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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜D地区収容所・4〜




 1階のコントロールルームはもぬけのからだった。鍵すらかかっていなかった。ここに詰めていた兵士たちもみんな、脱走者射殺のために飛び出して行ったらしい。
「いけませんねえ。こーゆー重要拠点はちゃんと押さえとかなきゃ」
 ウォードはパネルを調べた。そしてラグナに親指を立てて見せた。20年前と基本システムは変わっていないらしい。
「んじゃ、このまんま予定通りにやるか。上への内線電話は、と−−−−−−これか」
スイッチを入れ、マイクに呼びかける。
「お〜〜い、SeeDの諸君、いるかあ〜〜〜?」
『とっくに着いてるよ〜〜〜』さっきとは違う女の声が返ってきた。『おじさんたち、遅かったね〜〜。下の方でも大騒ぎしてたから、やられちゃったかと思ったよ〜〜』
「おじ・・・・・・・・。おじさんってなあ、あんた、オレたちの顔見たわけじゃねえだろが!!」
『そ〜だけど〜〜〜。でも、まさか10代ってわけじゃないよね〜〜』
「ティーンエイジャーから見れば私たちは立派なおじさんだ。本当のことを言われたからって、こんな時に子供相手にケンカを売っているんじゃない」
キロスはモニターを操作しながらたしなめた。
「ホントーのことだからこそ、イキナリ言われたら傷つくぜ、ったく」
ラグナはぶすっとして言った。
『そちらも無事に下に着いたのね』最初に応答してきたSeeDの声に代わった。『待っている間に外の様子を見てきたわ。あなたたちが言っていた通りのようね。−−−−それで、これからどうすればいいの?』
「施設を浮かべるか沈めるかすんだけど・・・・・・・・・・・どっちがよさそうだ?」
「今は5階くらいまで埋まっているようだ」キロスが管理モニターを見て言った。「浮上させて1階を出口にする方が早いが、SeeDの脱出のことも考えると−−−−。2階に荷物運搬用のアームがある。潜行させて最上階に出口を作り、アームで私たちも上に行く方がいいだろう」
「んじゃ、沈めることにすっか。それのスイッチは、と−−−−−」
ウォードが左端の方のボタンを押した。緑色のランプがついた。
「ん?これ??」
『これかしら?「DOWN」って書いてあるボタンが点滅し始めたけど』
「たぶんそれだ。そいつを押してくれ」
 ほどなく控えめなサイレンが鳴ったと思うと建物がどんっ、と揺れ、細かく振動を始めた。
「よし、動き出したぞ」
キロスが言った。
「おし、次は2階だな。忙しいねえ」
ラグナはマイクに向き直った。
「これからオレたちもそっちに行く。それで、もういっこあんたたちにやって欲しいことがあるから、もうちょいそこで待っててくれ」
『了解』

×

 ドアをわずかに開けて外の様子をうかがう。潜行する建物の振動音が響くばかりで、静かなものだった。
「警備兵の連中、もう残ってねえんかな?」
銃をかまえ、そろそろと通路に出る。動きは、ない。
「大丈夫みてえだな。よっしゃ、急いで行くぞ!!」
先導するように階段の方へ向かったムンバに続いてラグナも走り出した。そしてそのあとを追おうとしたキロスの視界の端で、隣室のドアがかすかに揺らいだ。
「ラグナ・・・・・・!」
「なんだ?」
ラグナは振り返った。その腕を、弾がかすめた。
「ちっくしょ〜〜、んなトコに隠れてやがったか!!」
ラグナはライフルを撃ち返した。弾は兵士の腕を撃ち抜き、銃が床に落ちる音が通路にこだました。
「・・・・・・・・?!」
「たいしたこっちゃねえ。かすり傷だ。ここにはもう用はねえんだ、ザコはほっとけ。行くぜ!!」
 3人と1匹は前後を警戒しながら階段を駆け上がった。
 それ以上の追撃はなかった。



×××



 アームに乗り込み、操作室からSeeDに指示を出す。アームはゆっくりと最上階に向かって上昇を始めた。
「・・・・・・・なんとかなったのかな?」
「かもな」キロスは自分のシャツを裂き、ラグナの腕の傷に巻いた。「まだ油断はできないが−−−−ここまでだけでも本当のところ、こんなにうまくいくとは思っていなかった」
「・・・・・・・・・」
「そうだな。システムが変わっていなかったのは、これまで脱走に成功した者がいなかったためだろう。もしまたここに収容されることがあっても、その時はきっとこんな風にはいかないぞ」
「いいじゃねえか、今がよけりゃ。もう二度とここに来る気はねえんだからよ」
「それは間違いないだろう。今度ガルバディアともめごとを起こしたら、逮捕なんて生ぬるいことはせずにあとくされなく殺してくれるだろうからな」
「おい・・・・・・。あんまし不吉なこと言うなよな。ホントにそんなことになったらどーすんだよ??」
「それは君次第だな。−−−−ハイ、傷の手当て終わり。落ち着いたらもっときちんとしてやるから、今のところはこれで我慢したまえ」
キロスはラグナの腕を傷の上からぽんっと叩いた。
「へーへー。せいぜい気ぃつけますよ〜〜〜」ラグナは顔をしかめながら腕をさすった。「−−−−だけど遅っせえなあ、このアーム。荷物を運んでるってわけじゃねえのによ。こんなもんなのか?」
「・・・・・・・・・」
「潜行にパワーを食われているのでは、しかたがないな」
「まあいいや。のんびり行くか。上はSeeDが占拠してくれてるし、宙づりにされることはねえだろ。−−−−って、まだいるのかな?」
 ラグナはコントロールルームを呼び出した。すぐに返事が返ってきた。
『沈みきるのにまだ時間がかかりそうだから、出たくてもとうぶん出られないよ〜〜〜』
「そっか。そっち、とりあえず危険はなさそうか?どうせヒマならちょいと話でもしてえんだがな」
『いいよ〜〜〜』
「あのさあ、デリングシティの凱旋門のとこで魔女につっこんでったヤツいたろ?あいつ、どうなった?」
『ここにいるよ〜〜。ちょっと待ってね〜〜〜』
そして、遠くでこう言っているのが聞こえた。
『スコール、あのおじさんが呼んでるよ〜〜〜〜』
 いちいちおじさん呼ばわりするなよな−−−−−心の中で文句を言っていると、少年の声がスピーカーから聞こえてきた。
『−−−−待たせてすまなかった。逃走ルートの確認をしていたものだから』
「お、あんたがそうか?無事だったんだな。−−−−あ、あん時オレ、凱旋門の近くでパレードを見てたんだ。あんたが魔女に斬りかかってくとこもな」
『ああ。気がついたら傷は治っていた。理由はわからないが、まだ殺すわけにはいかなかったらしい』
「そっかあ。心配してたんだぜ。まったく無茶するよなあ、あんた」
『クライアントの命令は絶対だ。無茶でもなんでも、やるしかない』
「命令だあ?そんなとこだろうとは思ってたけどよ、ったくカーウェイの野郎、むちゃくちゃさせやがんなあ」
『!?・・・・・・なぜあんたがそのことを知っている!?』
「ま、いろいろあってな。心配すんな。あんたたちの雇い主のことはしゃべってねえからよ」
 その時、アームががくん、と揺れた。
『−−−−建物の潜行が完了したようだ』
「そっか。そっちの状況はどうだ?もう大丈夫そうか?」
『警備兵はかたづけた。少なくとも、組織的な行動ができるほどの数は残っていない』
「そんならいいや。こっちはまだ上に着きそうにねえから先に逃げてくれ」
『いいのか?』
「少しくらいならオレたちでも相手できるから心配すんな。それよか、外部からの応援が来ちまってる方がコワいから、様子見ついでに先に行け。もし、もう来てるようなら戻ってきて欲しいけどよ、なんも変わったことがなかったらそのまま行ってくれていいぜ」
『了解。では、先に行かせてもらう。−−−−情報の提供、感謝する』
「こっちこそありがとな。あんたたちが兵隊を引きつけてくれたおかげでラクさせてもらったよ。−−−−だけど、ちったあ命を大事にしろよ」



×××



 そして待ちくたびれた頃、アームはようやく最上階に着いた。
 いちおういつでも応戦できる体勢をとって降りてみたが、その必要はなかった。そこでは気を失っている兵士、壊れた警備マシン、モンスターの死骸があちこちにころがっているだけだった。
「さすがだねえ。オレたちじゃ、こうはいかねえや」
「では、私たちも今のうちに急いで逃げるとしよう。軍本部への連絡は行っていると考えた方がいい」
「わかってるって。−−−−だけど、歩いて行くのもなんだよな。車の一台や二台、どっかにあるよな?」
ウォードが先にたって外に出、連絡通路を渡って別棟の駐車場に案内した。そこには何台かの軍用車が停められていた。
「あったあった。・・・・・・・・・って、鍵もいるか。どこにあんだ?まさか、ここじゃあるまい?」
「ラグナ!」
どこかに姿を消していたムンバがいつの間にか戻っていた。その手には、車の鍵が握られていた。
「お〜〜、気がきくじゃねえか、おまえ」
ラグナはムンバの頭をくしゃくしゃになで回した。
 その鍵が合う車を探し出すと、ラグナは他の車のタイヤを撃ってパンクさせた。そして運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
「おっし、早く乗れ!!−−−−ムンバ、おまえも来いよ。こんなとこ、もうこりごりだろ?」
「ラグナ!」
ムンバは助手席に飛び乗った。キロスとウォードは、席を取られてしまったと苦笑いしながら、荷台によじ登った。
「全員乗ったな?よっしゃあ、いっくぜ〜〜〜〜!!」
ラグナはアクセルを思い切り踏み込んだ。車は砂漠へと飛び出していった。急激に視界が広がった。
 脱走、成功!!
「やったね〜〜〜。ざまーみろってんだ、ガルバディア軍!ジャーナリストをなめんじゃねえぞ〜〜〜〜」
「君もよくやったが、うまくいった最大の要因は、軍が不用意にSeeDを逃がしてくれたことだと思うな、私は」
「そーかも知んねえけど、あいつらだけじゃやっぱしやられちまってただろうぜ。ウォードの記憶と−−−−このムンバにはすっかり助けられちまった。なあ、おい?」
「ゆるるる」
ムンバはうれしそうに座席の上で飛び跳ねた。
 ふとウォードが何かに気づき、砂漠の中の一点を指した。それほど離れていないところで2台の車が砂煙をたてていた。
「SeeD?まだこんな近くにいたのか?」
「私たちが出てくるのを待っていてくれたんだろう」
 そのうちの1台に乗っていた茶色っぽい人影が荷台の上に立ち上がった。そして、天に向けて銃弾を一発放った。キロスはライフルをかまえ、それに応えた。それを確認するとSeeDたちの車は向きを変え、どこかへと走り去った。
「あいつらにはホントに世話になったな。−−−−またどっかでゆっくり会えるといいな」
「そうだな」
 2週間ぶりの外の世界。熱く乾燥した空気がうまかった。




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