでる町は攻撃されなかったからガキだった俺にはなんか実感ないけど、おっさんと同じくらいの年の男の数は戦死しちゃったりしてやっぱし少ないしね。−−−−だけど、あの時の魔女は敵だったんだろう?今度は味方側なんだから、そんなに心配することないんじゃないの?まあ、デリング大統領ならいろいろ無茶やりそうだったし、本当に戦争になったら俺もいつ徴兵されるかわからないなあとは思ってたけど、あの人も死んじゃったしねえ」 「え・・・・・・・・・・・・」ラグナは聞き返した。「・・・・・・・・・・死んだ、って、誰が」 「だから、デリング大統領」 「デリングが?!」 ラグナたちは、思わず顔を見合わせた。 「なんだよおっさんたち、知らなかったのか?どこの山奥にこもってたんだよ。あんなに大騒ぎになってたってのに」 「で・・・・・・・・・・・・いつ、死んだって?」 「ん〜〜〜、10日くらい前かな。心臓マヒだったってさ」 違う、そんなんじゃない・・・・・・・・・・・。 大統領官邸での演説の時、バルコニーでデリングと魔女は何かもめていた。そして魔女にはねとばされたあと、デリングは二度と姿を見せなかった。 たぶん、あの時デリングは、魔女にもう用済みとみなされて殺されたんだ。そして完全に魔女の支配下に置かれた政府はそのことを2、3日隠したあと、死因をでっちあげて発表した・・・・・・・・・。 「ラグナくん・・・・・・・・・・・」 「デリングの行動なら多少は読めたけど・・・・・・・・・・・これでますますわからなくなっちまったな・・・・・・・・・・」 魔女が単純に世界征服のたぐいをたくらんでいるのだとすれば、デリングを始末する必要はない。むしろ、力を貸すだけで勝手にやらせておく方が楽だ。殺すのは、それからでも遅くはない。 魔女は・・・・・・・・・イデアは、これから何をするつもりなんだ? 「あー、それはともかく、おっさんたちよ」若者は話題を変えた。「あんたたち、本当にこのまま乗ってくかい?俺はかまわないけど、ここからもう少し行ったところにティンバー方面に抜ける道があるんだ。やっぱしティンバーに行くつもりなら、そこで車を拾いなおした方がいいと思うんだな」 「う〜〜〜ん、そうだなあ・・・・・・・・・・・」 ラグナはあたりを見回した。そして、あれっ、と思った。 「・・・・・・・・・・なあ、ここって、どこいらへんなんだ?」 「えっと・・・・・・・・・。ウィンヒルって村の近くだけど?」 「ウィン・・・・・・・・ヒル??」 ラグナの表情が凍りついた。 「そ。ちっぽけな村だけど、このへんじゃ花の栽培でけっこう有名なんだぜ」 「そう・・・・・・・・・・なのか?オレ、花なんか買ったことねえからな・・・・・・・・・・」 「そりゃそうだ。おっさんたち、どっから見ても花なんか似合いそうにないもん」 若者はカラカラと笑った。 ラグナは呆然と荷物にもたれかかった。 そして、流れていく道路脇の風景を黙りこくって見つめた。 ウィンヒル・・・・・・・・・・・。いつの間にか、近くまで来ていたんだ・・・・・・・・・・・。 ふいに木立がとぎれ、右手の方に分かれる道が見えてきた。その曲がり角に古い標識が立っていた。トラックはそこをあっと言う間に通り過ぎ、標識の文字は読みとれなかった。 トラックは走り続ける。荷台に半分くらい積まれた荷物がガタガタ音をたてる。風が髪をなびかせる。 脳裏に、野原一面に咲く花が風に揺れる光景がよぎった。 そして、ラグナは言った。 「にーちゃん・・・・・・ここまででいいや。ここで・・・・・・・・・・降ろしてもらえるか?」 若者はトラックを止めた。 「え?ここ?さっき言った道までは、まだ5、6キロはあるぜ。あ、それとも、ウィンヒルに行くことにしたのか?そこならたいした寄り道じゃないから送ってやるよ」 「いや・・・・・それも悪いから、ここでいいよ」 「あ、そ」若者は気を悪くした様子もなく、ただ不思議そうな顔をして言った。「そんじゃ、ここで。気ぃつけてな、おっさんたち」 「ああ、ありがとな。−−−−−−ほんとに助かった」 ラグナはトラックが走り去るのを見送った。そして姿が見えなくなると、元来た道をウィンヒルの方に向かって歩き出した。 |