あなたに・・・・・会いたい・2
Aerith & Cloud's Story
「花、くれないか」 その声に振り向くと、そこに彼が立っていた。 「ありがと。どれにします?」 花かごを差し出し、彼の顔を見た時、エアリスはびっくりした。 −−−−−魔晄の瞳。この人、ソルジャー・・・・・・・・! 彼女は思わず身を固くした。しかし、彼女の中に走った緊張にはまったく気づかず、彼はかごから花を1本選び取った。 「ありがと。1ギルよ」 彼はコインをエアリスに手渡した。そして買った花のくきを短く手折ると、彼女の髪にさした。 「そうしていなよ。その方が、花、よく売れるよ」 彼は片目をつぶってみせると、そのまま人ごみの中に消えた。 彼女はぼうぜんと彼を見送った。そして我に返ると、つぶやいた。 「・・・・・・・・・なあに、あの人。−−−−−すっごい、キザ!!」 エアリスは髪に手をやった。花びらが指に触れる。 −−−−−あの人の、目。ソルジャーの目だよね。だけど・・・・・。ソルジャーにも、あんな人、いるんだ。 神羅に追われる身である彼女にとって、ソルジャーは警戒すべき相手だった。彼ももしかしたら、任務で彼女の様子をうかがいに来たのかも知れない。 でも、もう一度会えたらいいな・・・・・。花を売りに街に出るたび、エアリスは知らぬうちに人込みの中に彼の姿を探していた。 |
× |
その願いがかなったのは1カ月くらいあと、彼のことを忘れかけていたころのこと。やはり八番街の街角でだった。 かごの中の花もだいぶなくなり、そろそろ帰ろうか、そう考えていた時、エアリスは通りを歩く人の中に気になる顔を見つけた。 −−−−−あれ、あの人・・・・・。もしかして・・・・・・・・・・・・。 じっと見つめていると、相手も彼女の視線に気づいたのか、足を止め、彼女の方に近づいてきた。 「やあ。またここで花を売ってたんだな」 「あ〜〜〜、やっぱり!あの時の・・・・・キザな人!」 「キザあ?」 「うんうん。あれのどこが、キザじゃないっていうの?」 「まいったな・・・・・・・・・・・」 彼は頭をかいた。 「ね、今、ヒマ?」エアリスは思いきって言った。「また会えたんだし、せっかくだから、少しお話ししない?」 「ああ、かまわない」 「よかったあ!あのね、近くにおいしいお茶の店があるの。そこ、行こ」 彼の名はザックス。思ったとおり、ソルジャーだった。 しかし、ソルジャーとは思えない、気さくな感じの人だった。 −−−−−この人、いい人。うん。絶対、いい人。 小一時間ほど話をするうちに、エアリスは最初彼を警戒したことなどすっかり忘れていた。 |
× |
ザックスに最後に会ったのは、五番街の教会でだった。 自分の一番好きな場所をザックスに見てもらいたくて、エアリスは彼を教会に連れていった。 スラムでは珍しい、日のあたる場所。そして花が咲くところ。静かな空間。 「・・・・・・スラムにも、こんなところがあるんだな・・・・・・・・・・」 「すてきなところでしょ?・・・・・好きなんだ、ここ。ここでお花の手入れしていると、いやなことがあっても、全部忘れちゃう」 ザックスは礼拝席に腰をかけた。そして黙ったまま、花畑を見つめていた。 「どうしたの?なんかむずかしそうな顔をして」 「ああ・・・・・・・・」ザックスは首をかすかに横に振った。「じつはさ・・・・・・・・・。任務でミッドガルを離れることになった。しばらく、会えなくなるな」 「ミッドガルを!?」 「でも、異動とかじゃないんだ。ちょっと遠くの村に派遣されることになって」 「いつまで?」 「さあ・・・・・・・・。でも、そんなに難しい任務じゃないはずだ。1カ月か2カ月で帰れると思うよ。戦争が終わってから、ソルジャーといえども、命をはらなければならないような仕事はほとんどないし。・・・・・・・・いやな仕事は増えたけど、な」 「そう・・・・・。お仕事じゃ、しょうがないよね」 「でも、帰ってきたらまた来るよ。・・・・・そしたら、さ・・・・・・・・・」 ザックスはエアリスを見つめた。しかしすぐに天井を見上げ、それっきり何も言わなかった。 「そしたら、何?ザックス?」 「ああ、そしたら・・・・・その・・・・・・・・・。そしたら、できたら、何か、おみやげでも買ってくるよ。ミッドガルを離れての仕事は久しぶりだし」 「ほんと?うれしい!じゃ、わたし、楽しみに待ってるね」 「できたら、だよ。任務が忙しくて、おみやげ探しているヒマがないかも知れないから」 「うんうん、わかってる。期待しないで楽しみに待ってるから、気をつけて行ってきてね」 |
× |
そしてそれっきり、ザックスは帰って来なかった。 1カ月が過ぎ、3カ月が過ぎ、半年がたっても、ザックスはエアリスの前に姿を現さなかった。 彼と教会で別れてからちょうど1年目。エアリスは一日中、八番街の、彼と初めて会った場所にいた。だがやはり、ザックスは来なかった。 もう彼を待つのはやめよう。彼女はそう心に決めて家に帰った。 疲れきってベッドに腰をかけた時、エアリスは気がついた。わたし、彼のこと、なんにも知らない。 どこに住んでいるの? どこで生まれ育ったの? 家族は?何が好きなの?ひまな時には何をして過ごしているの? 何ひとつ知らなかった。知っているのは、ソルジャーだってことだけ。 別れる時に、次に会う約束をしたこともなかった。月に1度か2度、たまたま会った時にお茶をいっしょに飲んだりお話しをしただけ。手を握って歩いたことだって、ほとんどない。 彼に、「好き」と言ったこともなかった。 エアリスの目から涙がこぼれた。 −−−−−わたし、ザックスが好きだったんだ。 いっしょにいるのが楽しかったのも、不機嫌な顔をしているのが心配だったのも、他の女の子と楽しそうに話しているのがなんかいやだったのも、全部、ザックスが好きだったから。 エアリスは両手で顔をおおった。涙があふれて止まらなかった。 −−−−−わたし、ザックスが好き。とっても好き。・・・・・・・・・でも、いまごろ気がついても遅いよね。きっと、他に好きなコができちゃったんだ。だから、わたしに会いに来てくれないんだ−−−−−! エアリスは一晩中泣き明かした。しかしそれだけでは、気づくのに遅すぎた初恋のことを忘れるには足りなかった。 |
××× |
「おもしろかったね、クラウド!ね、疲れちゃった?」 「ああ・・・・・・・少し、な」 「ゴメンね・・・・・・・・。また時間がある時に、ゆっくり遊びに来れたらいいね」 「そろそろ帰ろうか。明日のこともあるし」 「そうだね・・・・・・・・・・」 エアリスはクラウドの後を黙ってついていった。 しかし、ゴンドラへの入り口の前で彼女はふと足を止め、言った。 「ね、クラウド・・・・・。わたし、あと、ゴンドラだけ乗りたい!いいでしょ?」 「わかった。いいよ」 「・・・・・・・・ありがと、クラウド」 クラウドはいつもわたしに優しい。 ザックスみたいに。 だけど、それはわたしが探しているものじゃないの。そう、今は・・・・・・・・・。 クラウドに会った頃はいつも、クラウドの中にザックスを探していた。歩き方、話し方、そして魔晄の瞳に。 それが、いつごろだったか。ザックスに似た姿の陰に隠れている誰かに気がついたのは。 それからだった。クラウドのことが好きになったのは。 ザックスの代わりではない、クラウドのことが好きになったのは。 ゴンドラでふたりきりになり、エアリスは思いきって言った。 「あのね、クラウド・・・・・・・・・。怒らないで、聞いてね」 「・・・・・・・・・・・?」 「わたし、前にも話したよね。わたしが初めて好きになった人のこと」 「・・・・・・・・・ああ」 エアリスは目をふせた。 言わなきゃ。今度こそ。 「・・・・・・・・はじめはね、そっくりだったから気になった。全然別人なんだけど、そっくり。歩き方、手の動かし方・・・・・・・・。あなたの中に彼を見ていた・・・・・・・・・」 サーチライトが薄暗いゴンドラの中を照らす。そこにいるのはザックスではなくて・・・・・クラウド。 「・・・・・・でも、ちがうの。今は、ちがう・・・・・・・・・」 ゴメンね、ザックス。 わたし、クラウドが好き。 今は、クラウドが、いちばん、好き。 「・・・・・・・・わたし、あなたが・・・・・好き・・・・・・・・・・・」 花火が打ち上がる。 クラウドは、エアリスの言葉をわかりかねているかのように、黙ったまま彼女を見つめていた。すべての感情が消え去った、落ちつきはらった目で。 −−−−−今はまだ、言わない方がよかったのかな・・・・・・・。 その時エアリスには、クラウドの瞳の奥にゆらぐ何かが見えた。 『ありがとう、エアリス。その言葉、またいつか、こいつに言ってやってよ。いつか時が来たら・・・・・・・』 その何かは、またすぐにかき消されてしまった。 しかし、エアリスには、その一瞬だけでじゅうぶんだった。暖かいものが心の中に広がる。 「−−−−−ね、クラウド。わたし、あなたをさがしてる」 「・・・・・・・・・・?」 「あなたに会いたい」 「・・・・俺はここにいる」 −−−−−うんうん、わかってる。でも・・・・・。どうしても見つからないもの。あなたが。わたしが好きな、あなたが。 「あなたに・・・・・会いたい」 そしたらわたし、また言うね。 あなたが好きって。 わたしが好きなあなたが見つかったら・・・・・・・・。 |