SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜ドール〜
「・・・・・・・ったく、ガルバディアはなんだってとーとつにこんなこと始めやがったんだ!?」 ドール市街地での戦闘が激しくなってきた。ラグナとウォードはそれ以上の取材は危険と判断し、拠点とする街はずれの空き家に撤退した。 中心部からかなり離れているその場所にも、遠くから砲弾の音が響いてくる。 『ガルバディア軍に不穏な動き有り』 その情報を聞きつけたのが一週間前。ガルバディアの目標がドールと判明し、現地に入ったのが2日前。 そして、現状を把握する間もなく戦闘が始まってしまった。 ガルバディアがドールを攻撃する目的はわからない。 ラグナたちがガルバディアの軍籍にあった頃、ビンザー・デリングはすでに大統領に地位にあり、権勢を振るっていた。そして魔女戦争が終結すると独裁性をさらに強め、近隣都市を次々に支配下に置いていった。 しかしドールは、観光以外にろくな産業も資源もなく、攻撃するメリットのない小国。侵略行為を最も活発に行っていた10年ほど前に何度か攻め入ってはみたものの、海軍力はさほどではないガルバディア軍には不利な地形だったこともあって、結局ドールからは手を引いたのだった。 それがなぜ、今頃、突然・・・・・・・? 「ウォード、おまえはどう思う?」 ウォードは首を横に振り、新しいフィルムをラグナに投げてよこした。ラグナは撮影済のものを投げ返した。 その時、キロスも戻ってきた。 「お、どうだった?ドール政府には接触できたか??」 「接触できたというか・・・・・・・・・とにかく、公式発表だけは聞いてきた。ドール側にもガルバディアの意図は把握できていない、とのことだった。トップはどうだかわからないが、私が会えた議会の連中には本当にわかっていないようだったな」 「・・・・・・・・そっか。ちょいとでも戦闘がおさまってくんないと、これ以上の取材はムリかなあ」 「それと、もうひとつ。ドールはSeeDの出撃を要請したそうだ」 「SeeD・・・・・・って、あの、ガーデンとかゆー兵士養成学校の傭兵たちか??」 「そうだ。情報漏洩を警戒してか、くわしいことは聞けなかったが、ガーデンの本拠地・バラムはここからは海をはさんですぐだ。数時間のうちに海側から侵攻して来るのは間違いないだろう」 「海・・・・・・。ルプタンビーチだな・・・・・・・」 砲弾の音や銃声は、さっきよりずっと遠くからかすかに聞こえてくるだけになった。 ラグナはフィルムをカメラにセットした。そして準備万端なのを確認すると、立ち上がった。 「おっし!ビーチに行くぞ!名高きSeeDとやらの戦いぶりをおがませてもらわんとな」 「お、おい、最前線につっこんで行く気か、ラグナくん??今でこそ戦闘は山間部に移っているようだが、SeeDが上陸すればまた市街戦が激しくなるぞ!」 「だっから今のうちに行くんじゃねーか。やりあい始める前にそこらへんの家にでも隠れとけば、写真の1枚や2枚、撮れるだろ??」 「それはそうかも知れんが・・・・・・・」キロスはしぶい顔をした。「・・・・・・・・まあ、止めたところで聞くような君じゃないな。わかった。くれぐれも気をつけろよ。私はもう少し、情報を集めてみる」 「おう、頼むぜ。そっちも気ぃつけてな」 そしてラグナはウォードとともに市街地の方へと走っていった。 |
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市街地中心部は、さきほどとはうって変わって静かだった。ところどころで少数の兵士が警戒に立っているだけだ。ろくな軍隊を持たないドールはあっさりと市街地を明け渡してしまったらしい。 ラグナとウォードは見張りの目をかいくぐり、ビーチ近くの家を適当に選んで入った。住人は避難してしまっていて、誰もいない。中はガルバディア兵に略奪されたのか、めちゃくちゃだった。 「すいませんねえ。荒らしたのはオレたちじゃないですよ〜〜〜〜〜」 そんなことをつぶやきながら、屋根裏部屋にあがる。汚れで曇った窓を開けると、そこからはルプタンビーチが一望できた。 「ふ〜〜ん、なかなかいい眺めじゃねーか。ウォード、望遠レンズをよこせ」 カメラを通してあちこち見回してみる。予想どおりにビーチから侵攻してくるとしたら、間違いなくいい写真が撮れそうだった。 何度もカメラをチェックし、ガルバディアの意図を想像し、SeeDがこちらから攻めてくることを祈りながら待つこと数時間。 日が傾き始めた頃、にわかに外が騒がしくなった。 「・・・・・・・・・来たか?」 窓から外をうかがうと、海の向こうに数隻の船影が見えた。 「さっすがはキロス!ビンゴだぜ!!」 ラグナはSeeDの船にカメラを向けた。船影は見る見る近づいてきて、ほどなく先頭の船がルプタンビーチに上陸した。 山手から引き返してきたガルバディア軍が応戦する。砲弾があちこちで炸裂し、銃声が響く。 ラグナは夢中になってシャッターを押し続けた。戦闘の様子がレンズを通して克明に見える。 フィルム1本撮りきってカメラを交換しようとした時、すぐ近くで砲弾が爆発した。爆風にあおられて、ラグナの目の前の窓ガラスがすさまじい音を立ててこなごなに砕け散った。ラグナは反射的に頭をひっこめた。ガラスの破片が彼の顔をかすめてばらばらと床にまき散らされた。 「ひえ〜〜、びっくりした〜〜〜〜〜〜。あぶねぇ、あぶねぇ」 「・・・・・・・・・・?!」 「あ〜〜〜、たいした傷じゃねえよ。心配すんなって」 ラグナは頬の傷に触った。その手にべったりと血がついた。 「ん〜〜〜〜、たいしたこと、ない、よ、な・・・・・・・・・」 すーっと目の前が暗くなりかけた。 その砲撃が合図だったかのように、ガルバディア軍は撤退を始めた。そしてSeeDの主力部隊も敵を追って市街地を離れた。 ビーチは再び、静けさを取り戻した。 ウォードに傷の手当てをしてもらいながら、ラグナはさきほど見た光景を思い出していた。 SeeDたちの的確で迅速な行動。いくらガルバディア軍の態勢が整っていなかったとはいえ、あっと言う間に市街地を解放してしまった戦闘能力。ガーデン在学中のSeeDが、そして卒業生たちが各地の軍部からひっぱりだこになっているのも、うなづけた。 だけど・・・・・・・・・・。 「だけどよ・・・・・・・・・・・・。あんなガキどもが傭兵家業なんぞしてるなんて、世も末だな。そうは思わねえか、ウォード?」 「・・・・・・・・・・・・」 カメラの向こうにいたSeeDたちは、ハイティーンの子供ばかりだった。子供は子供らしく、戦争なんかじゃなしに、他にいくらでもやることがあるだろうに。 しかし、その中に自分の息子がいたことなど、その時のラグナには知るよしもなかった。 |
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ガルバディア兵に代わってSeeDたちが警戒する街を抜けて拠点に帰ると、キロスはすでに戻って来ていた。 「戻ったか、ラグナくん、ウォード。・・・・・・・・・・!?その傷は!?」 ラグナの顔のガーゼと血に汚れたシャツに、キロスは顔を青くした。 「あ〜〜〜、へーきへーき。こんなの傷のうちに入らねえって。やっぱ行ってよかったぜえ。いい写真がいっぱい撮れたもんな。これは金一封ものだぜ〜〜〜〜」 出血さえ止まってしまえば、手を染めた血に気が遠くなりかけたことなど、ラグナはすっかり忘れていた。 「特ダネもけっこうだが・・・・・・・無茶はやめてくれ。こっちの寿命が縮む」 キロスは頭をかかえた。 「それよか、ガルバディアの動きはどうだ?なんかいやに静かになっちまったけど」 「それだが・・・・・・・。ドールとガルバディアの間に和解が成立した。SeeD部隊もじきに全員撤収する」 「はあ?もうかあ?外部の兵力まで呼んでおいて、ずいぶんあっさりとあきらめたな、ドールの連中。それとも、ガルバディアの方が逃げてったのか?」 「ガルバディアの目的がわかった。その程度のことならば、と、ドールの方から和解を申し出たらしい。ガルバディア側もそれで停戦を承諾した」 「なんだ?」 「山頂の電波塔」 「電波塔!?」 「そうだ。そこの整備とガルバディアへの使用権譲渡。それが和解の条件だ」 「おい、ちょっと待てよ、ひょっとして、電波障害が解消されちまったのか!?まさか、アデルが・・・・・・・?!」 「いや、それはない。だからドール側も、ガルバディアの本当の意図は今もつかみかねている」 ラグナは取材バッグの中から、いつも持ち歩いている小型の通信機を取り出した。万が一アデルの封印が解かれることがあればすぐさまその機能を回復し、エスタからの緊急連絡を伝えることになるであろう小さな機械。 作動させてみたが、意味不明の音声がノイズ混じりに聞こえるばかりで、使い物になりそうになかった。 「そんならいいんだけどよ・・・・・・・」ラグナは通信機のスイッチを切った。「だったら、それこそわかんねえな。ノイズばりばりの放送をほんのちょこっとくらいなら今でも流せっけど、たったそれだけのためにおおげさな・・・・・・」 「それ以上はガルバディア政府に訊いてくれ。私にも、まったく想像がつかない」 「それもそーだな。んじゃ、訊きに行くとすっか」 「・・・・・・・・・・」 アテもないのにそんなに簡単に言うな。ウォードの顔はそう言っていた。しかし、これ以上ドールにいてもしかたがないことには同意見だったので、手をあげて賛意を示した。キロスにも、反対する理由はなかった。 |
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それから数日間、ラグナたちはドールの様子を取材してまわった。 あちこちに爆撃の跡はあったが、戦闘が短時間で済んだためか、思ったほどの被害はないようだった。すでに復興活動も始まっていた。かすかな明るささえある。 しかし、電波塔への道の入り口だけは、ものものしい雰囲気だった。ガルバディア兵がにらみをきかせていて、山の方へは一歩も近づけない。 ラグナは歯がゆい思いで電波塔を見上げた。世界で唯一、整備さえすれば今も全世界的な電波放送ができる施設。 17年前、魔女戦争という厄災の終結とともに力を失った施設が復活する。 それが新たな厄災の始まりじゃなきゃいいけどな・・・・・・・・・。 ラグナは嫌な予感を感じながら、ドールをあとにした。 |